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灯りの下の作戦会議

その夜、詰所の奥にある作戦室には、遅くまで灯りが灯り続けていた。


長机には辺境一帯の詳細な地図が広げられ、幾つもの印がびっしりと書き込まれている。ガイアスを中心に、レオンとカイルも急遽呼び集められ、これまでの情報を突き合わせる会議が開かれていた。


「王都と辺境、両方に旅団の影があるとなると」


カイルが眼鏡の奥から鋭い視線を地図へ向ける。文官として培われた分析力が、その表情に滲んでいた。


「単純な武力による制圧だけを狙ってるわけじゃなさそうですね」


「どういうことだ」


問い返すレオンに、カイルは地図上の各拠点を指でなぞりながら答える。


「情報網です。王都の中枢と、辺境の防衛拠点。両方に手を伸ばしているのは、単なる略奪や破壊が目的ではなく、王国全体の動きを把握しようとしている証拠でしょう」


冷静な分析だった。単なる盗賊団の域を超え、より組織的な意図が透けて見える。

レオンは腕を組んだまま、しばらく黙考していた。次期辺境伯として、政治的な視点からも状況を見極めようとしているのだろう。


「もし本当に、王国そのものを揺るがす意図があるとすれば」


静かな声で切り出す。


「王家にも、この情報を伝える必要がある。辺境だけの問題では済まされない」


その言葉に、部屋の空気が一段と重くなった。事の重大さが、次第に輪郭を帯びていく。


「だが、迂闊に動けば、旅団側に警戒される」


ガイアスが低く唸りながら続けた。


「情報が漏れれば、証拠を隠滅されるかもしれん。ここは慎重に進める必要がある」


その意見に、レオンも小さく頷いた。


「私から、内密に王家へ書簡を送ろう。表立った動きは、まだ避けるべきだ」


役割分担が、着実に形作られていく。それぞれの立場と能力を活かしながら、複雑に絡み合う脅威へ対処していく方針が、静かに固まりつつあった。

シンクレアは地図を見つめながら、思案を巡らせていた。


「毒事件、誘拐事件、そして王都への侵入」


指折り数えるように、これまでの出来事を並べていく。


「共通しているのは、いずれも直接的な武力衝突ではなく、搦め手を使っている点だ」


その指摘に、カイルが感心したように頷いた。


「その通りです。正面から戦えば、辺境軍に分がある。だからこそ、旅団は別の手段で揺さぶりをかけている」


「策謀に長けた参謀がいる、ということですね?」


オーレリアンの問いに、ガイアスが険しい表情のまま答えた。


「おそらくな。捕虜の証言からも、組織立った指揮系統が窺える。ただの寄せ集めの盗賊団じゃない」


会議は、夜が更けるまで続いた。各拠点の警備強化、情報網の再構築、そして王都との連携。話し合うべき事柄は山積みだったが、一つ一つ着実に対策が練られていく。


やがて一区切りついたところで、レオンが疲れたように肩を回した。


「今夜はここまでにしよう。皆、しばらく休め」


その言葉に、集まっていた面々がそれぞれ席を立ち始める。カイルは書類をまとめながら、ガイアスに何やら耳打ちしていた。


シンクレアとオーレリアンは、連れ立って作戦室を後にする。夜も更けた廊下は静まり返り、松明の灯りだけが淡く辺りを照らしていた。


「疲れたか」


問いかけるオーレリアンに、シンクレアは小さく首を横に振った。


「これくらい、大したことじゃない」


そう答えながらも、その横顔には、隠しきれない緊張の色が残っている。王都の家族、そして辺境の人々。守るべきものの多さが、静かに重くのしかかっていた。


「なあ」


歩みを緩めながら、オーレリアンが口を開く。


「こういう時こそ、一人で抱え込むなよ」


真剣な声だった。これまでの軽口とは違う、確かな気遣いが滲んでいる。


「俺たちは、夫婦だろ。それに、戦友でもある」


言葉を継ぎながら、オーレリアンはシンクレアの手をそっと握った。


「不安なことがあれば、一緒に背負う。それが、隣にいるってことだと思ってる」


その言葉に、シンクレアは足を止めた。握られた手の温もりが、じんわりと胸の奥まで染み渡っていく。


これまで、剣を持って戦うことにおいてしか、誰かと支え合う意味を見出せずにいた。だが今、隣に立つこの人は、剣を交わす戦友としてだけでなく、心の重荷までも分かち合おうとしている。


「ああ」


短く答えた声には、これまでにない柔らかさが滲んでいた。


握られた手を、シンクレアはそっと握り返す。二人の影が、松明の灯りに照らされて長く伸びていた。


「明日からも、忙しくなりそうだな」


歩き出しながら、オーレリアンが小さく笑う。


「ああ。だが、乗り越えられないものじゃない」


静かな確信を込めて、シンクレアは答えた。


黒狼旅団という影は、王都と辺境の双方に、着実にその触手を伸ばしつつある。だが、それに立ち向かう者たちの絆もまた、確実に深まりを見せていた。


廊下の窓から差し込む月明かりが、二人の歩みを静かに照らし続けている。これから訪れるであろう大きな戦いへ向けて、シンクレアとオーレリアンの覚悟は、着実にその強さを増していた。


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