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ジンとリリンの世界冒険譚  作者: 星太郎
第二章:赤き聖王と黒き死神
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第12話:ジン 対 アルト

 ーー二つの剣がぶつかる。その剣に乗っているのは誇りと魂。2人は互いの強さを肯定するために剣を振るう。静寂を極める練武場の中、2人が剣を打ち合う音だけが、2人の信念を込めた一撃とともに聞こえてくる。


「す、すごい…….」

「思ってたよりもいい勝負してんじゃねぇか。」


 2人の勝負を側で見ているリリンとジークフリードがそれぞれの感想を口にする。だが、その言葉では言い表せないほど、2人の戦いは白熱したものとなっている。


 側から見て、攻めているのはジンの方だ。アルトのような大剣ではないので、機動力で勝っていることを活かして左右からアルトを攻め立てる。躱されようが、防御されようが、構うことなく連撃を叩き込む。


 一方のアルトはその攻撃を剣でいなしたり、躱したりしながら、一撃を確実に入れる機会を探っている。アルトの持っている大剣は木刀ではあるがその重量は鋼で加工された片手剣よりも大きい。一撃でも入れることができれば決定打になる可能性がある。


 ジンは一発、一発に力を込めて剣をアルトへと叩き込む。それを何発も受けながらも、アルトは的確に牽制の一撃を入れてジンの勢いを崩そうとする。


 その牽制によって攻めに攻めきれない状態がジンの苛立ちを高めていく。しかし、ここで深く踏み込めば確実に反撃をくらうだろう。一定の距離を保ち、アルトの攻撃に注意しながら攻める。


 だが、徹底的に受けの体勢に入っているアルトを崩すことのできないジンの体力が次第に減っていく。このままではアルトに一撃を入れる前にジンの体力が尽きてしまうだろう。


 アルトの方へ剣を向けたまま、ジンは体力の回復を図るために一旦アルトと距離をとる。


「どうした?もう攻めてこないのか?それとも、もう体力が尽きちまったのかよ?」

「あんたこそ受けてばかりで攻めてこないが、それじゃあ俺には勝てないぞ。」


 アルトの挑発に挑発で返したジンは呼吸を整えながら、目の前の相手の先ほどまでの動きを頭の中で整理する。


 奴は機動力の差を補って有り余るほどの戦闘技術を持っている。おそらく、俺の何倍の戦場をくぐり抜いて来たんだ。あれに勝つには限界以上の力を出すしかない。


 ジンは胸の内でそう覚悟する。

 事実、アルトの強さはかなりのものである。あれだけの連撃を受けながらも、一つも直撃せずに、加えて最低限の動きだけでジンの体力を削っている。その腕はジンが今まで戦ってきた者よりも上だ。


「作戦は考えついたか?そろそろ、俺からも攻めさせてもらうかな。簡単にへばんじゃねぇぜ?」

「それはこっちの台詞だ。あんたには俺が強くなるための踏み台になってもらう。」


 そう言ってアルトに突っ込むジン。アルトの戦闘技術はるかにジンよりも上、ただ打ち合ってるだけでは勝ち目はない。ならば、アルトの守りの構えを崩すために、真っ直ぐ、最短で最速の一撃をアルトへと。


 地を力強く踏み切り、その剣と体は疾風の如く、どんどん加速していく。その勢いと全体重、そして気迫を全て剣に乗せ、振り下ろす。


「はぁぁぁ!」

「っ……!うらぁ!」


 ジンの渾身の一撃を大剣で受け止めるアルト。大剣を支える手に痺れが走る。それは目の前の相手がどれほどの力で自分に剣を振るったかの証明だ。


 さらにジンは勢いを途切れさせずに、アルトの防御を追い越すほどの手数で連撃を繰り出す。


 右、左、正面、左、右、左、正面、右、左、右……


 一点を狙うのではなく、撹乱するように攻撃を散らばらせる。足を止めることなく動かし、体力のある限り叩き込む。


その怒涛の攻めにアルトも徐々に押されていく。そして次第にアルトの防御を崩し、その体を捉えていく。だが、相手のその目に焦りはなくまだ余裕を残している。


 まだ押し切れない……もう少し踏み込んで攻撃を……


 そう思ってジンがさらに攻撃を仕掛けようと少し動きを止めた瞬間、腹部に何かが押し付けられる。それはアルトの掌だった。右手で大剣を使いジンの右からの攻撃を受け止め、空いた左の掌をジンの腹へと当てている。そして、


「破掌 壱の型『神威』」


 危険を感じたジンが回避をしようとした瞬間、腹部に強烈な衝撃が走る。何かの塊をぶつけられたかのような重たい一撃だ。


「ーーー!?」


 掌底。ジンが受けたのはアルトの放った掌底だった。しかしその威力はかなりのものだ。


 ジンの体が揺れ、足もふらふらとしている。内臓が突然の衝撃に悲鳴をあげ、胃の中の残留物が食道へとこみ上げてくる。胃酸が逆流し、喉に酸味と痛みが広がる。だが、そんなことを考えている暇もない。


 しまった……油断した。相手は剣だけじゃなくて、体術も……早く、体勢を立て直して……


 崩れそうになっている足でなんとか堪え、ジンはアルトの方へと視線を向ける。だが、アルトはすでにつぎの行動に移っている。


「お前には悪いが……このまま押し切らせてもらう。」


 まだダメージが残っているジンへと近づき、凄まじい膂力で大剣を担ぎ上げ横一閃に振るう。直撃すれば勝負は決まるだろう。


「ぐっ……!?」


 その攻撃に素早く反応し、なんとか剣で受け止める。だが、得物の重量が違う。威力を殺しきれずにジンの体が吹き飛ばされる。全身の骨が軋み、体中に痛みが広がる。


 それでもなんとか立ち上がり、剣を構える。その目にはまだ勝利への渇望が宿っている。この勝負に負ける気はさらさらないらしい。


 鬼神のような勢いで向かってくるアルトを迎え撃とうとするジン。足がまだ動くかどうかを確認した後、まっすぐに振られた大剣の一撃を横へと避ける。そしてそのまま攻撃へと転じる。


「あんたの体術が優れているのは分かった。なら、これならどうだ?」


 そう言ってジンは突きを放つ。なんの変哲も無いただの突き。アルトほどの体術の使い手ならいなすことなど簡単だ。だが、そこから反撃するには距離がある。


 体術は敵に近づかなくては攻撃を与えることができない。しかし、剣術と体術では言うまでもなく剣術のほうがリーチが長い。さらに速度の速い突きなら相手を近づかせずに攻撃ができる。


「やりたいことはわかるが、俺を近づけさせないってつもりならその速さじゃ足りないと思うぜ。」


 連続で放たれる突きを軽々とかわしながらアルトは着実にジンとの距離を縮めていく。そして早々と手が届く距離へと到達する。


「これで届くぜ。破掌 壱の型『神威』」

「やっぱりそう来たな。予想通りだ。」


 掌底を仕掛けようとした右手があともう少しで直撃するというところでジンの左手に止められる。


「来るタイミングがわかっていれば、当たる前に止めることは可能だ。そして、これであんたは無防備だな。」


 大剣を手放し、防御の手立てがないアルトに対して先ほどいなされた剣を再度振るう。


「……悪いが俺の技はただの体術じゃないんだ。ある程度距離があろうが攻撃はとどく。」


 そうアルトが呟いた瞬間に、ジンの腹部へ再度の衝撃が走る。再びの衝撃に声も上がらず、体だけが悲鳴を上げる。


「な…….に!?」


 先ほどの掌底に比べれば威力は低いが、それはジンの攻撃を躱すのには充分な隙を作った。その隙を利用して振られる剣を避け、もう一度掌底をジンへと放つ。


 ここであれをもう一度食らうのはまずい……


 痛みに耐えながらも繰り出される掌から距離をとろうとする。最初の一撃よりもダメージが少ないため、かろうじて攻撃が届くよりも先に回避が間に合った。


「お前もなかなかしぶといな。その根性は大したもんだぜ。」

「あんたのその技、ただの体術じゃなくて魔力を掌から打ち出しているのか……どうりで触れなくても攻撃が当たるわけだ。」

「ああ、昔にどっかの国の爺さんに教え込まれてな。おかげでこの通り、すっかり使いこなせるようになったさ。」


 アルトへと言葉を返すジンだがその体には既にダメージが蓄積されており、膝を地についている。もうさっきまでの俊敏な動きはできはしないだろう。


「力がないわけじゃない。技量も練度もうちの兵団と比べてもかなりのものだ。けど、お前と俺じゃ年季が違う。培った経験量が違う。搔い潜ってきた場数が違う。」

「それは分かっていたつもりだ。今の俺じゃあんたには勝てないってことはな……」


 自分にそう言い聞かせるように呟くジンは肩で息をしながらもただまっすぐにアルトへの方を見ている。まだやれるとアルトへ訴えるように剣を握っている。


「だが、俺は勝負を降りるつもりも、諦めるつもりもない。最後まで闘い抜く。」

「そうかよ。お前の覚悟は分かった。それなら、終りにしてやる。」



 ーー「決まりだな。この勝負はアルトの勝ちだ。にいちゃんもよく耐えたが、次の攻撃が当たれば確実に負けるぜ。」


 戦いの流れを見ていたジークフリードが口を開く。だが、それはジークフリードだけでなく、誰しもが見てわかることだった。


「さすがはアルト団長だ。そこいらの兵士とはわけが違う。」

「 やっぱりあの人こそこの国の兵団長にふさわしいな。」


 周りの兵士達もアルトの勝利を肯定する言葉を口にし始める。その声は周りに広がっていき、静かだった練武場は声で溢れていく。アルトの勝利を誰もが疑わなかった。ただ1人を除いてだがーー


「ジーーン!!頑張りなさい!!まだ勝負は終わってないでしょ!!私を守るつもりなら、こんなとこで負けてられないんじゃないの?約束はちゃんと守ってよ!!」


 声が戻り始めた練武場に少女の声が響き渡る。その声はとてもまっすぐで迷いのないものだった。周りの声をかき消し、地に膝をつけている剣士へと激励の言葉を投げかける。

 

 たった1人の声、周りから聞こえる百を超えるアルトを称賛する声に比べれば、あまりに心細い物であるが、その言葉にはジンの耳にはっきりと届いていた。



 ーー「それに俺が諦めたとしても、そんなことをあいつが許してくれないんだ。あんなこと言われたからにはまだ根をあげるわけにはいかないんだ。」


 リリンの声を聞き、かすかに笑うジンがゆっくりと立ち上がる。その表情には余裕が戻っていた。どうやらリリンの言葉はジンの心に響いたらしい。


「確かに女にあんなこと言われて引き下がるようじゃ男の面子丸潰れだな。けど、手加減はしてやらないぜ。俺にも面子ってのがあるからな。」

「必要ない。全力でやらないと俺もあんたも後であいつに打たれることになるからな。」

「それは勘弁したいな。」


 そう言うと地面へ手放していた大剣を持ち上げ、アルトはジンの方へと向かっていく。これで終わりにするというのは本気らしい。ジンもそれを逃げることなく迎え撃とうとする。


 そして響く何度目かの剣同士の衝突音、その中に初めて聞く音が混じる。乾いた木が折れる音だ。よく見るとジンが持っていた木刀がアルトの一撃によって折れてしまっている。


 だがそんなことも気にせずにジンは拳を目の前のアルトへと突き出す。届け、届け、届けと心のなかで叫びながら送り出された決死の一撃がアルトへ届く寸前に、三度目の衝撃が体へと走る。どうやらまた打ち込まれたらしい。


 それでも勢いの止まらないジンの拳はついにアルトの頰へと到達し、そのまま勢いを乗せて振り抜く。痛恨の、根性の、最後の一撃が決まり、ジンの体は前のめりに倒れる。そしてーー







 ーーゆらゆらと暗闇のなかでジンの意識が揺れている。体を包む浮遊感がなんとも心地よく感じる。それはこれが夢だという証拠だということに気づく。


『ねぇジン、なんで僕の力を使ってくれないの?僕の力を使えばあの勝負だって勝ててたよきっと。』


 突然どこからか声が聞こえる。正確には声が頭のなかに流れてからと言った方が正しいかもしれない。


『ふざけるな。俺はお前には頼りなどしない。もう暴走するのはごめんだ。ケイ、お前は鎖につながれておとなしくしてろ。』


 ケイと呼んだ声に対してそう吐き捨てたジンの声には嫌悪の感情が感じられる。


『ひどいよ。僕はただ、君のためを思って言ってるのに。僕と君は一心一体の運命共同体なんだからさ、そんなに邪険にしないでよ。』

『お前と喋ることはない。黙っていろ。』

『怖い、怖い。そんなこと言わずに楽しくおしゃべりしようよ。君の意識が戻るまではまだ時間があるしね。』


 声はジンの冷たい対応を軽く受け流しながら会話を続けていく。2人の温度差は激しく、黙っているジンに声が一方的に話しかけているような状態だ。声が何かを言うとしばらくの間沈黙が続き、それからしてまた声が喋り出す。それの繰り返しだ。


『だんまりなんてあんまりじゃないか。僕はこんなに友好的に話しかけているのに……ジンはいつも無口だよね。それとも僕と話している時だけかな?』

『……』


 ジンはなおも黙ったままだ。そんな時に、ジンを呼ぶ声が聞こえてくる。頭に響く声とは違い、耳から聞こえてくる。


『おや?そろそろ時間みたいだね。誰かが君を呼んでるみたいだ。今回はこれぐらいにしようかな。ジン、僕はいつも君の中にいる。君の中に宿る神獣の因子としてね。』

『……』

『僕の力が必要ならいつでも呼んでよ。ぼくが君の敵を全て殺してあげるよ。』


 そう言って頭の中の声が途切れ、耳から聞こえる声だけが大きくなっていく。声が聞こえなくなった後、口を閉じていたジンが1人で呟く。


『そんな時は来やしない。それがくるのは、俺が本当にあいつを守れなかった時だけだ。だが、そんなことには絶対にならない。俺が諦めない限りな。』


 そしてジンの意識は明るい光と次第に大きくなる声とともに覚醒していく。



「うっ…….」

「あっ、起きたジン?お疲れさまって言えばいいのかな?それともここはあえて厳しい言葉をかけるべき?」


起きて間も無くのジンの視界に飛び込んできたのはリリンの青い瞳。どうやら倒れたジンのそばにはずっといてくれたらしい。


勝負からは少し時間が経ったようで、窓からは夕日が差し込んでいる。オレンジ色のその光がリリンの瞳な反射して神秘的な美しさを生み出している。


「勝負は、負けたらしいな。やはり。広い視野で見れば、まだ俺は未熟だったってことか……」

「そういう湿っぽいのは無しにしましょ。最後にアルトさんにも1発お見舞いできたんだし、上出来じゃない。」


珍しく落ち込みを見せているジンに対してリリンは笑顔で励まそうとする。そのまだ幼さを残した笑みに、ジンは心が揺れるのを感じていた。


「その顔が見られだけマシかもな。」


ジンはリリンに聞こえないようにぼそりと呟く。


「え?今何か言った?」

「何でもない。ところでーー」


夕日の差す部屋で、2人はともに何気のない会話を続けるのだった。


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