表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
63/77

演習場の絆

数日が過ぎ、辺境軍の日常は表向き平穏を取り戻していた。


黒狼旅団の本拠地探索は、ガイアスの指示のもと、慎重に進められている。目立った動きを見せることなく、斥候を放って山岳地帯の様子を探る日々が続いていた。表立った緊張こそ薄れていたが、詰所に漂う空気には、依然として張り詰めたものが残っている。


その朝、演習場では合同訓練が行われていた。


秋も深まり、吐く息が僅かに白く染まる季節である。土埃の匂いに混じって、朝露に濡れた草の香りが漂っていた。整列した兵士たちの前で、ガイアスが今日の訓練内容を告げている。


「今日は、実戦を想定した連携訓練だ。二人一組で組み、互いの背中を守りながら模擬戦を行う」


淡々とした声に、兵士たちが緊張の面持ちで頷く。実戦さながらの厳しい訓練は、この部隊の日常だった。


「シンクレア、オーレリアンと組め」


指名されたシンクレアは、隣に立つオーレリアンと視線を交わす。既に何度となく共に剣を振るってきた二人にとって、この組み合わせは自然な流れだった。


木剣を手に、演習場の中央へ進み出る。対峙する相手は、経験豊富な古参兵二名だった。実戦経験の差を考えれば、決して楽な相手ではない。


「始め」


号令とともに、模擬戦が始まった。


相手の古参兵は、息の合った連携で挟撃を仕掛けてくる。片方が正面から圧力をかけ、もう片方が死角から回り込む。長年連携を磨いてきた者たちの、洗練された戦術だった。


だが、シンクレアとオーレリアンもまた、この数か月で確かな連携を築き上げている。


正面からの攻撃をシンクレアが受け止めている間に、オーレリアンが素早く反対側へ回り込み、死角を突こうとする敵を牽制する。言葉を交わす必要はなかった。互いの動きを読み合い、瞬時に役割を分担していく様子は、まさに阿吽の呼吸だった。


木剣が幾度となく打ち合わされ、乾いた音が演習場に響き渡る。汗が額を伝い、呼吸が徐々に荒くなっていく中でも、二人の連携は乱れることがなかった。


戦況は、互角の攻防を続けていた。


古参兵の片方が、一瞬の隙を突いてシンクレアへ鋭い一撃を放つ。躱しきれず木剣で受け止めたシンクレアの体勢が、僅かに崩れかけた。


その瞬間、オーレリアンが即座に間へ割り込む。相手の追撃を弾き、体勢を立て直す時間を作り出した。


「ありがとう」


短く告げるシンクレアに、オーレリアンは笑みで応える。


「これくらい、当然だろ」


軽い口調だったが、そこには確かな信頼が滲んでいる。互いの背中を、迷いなく預け合える関係。それは、剣を交わすたびに、より強固なものへと育っていた。


やがて訓練は、両者痛み分けという形で終わりを迎えた。古参兵たちも、若い二人の連携の良さに感心したように頷いている。


「なかなかのものだな」


一人がそう漏らすと、もう一人も同意するように腕を組んだ。


「夫婦で戦友っていうのは、伊達じゃないってことか」


その言葉に、周囲で見守っていた兵士たちからも、感嘆の声が上がる。木剣を鞘へ収めながら、シンクレアとオーレリアンは互いに視線を交わした。


汗ばんだ額を拭いながら、オーレリアンが小さく笑う。


「いいコンビだよな、俺たち」


「調子に乗るな」


素っ気なく返しながらも、シンクレアの口元には、微かな笑みが浮かんでいた。


訓練を終えた二人が休息を取っていると、詰所の方角から一人の兵士が慌てた様子で駆けてくるのが見えた。息を切らしながら、真っ直ぐガイアスの元へ向かっていく。


何やら耳打ちされたガイアスの表情が、瞬く間に険しさを増していった。


「シンクレア、オーレリアン、来い」


呼びかける声には、これまでにない緊張が滲んでいる。何かが起きたのだと、その様子だけで察せられた。


急いで駆け寄った二人に、ガイアスは低い声で告げる。


「王都のローゼンタール公爵家から、緊急の使者が来た」


その一言に、シンクレアの表情が瞬時に強張った。


「まさか──」


「詳しいことは、使者から直接聞いた方がいい」


短く答えると、ガイアスは踵を返し、詰所の方へと歩き出す。オーレリアンは心配そうにシンクレアの顔を見つめ、そっとその肩に手を添えた。


「大丈夫だ。何があっても、俺がついてる」


静かな声に、シンクレアは小さく頷く。胸の奥に湧き上がる不安を押し殺しながら、二人は詰所へ向かって足を速めた。


演習場に吹き抜ける秋風が、二人の背中を押すように強く吹きつける。これまで積み重ねてきた絆を胸に、新たな試練の予感を抱えながら、シンクレアとオーレリアンは詰所の扉をくぐっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ