初登校
時間はあっという間に過ぎ去り、エリスフィーナがローランド王立魔法学院に入学する当日の朝を迎えていた。
ガルドリックが立ち上げたクランが入っている邸宅ではエリスフィーナが仕立てられた学生服に身を包んで、メイドのイリスが用意してくれた朝食を摂っていた。
ちなみにヴァイス達新人四人にメルティローズとシェーラを加えた冒険者一行は朝早くから仕事の為に出発していた。
ガルドリックは今日も商人ギルドに雑務があり、クレスはクラン運営の経理を任された為、邸宅に残っての仕事となる。
「それでは行ってきます」
朝食を終えたエリスフィーナは鞄を手に学院に出発しようとする。
「途中まで見送ろう。俺も商人ギルドに行かなきゃならないからな」
出掛けるエリスフィーナにガルドリックも出掛ける事を告げ、彼女を見送ろうと立ち上がる。
「では、家の事は私がやっておきましょう。後はお任せ下さい」
クレスが朝食のパンをつまみながら出掛ける二人を見送る。
「これだけの広さの家だ。イリスに来て貰ったのはありがたいが、後何人か人を雇わないとな」
二人で玄関に向かいながらガルドリックが今後の展望を口にする。
「私にも……何かお手伝い出来る事はありませんか?」
ガートルード王女の身辺警護の為に魔法学院に通う事になっているエリスフィーナだが、何か皆から離れていってしまっている事に若干の不安を感じていた。だがガルドリックはそんな彼女に
「エリスは王女様の警護をしっかりやってくれれば大丈夫だ。確か学院の正門で合流する手筈になっているんだろう?」
「は、はい……。でも私だけ学校生活送れるなんて申し訳なくて……」
ーガチャー
そう話しながら玄関の扉を開けたエリスフィーナの目の前に
「エリィちゃ〜ん、おはよ〜♪」
「今、出かけるのか。なんとか間に合った様だな」
エルフの里で暮らしているはずのエリスフィーナの両親が何故か玄関前に立っていた。
「え! な、なんでパパとママが……?」
アポ無しで田舎から上京してきた両親に困惑する様にエリスフィーナもここに来るはずの無い身内の姿にすっかり狼狽していた。
「風の精霊シルフが教えてくれたのよ? エリィちゃんの晴れ姿が見られるからここに来る様にって♪」
「間に合わせるために大急ぎで来たんだが……間に合った様だ」
両親は二人とも冒険者時代の装備そのまま、今日に間に合わせるために取る物のもとりあえずここに辿り着く事を最優先にやってきた感じだ。
「あの、すみませんがエリスは王女様と待ち合わせの時間があるのであまり時間が……」
思わぬ両親の来襲にガルドリックがエリスフィーナの予定について両親に説明するが
「あらあら〜、ごめんなさいね〜? 私達は後ろから付いてくだけにするから〜♪」
母エルウィンドは娘に配慮する理解ある母親を演じる。しかし
(ママ……恥ずかしい)
娘を見て大はしゃぎの母の姿にエリスフィーナは耳まで真っ赤になっていた。
「じゃあ、気を付けて行ってきてくれ」
魔法学院への道と商人ギルドへと向かう道が客となる場所でエリスフィーナとガルドリックは別れる事となった。
魔法学院のある中央地区は王城がある身分の高い人達が多い場所でもある為、通りでは馬車が行き交う買い出しのメイドさん達が歩いているなど冒険者ギルドがある南地区等とはまるで雰囲気が違っている。
エリスフィーナが住んでいるガルドリックの家も所謂高級住宅街と言った区分にはなる訳だが、王城付近はまるっきりの別格だった。
そんな雰囲気の違う通りをエリスフィーナが両親二人と歩いていると
「そこのエルフ達、止まれ!」
長槍を担いだ完全武装の兵士に話し掛けてきた。いきなり大きな声で呼び止められたエリスフィーナはビクッと身体を震わせる。
「あ、あの……何か……?」
強い口調で話し掛けられたエリスフィーナが不安そうな表情で兵士の動向を見守っていると
(あれ……?)
兵士はエリスフィーナをスルーして彼女の後ろに居る両親に
「見たところ冒険者の様だが……身分を証明する物は?」
職務質問と言った感じで話し掛けている。
「これで良いかしら?」
「え〜と、俺の冒険者証は……」
ージャラジャラ……ー
両親が提示した冒険者証を見た兵士は
「こ、これはクラスセカンドの……失礼! 本日はどちらまで?」
銀色に光る冒険者証を確認した兵士は一気に畏まった態度へと変わってしまい、丁寧な口調で行き先を確認して来た。
「今日は娘が魔法学院に入学するって聞いてね〜。一生の記念に観に来たのよ」
母親エルウィンドがニッコニコ顔で兵士の質問に答える。父親のアスタルは隣でウンウンと頷いている。
「残念ですが……入学式への父兄参列は一部の方のみに認められる権利でして……」
兵士が申し訳無さそうに答える内容に
「あ、大丈夫。正門まで送っていくだけだから♪」
「我々の参加は難しいだろう。人間達の権威と富の象徴だろうからな。私達はあまりにも場違い過ぎる」
両親がどこまで一緒に来るのかエリスフィーナも内心不安で居たが、そこまで出しゃばるつもりは無かった様で安心する事が出来た。
「それではお気を付けて。どうか良い一日を!」
不審な点は無いと判断した兵士から解放され、エリスフィーナは両親と魔法学院の正門へと向かうのだった。




