↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/56

41. 恋情




 ランスが戻ってきたのは、すぐのことだった。

 部屋がノックされ、窓から外を眺めていたリネーネは「ああ」とだけ返事をする。


「お待たせしました」

「いや。忙しい中すまないね」


 リネーネがそう言うと、ランスは「ええ、まあ」と曖昧に笑った。

 真面目な男にしては含みをもたせた笑い方に、リネーネは首を傾げる。


 入ってきたランスは、窓際のテーブルに着席するようにリネーネに促した。


「あれにくどくどと文句を言われまして。相変わらずあなたに甘えているようですね」

「ふ。私が甘えているんだよ」

「……」


 ランスは少しためらったように黙ると、リネーネを見た。


「顔を見て話す必要があるなど、何があったのです?」

「……ルースが私の同行者になった経緯を聞きたかったが、それはもういいんだ」

「ということは、もうご存知で?」


 驚いたように、目が見開かれる。


「ああ。この間聞いた。若者らしい優しさというか……お前やパトリシアのことが大好きなんだろうね」

「……そうですか」

「今もだよ」


 リネーネがそう声をかけると、ランスは目を伏せ、小さく笑った。


「余計な世話だったのに」

「だが、もうどうにもできないからね。勘当も解いてやってくれないか?」

「……弟が素直にこの家に戻るとお思いですか?」

「見合いに、大人しく行っただろう?」


 聞き返せば、ランスはそっと窓の外を見た。

 庭が少しだけ見え、そこで華やかなドレスがちらりと見えた。可愛らしいお嬢さんであることは察しが付く。


「私ね。前に、ルースに結婚するように言ったんだよ。結婚しなければ、ランスの子が私の次の同行者になるだろう、って」


 今思えば、なんと酷いことを言ったのだろう。

 リネーネは庭から目をそらさずに、ランスの沈黙に答える。

 

「誰を思って私のもとに来たのかなど知らなかったとはいえ、ルースに〝お前が結婚しなければ、兄は再婚を迫られるよ〟と脅したようなものだった」


 だめです、とルースは言った。

 賛成できない、と。

 そのときはいつもの反応に思えた。兄にやきもちを焼く弟のようなものだろう、と。

 けれど、理由を知れば、彼にとっては一番痛む場所を刺激していたことを知る。

 愚かだった。

 リネーネは、ぼんやりと見つめていた庭からゆっくりと目をそらした。

 ルースが振り返る前に。


「そうでしたか」


 ランスが息を吐きながら呟く。


「勘付かれないよう大袈裟に脅したのですが……来るかどうかは賭けであった部分も大きいかったのです。素直に来て驚いたくらいですから。あなたが説得してくれたのかと」

「いや。お前の味方をすると、ルースが拗ねるから」

「……」


 何度目かの奇妙な沈黙を、リネーネは慣れたように流した。


「ルースは今度の見合いを受けるだろうね。そもそも、合うお嬢さんを選んでおいたんだろう?」

「……ええ。あとはどうやって会わせるかを家族総出で悩んでいたところです。ですが」


 そこで言葉を切ったランスは、きっと無理強いするつもりはなかったのだろう。

 もしかしたら、盾になっているのかもしれない。


「黙って守り続けるのは、大変なことだね」

「何がです?」

「ルースのこともだけど──パトリシアのこと。お前、手を回して守ってるだろう」


 ランスが口を閉ざす。

 無垢に驚くような目に、リネーネは答えた。


「会った。ほんの数日前に。ルースと一緒にね」

「!」

「元気にしていたよ。お前が手を回していることには気づいていないだろう。危ないことはしているが、場の収め方も知っているし、彼女なら大丈夫だ」

「……」

「お前が元気にしているかも、気にしていた」

「弟とは?」


 聞かれた言葉に、リネーネはやわらかに笑む。


「二人でちゃんと話していたよ。パトリシアは……ルースが同行者になった経緯に気づいていて、黙ってくれているんだろうね」

「ええ。そうです。彼女は昔からそういう人ですから」


 愛しているのだ。

 ランスはパトリシアを。

 パトリシアが、今もランスを想っているように。

 その声には、隠す気もない深い愛の響きがあった。


 ランスが穏やかに目を細める。


「あなたが一番、愛は一生消えないと知っているのに。ご自分だけが例外だとでも?」

「キツイね」

「私もかなり、一途なもので」


 ランスが整理がついているように深く頷く。


「リネーネ様──謝罪は不要です。私や弟や彼女のことを侮辱してすまなかった、など、知らなかったあなたに言われたら、私はそちらのほうが許せませんから」


 ランスが〝ルース〟となっていれば、今も昔と変わらない同行者としての距離感を保っていたのだろう。

 ルースとは、まるで違う。



「正直に言いますと、私はあなたがたの泥沼に巻き込まれるなど、たまったもんじゃないと思っていたのです」


 言葉は穏やかで、どこまでも威圧感はない。

 けれど、それがコントロールされているものであることは理解できた。

 リネーネはランスを見つめ返す。


「正しい感覚だよ」

「祖父からは、決してあなたに飲まれてはいけない、と言われていました。弟はそれを知らない。あいつは……あなたに恋でもしてるのですか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。