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アリーナ誕生の秘密①

「疲れたーーー」


 ふわふわのソファに勢いよく突っ伏し、大きなため息を吐いた。

 ベッドにもできそうな大きめのソファは、アリーナが子供の頃から大好きでリラックスできる場所だった。

 先日の卒業パーティーで起きた、第四王子マルセルと公爵令嬢エレオノーラの婚約破棄騒動。その後始末や、他の事務作業含め、生徒会長としての初仕事が、ようやく終わったのだ。


 第四王子は王宮騎士に連行されたあと、自室にて幽閉され、子爵家令嬢のフローラも王都の自家の館で外出禁止となっていた。

 エレオノーラに非がないことは第三王子や第一王女、それにアリーナによる証言と、学園にいた王家騎士により証明された。

 最終的に第四王子マルセルは、王位継承権の剥奪とフローラの家に婿入りが決まった。


 ーー王族としての華やかな人生は終わる。


 ブランシュ子爵領はアメジスト王国の辺境にある。そこから出ることは、もう許されない…。

 アリーナはエレオノーラの今までの苦労や、アルデンティア公爵家がマルセルにかけていた金銭のことを思えば甘いと思ってしまうが、国王が決めたことだ。

 意見する気は毛頭ない。


「お嬢様、制服から着替えてくださいませ。シワになりますよ」

 侍女のリディアが腰に手を当てて睨んでくるが、もう指一本動かしたくないほど疲れているのだ。

 生徒会長の仕事は意外とハードで、剣の修行で鍛えているつもりだったが、ここ数日で疲労がしっかりたまっていた。

「むーりー」

 ゴロリとうつ伏せから仰向けに体勢を変えるので精一杯だった。


「仕方ないですねぇ…」

 リディアは側に控えていたもう1人のアリーナ付きの侍女、マルグリットにお湯の準備をするように指示を出して、まずはアリーナの靴を脱がせた。

「リディアさん、お湯を持ってきました」

 マルグリットは、ワゴンに乗せたお湯の入った桶にタオルを浸し、硬く絞ってリディアに渡した。

「ありがとう」

 マルグリットからタオルを受け取ると、リディアはアリーナの足をタオルで温めながら拭く。


「気持ちいい、よ〜」


 ほにゃりとアリーナの表情が溶ける。


「今日は奥方様だけではなくお兄様方も晩餐にいらっしゃるそうですよ」

「え?ライナルト兄さまだけじゃなくて?」

「はい。アドリアン様もテオドール様も本日はお戻りですよ」

「そうなの?」

 ぱあっとアリーナの表情が一気に明るくなる。


 ーー兄上が帰ってくる!


 次兄のライナルトはほぼ家で実務をすることが多く、登城しても夕方には帰ってくる。

 しかし長兄のアドリアンは王太子の側近でもあるため、いつも遅くまで帰ってこないことが多く、一緒に食事することがほとんどない。

 ちなみにテオドールは、魔道具製作に没頭すると平気で数日帰ってこないため、時々ライナルトが強引に連れ帰ってくることもある。


「テオ兄さまも自主的に帰ってくるの珍しいわね」

「今日はお嬢様の生徒会長としての初仕事を労う席だそうですよ」

「え?」

「ですから、晩餐のご用意をいたしましょう」


 兄全員が揃う食事はいつぶりだろうか…。


 先ほどまで指一本動かすのも億劫だったのに、アリーナは制服のボタンに手をかけた。

 マルグリットが準備してくれた晩餐用のドレスに袖を通し、リディアとマルグリットが髪の毛を整え、ドレスの後ろのリボンを優雅に結ぶと、鏡の中には公爵令嬢アリーナが凛とした表情で立っていた。


「お嬢様、素敵です」

 マルグリットが最後に口紅を乗せて、ほぅっとため息をこぼした。

「ありがとう」

 リディアが部屋の扉を開けると、アリーナを呼びにきたライナルトが立っていた。

「ちょうど良かったみたいだね」

 ライナルトが手を差し出すと、アリーナは素直にその手を取って共に食堂に向かった。

「ライナルト兄さまがわざわざエスコートしてくださるなんて…」

「アドリアン兄様の方が良かった?」

 意地悪な質問だ。

「わかってて聞いてます?兄さまは義姉様がいるんだから、私をエスコートしないでしょ。ライナルト兄さまだってお忙しいのにこうしてエスコートしてくれるの、嬉しいんだからね」

 少し頬を膨らませる妹の横顔を見て、ライナルトは目尻を下げた。


 ーー私たちの妹は、今日も可愛い!兄上!テオドール!見てください!


 アドリアンとテオドールに向かって叫びたかったが、食堂に到着してしまった。少し残念な気持ちになる。


 扉の向こうから、父の穏やかな笑い声が聞こえた。

「お父様もいらっしゃるの?」

 宰相職に就く父と顔を合わせるのは休日ぐらいだ。

「当たり前だろう?今日はお前の慰労会だからな。それに企画したのは母上だが、今日にしたのは父上だ」

「聞いていませんでした…」

 自分だけ何も知らされていなかったことに、少し不服そうに口を尖らせた。

 もちろん自分のための晩餐だということはわかっているが…。

「はは。サプライズ、成功だな」

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