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北の砦へ①

 オスカーから資料をもらってから、アリーナだけではなく、彼女の侍女リディアとマルグリットも忙しくなった。

 オスカーからもらった屋敷の間取り図やノクスヴォルト領までの地図は一枚ずつしかない。何パターンも警備の配置を検討するため、二人が資料を複写し、アリーナが人員配置を書き込んでいくのだ。


「いくら道の整備が終わってるとはいえ、皇太子紋の入った馬車だもんね…。目立つよねぇ…」

「そうですね…。目立つでしょうね…」

「いっそ黒塗りの馬車で、夜のうちに駆け抜けるとか…。できないもんねぇ…」


 皇太子とその婚約者が乗った馬車が通るのだ。人々はその姿を一目見ようと街道に集まるだろう。

 その人の多さは、リオネッタが皇国に到着した際の比ではないことは簡単に想像できる。


「ひとつ、思ったのですが…」


 マルグリットが馬車の外観を上から見た図を書き写しながらポツリと呟いた。


「馬車で移動される際は皇太子殿下と王女殿下はずっと一緒にいらっしゃいますよね…」

「そうね。私とナナリー様は別の馬車だけど、お二人はずっと一緒よ」


 今回の移動では、悔しいが、アリーナはリオネッタと同じ馬車には乗れない。

 アメジスト王国の女性騎士とエメラルド皇国の女性騎士が同乗することになっている。

 一番近くでリオネッタを守れないので、仕方ないことではあるが、少し心にもやりとしたものがある。


「ということは、道中の警備は皇太子殿下の警備とバランスを見ないと難しくないですか?皇太子殿下の警備配置は、お嬢様はご存じなのですか?」


 確かに、マルグリットの言う通りだ。

 しかし、そこも含めて考えろというのが、今回のオスカーからの宿題なのだ。


「皇太子殿下の警備がどうなるか、そこを考えながら姫さまの警備の計画を考えるというのは、お二人分まとめて考えなさいということなのでしょうね」

「そうね。リディアの言う通り。お二人が一緒にいる場合は、どう警備すればお二人が安全かを考えなければいけないの」

「それは…。お嬢様張り切っちゃいますね!」

「そう、張り切り過ぎちゃって!何パターンも頭の中で考えて、シミュレーションしちゃうの。姫さまのお妃教育中も、ちゃんと一緒に聞いていないといけないのに、あれこれ考えちゃって」


 アリーナは兄のアドリアンに教えてもらったことを思い出していた。


「アリーナ、騎士になるなら、警備の計画もできるようにならないとね」


 剣は二番目の兄、ライナルト。

 魔法は三番目の兄、テオドール。

 そして、戦略や思考力を必要とする分野は、王太子の側近候補だった、長兄のアドリアンが担うことになっていた。

 剣と魔法は騎士になると決めた頃から二人の兄に教えてもらっていたが、戦略などの学びは、アリーナが十二歳になってからというのが、父レオンハルトの教育方針だった。

 アリーナはもっと早くからアドリアンから教えてもらいたかったが、普通に学業もあるため、そこはいつも甘い父であっても、厳しく線引きしていた。

 アドリアンも、弟たちがアリーナと修行しているところを見て、大変羨ましく思っていたので、早く自分も何かアリーナのためになることを教えたかったのだが、父の決めたことには逆らえなかった。

 自分が妹可愛さでアリーナに無理をさせてしまっては意味がないからだ。


「さて、護衛計画について、まずは教えていこう」

「はい!アドリアン兄さま!」


 キラキラとした目で自分を見る妹の姿に、アドリアンの鼻の下が伸びたのは、言うまでもない…。

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