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表彰の報せ

書斎に呼び出されたオーレリアンとシンクレアを、レオンは真剣な面持ちで迎えた。


長机の上には、王家の紋章が押された書状が広げられている。窓から差し込む秋の陽射しが、その羊皮紙を白く照らしていた。


「王都から、正式な報せが届いた」


レオンは書状を手に取りながら、静かに切り出した。


「黒狼旅団討伐の功績を称え、王家がオーレリアンを表彰したいとのことだ」


その言葉に、オーレリアンは僅かに眉を上げた。


「俺一人を、ですか」


「団長を討ち取った功績が、特に大きく評価されているようだな」


書状の内容を確かめながら、レオンは淡々と続けた。


「表彰式は、王城で執り行われる予定だ。日取りは、来月の半ばになるだろう」


その説明を聞きながら、隣に座るシンクレアの表情が、次第に曇っていくのが分かった。膝の上で重ねた手に、僅かな力が込められる。


王城。その一言が持つ意味を、シンクレアは誰よりもよく理解していた。第二王子に婚約を破棄された、あの場所。過去の記憶が、静かに胸の奥から浮かび上がってくる。


「表彰式には、当然、王族の方々も出席される」


レオンの言葉に、シンクレアは僅かに視線を伏せた。


「第二王子殿下も、その場にいらっしゃるだろう」


その一言で、部屋の空気が僅かに張り詰めた。


オーレリアンは、シンクレアの表情の変化に気づいていた。婚約破棄という過去を乗り越え、今は夫婦としての日々を歩んでいるとはいえ、その場所へ戻ることには、確かな重みがある。


「兄上」


静かに、しかしはっきりとした声で、オーレリアンは切り出した。


「俺だけの功績じゃありません」


その言葉に、レオンは僅かに片眉を上げた。


「クレアがいなければ、俺はあの場に立てなかった。白狼を降したのはクレアだし、そもそも、俺一人であそこまで戦い抜けたわけじゃない」


語気を強めながら、オーレリアンは続けた。


「クレアも、一緒に表彰されるべきです」


「私のことは、いい」


シンクレアが静かに口を挟んだ。


「お前が表彰されるのは、当然のことだ。団長を討ったのは、お前自身の功績だろう」


「それは違う」


即座に、オーレリアンは首を横に振った。


「俺一人じゃ、勝てなかった。毒に倒れた時、クレアが守ってくれなかったら、俺はそこで終わってた。それに、白狼を降したのも、黒蛇を捕らえたのも、クレアやガイアス兄上の力だ」


言葉に、一切の迷いはなかった。


「俺だけが表彰されるのは、おかしい」


その主張に、シンクレアはしばらく沈黙していた。膝の上で重ねた手を、じっと見つめている。


「私は」


搾り出すように、シンクレアは口を開いた。


「あの場所に、戻りたくない」


その一言には、これまで押し殺してきた本音が、静かに滲んでいた。婚約破棄という過去を、既に乗り越えたつもりでいた。それでも、あの場所へ再び足を踏み入れることには、拭いきれない抵抗がある。


オーレリアンは、シンクレアの手をそっと握った。


「クレア」


静かに名を呼びかけると、シンクレアはようやく顔を上げる。


「あの場所は、もう、お前を傷つける場所じゃない」


真っ直ぐな眼差しで、オーレリアンは告げた。


「今度は、お前が誇りを持って立つ場所になる。俺が、隣にいる」


その言葉に、シンクレアは暫し言葉を失っていた。込み上げてくる感情を、うまく整理できずにいるようだった。


レオンは、そんな二人のやり取りを、静かに見守っていた。やがて、口元に僅かな笑みを浮かべる。


「なるほど」


呟くように告げると、レオンは書状を手に取り直した。


「英雄は、二人いるということだな」


その言葉に、オーレリアンは力強く頷いた。


「その通りです」


「では、そのように返書をしたためよう」


レオンは羽根ペンを手に取りながら、静かに続けた。


「オーレリアンとシンクレア、両名の功績として、共に表彰するようにと」


その決定に、オーレリアンは満足げに頷いた。シンクレアは、しばらくの間、無言のまま俯いていたが、やがて、小さく息を吐く。


「本当に、頑固だな」


呆れたように零す声には、それでも、隠しきれない温かさが滲んでいた。


「クレアほどじゃない」


軽口で返すオーレリアンに、シンクレアは僅かに口元を緩めた。


窓の外では、秋の陽射しが、色づいた庭木を静かに照らしている。過去の傷を抱えたまま向かうことになるであろう王城での表彰式。それでも、隣に立つ者がいるという事実だけで、その道のりは、以前とは違う意味を持ち始めていた。


レオンは書状を丁寧に折り畳みながら、静かに告げた。


「二人で、堂々と胸を張って行ってくればいい」


その言葉に、オーレリアンとシンクレアは、揃って頷いた。


過去との対峙という試練を前に、二人の間には、確かな覚悟と、それを支える絆が、静かに、しかし確実に根付いていた。


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