アリーナ誕生の秘密②
執事が食堂の扉を開けると、まず家長である父が立ち上がり、夫人がそのあと優雅に立ち上がった。
兄と義姉も立ち上がって自分を迎えてくれた。
「アリーナ、生徒会長の初仕事、お疲れ様」
正面から褒められるのは少し、気恥ずかしい。
「陛下も今回のことは申し訳ないとおっしゃっていた。そして、争うことなく解決したこと、大変褒めていらっしゃったよ」
公爵がゆっくりとアリーナに近づく。
「よくやったな」
頭を撫でる大きな手は少しぎこちない。
それでも、アリーナの頬が緩んだ。
「さあ、座りましょう?」
公爵夫人がアリーナの背に手を添えて、席に誘導して、テオドールが椅子を引いて待っていた。
「え?」
そこは長兄の席だ。
よく見れば、兄たちはいつもと違う席に座っている。
一瞬足が止まったが、ライナルトは構わずアリーナを席までエスコートし、テオドールが執事のように座らせてくれた。
「今日は特別だよ」
左隣のアドリアンが優しく囁き、ウインクする。
そして公爵夫人がアリーナの正面に座った。
ーーなんだか落ち着かない…。
気持ちはそわそわしていたが、それを表情に出さないようにして、晩餐を楽しんだ。
並ぶのは好物ばかりだ。目を輝かせてひと口ずつしっかりと味わった。
食事の合間に、父と長兄と言葉を交わした。
卒業パーティの後アドリアンは王太子夫妻と王城へ向かったため、ゆっくり話すことができなかったのだ。
「本当に、うまく解決できていたよ」
改めて評価されると、少し気恥ずかしいが、心が暖かくなった。
「見たかったなぁ…」
テオドールがボソリと呟いた。
「アドリアン兄様だけ実際に見れたの、ずるくない?」
「私は王太子殿下の側近としてその場にいたんだ。ずるくない!」
ライナルトもテオドールに続く。
「私も見たかったですよ」
半分は長兄を揶揄っているのだが、アリーナの活躍を見たかったのは家族全員の総意だ。
「やっぱり、あの魔道具の開発考えなきゃだ」
「どんな魔道具なんですか?」
アリーナが尋ねると、テオドールは不適な笑みを浮かべた。
ーーあんまり良くないやつだな…
アリーナだけでなく、その場にいた全員が察した。
「その場で起こったことを画像として保存できるもの。絵のように…いや、絵だと音が入らないな…動く絵と音声を保存できるものがいいね」
目をキラキラさせるテオドールに、その場にいた侍女や執事も一緒に心の中で叫んだ。
ーー絶対にダメな魔道具だ!
「いや、ダメですよ、テオ兄さま。その魔道具、私嫌です」
「え?そうかなぁ…。裁判の時とか、よく後で証言変えたりする人とかいるから、そういう用途にはいいと思うけど…」
「確かにそういう使い方はいいですが、私は自分の姿を保存されるの嫌です」
ーーアリーナお嬢様!!ありがとうございます!
まさか今ここにいる侍女や執事に感謝されているとは知らず、アリーナはテオドールのアイデアをキッパリと却下した。
「ちぇっ」
不満そうに口を尖らせたテオドールだったが、完全に開発を諦めたわけではない…。研究者としての探究心はその瞳に宿ったままだった。
「ほどほどにしておきなさい」
静かに釘を刺したのは、父だった。
穏やかな声であるが、息子の研究心に線引きをした。
「私の娘の姿を保存する魔道具など、あってはならん。簡単に世に出していいものではない」
「…、はい。承知しました」
素直に頷くテオドールに、家族は小さく笑った。
暖かく優しい空気が流れる。
その光景を見つめながら、アリーナは心が満たされていくのを感じる。
ーーこの家に産まれて良かった。
産まれた経緯は、決して穏やかなものではなかった。
ここにいる家族が、守り、慈しみ、手を尽くしてくれたからこそ、今幸せなのだ。
この家族を守れる、強さが欲しい…。
守られるだけではなく…。
いずれこの家を出て行く。
自分の夢を叶えるために…。
それまでにこの暖かい家族に、少しでも恩返しができるよう、日々の弛まぬ努力を誓ったのだった。




