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ジンとリリンの世界冒険譚  作者: 星太郎
第二章:赤き聖王と黒き死神
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第20話:それぞれの戦い

「こりゃ随分と変わったお客さんだな。」


 王城ディアリスの自室にて、聖王ジークフリードは、一人の予期せぬ来客へと言葉をかける。


「どうやってこの部屋に来たかは知らねぇけどよ、俺は嬢ちゃんとお話ししてるほど、暇じゃないぜ。」


 語りかけた先にいるのは、一人の少女。

 セミロングの白い髪に、火を灯したような明るみを帯びた瞳を持ったその少女は、背神の国の兵である、ジズ・ホロルストアその人だ。


「キャハハハッ、こんな真夜中にも関わらずご多忙だなんて……聖王様というのは、とても大変なのですね♪」

「誰のせいで多忙なのか分かって言ってんのかよ。」


 薄っぺらい笑顔を顔に貼り付けたジズに、ジークフリードは、殺気の篭った刺すような視線を送りつける。


「はい♪私達、背神の国の所為ですよね?」


 そんな肌をつんざくような聖王の殺意をその身に受けながらも、ジズはまるで動揺しない。顔には笑顔がくっついたままである。


「分かってんなら、大人しくしといてくんねぇか?こちとら平和な国づくりしようとしてんだ。邪魔すんじゃねぇよ。」

「そういうわけにはいきません。私の任務は不安因子であるあなた様の始末または足止め。邪魔をするなというあなた様のお言葉には承知しかねます♪」

「まさか、俺に殺しに来たって言うんじゃねぇだろうな?」


 一層強まるジークフリードの殺気は、気の弱い人間なら失神するのではないかというほどの威圧感を感じる。


「いえいえ♪あなた様の強さは重々と承知しております。私はそこまで自分の力に驕りを持っていませんから♪でも、得意なんです、あ・し・ど・め♪」

「ーー!?」


 挑発的なジズの発言の直後、光とともに四面の壁と天井、さらに床に、それぞれ一つずつの魔法陣が広がる。その魔法陣同士が線と線で繋がり、幾何学的な模様を描く。淡く光るそれは、まるで光の檻だ。


「六重魔法結界です♪あなた様とお話ししている間に準備させていただきました。張ったのは私ではなくお利口なお人形さん達ですけどね♪」

「なるほどな……これで俺をお前の仲間が何かを起こすまで閉じ込めようってわけか。」

「理解がお早いようで助かります♪」


 ジズが浮かべる嘲るような笑み。だが、その余裕の笑みに対して、ジークフリードもまた、不敵な笑みで返す。


「こんな大掛かりなもん、用意してもらって悪いんだけどよ、あんまり俺を甘く見ないことだぜ。これでも『闘いの聖人』って呼ばれてんだからな。」


 そう言ったジークフリードの右腕が熱を帯び始める。


「力を使うのは結構久しぶりだぜ。」


 次第にその熱量は増していき、その腕はまるで溶鉱炉のように赤々とした光を放つ。

 その次の瞬間、六つの魔法陣によって形成された堅固な結界は、『化け物』の一撃で粉砕されことになる。


「何を……」

「うっらぁぁぁぁぁぁ!!!」


 響き渡る衝撃音、それは結界の誇る絶大な守りの力と、ジークフリードの右手が放つ圧倒的な力との激突によって起こったものだ。

 結界の守りの力を上回った破壊の力はその壁ごと、結界を貫き、魔法陣はその光を失っていく。


「まさか……これほどとは♪」


 ジズが見つめる先には、聖王の一撃によって崩壊した結界と、壁へと開けられた風穴、そして先ほどまでとは全く違う形に変化したジークフリードの剛腕。


「それが噂に聞く竜の力ですか。素晴らしいですね♪」

「そんな便利なもんじゃねぇんだけどな。」


 変化した自身の腕を見てそう吐き捨てるジークフリード。次の瞬間には禍々しいほどのオーラを放っていた剛腕は元の人の腕の形に戻っていた。


「けどまぁ、これで俺は自由の身だぜ。あとは嬢ちゃんと嬢ちゃんの仲間を捕まえるだけだな。」


 ジークフリードは先ほどまでのお返しと言わんばかりに、挑発的な言葉をジズへとかける。


「まさかこんな簡単な結界を破壊されるとは思いもしませんでしたよ♪流石は『闘いの聖人』ということでしょうか。」


 結界が破壊され、圧倒的不利な状況にも関わらず、余裕の姿勢を崩さないジズは、少しおどけて見せると、けらけらと楽しそうに微笑む。


「でも、あなた様も、私のことを少し甘く見ているのではありませんか?」

「どういう事だ?まだなんか隠してんのか?」

「あなた様を足止めする方法は一つではないという事ですよ♪口で言わなくても、すぐに分かりますよ♪」

「いや、その前にお前を倒せば終いだ。」


 そう言うのが早いか、ジークフリードはジズへと向かって駆け出す。腰に差していた剣を抜き、その刃を目の前の敵へと振ろうとする。だが、


「ジークさん!!大変です!!監視塔の兵から百の敵影を観測したとの報告が来ました!!」

「あぁ!?」


 響いて来た声が、ジーフリードの動きを止める。声の主は、ジーフリードの臣下の一人であるライラスだ。


「ほらほら♪言った通りでしょう。すぐに分かるって♪」

「次から次へと……アルトのやつは何してんだ!!」


 次々に起こる事態に苛立ちが募っていくジーフリード。その怒りの矛先は、この場にはいないアルトへと向けられる。


「アルトさんは、城下町内の見回りに数名の兵士と向かっています。伝令魔法を送っているはずですが、返事はありません。どうやら、誰かに妨害されているようです。」

「無理ですよ♪そのアルトって兵長さんは、今頃私の指示を聞いたお人形さん達が足止めをしていますから♪」


 全て思惑通りといった様子で、笑いが止まらない様子のジズは、さらにジーフリードを挑発するような態度をとる。


「今から兵を集めても間に合わねぇ……しゃあねぇ、俺が出るしかねぇな。」

「正気ですか?今こっちに向かっている兵は全てかなりの手練れです。私が言うのもなんですが、そこに単騎で挑むのは自殺行為ですよ?」


 ジーフリードの突然の発言に少し首を傾げながら、そう言葉を返すジズ。口は嘲るように歪んでいる。まるで『やれるものならやってみろ』とでも言うようだ。


「俺を誰だと思ってんだ?戦いの聖人様だぜ?俺に勝てねぇ相手なんざ、この世にいねぇっての。」

「それは驕りなのでは?」

「驕りかどうかは、見て確かめろよ。」


 挑戦的なジークフリードの瞳。赤々と光るその瞳は自信に満ち溢れている。そして二人の会話について行けていないライラスは、一人ポカンとしている。


「つーわけだライラス。悪いけど、この嬢ちゃんの相手は任せたぜ。一応背神の国の兵らしいから、気をつけてな。」

「え!?ちょっとジークさん!?本当に一人で突っ込むつもりですか!?無茶ですよ!というかこの人の相手を僕が!?無理ですって!」


 あっけらかんとした態度で部屋から出て行くジークフリードを、ライラスはなんとか止めようするが、ジークフリードはその制止を無視して駆け出して行く。


「勘弁して下さいよ……本当に勝手な人だ。」


 諦めたようにため息をつくライラス。そしてそれを愉快そうに見ているジズ。両者の目線が線のように交わる。


「あなたの主様は、随分と強引な方のようで。私としては、彼の足止めが出来ればなんでもいいのですが、あなたには同情しますよ♪」

「だったらそんな僕に免じて手を引いてくれませんか?」

「それは流石に無理ですね♪」


 ジズの微かな微笑みの直後、ライラスの方へと向けた手の平から、魔法陣が出現する。恐らく攻撃魔法の類いだろう。


「聖王様には真正面から勝負して勝てるとは思っていませんが……貴方ならなんとかなりそうです。」

「それは、どうですかね……」


 覚悟を決めたライラスは、腰に差した剣を引き抜き、構えをつくる。その気だるげな目には微かだが勇ましさが覗いている。


「聖王ジークフリードの臣下ライラス、主の命により、あなたの相手をさせて頂きます。ご覚悟を。」

「へぇ、勇ましいことで何よりです♪そっちがやる気なら、私も手加減は無しで行きますよ。」


 ライラスの剣気に呼応するように高まってゆくジズの魔力。手の平の魔法陣が二重、三重と重ねられて行く。


「では、派手にいきますよ……三重火炎魔導トリル・フレア


 三つの魔法陣を使い、赤い光と共に放たれた豪炎の球は、ライラス目がけて一直線に飛んでゆく。


「燃えちゃって下さい♪」

「なっ!?」


 王城の中で響く爆発音。

 飛来した火球は、あたりを巻き込んで炎上する。燃え盛る炎のせいで、ライラスがどうなったのかは確認出来ない。仮に避けていたとしても、生身では爆発の衝撃を受けているはずだ。


「あらあら、もう終わりですか?」


 燃える炎の中、その炎と同じ色をした瞳に光を反射させ、ジズは一人、笑みを浮かべる。返ってくることない返事に自身の勝利を確信する。

 しかし、その確信は突然現れた水の柱によって、崩れることになる。


「水魔法ですか……?」

「終わりじゃないわ。勝負はまだここからよ。」


 鎮火された炎の中から、ライラスが姿を現わす。手に握った剣からは水が滴り落ち、その刃の輝きをを引き立たせる。

 だが、ジズの視線は別の人物に向けられていた。


「助かりました。今のは流石に危なかったです。」

「あなただけ戦わせたりなんてしないわ。私も、ジーク様の臣下として、彼女と戦うわ。」


 そこに立っていたのは、正しく水も滴るいい女というような、ブロンドの髪を伸ばした美女。


「綺麗なお人ですね。羨ましい♪」

「私はアリサ、あなたを止める。」


 そう言うアリサの瞳は、普段の桃色から、深い海のような蒼へと染まっていた。



 ーーー



「この先にあなたの連れの女性と、背神の国の将がいるはずです。夜が明ける前に決着をつけます。急ぎますよ、お客さん。」

「ああ、分かってる!!」


 ジンとレギアスの二人は、静寂の中で輝く月にその背中を押されながら、夜の城下町をその足で駆けていく。

 街灯の火だけが辺りを照らす暗き道に、二人の足音が鳴り響く。周りは異様なほどに静まり返っている。


「彼らの元に到着したら、先ずは彼女の安全を確保します。それから二人で彼を討ちます。ですが、彼には複数人の仲間がいるはずです。」

「あいつに仲間が?」

「ええ、背神の国の兵にしろ、操り人形にしろ、あっし達の邪魔をしてくることは確かです。その時は、あっしが邪魔者を抑えます。お客さんには本命を任せますよ。」


 サマエルの元へと急ぐ道すがら、レギアスは、予測している状況をジンへと話す。

 サマエルをジンに任せるという指示は、複数人相手の場合、自分の方が有利に戦えると判断してのことだ。


「聖王達の手を借りなくても良かったのか?」

「彼らには彼らのやるべき事があります、ここはあっし達で乗り越えなければならないのです。」


 その時、前方から見えた複数の影に、二人の足が止まる。


「噂をすればですか……」


 二人の目の前には、鈍い眼光を走らせる黒装束の痩せぎすの男。その背後には幾人かの仲間と思われる人影が見える。


「……目標を確認。任務を遂行する。」

「では、あっしがお相手いたしましょう。」


 レギアスはいつの間にかに鎌を取り出し、臨戦態勢に入っている。


「相手は複数人だ。いくらお前が強くても、あの数を相手にするのは不利すぎる。俺も加勢する。」

「いえ、ここは私一人で引き受けます。あなたはそのまま進んで下さい。時間は少ない、早く行きなさい。」


 ジンの加勢を拒否し、レギアスは目の前の敵へと、その大鎌を振るう。その鎌をもろともせずにレギアスへと向かってくる敵影。


「まったく、操り人形はもう結構ですよ。」


 レギアスの鎌が振るう猛威に、二人を囲っていた包囲網が崩れる。その隙を縫って、ジンは前へと駆け出していく。


「逃すか……」


 そのまま走り去ろうするジンを逃すまいと、ロノウェの凶刃がその首を切り落とそうと迫る。


「お前に構ってる暇は無い。」


 ロノウェの剣がジンへと直撃する刹那、ジンの瞳が赤く光り、ロノウェの視界からジンの姿が消える。そして目標を見失った剣は虚しく空を切る。


「……」

「レギアス、武運を祈る。」


 その速度を保ったまま、ジンはその場から離れていく。後ろは振り返らない。自分の覚悟が揺るがないように歯を食いしばりながら走る。


「あなたもね……」


 遠ざかるジンの背中を見つめ、少し微笑んだ後、レギアスは鎌を握り直す。そして目の前にいる敵達を一瞥する。


「貴様の名を……聞いておこう……」

「あっしはレギアス……ただのしがないよろず屋です。」


 ぶつかり合う剣と鎌。刃同士の鋭い金属音が背後から聞こえてくる中、ジンは憎き男の元へ、大切な少女の元へと。



 ーーー



 戦闘音は遠ざかるたびに小さくなっていき、聞こえるのはジンの呼吸と拍動、そして靴が地面を蹴る音だけ。

 高鳴っていく鼓動。震える体。これが武者震いというものだろうか。そんなこと思いながら、ジンは一人暗い夜道を駆けていく。


「ふっ、ふっ、ふっ……」


 もう何も聞こえなくなった。一定のリズムを刻むジンの息が、闇の彼方へと溶けて消えてゆく。

 皆戦っている。敵と対峙し、その命を賭してこの国を守ろうとしている。


「決着は俺がつける。俺があいつを倒す。そしてリリンを……絶対に助け出してみせる。」


 俺は今、大切なもののために剣を握るんだ。己の為だけじゃない。守りたいもののために剣を振るんだ。


 暗かった夜空が少しずつだが、明るさを取り戻してゆく。そんな中、ジンがたどり着いたのは一つの家屋。

 共鳴のブレフィアは確かにここに反応を示している。


 ここに……あいつが、リリンが……だが、覚悟は出来ている。後は進むだけだ。自分とケイを信じて。


 そして少年は決戦の地へと歩を進める。


 夜明けまであと、一時間。

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