アレックス王子
晩餐会場では謎の光について様々な憶測が飛び交っていた。しかし
「静粛に! 静粛に!」
ーパンパンパン!ー
「先程の光ですが、ホワイトクラウン王国より来席頂いていた聖女殿による魔法の暴発であるとの申し出がございました。会場の皆様へのご安全には何も問題はございません。引き続き晩餐会をお楽しみ下さい」
手を叩いて場の注目を集めてからのローランド国王からの宣言により会場は一応の落ち着きを取り戻し始めていた。
その時、ガルドリックに付き添われていたエリスフィーナは痛めた足を庇いながら会場の袖に移動していた。
「あら、エリスフィーナ様。どうかなされましたか?」
話し掛けてきたのは手持ち無沙汰な雰囲気のガートルード王女だった。
「あ、あの……ちょっと足を捻ってしまいまして……」
エリスフィーナが苦笑しながら王女の問いに答えると
「まぁ、それでしたら是非こちらへ。椅子がありますからお休み下さい。今、神官も呼ばせますので」
ガートルード王女が治療の手配をしてくれる事となり、エリスフィーナとガルドリックの二人は彼女に案内されるまま、王家のテーブル間近までやってきてしまった。
「それでは少しの間、お待ち下さい」
エリスフィーナがガートルード王女の厚意に甘えさせて貰って椅子に座って周りを眺めていると
「これはこれは、ガートルード第二王女様におかれましてはご機嫌如何でしょう?」
恭しく声を掛けてきたのはホワイトクラウン王国の第一王子アレックス・ホワイトクラウンだった。
突然のアレックス王子の襲来にエリスフィーナは身を震わせガルドリックが彼女を庇う様に立ってアレックス王子との間に割って入る。
「折角のダンスの機会なのですが、先程連れが消えてしまいましてね。是非ともガートルード王女にお相手をお願いしたいと思いまして」
アレックス王子がガートルード王女に手を差し出してきたがガートルード王女はその手を取る事に躊躇っている。礼儀としては誘いを請けるのが当然なのだが、アレックス王子に対する印象が良くない様だ。
「申し訳ございません。ガートルード王女は先に私とのダンスを約束しておりまして……」
見かねたガルドリックがガートルードの手を取りアレックス王子に頭を下げる。
「え……?」
予想していなかったガルドリックの行動にエリスフィーナも戸惑いの声を上げるが
「すまない。ちょっと行ってくる」
ガルドリックはエリスフィーナにそう言い残すとガートルード王女を連れてダンススペースへと行ってしまった。
(…………)
ガートルード王女をアレックス王子から逃がすにはこうするしか無かったのはエリスフィーナもすぐに理解出来た。しかし
(……はぁ)
ガートルード王女と共にステップを刻むガルドリックは着ている軍服と大柄な体格から、お姫様お付きの騎士の様な風格がありその組み合わせが自然に見えてきた。
それでなくともガルドリックは質実剛健な男前なだけあってお姫様とのセットは文字通り絵になっていた。
「エリスフィーナ様、治癒の準備が出来ました。どうか処置室までいらして下さい」
ガートルードが手配していたエリスフィーナの怪我の治療の用意が出来た様で執事らしい老人が話し掛けてきた。
「す、すみません。お世話になります……」
エリスフィーナは怪我した足を庇う様に立ち上がると執事の後に続いて晩餐会場を後にするのだった。
「治癒は終了しました。異常は無くなりましたがどうかお気を付け下さいませ」
処置室で神官によるヒールの魔法を掛けて貰ったエリスフィーナは神官に何度も頭を下げながら処置室を出た。
(うわぁ……!)
改めて見る王城の廊下は煌びやかでありその荘厳さにエリスフィーナは目を奪われていた。
ここに来るまでは執事に付いてきただけとは言え、道が入り組んでいる訳でも無いから帰り道に困りそうは無い。
怪我が治ったエリスフィーナが晩餐会場への帰り道を急いでいると
「あ〜! しんど〜! なんだってこんな窮屈な服着て人前でじっとしてなきゃなんないのよ〜!」
エリスフィーナの耳に聞き慣れない砕けた喋り方で愚痴る声が聞こえてきた。
王城と言うよりは街の酒場やミスズ達のクランから聞こえてきそうな言葉遣いの主の声にエリスフィーナは思わず引き寄せられていた。
「ダリク皇子だって砂漠の国の田舎者じゃない。私あんなのと結婚なんかしたくないわよ〜。私は快適なここで死ぬまでスローライフしたいだけなんだからさぁ〜!」
悪態にも似た愚痴を吐き続ける王城に似つかわしくない声の主を辿って廊下を歩いていたエリスフィーナがある扉の前に差し掛かったその時
ーガチャー
「あ……!」
扉から出てきたのは晩餐会場から席を外していたフィリア第一王女だった。
(…………)
エリスフィーナは反射的に見様見真似でスカートをつまみ上げる貴族の礼で頭を下げる。
「妹の客人のエルフね。失礼」
フィリア王女は晩餐会で見せていた高貴な振る舞いを感じさせない素っ気ない態度でその場から立ち去っていった。




