勇者と聖女
「これはお久しぶり。魔王殺しの勇者様ではありませんか」
突然何者かがガルドリック達の側にやってきて声を掛けてきた。
「お前は……マリアリアか。俺達に何か用か?」
白いドレスにピンクのセミロングの彼女の装いは何も知らなければ清楚で控えめな女性として映るだろう。
しかし、彼女と少なからぬ悪縁として繋がりのあるエリスフィーナにしてみればマリアリアは警戒すべき対象だった。
「一曲、ご一緒して頂けませんか? 勇者様」
マリアリアはガルドリックをダンスに誘ってきた。だがガルドリックは当然の様にそれを断ろうとする。しかし
ーキイィィィン……ー
マリアリアの目が妖艶に光を発した途端
「……エリスフィーナ、俺はマリアリアと話を付けてくる」
そう言い残してガルドリックはマリアリアとダンススペースへと行ってしまった。
一人取り残されたエリスフィーナはただ、二人で踊るガルドリックとマリアリアの二人を眺めている。
(…………)
ガルドリックとマリアリアの関係は幼馴染と言う事以外は何も知らない。彼等は踊っている最中も何かを語り合っている様だったが、エリスフィーナは聞き耳を立てるのを止めてしまうのだった。
(俺は……何を……?)
マリアリアに誘われてダンススペースにやってきたガルドリックは自分自身の行動に戸惑っていた。
まるで夢の中で自分の意思で動いているつもりなのに、逆の行動をしてしまう様な……だが、その反対の行動も受け入れてしまっている自分自身がそこに居た。
「ガルドリック……、私達約束したでしょう? 覚えてる? 村が魔族に襲われた時の事を……」
目の前で語るマリアリアは昔の頃のままだった。襲われ無残に殺されていった故郷の家族や友人達に涙する彼女の姿……。
まだ普通の少年に過ぎなかったガルドリックだが、彼女を守れるのは他には誰も……助けられるのは自分しか居なかった。
それから十年は経っただろうか? いつしかガルドリックは勇者と呼ばれるまでに成長しホワイトクラウン国王から魔王討伐を委ねられるまでに上り詰めた。後は魔王を倒したのだから……
「ガルドリック。後は故郷の村を再建するだけ……。貴方が帰るだけで全てが元通りになるの。お願い、一緒に帰りましょう」
ーパアアァァー
その時、ガルドリックとマリアリアを包む様に光の柱が現れた。
「……っ! あ、あれは……!」
エリスフィーナはその光に見覚えがあった。それは彼女が王都でアレックス王子達に襲われた際、自分を王国に移送する為に展開された転移魔法だった。
「な、何だ?」
「ま、魔法が? この様な場に無作法な!」
「何の光ぃ?」
突然の光に周囲の人々も何事かと色めきだっている。
「ガルドリックさん! その場から離れて!」
このままではガルドリックが王都に連れ去られてしまう。エリスフィーナが懸命に駆け寄るがガルドリックの身体が徐々に透過し始めていたその時
ードンッ!ー
「うわっ!」
ダンス中のクレスが足がもつれたのか勢いよくガルドリックに体当りしてきた。
ーパアアァァ!ー
ガルドリックが弾かれた光の柱はマリアリアだけを何処かへと転移させて消えていき、その場に残されたのは未だ白昼夢を見ている様子のガルドリックだけだった。そこに
「ガルドリックさん!」
ーガクッ!ー
「あっ……!」
駆け寄ってきたエリスフィーナが慣れない靴で足を捻ってしまいそのまま
ードサッ!ー
ガルドリックに抱きつく格好で停止したのだった。放心状態に近かったガルドリックもエリスフィーナに抱きつかれた衝撃で我に返った様だった。
「エリス……? 俺は……? さっきは何が……?」
何が起きていたのかガルドリックは判断が追いついていなかった。辺りは突然現れた魔法の光に対する喧騒がまだ収まってはいなかった。
ローランド王国の晩餐会場で謎の光について憶測が飛び交う中、ホワイトクラウン王国に転移していたマリアリアは再転移を天界の女神アルダト・リリーに要請していた。だが、直通であるはずのその回線は通じる事は無かった。何故なら……
「女神アルダト・リリーさん。貴女には失望しました……」
天界の異世界の球体が無数に並べられている異世界管理所、そこで異世界管理課の女神レアが転生課の女神アルダト・リリーに最後通告を突き付けていた。
「貴女には挽回の機会がありました。しかし、事態を収拾すれど異世界に干渉をただ重ねるだけで成果が見られないでは転生課に報告するしかなくなります」
女神レアが眺めている異世界では勇者ガルドリックと晩餐会場が映し出されている。
「この異世界のスケジュールの遅れは私が修正します。貴女は転生課の業務にお戻り下さい」
「そんな……後少しで全てが丸く収まるのに!」
女神アルダト・リリーは食い下がるが女神レアは取り合おうとしない。
「これ以上の不用意な異世界への干渉は因果律を狂わせバタフライエフェクトを誘発してしまう危険性すら生じています。これはもう議論の余地は無い決定事項です」
一歩も引かないレアの前にアルダト・リリーは引き下がり、異世界管理所を後にするより他には無くなっていたのだった。




