2-E
巨人のゾンビが倒れ、ただの死体として地面に倒れ込む事になると、周囲のゾンビ達の行動もまた統制が取れないものとなっていた。これまでは多少のばらつきが動きにあったとは言え、全員がモンテウッドの方角に向かっていた事は間違いなかった。
が、巨人のゾンビが命令を下す際の中継をしていたのだろうか。ゾンビ達の動きは特に目的もないものとなり、三々五々と散っていった。勿論、近場にいるものについてはアロンゾ、クロウ、ライアがそれぞれ仕留めておいたが、さすがにそろそろ暗くなってきた中で、遠くにまで行ってしまったものを追いかけるまではしなかった。
そんな中、ある程度の安全が確保された事で<聖域>を解除していたサラが、戻って来た三人に向かって目をキラキラとさせながら精一杯の拍手をして出迎えていた。
「素晴らしいです! さすがお三方です! ワタクシ感動して――ってあ痛っ!?」
そんなサラにクロウは無言で近づくと、その脳天めがけて拳を振り下ろした。まさか拳骨を喰らうと思っていなかったサラは目を白黒させつつ痛みに涙目になってしまう。サラは抗議の意味でクロウを睨むが、クロウはそれを受けてもサラをねめつけるだけ。慌てて他に味方を探そうとしたが、ライアは元よりアロンゾすらも味方をしてくれない事にサラは愕然とした。
「な、なんですか! 痛いじゃないですか、体罰ですか!」
「お前さ。自分が何をしたのか分かってんのか?」
「え? ワタクシの護衛として皆さんが離れられないならば、ワタクシが近づけば皆さん来てくださると思っただけなのですが。実際来てくださいましたよね?」
「……カリンからも散々言われてただろうが、一人で先行して囮やるのは止めろや」
「で、ですが、いつもうまく行ってますし今回も――」
「その為にこっちにいらん心労を押し付けるなって言ってるんだよ」
何も分かっていなそうなサラに、クロウは大きなため息をついた。
「もし俺らが、あんなの契約違反だと言って無視してたらどうなってたんだよ。というか、俺らに一言も言わずにやってるんだから、そうなってもおかしく無かったぞ。というか問題なのは契約じゃ無ぇ」
「契約の話じゃ、ない?」
「気づかなかったらどうしたんだよ。最初からこういう作戦だからと伝えてくれた方がなんぼもマシだ」
「皆さん、お気づきになってくださると思いまして……」
「結果的にはな。だが今回俺らが気づいたってのは、お前さんが俺らに何も言わずに突っ走って良い理由にはならねぇよ。これまでも散々カリンに言われてただろうが」
「確かに危険だから一人で先に行くなとは言われてましたが」
「その言い方も良く無かったけどな。けど本質はそこじゃなくて、何も話さずに突っ走った事だ。良いか、お前さんの意図を他人が100%汲んでくれるなんて期待するなよ? 今回はお前は見捨てられても仕方なかったことだけは覚えとけよ」
そこまで言われて、サラは漸くハッとした。
自分が他人に言った事がうまく伝わらなかった事も、他人が言った事を自分が理解できなかった事も沢山あった事を思い出したのだ。であれば"多分分かってもらえるだろう"とサラが考えた事が全く伝わらない可能性があるのかもしれない、と言う事に初めて気が付いたのだ。これまでは勉強の分野ではそれを体験した事はあったのだが、巡回奉仕の旅においてはあまりにうまくいきすぎて気づく余地もなかった。思い返せばスラムの孤児院時代は、自分が言った事はちゃんと伝わっていたと思うが、他人の言う事を自分がちゃんと理解していたのかはちょっと怪しいとサラは思ってしまった。
一旦気づいてしまえば"あれもこれも"と色々な事例がサラの頭を駆け巡ってしまう。
少し大人しくなったサラを見て、クロウは「俺は説教するガラじゃねぇんだけどな」と頭を掻いた。
「ま、まぁやりかたはともかく、巨人ゾンビを倒せて良かったな。……けど、こいつら結局何だったんだ?」
場の空気を換えようと、わざとらしさも含めライアが大きく声を出した時だった。当然ライアはアロンゾ達に問いかけたつもりだっただろう。
が、それに返事をしたのは――死体だった。
『私の配下だよ』
その声が近くのゾンビ、すでに死んだと思っていた一匹から響いてきたことに、サラがそちらの方を見ると同時に、三人もまたサラを守る形に移動する。
四人分の視線が集まった中で、一つのゾンビの死体が立ち上がった。
『いやぁ、面倒な事をしてくれる。折角の虎の子だったのに。なんてことをしてくれるんだ』
口を開閉させて話しているように見せているのは確かにゾンビである。が、響いて来る音はとても目の前のゾンビが出しているものとは思えない程に滲んでいた。サラはまだ痛む頭をさすりながら、こっそりと一番近くにいたクロウに聞く。
「ゾンビって喋れるんですね。初めて見ました」
「違う。ゾンビの場合は声帯だって腐るからな。うまく喋れる訳じゃねぇ」
「え、じゃああれは――」
「――ネクロマンサーだろ、お前」
クロウの指摘にゾンビは――いや、ゾンビの奥にいる人物は笑ったようだった。だが遠隔で声を出しているためか、どこか引きつった不気味な音としてサラの耳に届く。
『分かっているじゃないか。私はシルハザ。君達が今まで倒して来たゾンビ達を作り出した死霊術士であり――ヴァンパイアだ』




