忍び寄る悪意②
アリーナとオスカーがガボゼに戻ると、少し前に襲撃を受けたとは思えないくらい、場が整えられていた。
「オスカー、アリーナ嬢、ご苦労だった」
ジークフリートの声に、アリーナとオスカーは頭を下げた。
「アリーナ!」
リオネッタがアリーナの元に駆け寄ると、頭の先からつま先まで、じっと見回した。
「怪我はない?咄嗟にアリーナに行くようジーク様に進言したけど、危険な場所に行くように言ったこと、少し怖くて…」
「大丈夫ですよ。姫さまのご判断は正しかったです。間に合わなくなるところでした」
「間に合わない?」
「ええ。口の中に毒を仕込んでました。おそらく手持ちの矢を全て放った後、自害する予定だったのでしょう」
「まあ!」
リオネッタの顔色からさあっと血の気が引く。
それでもしっかりと立っている。
この場で弱いところを見せられないからだ。
未来の皇后として…。
「リオネッタ、アリーナ嬢。ひとまず座ってくれ。経緯の整理をしよう」
ジークフリートの言葉で、アリーナとリオネッタは、再度テーブルについた。
「まず、アリーナ嬢から。君の話から聞こう」
「承知いたしました」
ことの経緯はこうだ。
妃教育が終わり、ジークフリートが迎えに来て、数人の護衛と共にこのガボゼにやってきた。
色とりどりのクッキーや、季節のフルーツを使ったタルト、そして皇后宮の侍女が丁寧に淹れた紅茶。
一目で、一流の仕事だと伺えた。
ジークフリートとリオネッタが並び、リオネッタの左にナナリー、その隣にアリーナが座っていた。
やっとゆっくり話ができると、リオネッタがこの一年、会えなかった間の話をしていた。
ジークフリートも笑顔で話を聞いていた。
優しく暖かな空気が流れていた。
次代の皇帝と皇后も仲睦まじいと、誰もが微笑んでいた時だった。
アリーナの目の端で、何かが光った。
考えるよりも先に、アリーナは立ち上がり、自分が座っていた椅子を持ち上げて、リオネッタの前に立った。
外に置いていても朽ちない、金属製の椅子は重たかったが、しっかりと矢を弾いてくれた。
矢が飛んでくるのを確認した護衛騎士とオスカーがジークフリートの前に立ち、第二波からその身を守った。
リオネッタ担当の女性騎士も、リオネッタの体を包むように護っている。
「ジーク様!アリーナが一番早いです!」
リオネッタの言葉に、深く頷き、ジークフリートが命を下した。
「アリーナ・フォン・アメジリウス!犯人を捕らえよ!」
「承知いたしました」
返事を言い終える時にはすでに、アリーナは高く空へ舞っていた。
風魔法の応用、飛翔魔法だ。
地を蹴ったアリーナは、まっすぐ矢の飛んできた方、皇后宮の屋上へ向かった。
2度空を蹴り、ちょうど第二波を放とうと構えていた犯人をその目にとらえたのだ。




