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第2話 メラニアとシーナ

 「御坊ちゃま! 何か大きな音がしましたが、大丈夫ですか!?」


 ──ドンッ!!


 足元の方から、勢いよくドアが開かれる音がしたかと思えば──それと同時に、若い女の人の声が聞こえてきた。


 良かった、誰か来てくれたみたいだ。


 僕を『御坊ちゃま』って呼ぶくらいだから、お手伝いさんか何かだろうか?


 とにかく、大蛇は何とかしたし──暗殺者を何とか……て、あぁ、ヤバい! 


 壁とか完全に吹っ飛んじゃってるけど……大丈夫だろうか?


 バケモノ扱いされて、捨てられたりしないよね?


 「……奥様。ここで何をされているのですか?」


 若い女の人の声は、そう言って、一段と低くなり……まさに絶対零度という言葉が相応しいほどに冷たく──


 って、寒!


 何か、本当に──物理的に周りの温度が下がってないか!?


 ──ピコン


 【体温調整のスキルが発現しました】


 ありがとう、過保護すぎる死神ちゃん。


 何て、悠長に言っている暇なんてなかった……。


 急いで現状を把握しないと。


 そんな事を思いながら、若い女の人の声がした方向に顔を向けると──


 ──わお。


 何か、凄い。


 まあ、正直、その光景を見たら言う風にしか表現できなかった。


 二人の女性が、僕が寝転がるベビーベッドを間に挟む様に睨み合っている。


 特筆すべきは、何と、この二人の女性──ビックリするくらいに美人だ。


 僕から見て左側の女性は──


 年齢は10代後半と言った所だろうか、清潔な白と黒のシンプルなメイド服に身を包み──


 アップにした水色の髪と、整った顔立ちが、何とも言えないコントラストを醸し出している。


 注目すべきは、メイド服を押し上げんばかりに張られたム──


 おほん……。


 一方、僕から見て右側の女性──


 年齢は20代前半くらいか……豪奢だが、シンプルなデザインの真っ赤なドレスを着こなし──


 透き通る様な白い肌をした細身の──片巻きにされた赤毛が特徴的な美人だ。


 とんでもない美人二人に挟まれる優越感は半端ないが……この人たち、壁が吹っ飛んでるのに気にもしてないぞ?


 おそらく、この二人の美人の内、どちらかが大蛇を放った暗殺者なのだろうが──


 ……いや、暗殺者は赤毛の方に決定だ。


 今の今まで気付かなかったけど、赤毛の女性の首元に今も小さめの蛇が絡み付いている。


 ご丁寧に名札まで着けた蛇だ。


 【アレクサンダーちゃん】


 何がアレクサンダーちゃんだ!


 蛇に大層な名前を付けやがって!


 じゃあ、さっきの蛇は【アサシンちゃん】か!?


 「奥様、貴女は御坊ちゃまに近づく事を許可されていません。即刻、この部屋から立ち去ってください」


 と、水色髪のメイドさん。


 いいね、この人が誰か分からないけど、僕の味方っぽいし……さっさと暗殺者を追い出しちゃってください。


 「ふん、私はこのシーラン家の夫人よ。この家で、私に入れない場所なんてないの」


 そう言った赤毛の美人さんは、背後に轟々とした炎を燃やす。


 いや、比喩表現じゃなくて、本当に赤毛の美人さんの後方に炎のエフェクトっぽいモノが見えていた。


 最初は、赤毛の美人さんの気迫の現れかと思ったが……違う。


 おいおいおい、本当に燃えてないかこれ!?


 【体温調整】のスキルのおかげで熱くはないが、このまま炎がベッドに燃え移ったら最悪焼け死んでしまう!


 ──ジュッ


 突然、そんな音が聞こえたかと思えば──


 今度は、水色髪のメイドさんの周りに、何か、吹雪のエフェクトの様なモノが……。


 ……わけがわからないよ。


 何これ? 魔法?


 そう言えば、この『イーデン』って世界には魔物がいるって神様の一人が言っていた気がするし……魔法が使える人がいてもおかしくないのか?


 でも、僕を暗殺しようとした赤毛の人は気にしてないかも知れないけど、水色髪のメイドさん……赤ちゃんを挟んで魔法っぽい何かを使わないで下さい。


 下手すると死にます。


 赤毛の美人さんも、僕の【ヘラクレスパワー】を目にしたはずなのに、気にした様子もないし……どうなってるんだろうか?


 あと、壁が吹き飛んだ件もね。


 ちょっと、二人の反応が無関心すぎる気がする……この世界では常識なのかな??


 【ふふ、それについては妾が説明しよう】


 (……死神ちゃん?)


 何だか、物凄く嫌な予感が……。


 【ステータスウィンドウのスキル欄を見てみなさい。そこに求めている答えがある】


 (……何で壮大な感じで言ったんですか? 嫌な予感しかしないのですが……)


 ──ピコン


 一応、システムを呼び出し、ステータスウィンドウを確認してみる。


 【スキル一覧】


 【ステータス2倍】


 【記憶再生】


 【念話】


 【ヘラクレスパワー】


 【体温調整】

 

   •


   •


 【常識改変】


 止めろ!


 そんなの○ロ漫画でしか使わないスキルだろ!!


 いつの間にこんなスキル押し付けた!?

 

 なるほど、コレのせいでこの人たちは〝非常識〟になったわけかよ!


 その時、ふと気付いた事がある。


 『死神ちゃんが行動を起こすとロウな事にならない』と……。


         *


 「こ、この子供は──こんな、何処の馬の骨かも分からない女から産まれた私生児……シーラン家の子供として認めないわ!」


 「……それは奥様が判断していい事ではありません。御坊ちゃま──カイル様はシーラン家唯一の後継者! 傷付けようとする者はたとえ奥様であっても容赦しません!」


 「……一介の乳母如きが生意気な」


 「旦那様にカイル様を任されていますから。わたくしは、その命令に従っているまでです」


 未だに、赤毛の美人さんと水色髪のメイドさんとの争いは収まらず……僕の眼前で言い合いが続いていた。


 その会話の中で分かった事は──


 赤毛の美人さんは、シーラン公爵家の夫人メラニアさん。


 水色髪のメイドさんは、文字通りシーラン家のメイドで僕の乳母シーナさん。


 ちなみに、僕はこのメラニアさんではなく、別の女性から産まれた私生児らしい。


 ……つまり、各々の立場と名前だけは分かったって事だね。


 それにしても、繰り広げられる二人の言い争いは、まるでドラマのワンシーンだ。


 感想が他人事すぎる気もするが……まだ転生して間もないのだから、その辺の認識は許してほしい。

 

 まあ、このシーナってメイドさん……乳母か? この乳母さんはかなり強そうだし、義母からも守ってくれそうだから、安心して見ていられるな、うん。


 「私は、私は……名門シーラン公爵家の公爵夫人……だと言うのに……子どもが出来ないどころか、嫁いで来てから一度も──なぜ、あの女だけ……? 確かに政略結婚で、旦那様から愛されていないのは分かっていたけど……酷すぎる……」


 おいおい、何か言葉が台本のセリフ染みてきたぞ?


 ──でも、確かに酷いな。


 こんなに美人の奥さんを放っておいて、不倫に走り……その不貞行為の末にできた子共が僕かよ?


 僕の父親、とんだクズ野郎じゃないか。


 それとも、この世界では当たり前の事なのだろうか?


 「この子供……あの女の子供、カイルが憎い……」


 メラニアさんに嫌われるのは仕方ないにしても……それでも、命を狙われるのは流石にね……何とかならないんだろうか?


 【任せろ!】


 (止めて! 死神ちゃんが関わるとロクな事にならない気がするし──)


 【魅了のスキルが発現しました】


 何て?


 おい、今何をした?


 ……義母がいきなり震え出したぞ。


 大丈夫なんだろうか?


 「私は、私は、この私生児が憎い。憎くて憎くて────大好き! 将来結婚するわ!!」


 イカれたのか?


 一歳にも満たない赤子に、何言ってるんだこの人……。


 「……む? カイル様は普段から、『しょうらいはシーナとけっこんする!』と寝言で申しているのですよ? そんなこと許されるやけありません」


 言うわけないだろ!


 マトモに話もできないのに!


 それに、アンタ乳母だろう?


 僕が私生児だったとしても、メイドと結婚なんて無理っぽいけどね?


 「……攫う」


 今なんて言った? このメイド。


 て言うか、心の声に反応されたみたいで何が怖いんだけど……。


 かくして、またもや余計な事をしてくれた死神ちゃんの所為で、ますます話がややこしくなって行くのである。

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