↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/29

3-2

「アンデッドとは、死んだ生物の霊体である死霊が、生への執着を捨てられずに何かに憑依した魔物の事を言うのですよ」

「死んだ生物の霊体ですか?」

「……ふむ。まず魂、霊体、生体の三つについてご存じですか?」

「生体は私達の肉体そのものですよね? 霊体と魂についてはすいません、詳しい定義は知らないです」


 素直に自分の無知を話しても、アロンゾはサラを馬鹿にする事無く説明を始めてくれた。


 生物に限らずこの世に存在する全てのものは、魂をその核として持っている。

 魂を中心に霊的な力が集まり形をなしたものが霊体と呼ばれる。

 そして、霊体が有機物に宿れば生物に、無機物に宿れば物質になる。また、生物や物質のみならず、例えば燃焼や風といった事象全て、この世に存在するものは全てこの形であるとアロンゾは語った。


「とは言っても、以前に語った通り生物も物質も全ては魔力から作られている。だから人間が霊体を操って魔力を"ある形"にすることで、様々な現象を起こせることになる。これが魔法です」

「魔法ですか。魔術とは違うのですか?」

「魔術は魔法を使う為の技術のことです。呪文を唱えたり、魔法文字を使ったり、それは色々な流派があるところです。そうですね、サラさんの持つ聖痕を使った魔法もそうですね。聖痕に魔力を込める技術そのものがサラさんが使う魔術と言う事になります」


 そこまで説明した後、アロンゾはすいません余談でしたと言って、話をアンデッドへと戻した。


「生体が破壊されるなどして死んだ場合、そこに宿っていた霊体は留まっている事ができずに、身体からはじき出される事になります。通常はその後は霊体も拡散し、魂も世界に溶けていく。それが死だとされています」

「魂は世界に溶けるのですか?」

「申し訳ありません、そこについては最新の現代魔導科学でも解明が完全にできていないのです。死者蘇生の魔法も、完全なる生命の創造も、人間にはまだ到達できない領域です。それどころか生命の神秘に踏み込みすぎる事は倫理的に許されない、とされているのが現状です」

「倫理的……禁忌ですか」

「話を戻しますね。そうして通常は生体からはじき出された霊体はそのまま拡散するのですが、生への執着が強く霊体の拡散を己の力で防いでしまう場合があるのです。これが所謂死霊と呼ばれるものです」


 本来は死んでいる筈の霊体。であるが故に死霊と呼ぶのはサラにも分かりやすかった。


「死霊はその生への執着故に、霊体を失った生体すなわち遺体へ入り込もうとします。これがアンデッドです。その憑依先の違いにより、どのようなアンデッドになるかが変わります」

 腐肉に宿ればゾンビとなる。

 枯骨に宿ればスケルトンとなる。

 鮮血に宿ればヴァンパイアとなる。

 その他、宿る場所が変われば別のアンデッドとして認識される。当然、別のアンデッドであれば別の能力を持つため、その分類自体は間違いではない。

 だがアンデッドとしての枠としてみるならば、皆同じ構造により生み出された魔物とも言えるのだ。

 なおゴースト、レイスなどと呼ばれる生体に宿らないアンデッドも存在するが、それは生への執着のあまり霊体のまま安定したか、もしくは塵のような生体ではない何かに宿ったものである。塵であろうが遺体であろうが、結局の所、生体では無いと言う事に変わりはないのだ。


「アンデッドの中でゾンビ、そしてスケルトンの数が比較的多いのは、"人型を保っている"と言う事が死霊が対象を生体として認識しやすいため、宿りやすいからとされています」

「それだと、ヴァンパイアもそうではないのですか?」

「そうなのですが、ヴァンパイアが宿る事ができるのは、生きた血液だけなのです。言い換えれば新鮮な死体に限られます。そのため、そもそもヴァンパイアとしての素養がある霊体がたまたま新鮮で宿りやすい遺体を見つける事ができた場合にのみ生まれるレアケースと言えるのです」

「生前の自分の肉体に宿る、のではないですか?」

「その通りです。つまりそれらの条件が揃うケースは、死んだ本人が死にきれなかったケースなのです。ゾンビやスケルトンの場合は、生前に宿っていた霊体と違う個体が憑依するケースですが、ヴァンパイアに限っては本人が宿る事になります。赤の他人が宿ったケースは確認されておりません」

「……つまりアンデッドの中でもヴァンパイアは特別と言う事ですか?」

「はい。知性を持ち続ける事ができているという点でもヴァンパイアは他のアンデッドとは違います」


 ゾンビは話せないとクロウが言っていた事をサラは思い出していた。確かその際は生体が腐っているからと言っていたと記憶しているが、であれば声を出す器官が腐っていなければ話せるという事では無いか、とサラは思ったのだがアロンゾは首を振った。


「いえ、単純にそうは行きません。そもそも声を出すというのはともかくとしても、言語を話すとか思考ができるというのは、高度な脳の働きが必要となります。既にそれらが失われたスケルトンは元より、ゾンビも脳という器官が既に腐っている為に思考する事が出来ないのです。人間がここまで進化してきたのは、脳という生体器官があればこそです。その代替は霊体ではできません」


 正確な事を言えば霊的にAIを作り出す等の技術は開発中のため、絶対に不可能とまでは言えないというのが本当の所である。が、そこに大量の魔力を使ってしまえば、アンデッドとしての"生体への執着"を実現する事すらできなくなってしまう。つまり仮にゾンビやスケルトンと何かしらのコミュニケーションが出来た場合は、そういった事に魔力リソースを割くことができる程の魔力の持ち主と言う事となり、かなり限定されていると言える。よって一般的にはゾンビやスケルトンは会話不能であるとするのが正しいとされていた。


「生きている人間であっても、血液で酸素や栄養を体の随所に運ぶ事で生体を存続させています。吸血鬼はアンデッドでありながらその機能を保持したままの血液に宿る事が出来たため、脳にしろその手足にしろ、生前と同様に動作させることが可能となるのです。彼らが会話可能なのはそうして死後であっても脳を働かせる事が可能であるからです」

「えっと、それは実質的には死んでないと言う事ですか?」

「霊体が宿る対象が歪になり果てているので、死んでいるという事になるでしょうね。例えばですが意識を宝石に移す事ができたとして、それで生体をコントロールしているような存在を"生きている"と呼べますか?」

「うーん……難しいです」

「そうですね。その解釈については確かに議論の余地があります。が、ヴァンパイアが特殊なアンデッドであるという事は分かっていただけますか?」

「あの、生きた血液に宿った場合にはヴァンパイアになると仰ってましたが、では死んだ血液に宿った場合は?」

「その場合はグールと呼ばれる存在になります。血液が既に生前の機能を失っているため、脳を始めとした器官も死んでしまい、結局は魔力で無理矢理動かす事になります。当然知性は無いですし、ゾンビ達と似たような存在になりますね」


 その説明でヴァンパイアが特殊であるという事までは分かった。だが、それが一般に怖がられる理由なのだと言われるとサラはまだ良く分からなかった。自分を害する恐ろしい存在だという意味では、ゾンビであろうとヴァンパイアであろうとも同じではないかと思ったのだ。もしくは単純に強さが違う場合があるのだというのも考え付きはするのだが、街の人の怖がり方はそういうものではないのではないかとサラは感じていた。

 それを言うとアロンゾは頷いてくれた。


「そうですね。ヴァンパイアはもう一つ、吸血して眷属を増やすという事を聞いた事はありませんか?」

「あ、聞いた事があります。吸われた人はヴァンパイアになるのですよね?」

「ちょっと違います。ヴァンパイアは血を吸うと、対象に自分の血も一緒に流し込むのです。ヴァンパイアにとって血液は自分本体ですから、それを流入させることで対象を自分の手下、眷属にするのです。ですが他人の身体にヴァンパイアの血が入ると、身体は拒否反応を示しそのまま死に至ります。同時にすぐに血液も死にます。つまり、ヴァンパイアに血を吸われると、人はグールになってしまうのです」

「え? ヴァンパイアには成れないのですか?」

「吸われた人間に生への執着や、血を吸ったヴァンパイアの浸食に耐えうるだけの魔力、そして何よりもヴァンパイアへの適性を持っているならばヴァンパイアになるケースはあると聞きます。が、大抵の場合はグールになると考えて間違いないようですよ」

「なるほど……あ、ゾンビ達だとただ殺されるだけだけど、ヴァンパイア相手だとグールにされてしまう事が恐ろしい、と言う事でしょうか?」


 そのサラの言葉にアロンゾは満足げに頷いた。


「そうですね。自分が害されるかもしれない、という恐怖であれば普通の魔物も同じです。しかしそこに、もしかしたら自分もアンデッドにされるかもしれない、という恐怖が上乗せされるので、吸血鬼は恐れられているというのが実際の所です。あと知性がある分、手ごわいというのも大きいでしょうが」

「そうなると……シルハザさんがヴァンパイアであり死霊術士であると名乗ったのは、"死後にも恐ろしい目に遭わせるぞ"という脅しの効果を高める為?」

「確証はありませんが」


 サラが聞いた知識から推論を組み立てると、アロンゾは理解を示してくれた。彼にとっても正解は分からないだろうから、及第点と言ったところなのだろう。

 アロンゾによるアンデッドの説明が一段落したからか、クロウが口を挟んできた。


「おい、サラ。どうでもいいが何で敵に向かって"さん"付けしてるんだよ。相手が人間ならまだしも、アンデッド相手だろうが」

「え、す、すいません。あまり考えていませんでした。他人の名前にはさんづけしようとばかり思ってて……」

「言葉遣いが勉強中だから、か。なるほど」


 言われてみれば確かにシルハザに敬意を示す必要は無いなと思いつつも、自分の癖みたいなものになっているからすぐには治らないだろうなとサラは赤面した。

 そこから少し精神を立て直すようにサラはわざとらしく咳ばらいをしてみせた。


「で、ではそのシルハザさ、シルハザは強いのでしょうか? 皆さんの手で倒せますか?」


 言いにくいならさん付けでもいいですよ、と言いつつアロンゾが回答してくれた。


「何とも言えませんが……とても厄介なのは確かですね」


***


「何とも言えませんが……とても厄介なのは確かですね」

「厄介、なのですか?」

「そもそもアンデッド自体すでに体が死んでますからね。通常の生物のように脳なり心臓なりを破壊して生存を困難にさせたところで倒せるとは限らないのです」


 アロンゾの答えを聞いて、サラは「あれ?」と思った。最初にアロンゾやクロウの戦闘を見た時の事を思い出したのだ。


「ですが、最初にお会いした時には首を落とす事でゾンビを倒してませんでしたっけ? ワタクシあれを見て、ゾンビも普通に殺せば死ぬのだなと思ったのですが」

「よく覚えてましたね。ですがあれはゾンビやスケルトンならではと言えるかもしれません」

「そうなのですか?」

「死霊が生に執着するあまり死体に宿るのがアンデッドだとお話しましたね? アンデッドの中でもゾンビやスケルトンの数が多いのは、それが人の形をしているからです。故に宿りやすく、動かしやすい。動物のアンデッドもいますが、動物の死霊が宿って生まれるそうです」

「それと倒しやすさにどんな関係が?」

「死霊がゾンビやスケルトンとして動けるのは、自分が生存していると誤解していると言えるかもしれません。なのでその誤解を解いてやればアンデッドは死ぬのです。そして首を落とせば生きてはいられない、というのはとても分かりやすい生物の死です。そのため死霊も自分の死を認識してしまい、その身体に留まれなくなってしまうのです」

「では心臓を刺しても殺せるのですか?」

「そうでも無いようです。我々人間としても、自身の心臓の位置を正確に理解して生活している訳ではない人が大半だと思います。その為、仮に心臓を貫いて破壊したとしても、自分がまだ生存しているという事は大丈夫なんだ、と誤解を継続しやすいのです」

「誤解……結局、その"まだ生きてる"と思えるかどうかがアンデッドの肝であり、その誤解を解くのが倒す鍵である、と」

「そうです。まだ死にたくない、生存したい、という現世への執着こそがアンデッドの始まりなのですから」


 そこまでの話はサラにも分かった。だが人の形をしている事が重要だというならば、先程ライアが巨人もゾンビになりやすいのではないかといった際にアロンゾが窘めた理由が分からなくなる。


「人の形が重要というならば、人形でも良い事になりませんか? あと、巨人のゾンビも沢山産まれそうな気がしますが」

「その通りです。実際、人形に死霊が宿ったというアンデッドもいますし、巨人のゾンビも我々は目撃しましたね」


 ポルターガイストやリヴィングドールといったものもアンデッドに分類されるのだと言う事をアロンゾは言った上で、続けた。


「ただし、肉や骨については元々人間のそれです。そのため、生前の感覚を感じやすいのか、親和性があるようなのですよ。なので人形に宿る場合はかなりレアになります。そして巨人の場合もレアです。何故ならば、そもそも前提として生への執着が強い個体でないと死霊化しないのですが、知性が無い亜人の場合だとそうなるケース自体が少ないらしいのです」

「知性がある方が、生きたいという思いが強いのですか?」

「未練や後悔を残しやすい、と言った方が分かりやすいでしょうか」


 その言い方ならばサラにも納得できた。犬猫であっても生きる為に必死になるであろうが、彼らは今を全力で生きているようにサラも思う。そこに未練や後悔といった感情が入り込む余地があるかと言えば、あまり想像できないと思ってしまったのだ。

 五大人種である人族、エルフ、獣人、ドワーフ、ホビットは同じ原人を進化元とするものであるが、他の人型の存在はただ形が人と似ているというだけで全く別の存在であるが故に亜人と呼ばれている。であれば彼らは人族などと違って知性がないため、死霊化しにくいという話も理解できる話ではあった。


「人間であったとしても必ず死霊化する訳ではありません。個体数も少なく知性も低い巨人の場合は、更に死霊化する可能性は低いでしょう。そのため、ゾンビと同じくらいになりやすいかと言われればそれは違う、と言う事になります」


 なるほどとは思うが、であればヴァンパイアが倒しにくいという話にはつながらないとサラは感じた。


「人型である事が大半のアンデッドに重要であるというのは分かりました。しかしもしそうならば、ヴァンパイアも頭を落とせば死を自覚して死ぬのでは? ゾンビ達と変わらない方法で倒せる事になりませんか?」

「お、気づいたか。アロンゾに騙されるなよ?」

「変な茶々入れないでください、クロウ。それともあなたが説明しますか?」

「いやいや、ご老年にお願いしますよ、そこは」


 言うだけ言ってクロウはお茶が入っているポットに手を伸ばしていた。本当にただ茶々を入れたかっただけなのだろうとサラにも分かった。アロンゾはクロウの方を一睨みすると、再度サラと向かい合った。


「ヴァンパイアも頭を落とせば死ぬのではないか、というお話ですね。しかしここで厄介なのは、ヴァンパイアには知性があると言う事です。彼らは自身がアンデッドである事に自覚的なのです」

「え、と? 生きていると誤解していないと言う事ですか?」

「そうですね……生きているという事の意味の上書きに成功してしまっているというべきでしょうか。ゾンビやスケルトンは知能が低くて、その存在はある種の誤解の上に成り立っていると言えます。が、ヴァンパイアの場合は自身が血に宿っており、死体を無理矢理操作している状態であると言う事を認識しているのです。つまり、彼らにとって肉体とは生へしがみつく為の道具であり、それが壊されても直せば大丈夫であるという認識を持ててしまっているのです」

「怪我をしても直せば良いのはそうだとは思いますが……もしかして、心臓を明確に破壊したり、頭を切り落としても、たかが部品だから作り直せばよいと思えてしまう、ということでしょうか?」

「その通りです。ヴァンパイアは総じて、多少のダメージを与えても回復してしまうのです。ただの生物を倒す感覚で臨んでも、倒しきれないと言えます。その上でシルハザの実力は知りませんが、少なくともこれまで彼の虎の子であったらしい巨人のゾンビを倒せてしまえる実力がこちらにあると分かった上で来ると言うのです。その実力の正確な所はわかりませんが、倒す事は厄介なのではないか、と言う事は想像がつくと言う話です」


 そこまで説明されて、漸くサラにもシルハザを倒す事の難解さを理解することが出来た。が、理解すると今度は全く倒し方が思い浮かんでこないのがサラの知識だった。


「そうなるとどうやったら倒せるのですか? 頭を落としても心臓を貫いても倒せないのですよね?」

「まず最初に言った通り、ヴァンパイアは死霊が鮮血に宿った存在です。よって、その鮮血を全て破壊しつくせば倒す事が出来ます。例えば全焼させるとか。ですが、単純に火をつけただけでは、血を燃やしきる前に火を消して、火傷も直してしまうでしょう。なので首を落としたり、心臓に杭を打つなどして、まず動きを封じる必要があります。代替可能な部品ではあっても、それを活用している事に間違いはないので、一定時間の動作を封じるくらいのことはできるのです。その上で燃やすなりをすれば倒せる、という話になります」

「……単純に倒す、というのとは全く違う苦労があると言う事なのですね……」

「そうですね。……あと、ターンアンデッドを使う方法があります」

「ターンアンデッド、ですか?」


 これまでの知識では全く出てこない単語にサラは眼を瞬かせる。


「聖神教の魔法ですよ。聖力を放つ魔法であり、これをちゃんと当てる事ができれば倒す事ができるでしょう」

「……すいません、良く分かりません。聖力、とはなんですか?」


 恐らく聖神教に連なる人間であれば知っておいた方が良い知識なのだろうと言う事はサラにも分かる。クロウの目にやや呆れた色が浮かび、カリンの顔にも少し汗が浮かんでしまったが、知らないものは知らないので、サラとしては素直にそう言うしかない。

 サラとしては少しの情けなさを感じないでも無かったが、アロンゾは馬鹿にすることも無く教えてくれた。


「サラさんはまだ化学というのは習ってませんよね?」

「お恥ずかしい限りですがまだ……」

「いえいえ。少し難しい分野ですから。では簡略化説明しますと……まず我々の世界にある物質は全て、化学式で表すことが出来ると覚えておいてください。肉も骨も金属も土も。そしてその化学式が示しているのが物質を作っている分子というとなります」

「か、化学式ですか……それに分子?」

「すいません、複雑ですよね。ではさらに端折りますが……その分子は原子で出来ており、原子は陽子、電子、中性子の三つからなります。この三つの要素が全ての物質の一番小さい構成要素だとお考え下さい」

「えと、陽子、電子、中性子が一番小さい部品で、それが色々組み合わさって色々なものができて、いる」

「そうです。そしてそれは魔力でも同じなのです。霊的な力をどんどんと分解していくと、最小構成要素としては聖力、精霊力、邪力の三つの力に行き着きます。この世界に存在する魔力は場所や人によっても色々と性質が変わる事がありますが、それら含めた全てはこの三つからなっている、と言う事になります」

「魔力の構成要素、ですか」

「はい。これら三つの力の結晶であり一番純粋にして偉大な存在が聖神、龍神、邪神になります。なのでそれら三つの力の方向性も、これら神々を想像するとわかりやすいかと」

「なるほ、ど?」


 言われた事をなんとか消化しようとするサラを見て、クロウがアロンゾに半眼を向ける。


「ちゃんと説明しようと思うあまり、情報を伝えすぎて混乱させる奴だな。アロンゾお前、昔からクソ真面目とか融通が利かないとか言われなかったか?」

「――――」


 それは先程と同じくただの茶々ではあったのだが、言われた事について思い当たる事があったのだろう。アロンゾは特に反論することなく黙した。

 サラは言われた言葉を組み立てて理解しようとしつつ、やはり浮かんできた質問は口にする。


「あの、でもそれだと邪神の力である邪力でしょうか。それがアンデッドの死霊と憑依先の関係を断ち切ってくれそうなのですが、違うのでしょうか?」

「そうですね。確かに邪力を使う魔法でそういったものもあるそうです。ですが私自身が聖神教の方が関係が深く、そちらの方にはあまり詳しくないために聖神教のターンアンデッドの方を話してしまいました」

「では邪力は良いとして……聖力、という聖神様の力によりアンデッドを倒せる、のですか?」

「はい。先ほどお話しましたが、聖神様の振るう力は霊力から物質物体へ変換するという方向性の力となります。それはつまり聖力が、物質物体の活性化という方向性を持っているという事にもなります。そうすると、死霊が憑依している生体が聖力で活性化することで、無理矢理しがみつくという本来ありうべからざる事が正され、引きはがされている事に繋がるのです」

「そう、なのですか?」

「はい。故にターンアンデッドは自らの魔力を出来るだけ純粋な聖力に純化させて放つ事で、対象から死霊を解き放つという効果を持つ魔法と言う事になるのです」


 少し論理の飛躍があった気がしたが、サラはそこには突っ込まない事にした。と言うかそこに疑義を挟むにはサラには根本的な知識が不足していたし、そもそもそれよりも重大な事項があったからだ。一つ思い当たる事がサラにはあったのだ。


「ああ、だから<聖域>が効果を発揮したのですね」

「あなたの<聖域>がですか?」

「はい。先ほどワタクシは馬にのって<聖域>を張っていたのですが、それに接触したゾンビが死んだようなのです。どうしてなのかと思っていたのですが、そのターンアンデッドみたいな効力を発揮したという事では?」

「なるほど……興味深い。聖痕が聖力と結びついたものであるならば、その能力も聖力の属性を持っており、故に効果を発揮したと。ありえる話ですね」


 自分の推論が当たった事にサラは嬉しくなった。自分でもやれる事が見つかったと思ったからだ。


「では、同じようにワタクシが<聖域>を張ってヴァンパイアに突っ込んでいけば倒せるのですね!」

「ダメです」「ダメだ」「却下」「絶対ダメですっ!」


 折角の良い思いつきだと思ったのに、四人ともから異口同音に否定されてしまい、サラの頬が少し膨れてしまう。


「貴方の<聖域>は、使っている間は動けないのでしょう? 当たりに行く、という使い方できるものではありません」

「相手は止まって当たっちゃくれねーぞ? 例えばお前さんが<聖域>を張った上で車で突っ込んだ所で、かわされた上に車自体を横転させられてピンチにさせられるのがオチだ」

「言っとくがあたいのゴーレムでお前さんを運ぶってのも同じだからな? 大体その場合はサラを武器扱いすることになるけど、そんなのにお前さんの身体が持つとは思えないね」

「そんな危険な作戦、ダメです、絶対却下です!」


 口々にそう言われてしまえばサラとしてもひっこめざるを得ない。

 また何か考え出したサラを見て四人が"もしさっきちゃんと他人に意図を伝えろと言ってなければ、また勝手に一人で突っ込んでいったのでは?"という事に思い至ってゾッとしていた事など、サラは気づきもしなかった。


「では、ディラーグさんにターンアンデッドを使ってもらうのは?」

「あー、多分無理だと思うぞ」


 ようやく気分が治って来たのか、ライアが置いてあったナッツをポリポリ齧りながら言った。


「聖神教関係者だからって全員がターンアンデッドを使える訳じゃない。サラだって使えないんだろ?」

「習ってないです……」

「同じようにこんな田舎で神父やってる人に、ターンアンデッドなんて期待するなよ。絶対に使えないとは断言しないけどさ、使えるならもっと早く言ってくるだろうし」

「それは……そうですね」

「アロンゾ、お前は?」

「私も体得していませんね。前衛系だったもので」


 折角いい事を思いついたのに、と再度しばし考えていたサラはまたいい事を思いついたとばかりに顔を上げた。

 その顔が妙にキラキラとしていたことに、四人はまた嫌な予感が湧いてくるのを止められなかった。


「では、こういうのはどうでしょうか?」


 そしてその予感は当たった。四人にとって不幸だった事に、サラの作戦をうまい事否定することもできず、結果的に四人はそろってげんなりとした表情を浮かべる事になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。