歓迎の宴③
かん、かんと木剣がぶつかる音が響く。
しかし、その音は先ほどまでとは違って、重く鈍い音だ。
最初は片手でいなしていたオスカーだったが、アリーナの剣を受ける度、衝撃が重くなり、十に満たない回数で、両手に持ち直した。
「うん。ちゃんと一撃、一撃が重くなってるよ」
なんとかもう一声評価が欲しいのだが、木剣では力がうまく伝わりきらないせいか、それとも剣自体が軽いせいか、思った通りの衝撃をオスカーに与えられなかった。
かん、かん、かん。
木剣がぶつかる音が数度響き、アリーナはオスカーとの間合いを開けた。
二人の間の空気が、ぴんと張り詰めた。
次の一撃で終わる。
周りで手合わせをしていた騎士たちも手を止めて、二人の動きに息を呑んだ。
アリーナが地を蹴り高く舞い上がる。
「やあぁぁ!!」
大きく木剣を振り下ろすとオスカーがそれを受け止めた。
そして、アリーナは地に足をつけると、今度はすぐにオスカーの剣を下から振り上げた剣で叩き上げた。
「くっ…」
上下から激しい剣撃を受け止めたオスカーが、初めて顔を歪めた。
ーーここだ!
アリーナはすかさずオスカーの手首めがけて一撃を繰り出すと、それを避けようとしたオスカーの足元に隙ができたのを見逃さず、容赦なく足払いをかけた。
少し体を傾けたオスカーが踏みとどまった瞬間、アリーナが今度は左から右へ、まっすぐ剣を振ると、オスカーが握っていた木剣が宙に舞った。
「そこまで!」
声がする方へ視線を向けると、そこにはジークフリートが立っていた。
「兄上…」
アリーナに一本取られたところを見られて、オスカーが少し気まずそうな顔をしている。
「皇太子殿下に敬礼!」
アリーナ以外の騎士が背筋を伸ばして、敬礼をする。
オスカーも立ち上がって敬礼をするが、アリーナだけは右手を胸に当てて、深く腰を曲げた。
アリーナはジークフリートの騎士ではないので、アメジスト王国の騎士のスタイルで礼をしたのだ。
「みんな朝からご苦労様。アリーナ嬢も、昨日到着したばかりで疲れているだろうに…。よく動けていたよ」
「ありがとうございます」
ジークフリートは魔法戦の方が得意だが、剣の腕もなかなかのものだ。
エメラルド皇国の皇太子として、自分の身を守るため、最低限の戦う術は身についている。
純粋に剣の腕だけならオスカーやアリーナが上だが、ジークフリートが使う魔法は雷魔法だ。
広範囲の雷魔法に太刀打ちできる魔法は今のところ存在していない。
攻撃力の強い火魔法や闇魔法でも、簡単には打ち破れないだろう。
アリーナの兄、テオドールは雷魔法以外の全属性を使うことができるが、勝てないと言っていたのを覚えている。
実際に雷魔法を見せてもらったことがあるが、美しい稲光と凄まじい攻撃力に驚いた。
「オスカーも。アリーナ嬢のスピードについていけていたね。課題の小回り部分、だいぶ改善できてきたかな」
「ありがとうございます、兄上。でも、まだまだですね。アリーナ嬢が本格的に騎士となったら、私も身体強化なしでは太刀打ちできなくなるとおもいます」
アリーナとオスカーの違い、それは騎士として1日を過ごすか、学生として過ごすか、ここがとても大きな差を生んでいる。
学生として過ごす時間の多いアリーナは、ずっと剣を握っていられるわけではない。
オスカーは逆に常に剣を持ち、修行に励んでいる。この時間の差だけが原因ではないが、全く同じ条件で毎日を過ごしていたら、二人の実力差はほぼないだろう。
オスカーは直感でそれがわかっていた。
さらに魔法の腕が加われば、おそらくアリーナが正式な騎士として過ごし始めて二年も経たないうちに、オスカーはこういった手合わせで、アリーナに負ける日が来るだろう。
「私もまだまだ精進しないといけませんね」
「褒めすぎですよ、オスカー殿下…恐れ多いです…」
謙遜ではなく、アリーナの素直な気持ちだ。
確かに魔法の腕は自分が上かも知れないが、剣技や戦略において、経験に勝るものはない。
オスカーはすでに皇太子親衛隊の隊長として、実際に色々な場面を切り抜けている。
騎士としての力量という点で、アリーナがオスカーに勝てる日はなかなか来ないだろう。
単純にこうして手合わせをするだけであれば、今回のように勝てる場面も出てくるかも知れないが…。
全ての時間を騎士として過ごしているオスカーと学生として過ごしている時間が大半のアリーナでは蓄積される量が単純に違うのだ。




