晩餐会の後の夜
エリスフィーナが晩餐会場に戻ると、ガルドリックがガートルード王女を心配する様に寄り添っている場面に鉢合うタイミングで到着してしまった。
(あ……)
何故か二人の近くに帰るのをエリスフィーナが躊躇っていると
「あら、エリィ。大丈夫だった?」
ダンスを終えていたらしいメルティローズが疲労困憊のクレスを引きずりながら話し掛けてきた。
「あ、メルさん……」
元気の無いエリスフィーナの様子を察したメルティローズは
「ああ、あの二人? なんか……お姫様、貴女にも話あるみたいよ。早く戻ってあげて?」
自分にも話があるという事は、エリスフィーナが不安を感じていた様な話ではないのかもしれない。そんな彼女が複雑な内心のままガルドリックとガートルード王女の座っている椅子に近付くと
「エリス、戻ったか。良い所に来た」
ガルドリックが戻ったエリスフィーナに声を掛けてきた。彼の様子はいつも通りで普段と特段何かが変わっている様子は無い。
周囲の晩餐会場では列席者達がそれぞれにグループを作って歓談を始めており、エリスフィーナ達の集まりもそれに紛れて目立つこと無く会話が出来ていた。
「エリスフィーナさんは……四大元素魔法に興味はございませんか?」
ガートルードから投げかけられた質問はエリスフィーナには予想外のものであり
「え? 四大元素魔法に……ですか?」
どう答えたら良いのか分からず言葉に詰まってしまった。四大元素魔法はメルティローズやクレスの様な人間が使う魔法であり、その源は世界に漂う魔素という物質を体内に取り込み魔力となったエネルギーを魔法としてあらゆる現象に変換する技術の総称である。
これはエルフ達が好んで使う精霊魔法とはまるっきりの別系統であり、どちらが優れてどちらが劣っていると言う事でも無い。
魔力で術者自身で直接現象を創り出すか、魔力で精霊に協力を呼び掛けて現象を発現させるかの違いである。
エルフ達が精霊魔法を好むのは元々が精霊達に身近な環境で生活してるからであり、四大元素魔法を覚えるより難なく使える様になるからである。
そういう訳でエリスフィーナも四大元素魔法の利点は理解しつつもエルフとしての常識が染み付いている自分が四大元素魔法を使える様になりたいかと問われれば……
「わ、分かりません。エルフで使える人を見た事ないですから……」
エリスフィーナの答えにガートルード王女は少しがっかりした様子を見せた。
「エリス、ガートルード王女は来週から姉妹で王立魔法学院へ入学するらしいんだ」
ガルドリックがガートルード王女から聞いていたであろう話をエリスフィーナに教えてきた。
「ハッキリとした事は言えないんだが……ガートルード王女は姉であるフィリア王女と一緒に学院生活を送る事に不安を感じているらしいんだ」
ガルドリックの話をただ聞いているエリスフィーナにはガートルード王女の真意がまだ見えていない。
「ですから……エリスフィーナさんに私と一緒に入学して頂けないかと思いまして……」
ガートルード王女からのお願いはエリスフィーナは考えてもいない話だった。
人間の世界には若者を集めて集団を纏めて教育する文化があるとは聞いていた。
しかし、それは極一部の身分の高い者達にのみ許された特権であるという話である。
そんな選ばれた者達の中に……ましてや人間でも無い自分が入る機会が巡ってくる等夢にも思ってはいなかった。
「え、えーと……」
仮にも勇者パーティーの一員であるエリスフィーナが思わずガルドリックの方を見ると
「君の人生だ。後悔の無い様に決めてくれ」
ガルドリックはそう言うが学生生活を送ると言う事はその間はほぼ勇者パーティーから抜けてしまう事になる。自分の事で皆に迷惑を掛けてしまう後ろめたさがエリスフィーナの頭の中でグルグルしていた。そんな様子を見たガルドリックは
「エリス、これはお姫様からの仕事の依頼みたいなものだ。身辺警護だと思ってくれて良い。君の働きは俺達の助けにもなるし……君が気に病む必要は無い」
ガルドリックの話によると魔法学院の学費は全額免除。必要経費は全て受け持ってくれるとの事だ。報酬は日当として金貨五枚となるそうだ。
期間は決まっていないが……ガートルード王女が安全を確信できたらその時点で終了となるだろう。
一日にワイバーン討伐二匹弱の報酬と聞いたエリスフィーナは返って萎縮してしまった。
「わ、私にそんな大事なお仕事……務まるでしょうか?」
「場所は王都の中だ。普通に冒険者稼業するよりは危険は無い。それに君の耳の良さはきっとガートルード王女の助けになる。……引き受けてくれるか?」
ガルドリックからの真摯な言葉とガートルードからの縋る様な期待の眼差しの前には今のエリスフィーナに辞退するという選択肢は無かった。
「わ、分かりました。お引き受け致します」
エリスフィーナは自信満々とはいかないが期待を込めてこちらをみつめる二人にしっかりと了承を答えたのだった。




