歓迎の宴②
次の日、アリーナはシャツにパンツスタイルと、公爵令嬢には全く見えない出立ちで、皇后宮と皇太子宮を繋ぐ中庭の門の前にいた。
「お願いします」
皇后から渡された札を門兵に見せると、鉄製の扉がゆっくりと開いた。
「話は聞いています。どうぞお通りください」
「昨日到着されたばかりなのに、早いですね」
「ええ。馬車移動で体が固くなってしまっていて…。早く体を動かしたいの!」
顔見知りの兵と少し話して、アリーナは皇太子宮の中にある訓練場へ急いだ。
まだ早い時間だが、何人かの騎士がすでにストレッチなどを始めていた。
「おはようございます!」
元気よく頭を下げて、アリーナが訓練場に入ると、動きを止めて応えてくれる者がいた。
「今日からお願いします!」
ここではアリーナが部外者である。そのため最大限の礼儀は尽くす。
「アリーナ様!一緒にストレッチしましょう」
女性騎士が声をかけてくれたので、アリーナは二人一組になって、しっかり体をほぐす。
ストレッチが終わったら、木剣を持って、二人で手合わせを始める。
魔法は使わず、純粋に剣技だけで、訓練を進める。
かんかんと木剣が当たるたびに音が鳴る。
周りの騎士たちも二人に触発されたように木剣を握って、近くの者と手合わせを始める。
しばらく同じ相手と手合わせしていたが、上官が手を叩くと、一度やめて、礼をしたあと、一人ずつずれて、今度は違う騎士との手合わせを開始する。
魔法なしで男性騎士の剣を受けるのは少し重いのだが、それも訓練の一つ。
まともに受けるのではなく、うまくいなすことが力の良い女性剣士の技だ。
「止め!」
五人の騎士と手合わせをしたところで、オスカーの声が響いた。
親衛隊の騎士たちが、オスカーの前に整列する。
アリーナもその末席に加わった。
正式な騎士ではないアリーナはここでは練習生のような位置づけになっている。
そのため、ここではアメジスト王国の公爵家の娘という身分は関係ないのだ。
「オスカー殿下に敬礼!」
その場にいた全員がオスカーへ敬礼をする。
もちろんアリーナも一緒に。
「本日の予定を確認する」
オスカーの隣に立っている副隊長が予定を読み上げる。
もちろん、アリーナにはあまり関係ないのだが、黙って聴いていた。
ちなみにアリーナはこの訓練の後朝食を取り、リオネッタとナナリーと一緒に午後からの準備をする。
妃教育を受けるのはリオネッタだが、付き添い人はリオネッタの代理を務めることもあるので、二人もリオネッタと同様の教養や知識が必要なのだ。
例年通りであれば、初日は軽く前回のおさらいと、相手によって違いがある挨拶の仕方だろう。
「アリーナ嬢、朝から頑張っているね」
「おはようございます、オスカー殿下」
「疲れは残ってないかい?」
「はい。どちらかというと、オスカー殿下の方がお疲れなのでは?」
オスカーの目の下の肌の色が、少し濃くなっている。
リオネッタの歓迎の晩餐会ではあったが、主役のリオネッタは割と早めに席を外したが、オスカーはもちろんジークハルトも遅くまで参加していたのだろう。
しかもオスカーは、国境まで迎えにきてくれていたので、そこを考慮すると、この数日ゆっくり休むこともできていなかっただろう…。
「まあ、少し疲れが残っているけど、騎士たるもの、そんなこと言っていられないからね。兄上も普通に執務に向かわれたから、私も朝の訓練を休むわけにはいかないからね」
ジークハルトは細身であまり剣を持って戦うタイプではないが、鍛えていないわけではない。
魔法を使うにも体力が必要なので、それなりに鍛えている。
身のこなしを見ていれば、かなり鍛錬を積んでいるのがアリーナでもわかる。
「さて、では、剣を構えて。前回からどのくらい強くなってるか、見てあげよう」
「はい。よろしくお願いします」
単純に、体力や剣技だけなら、アリーナはオスカーに敵わない。
だが、身体強化魔法と風と水の魔法を使えば、その差はほぼなくなる。
「身体強化は使っていいよ」
「では、遠慮なく」
幼かった頃と違い、今は無詠唱で身体強化を発動できる。
全身に力がみなぎる感覚も数日ぶりだ。
「では、いきます!」




