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45歳の異世界奇譚  作者: GONTA
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第二話-② パラレルワールド

廊下はひんやりと冷たい風が抜け、我々以外には誰も居ないのだと確信する程に静かだった。

いかにも現代風なフローリングに、窓の外には日本庭園が見える。俺の世界とそんなに違わないんだな、こういう部分は。


「ここです。」


廊下の突き当りには、ドアが一つ。壁と見間違うような、大きな大きなドアだ。開けるとギィ、と音が鳴り、瞬間、何かに襲われた。


「うわっ!何…何だっ…!」


毛むくじゃらの物体に全身を舐められる。巨大な舌で転がされる。幸いにも噛んではこないが、全身が唾液でベトベトになる。


「はっはっは!こら、やめなさい、ベス。」


主人の命令に忠実なのか、やめろの合図で俺は解放された。


「一体…何なんですか…。」

「これが犬ですよ。この世界の、と言うべきですかね。」

「犬…?」


それは犬と呼ぶにはあまりにも大きく、しかし姿かたちは柴犬そのものだった。


「四メートルはあるぞ…おい…。」


軽く軽自動車一台分の大きさの獣だ。噛まれなかった事を心の底から安堵した。


「これは私の飼い犬で、ベスといいます。こいつは小さい時からちゃんと躾けてありますので、人を襲う事はありません。まあ、人懐っこすぎるところも考え物ですが。」


どう考えてもこの世の者じゃない。何か幻想でも見ているような気分になった。


「まあ、簡単に言うとですね、ベスで普通犬サイズなんです。つまり、野犬もこのサイズから上になるんですね。言って理解するより、体験する方が早いと思いまして。」


マジかよ。これで普通サイズだって?これが?あり得ないだろ。秋田犬何匹分なんだ。


「どうしてこんなに大きくなるんだ…?」


素朴な疑問だった。常軌を逸したバカでかいサイズを目の前に、阿呆な質問をした、と瞬間的に理解した。


「大きくなる…?いいえ、元からこのサイズですが…。」


そりゃそうだろう。この世界ではこれがスタンダードなんだ。何当たり前の事聞いてるんだよ、俺。


「まあ、今夜はこの世界について、詳しくお話させて頂きましょう。」

「はい…。」


仕方ない。これを見せられたら黙って引き下がるしかない。ギィ、とドアを閉める瞬間、じゃあな、ベス、と囁いた。バフッ、と答えてくれたベスに、少しだけ愛着が湧いた。



~~~~~




「ご馳走様でした。」


晩御飯は鳥の照り焼きだった。どうやらこの世界では、食に関しては俺の世界と同じと考えていいらしい。米もあった。味噌汁だってあった。ここは本当に別の世界なのか、と疑問がもう一度湧き上がるほどに、ここは俺の知っている日本だった。

そして晩御飯を食べながら、この世界について色々と聞いた。




どうやらこの世界は、白亜紀時代に隕石が衝突しなかった世界らしい。研究中でよく分からないそうだが、隕石衝突の際のエネルギーが磁場を乱し、異なる世界線を作ったのだろうと。

つまり恐竜が生きていた世界線なのだ。そしてその結果、この世界はどうやら人間が生物界の頂点ではないらしい。犬や狼、恐竜から進化した竜なんてのもいるらしい。人間はそんな他種族に抵抗しながら、今日まで生きてきているらしい。


またそんな世界だからか、全てにおいて俺の世界よりも発展が遅れているらしく、俺の今居る部屋もろうそくの明かりによって照らされている。いくらインフラを整備しようが、害獣に襲われたらひとたまりもない。だから大きな町は防護壁を設置したり、町独自の防衛システムを構築し、害獣対策に努めているそうだ。


そして俺の居る国、日本。現在は内紛中で、志村、桐田、岡林という三人の君主の国が、それぞれ治めている。

中でも俺の居る桐田国は、志村、岡林のそれぞれの国に反発した人々が半ば勝手に立ち上げた国で、領土や人口は他の二国に劣っている。そして両隣が敵国という事もあり、国境では絶賛戦争中なのだとか。


聞けば聞く程、考えれば考える程、頭がおかしくなりそうだった。違う世界だなんて、どこかの小説や漫画の話だろう。夢や幻ならどれだけ良かったか、なんて考える。いや、まだ夢とか幻かもしれない。俺は長い夢を見ているんだ、きっと。

そんな事を考えている間に、俺は眠ってしまった。



~~~~~



「早川、すまねェなァ…。」


聞き覚えのある、気怠そうな話し方。目の前に上田部長がいる。


「すまないって、どういうことですか?」

「お前をこっちに呼んだのはな、俺なんだよ。」


何だって?上田部長が俺を呼んだ?


「訳あってな、お前の力が必要なんだよ…。おっと、今はその訳ってのは言えないぜ。」

「おい…ふざけんじゃねえよ…。」


怒りで声が震える。血圧が上がり、今にも血管が切れそうだ。


「てめえ…すまないって…ふざけてんじゃねえぞ‼お前にどれだけの俺の幸せが奪われたと思ってんだ‼それをすまないの一言で済まされる訳ねえだろうが‼」

「ああ…、わかってる…。でも仕方なかったんだよ…。」

「言い訳か?ふざけんなよ。お前に俺の人生が狂わされたんだよ。お前のせいなんだよ。仕方ないって何なんだよ…。」


最早怒りを通り越して呆れてくる。この期に及んで言い訳なんて聞きたくない。


「これは重要なんだ。いいか、早川。お前だって嫁と子供を守りたいだろ?」

「てめえのせいでその嫁と子供を守れなくなってんだろうが‼早く元に戻しやがれ‼」

「すまないが、まだそれはできない。いいか、少し俺の話を聞いてくれ。」


上田部長を見ると、気怠そうな雰囲気は無くなり、目つきは真剣そのものだった。


「この半年間、お前と何度もこうやって夢の中で相対してきた。それは、これから起こる出来事に備えるためだ。その為にお前を鍛え上げてたんだよ。」

「これから起こる事…?」

「ああ。何が起こるのかは今はまだ言えない。でも、俺たちが止められなかったら、それは確実に起こるんだよ。」


何を言ってるんだ…?話が全く読めない。


「お前のイメージトレーニングは終わっている。多分、今は何を言ってるか分からないと思うが、これからは実践編なんだ。」

「実践…?なんだ…?」

「時間がないから手短に言うぞ。お前はこれから何度も何度もピンチになることがあるだろう。その時は何も考えるな。体が動きたいように動かしてやれ。お前自身は覚えてなくても、お前の体は覚えてるはずだ。」


だんだんと視界がぼやけてくる。さっきまで明瞭に見えていた上田部長の姿が、ピントがボケたように霞んでくる。


「これはお前の家族を救う、唯一の方法なんだ。頼むぜ、俺たちの最終兵器———。」


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