商人ギルド
ガルドリックに連れられてエリスフィーナがやってきたのは王都セレスティアで商いについての一切を取り仕切っている商人ギルドだった。
中の雰囲気はやはり冒険者ギルドとは異なり、町人らしい普段着の人間が殆どであり、他には行商人や旅芸人の責任者らしい人の姿など、ここでしか見かけないような業種の人間等の見本市の様相だった。
いつも通り物珍しさにエリスフィーナが辺りをキョロキョロしていると
「エリス、俺達はこっちの列だ。あまり周りをジロジロ見たりするんじゃないぞ?」
ついにはガルドリックからも注意されてしまった。まるで小さい子供に注意する様な彼の物言に
「す、すみません……。珍しくてつい……」
エリスフィーナは長い耳を垂れ下げてションボリしてしまった。
ガルドリックに付いて受付待ちの列に並んだエリスフィーナだが、彼女が物珍しさに周りを見る以前に彼女自身が商人ギルドにおいては明らかに場違いな存在なのである。
チンドン屋がサーカス団を見に来てピエロが珍しいと喜んでる様なモノであって『お前が言うな』で終わってしまう話なのである。
エリスフィーナ達が並んでいる人列は王都セレスティアにて新規に商売を始めたい商人が並んでいる列だった。
前の方から漏れ聞こえてくるのは空き店舗を探している商人の声やら、仕入れた商品を安全に収納しておける倉庫を探していたりと様々な相談内容だった。
「次の方、こちらにどうぞ」
ようやくガルドリックの番が回ってきて、彼が受付の前の席に着くと
「本日はどういった御要件でしょう?」
受付の若い男性はガルドリックを値踏みする事無く、まるで大商人を相手にする様に丁寧に応対を始めた。
(なんか……)
容姿も雰囲気もまるで違うが底の見えなさが賢者クレスっぽいとエリスフィーナが眺めていると
「それでしたらこちらの物件は如何でしょう?」
受付が案内してきたのは中央地区の大商人が最近まで使っていたという庭付き一戸建ての邸宅だった。
一階にはホールと客間、二階には個室がいくつかあり、家具等もある程度はそのままとなっているそうだ。
中央地区は魔法学院も所属しているエリアと言う事でガルドリックはかなり乗り気になっている。
「それでは実際に物件の内見に参りましょう」
受付も判断が早くトントン拍子で内見の手筈まで進んでしまった。
「あ、あの……大丈夫なんでしょうか? その……費用とか……」
流れる様に決まってしまった予定にエリスフィーナが不安要素を口にする。大商人の住んでいた邸宅ともなれば……金貨が何枚必要となるのか見当もつかない。
「ある程度なら大丈夫だから心配するな」
金額についてはガルドリックはまるで気にしていない様だが……エリスフィーナ達はそのまま商人ギルドの受付と共に内見に向かう事になるのであった。
「うわぁ……」
商人ギルドが手配した馬車に乗って内見にやってきたエリスフィーナは広い敷地に建てられた二階建ての大きな邸宅に感嘆の声を上げた。
貴族の屋敷を思わせる程の立派な建物はエリスフィーナの好奇心を刺激するのに十分だった。
「それではこちらへどうぞ」
玄関前に停められた馬車から降りた受付の男に案内されてガルドリックとエリスフィーナの二人が玄関から中へと入る。
ーギギィ……ー
木製の両開きの扉を開けるとそこは広いホールとなっており左右に二階へと上がる階段が設置されていた。
一階のホールの周囲にはホールを囲む様に各部屋が設置されている様で各部屋に通じる扉が設置されている。
「ではまず、一階からご案内致します」
受付に案内されてガルドリックとエリスフィーナの二人で内見を進める事となるのであった。
一階のホールは広くテーブルと椅子さえ配置すればかなりの冒険者を収容出来るだろう。
また、一階にはホールの周りに大き目の部屋が数室ありベッドを置けば男女別でも数十人規模が一度に宿泊出来るスペースがあった。
一階にはキッチン、大きな浴場、洗濯場が完備されており、使用人数人確保出来れば普通に日常生活を回すのに問題は無い様に見えた。
「後は二階になっております。こちらは個室や執務室等になりますね」
受付の後に付いて各部屋を見て回るガルドリックとエリスフィーナの二人。
「この部屋はエリスが個人で使った方が良いだろう。学生生活もある訳だからな」
ガルドリックに考えはある様だが、二階の個室は勇者パーティーの古株であるメルティローズやクレスに使わせたい意向があるらしかった。
「さて、如何でしょうか? こちらの物件、金貨ですと三千枚となりますが……賃貸ですと月額金貨五十枚となります」
内見が終わると早速商談となった。流石に高級住宅街の一軒家だけあり、料金も桁外れである。
流石にその金額にガルドリックも躊躇するかと思われたが……
「冒険者ギルドに預けてある貯金で良いか?」
彼はあっさりと商人ギルドの受付と支払いの段取りを済ませてしまうのだった。
「ガルドリックさん……あの、大丈夫……なんですか?」
流石に心配になったエリスフィーナが尋ねるが
「ドラゴンを討伐した時の報酬があるからな。三千くらいなら問題なく払えるはずだ」
ガルドリックは平然と答えてきた。確かに言われてみれば彼は金銭に執着する様な感じは無かった。
だが、それはそれだけの貯金があったからの余裕だったのだとエリスフィーナは改めて思い知ったのであった。




