第1話 スキル『ヘラクレスパワー』
ここは、どこだ?
辛うじて開いている両目で、この場所がどこなのか確認するため、首を動かしてみる。
今の僕は、明らかに赤子で……。
現在は、木製のベビーベッドの上に寝かされている様だ。
幸いな事に、首は座っていたため、寝転がりながらでも周りの様子は見渡す事ができた。
──天井には、キラキラと光るガラス細工が装飾された、豪華なシャンデリア。
……何か、下敷きになりそうで無意味に怖いな。
そして、ポツンとベビーベッドが置かれた部屋は──驚くほどだだっ広い。
赤ちゃん視点という事もあるのだろうが、それを加味しなくても……どう考えても40畳くらいの広さはありそうだ。
部屋の中に家具などは置かれていないが、壁に飾られている絵画はヤケに高級そうで……柱一本一本には、職人芸とも言えるほど繊細な彫刻が施されていた。
部屋の雰囲気が明らかに洋風で、中世ヨーロッパの様な古臭さを感じるものが多かったが──
……間違いなく、お金持ちの家だ。
YES!
ラッキーボーイ降臨。
などと、喜んでいたのも束の間……。
【さあ、愛しい我が愛子よ……妾の声に答えなさい】
どこからともなく、僕に話かける声が聞こえた。
……あの女神イスラ様の声だ。
周りを見渡してみるが、それらしい姿は見えない。
と言うか、頭の中に直接語りかけて来る様な……不思議な感じの声色だ。
「ばふ……あっ……あっ……」
……声なんて出るわけないだろ。
赤子なんだから、少しは考えてくれ。
【これでは、何を言っているか分からんな。そうだ──】
──ピコン
【念話スキルが発現しました】
いきなりスキルかよ。
さては、この人……何も考えてないな!
まあ、実際、まともに話せない身としたら、有難い話ではあるんだけどさ。
生後一才にも満たない赤子が念話なんかで話しかけたら、気味悪がられる事は必至だ。
最悪、捨てられてしまう事もあり得る……。
なので、このスキルは専ら──
(イスラ様? イスラ様ー?)
姿の見えない、僕の守護神に対して話かける用だ。
【……】
おい、自分から話しかけておいて──『念話』まで使わせたのに、無視とはどう言う了見だ?
僕が疑問に思いながら、さらに『念話』で女神イスラ様に話しかけようとすると──
ガチャ──……
足元の方角──僕からは死角になっている方向から、扉の開く音が聞こえた。
寝たままでは首が向けられないため、姿は確認できなかったが……僕の新しい親でも来たのだろうか?
いや、お金持ちの家っぽいし……お手伝いさんかも。
そんな事を考えながら、寝転がったままでいると──
シャー……──
は?
足元の方から、何か細長い……ロープの様なものが持ち上がる。
いきなりの事だ。
何か、強烈に嫌な予感が……。
少しだけ首を持ち上げ、恐る恐るそちらの方に顔を向けてみると──
──ウッソだろ、お前。
何と──ウネウネと長い身体をくねらせながら、一匹の大蛇がコチラに近付いて来るのが見えた。
大蛇のテンプレの様に、唾液に濡れた舌がチロチロと口から飛び出している。
いや、大蛇のテンプレって何だよ?
テンパリすぎて、自分が何を言っているのかも分からなくなる。
おい、何だこれ?
この世界には、赤子の寝室に大蛇が潜んでるのか??
ま、まあ……でも、この家はお金持ちみたいだし? ペットの蛇ちゃんって事もあるし……平気だよね?
「ふふ、あの女の子供なんて……死んでしまえば良いのよ……。私は悪くない……私は……」
うん?
何か不穏な声が……足元の方から聞こえた気がするな。
さっき、この部屋に入ってきた人の声か??
「この大蛇の毒は特別性……一撃であの世行きだし……証拠も残らない。完璧ね……」
おい!
完璧ね、じゃねぇわ!
赤子を始末するのに毒蛇って……。
ふざけるな……僕はヘラクレスかよ!!
などと、心の中で激しくツッミを入れたところで、事態が好転する事などない。
とにかく、この大蛇を何とかしないと。
大声で泣いて、助けを呼んでみるか?
いや……そんな事したら、近くにいるであろう暗殺者を刺激しかねない。
ならば、大蛇を倒す?
この赤子の身体で?
……一応、現在のステータスを確認してみよう。
(システム!)
僕が念話で『システム』と唱えると──
──ピコン
と、間抜けな音を立てて、青背景のウィンドウが現れる。
カイル・シーラン(レベル1)
はいはい、これがこの世界での新しい名前ね。
了解、了解、それよりも重要なのはこの場を乗り切るためのステータスだ。
……ステータス、オール2
だよね!
あばばばば。
早く何とかしないと!
こうなったら、最後の手段!
(──イ、イスラ様! た、助けて!!)
『念話』で、女神イスラ様に助けを求めてみる。
しかし──
【つーん】
(なんで無視を!? て言うか、口で『つーん』ってアンタ……)
【つーん】
(わ、分かりましたから……何か方法を……イスラ様? イスラ様ー!? ……は! ま、まさか!?)
僕は、テンパリながらも、唐突に転生前の謎空間で、女神イスラ様が言っていた事を思い出した。
『妾は名前で呼ばれるのが嫌い』
そして、そこまできて、僕は唐突にイスラ女神様が僕を無視し続ける理由に思い至った。
(助けて……た、たしか──死神ちゃん!!)
【おっけー】
(……)
何ともくだらないやり取りだが、その努力の結果……また新しいスキルがもらえた。
【『ヘラクレスパワー』のスキルが発現しました】
まんまかよ……。
でも、これで少しは力の値が増えたかも。
一応、ステータスを確認しておくか……。
力の値……999999(MAX)
イカれてんのかよ!!!!
どこの世界にそんな赤ん坊がいるんだよ!
お母さんびっくりしちゃうでしょ!!
さらに、考えなしの女神様は、追い討ちの様にまた新たなスキルを──
【メンゴメンゴ、これも必要だったな】
【完全耐性:毒のスキルが発現しました】
もはや、何も言うまい……。
シャー……──
そもそも、悠長に構えている暇などなかった。
毒大蛇は目の前まで迫っているのだ。
まあいい、貰ったスキルを使って──『ヘラクレスパワー』を喰らえ!!
──ヒュゴッ……!!!!!
…………────!!!!!!!!
ただ、腕を大蛇に向かって振っただけだった……。
いや、違うんです。
こんなつもりじゃ……。
大蛇は──手刀気味に振られた僕の腕が頭に当たり──真っ二つに引き裂かれた。
ここまでは良い。
計算通りだ。
しかし──
ドゴォォォオオオォォォォ!!!!!
この世のモノとは思えないほどの轟音を轟かせ、僕が放った手刀は大蛇の体を貫通し──
豪華な部屋の壁を完全に破壊し──
そのまま、後方彼方に見える森っぽい場所の木々まで薙ぎ倒しながら──
延々と衝撃が進み──
彼方に消えていった。
何だこれ!?
こんなの出鱈目すぎるだろ!
こんなスキル封印だ封印!
……おそらく、今後一切『ヘラクレスパワー』のお世話になる事はないだろう。




