表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

episode6.樹ノ国の刺客

「っ。いってて。っ⁉ミルティ⁉ミルティ。ミルディア‼」

ルーティは目を覚ますと、あたりを見回す。

近くにミルディアの姿はなく、あるのは緑生い茂る木々や草花達だけだった。

もしや自分だけ助かってしまい、

ミルディアはあのまま流されてしまったのではと不安に思い体中痛いのに鞭打って立ち上がり、足を引きずりながらも、

ミルディアの姿を必死で探し歩くルーティ。


「ミルティ!ミルティ。嘘だろ。嘘だ。ミルティィ。ミルディアァァァァァァ‼」

最後には泣きそうになり、その引きずる足も速さを増す。


「どうしよう。どうしよう。僕がしっかり調べてなかったからだ。僕のせいで。僕が・・・。」


かさかさ


すると、左側の奥の方から、葉の擦れる音が聞こえ、もしやミルディアなのかもと、そちらに向かう。

すると、小さな白いモフモフした物が見えたが、それはすぐにぴょんぴょんと、跳ねながら、どこかへ行ってしまい、そこにはミルディアが倒れていた。


「っ⁉ミルディア‼」

ルーティは嬉しい気持ちと生きているかどうか、解らない不安な気持ちに苛まれながらも

ミルディアに近づいていく。


「あぁ。ごめん。ごめん。ミルディア。」

生きては居た。けれど酷い・・・傷だらけだった。


「どうしよう。」

ルーティは、それに対し、焦りと心配で、涙を浮かべてそれを落としかけていた。


「っ。ミルディアの民が涙を簡単に流しちゃ駄目でしょ。」

少し苦しそうな声で、ルーティに言うミルディア。


「なっ、涙を出そうとなんかしてない。たっただ。君を見つけたから、今度は僕の傷の痛みが酷くなっただけだ。」

ルーティはそう言うと、涙を流さないようにすると、少し待っててと言いその場を離れる。


「はぁ。」

ミルディアはため息を吐きながら、

あお向けのまま改めて空を見つめる。

内海は枯れてしまったのか外海とその更に黒海の水の黒い水の色によりそれは深く暗めの瑠璃色に染まって見えた。

辺りは何方かと言うと夜から朝を迎える位の明るさだった。

けれど、木々が揺れ動くのも、草花がとても美しいのも、地面に生えている草が息づいて居るのも目で分かるほどの明るさだった。


森と言うよりも樹海と言った表現が正しい。木々達の手入れは、樹ノ国の民がしているのだろうか。

木一つ一つが息をしている息遣いが聞こえてくるようだ。


そして、木の幹もミルディアの民が住んで居る、木のそれとは違い、何本もの輝く緑色の線と水の色の線がお互いに命を繋ぎ合って居る様が目視で解る。


花も、また、違って居た、閉じたかと思ったら、また開いて、開いたかと思ったらまた閉じてを繰り返し、中央から外側に向かって、また外側から中央に向かって色んな色で輝いて居て、まるで、人に近い私達の様に呼吸を繰り返している様だった。そして、何よりどの植物もみずみずしく潤って居た。


「凄い・・・・綺麗。」

こんなに命が繋がれて、横たわっているだけでも、まるでこの地と一体になって居る様に感じられる場所が、この世の中にあったんだ。

自然を抱きしめると言うよりは、自然に抱きしめられている様な。


トラッドネスはいつもここを通っていたのかな?こんなに綺麗な場所を一体どんな思いで通っていたのかな?


ミルディアの瞳からは自然と涙が流れ、

それは友情の宝玉となり樹ノ国の大地にポトポトと落ちて行った。

すると、それを、まるで喜ぶかのように、受け止めた大地が吸収し、そこが薄桃色に光りまるでミルディアの流した涙を植物達が喜び微笑んで居る様だった。


「お待たせ。ミルティ。っ?ミルティ⁉どうしたの?何処か痛むの?どうして、泣いてるの?どうしたの?」

ルーティは、ミルディアの泣いて居る姿を見て、焦る様に、ミルディアに近寄る。


「違う。違う・・・。ただ、ただ。綺麗だから。こんなに綺麗な場所をラッドはいつも歩いてたのかと思うと。

そんな地に私も今足を踏み入れたんだって思うとなんだか・・・感極まっちゃって。」

あの茶色一色だった、狭い世界。

でも、今は、こんなにも色鮮やかなそれも、村から出た外界に居る。

そう思うと、自分の世界が、いかに狭く色が無かったのかと思う程だった。

ラッドが、旅から帰って来る度に、目を輝かせて、外界の話をする理由が解った気がした。村の皆は、商人は得る者は少なく与える者の方が多いと言って居たけれど、今は、そうは思えない気がする。


「・・・そっか。」

ルーティは少し目を伏せ、ぽつりとミルディアに答えると、大きなリュックから薬品を取り出し、未だ、横たわるミルディアの傷の一つ一つにそれを塗って行く。


「トラッドネスは、見せたかったと思うなぁこの景色。と、言うか。何だか、君に見せる為に、寧ろトラッドネスが来させた気さえしてくるよ。」

そう言いながら、ゆっくりと、優しく塗りこみながら更にルーティは言葉を続ける。


「だって、君達、いつも、秘密の場所って言ってお互いに見せあいっこしてたじゃないか。あの砂漠の何もない所ですら・・・君達はお気に入りを見つけては、お互いに。

まるで、宝物を見せっこする、見たいにさ。

お互いをそこへ連れて行って居た。

僕はたまぁにそれに、同行させて貰えてたけど、トラッドネスの秘密の場所は、

トラッドネスが〝おまえは駄目だって″連れてってくれなかったんだ。」


「ふふふ。あれはラッドが悪い。ルーティに意地悪してたんだ。」


「そう?僕は違うって思うけどなぁ。」


「ん?」

ミルディアはどう言う意味か、聞こうとしたが。


「はい。終わり。

見える傷口には塗っておいたよ。

気分はどう?骨とか折れてはない?」

その問いは、ルーティの言葉により遮られてしまい、ミルディアは、それ以上追求しようとは思わなかった。


「頭が少し・・・。後は、腕が少し重くて上がらない感じかな。

でも、後は、大丈夫そう。薬塗ってくれてありがとう。もう、行こう。」


「駄目だよ‼」

ふら付きながらも、立ち上がり、歩き出そうとするミルディアの足の裾に縋りつき、

先ほどの思い出話の声とは違い、大声をあげて止めるルーティ。


「ねぇ。ミルディア、もう川は渡ったんだ!そして、干上がった、今から急いだとしても

トラッドネスが失踪した場所に行こうとするなら次に渡れる海を待つまで一年掛かる。

いや、僕達は、そこの距離すらまだ解って無いんだ。無謀だよ‼休もう。ね?ね?」

そんなルーティの言う事も、掴んでる裾も、ゆっくりと無かった事にするかのようにすると、ミルディアは、歩みを進める。


「っ!?だから・・・君はどうして・・・いつもそうなんだ。」

ルーティは、険しい顔をし、立ち上がりながら言った言葉はまたしても、ミルディアの耳には届いていなかった。



ルーティは俯きながら昔を思い出す。


[ねぇ、ミルティ。今日は何処へ行くの?]


[ラッドが秘密の場所見つけたって。]


[じゃあ僕も行く。]


[私は構わないよ?[駄目だ。]

ねぇ。ミルディア?トラッドネスは、その景色が宝物だったんじゃない。

ミルディアと一緒に行く所こそトラッドネスの宝物だったんだ。

だから僕にはいつも駄目って言ってたんだよ、ミルディア。

僕が行くと、宝物じゃなくなるから。


[ミルティ。僕も秘密の場所見つけたよ。今日は僕と行こうよ。]

だから、僕もミルディアと一緒の宝物を見つけたかったのに、


[あっルーティ。]

手を引いて、連れてこうとするといつも。


[ミルディア。どこへ行くんだ。今日はお前が秘密の場所へ連れて行ってくれるんだろ?]

トラッドネスが何時も邪魔してきて、君を目の前からかっさらって行くんだ。


[ラッド。ごめん。今行くから。ルーティごめんね。ラッドが呼んでるから。]


ミルディア。君はトラッドネスの本当の宝物の意味を理解しているだろうか。

ミルディアにとっての宝物とトラッドネスにとっての宝物は、あの時から少しずつ感覚が違って見えた気がする。


けれどミルディア、君はあの時も今も、変わらないんだ。


ずっと、ずっと。君にとっては、トラッドネスとの友情こそが宝で、それは、トラッドネス自身も含まれてて、彼とその友情の絆、そして宝玉、これこそ君にとっては宝だったんじゃないかな。


そして、君は・・・。


[変人‼]


[遺跡の呪いを受けた者‼]


[化け物‼]

あの少年だった時に、本当は僕に向けて投げられていた石だったのに、君は・・・。


[ミルティ。僕は良いから身体をどけて。

僕は・・・僕は石を投げられても涙を流さないから。平気だから。]


[やめて痛いよ!石を投げないで。ルーティをいじめないで!うぅぅ。]

僕の全身を抱きしめて、投げられてくる石を全部その体に受けて、頭も腕も唇を切っても、そして、僕が放れる様に言っても君は、僕を泣きながら、守ってくれて。


[うわ。泣くぞ。泣かれたら宝玉が出来ちまう!]


君は永遠の泣き虫だけど。


[ミルディア!もう良いから[っ‼うぅぅぅいっ・・・たい。うっうぅぅ。]

泣き虫のくせに、いつも他人の事を一番に守る。


僕にとって永遠の英雄で。

永遠の憧れの女性ひとなんだ。


だから、トラッドネスには出す感情を僕には出さないって解ってるけど!

痛いなら痛いって言ってよ。

辛いなら辛いって言ってよ。

苦しいなら苦しいって言ってよ。


トラッドネスにしか言えないのは知っているけど。


でも、僕は、これからボロボロになっていく君を見るなんて。


「嫌だ。」

ルーティはそうポツリと言いながらミルディアの後を付いて行くのだった。




あれから、顔一つゆがめることなく歩いていくミルディアを心配そうに横目で見つめるルーティ。


ミルディアは、只管前を向いて、樹海の中を突き進んでいる。


[頭が少し・・・。後は、腕が少し重くて上がらない感じかな。

でも、後は、大丈夫そう。]


ああ言う時のミルディアは決まって、自分に無頓着な時だ。

多分少しではなく、大分、どこかにダメージを受けている筈。

頭が少し痛いって事は、凄く痛いって事。


確かに、外傷があったから、薬を塗っておいたけど・・・・。

でも、ちゃんとした治療しないと・・・。

それに、腕が上がらないって事は、関節が外れてる可能性だって捨てきれないのに。


「っ‼」

ずっとミルディアを見ていたから、ミルディアが立ち止まった事を不思議に思い、

同じく立ち止まり、ミルディアが見る先を思わず目で追う。


樹海から林へ抜け、其処は少し他の場所よりも開けていた。

樹ノ国に出は最早珍しくない、小さな川も水脈にそって流れていた。

そんな美しい景色を堪能できる状況ではない光景が二人の目に飛び込んでいた。


そこにはとても美しいすらりとした女性が今にも何人かの白い装いの者達に襲われそうになっていた。


「ミルディアまさか!っ⁈駄目だよ‼」

ミルディアは、明らかに、その女性に加勢しようとして居る事が解ったルーティは、首突っ込むなと言わんばかりに、ミルディアの前に回り込む。


「どいて。ルーティ。」


「駄目だったら。ミルディア‼」


「ルーティ。駄目!見て見ぬ振りするなんて!」


「何人もの集団で襲おうとしてるって事はそれなりの重要人物って事さ。

それだけじゃない。相手だって、それなりに戦えるよ‼助けなくったって大丈夫さ!

それに、今の、ミルティは5人も相手にできないよ!」


「でも、私は誰かが痛めつけられるのを見て見ぬ振りするほど無神経な者にはなりたくない!」


「あっ!ミルティ‼行っちゃ駄目だ!ミルティ!っだから・・・なんで。何で、だよ。」


何でいつも君は他人の為なんだ。


それじゃ・・・トラッドネスを迎えに行く以前に君の命が幾つあっても足りないじゃないか。5人の刺客達は、私と同じ容姿でありながら、何かが違っていた。


弓をそちらに向け取り合えず動けなくするために足を狙うが


キン


金属の音と共にそれは、いとも簡単に弾かれた。

確実に腿に当たったはずなのに、可笑しい。


ミルディアはそう思いながら、素早く四本の矢を取り出し、同じように狙うしかし、四本とも的確に当たるがそれは当たったと同時に弾かれ折れる。


「嘘・・・でしょ⁉」


襲われている女性はと言うと、驚きもせず、まるで襲われる事が日常茶飯事の様に、

涼しい顔で、攻撃をかわしつつ、自らも見えない〝何か″を使い攻撃をしているようだった。

その交わし方は蠱惑的で、そういう風に見えたのはその女性の服装が全身真っ白だからなのか袖や袴がゆったりし、攻撃を交わして行く度にそれがふわりと揺れ、長く美しい銀色の髪がそれと同じくらいに、さらさらともつれずに居るからなのか、一目見てもそれだけの事が目に入ってくるからなのかは、

正直、戦っている今は処理しきれなかった。


それも、処理しきれてないのに、

更に、不思議なのが、5人が5人とも顔全てを覆う金ノ仮面をして居た事だ。

その仮面はそれぞれ違った形をしており、その動きの早さでどんな表情なのかは解らないが、一つだけ言える事は、目や口の部分も穴が空いて居ない所だ。

あれでは、目隠ししているも同然だし、口も塞いでるも同然で息が出来ないのでは?


そんな事を考えて居る時だった。


「ミルティ!その5人は金ノ国の刺客だ!これを!」

ルーティが投げて来たのは、あのルーティお手製の自動式弓矢だった。


ミルディアはそれを同じように構え撃ち込む。


「っあぁぁぁ‼」

その矢は、弾くどころかその刺客の悲鳴が聞こえ、当たった腿は溶けて行く。


「っな⁉これは一体!」

ミルディアは、驚きながら自動式弓矢を見つめる。


「こういう事もあろうかと、矢に強力な金属を溶かす調合薬を塗って置いたんだぁ。」

ルーティは、ミルディアに得意げな表情を浮かべるがそれは直ぐに消え、はっと我に返ったように、ミルディアに言う。


「あっでも気を付けてね。それ・・・。」

ルーティは続けてミルディアに何かを伝えようとするが、そんな事を聞いている暇がミルディアにはなかった。


「四人一度に来るなんてずるい‼」

ミルディアが5人の内の一人に有効的な攻撃をしたせいで、残りの4人はまずは、邪魔しているミルディアを片付ける事にしたらしく、一気にミルディアに向かってきたのだ。

ミルディアは、再びあのルーティお手製の武器を構えるが、


「ミルディア逃げろ!」

ルーティがそう叫ぶ。


「え?」

ミルディアはどうして?

と思いながらルーティの方を向く。


「言ったじゃないか!それ!未完成だって!だから、自動で発射できるのは最初の一発だけなんだ‼矢も一本しか入ってない。」


「うっそ。」

その言葉と同時に、刺客たちの4人一斉の刃はミルディアに向けられ、あまりのすさまじさにその場の草花は飛び散り、砂煙が立ち込める程だ。


それだけでなく、四本の刃は地面に突き立てられたと同時にそれを中心に、地面は、大きな波紋が起こり、それはどろどろとした赤い物体に変わると、波紋を起こした部分を全て燃やし尽くし、やがて、漆黒の塊となった。


漆黒の塊となった物体は、炎が鎮火したと思えるが、いまだに触れると一瞬にして、火傷どころでない程の灼熱の温度である事は一目瞭然だ。


「ミルティ‼」

ルーティは、その光景がほんの一瞬で行われていた事にかなりの恐怖を覚え、あの攻撃を受けたミルディアは、姿容すらないのではと思ってしまうが、ミルディアは、金ノ国の刺客の標的となっていた女性によって抱きかかえられ助けられていた。


「あの、ごめんなさい。足を引っ張ってしまって。でも、女性一人じゃこの人数無理だと思「・・・不愉快だ。」

その女性は、私の顔を見るなりそう言うと、本当に、不機嫌極まりない顔をしていた。


やっぱり・・・・余計なお世話をしてしまったことに対して、不快な思いをさせてしまったのだろうか。


ミルディアは、そう思いながら、その女性の顔を見つめる。


よく見ると・・・ちょっと人の容だけれど人とは違う?


そう疑問を抱いてしまう。


その女性は片方の顔は人の顔だったが片方の顔は樹面の様な顔立ちだった。

一瞬ではあるものの、瞳も明らかに私達人に近い者とは違い、白目の部分は黒く瞳孔はまるで獣の様に鋭かった。

それだけでも十分印象的なのだが、瞳の色がとても美しい群青色で、宝石をそこにはめ込んだかの様にきらきらと角度が変わる毎に揺らめいていた。


「ごめんなさ「顔に傷を付けた。不愉快だ。」

ミルディアが謝ろうとした時だった。

低くもなく高くもないけれど何処か、静かな夜の風を思わせるその声で、更に、ミルディアにそう言うと、抱きかかえていたミルディアをゆっくりと降ろし、今まさに攻撃を仕掛けようとしている、金ノ国の刺客達に向き直る。

それと同時に、女性の付けていた紅い簪の小さな鈴の音が心地よく響く。


「仮面など・・・所詮、自らの品格を隠すための道具にすぎぬ。」

その妖艶な女性は、敵四人に対しても余裕の笑みを浮かべながら、ゆっくりと刺客に近づいて行く度に、刺客達は、より一層警戒を強め、後退して行く。

それに対し、更に、口角が上がって行くが、それは、心から微笑んで居ると言うよりは、蔑み見下した微笑みに近かった。


「まぁ、お前達金ノ国等に・・・。

増してや、下級刺客等に、我らの精神。

緑を慈しみ、命は全て神から賜った物、欲張る事なく奪う事無く。奪う時あらば、その理を刻むべし。や、今私が抱いて居る、感情、我ら種族の愛等を説こう等、面倒だ。」


「だが、どうも、今回は気に喰わぬ。」

そう言うと同時に、妖艶な女性は目の前から消え、次の瞬間には刺客との間合いを詰めていた。その速さに風や音すらもついて行けず、周りの草花の掠れる音すらもしなかった。


それに対し、刺客達は、逃げる所か、最早固まって居た。


「ほう。やはり・・・怖いか。

金ノ国にも、恐怖と言う感情は残って居るのだな。では、その怖さを思い知らせてやろう。」


此方からは見えない。一体何をされているのだろうか。


けれど、敵はピクリとも動かない。


「…の…で…命を…。」


今・・・何か言ったような。


すると、刺客達は少しずつ動き始め、森の奥へと去っていく。


居なくなったのかな?


「・・・何をほけっとしている?そなた・・・脳がないのか?」

此方にゆっくりと歩いて来ながらそう言う女性を最初は普通に見つめていたが、

やがて、彼女の肩越しを見て、驚愕の表情を浮かべ、彼女に抱き着き力一杯、反転させる。ミルディア。


その衝撃はミルディアに抱き付かれた者にも伝わって居た。


そして、その女性はミルディアの背中をゆっくりと見下ろす。


「っな・・・んだ。これは・・・。」

ミルディアの背中には金ノ矢がしっかりと刺さっておりそこからは、じんわりと、赤い何かが、滲み出していた。


「くっはぁ」

同時に、ミルディアはおびただしい程吐血をしていた。ミルディアは、余りの痛さに女性にしがみついたままだ。


女性は、辺りを見回し、金ノ矢を撃った者を探す。そして、ふと、先ほど地面が焼けただれた場所に、目を移し、そちらに向かい片手を翳し、まるで下から何かを思い切り持ち上げる仕草をする。


すると、地面は揺れ、先ほど焼けた地面から、鋭い根が現れると同時に、矢を放った刺客を捉え、手、両足、首を締め上げながら、地面の中に引きずり込んで行き、やがて一気に飲み込まれると、何も無かったかのように、其処には花々が咲き誇って居た。

その刺客は、一番最初に、ミルディアが矢で足を傷つけた刺客で、ミルディア達が四人の刺客に引き付けられている間に、あの、漆黒の塊となった地面に隠れ、攻撃の機会をうかがって居たのだった。


「ミルティ!嘘だろ!ミルディア‼顔の傷は、薬で何とか。

でも、でも・・・背中にも深く矢が。どうしよう!これじゃ、これじゃ。

ミルディア。死んじゃうよ‼」

ミルディアの方へと走り寄り膝から崩れ落ちるミルディアを抱きとめる。ルーティは最早混乱していた。


「っうぅ。少し、熱いっだけ。

あの、女の・・・人は?」


「こんな時まで‼君は‼」


「・・・・・。」

ミルディアが守った者は、ルーティの腕の中に居て、息も絶え絶えなミルディアを悲しい表情で見つめると、


「どけ。」


「何だよ!こんな時に何が出来るって言うんだ‼こんな矢が刺さってて。」

そう言いながら、ミルディアの傷口を見る。そこからは、どんどんと血が滲み、

先ほどの威力は無い物の、肉の焦げた匂いも一緒にしている。


「うっ、体中が・・・。焼けっ・・・熱い。」

だんだんと蹲って行く。


「こんなっ。どうしようもない「その女の命・・・助けてやろう。」

あっさりと、そう言われ、ルーティはその声の者を見つめると、その者は、鋭い瞳で、まるで自分が、痛みを受けているかのように、苦しい表情を浮かべ、ミルディアをじっと見つめている。


ルーティは、少し怪しんでいたが、今はそんな暇はないと思い、少しでも助かる方法が、あなら、と思い、ミルディアを預ける。


ミルディアは、既に痛みにより意識はなく、二人の会話も全然聞こえていない様子だった。


「まずは、この金ノ呪矢を消滅させよう。」

そう言うと、その真っ白い手で刺さって居る矢を握るなり、矢は粉々に砕け散った。


あの硬そうな金ノ矢がこんなに粉々に粉砕されるなんて・・・。

樹ノ国の民は金ノ矢には弱いって書物にあったけど。樹ノ国の民ではないって事なのか?一体この女の人は・・・。

ルーティはそう思いながら、ミルディアを今も尚治療しようとしているその者を見つめる


所が、その矢が消えた事で、血と、先ほどの赤く熱いドロッとした液体が血と共に噴き出る。


「なっ⁈そんな事を、したら、塞ぐ物が無くなって出血死しちゃうじゃないか‼」


「ぴーちく五月蠅いな。再生能力の無い者は、こうも口が達者なのか。」

そう言いながら、右の腕がどんどんと鳥籠の様に変形しミルディアを包み込んで行き、やがてはミルディアが見えなくなる。


その光景で、ルーティはある2つの事に気付く。


「まっまさか・・・。樹ノ国のただの民ではなくて、樹天仙じゅてんせん

しかも・・・女の人ではなくて・・・男⁈」


「へぇ。外界の、しかも商人でない者が、私達樹天仙しかも男女の区別が理解できているとはな。」

本当に感心した表情でも無ければ、言葉でもなく、その口調には全くもって感情は込められて居らず、非常に冷淡だった。


「でっ、でも・・・これって。この行為って!「助けたいのだろう?」

戸惑うルーティの言葉を、男の樹天仙の言葉が制する。


「そうだけど・・・。」

ルーティは複雑そうな顔をする。


「それに・・・。何の感情も抱かずに助けよう等と思って居る訳ではない。」


「じゃぁ何故。」

ルーティのその問いに対して、樹天仙の男は

ミルディアを入れた鳥籠をじっと見つめ


「・・・。何かが、そうしろと。」

その言葉に、ルーティは何故かその樹天仙の男の顔が愛しい者でも見ているかのように見えた。


まさか、そんな・・・だって。

無いない。と、勝手に一人で驚き一人で納得させるのだった。


実際、樹天仙の男は、ルーティにこう言った。


「3日間私はここに居るし、この鳥籠も解かないけれど、3日後彼女が目覚めを迎えると同時に、私はこの場から消え2度とそなた達の前には姿を現さない。

そなた達も私に会おうとするな。そして、今日の事は忘れ、彼女にも私に会ったこと自体幻だと教え、刺客は表れたが、自らの力で倒し怪我をして、そなたの薬を飲ませ3日間眠り夢を見たのだと言え。」


「そんな無茶な。ミルティは、絶対疑う。」


「それは・・・無いだろう。体の再生と共に、記憶も失う。私の記憶は無い。」

彼は、そう言いながらも、鳥籠の隙間を更に埋めて行く。


「そんな・・・そんな。嘘を、僕は彼女につけない・・・。」


「では、傷は薬で治せたといえばいい。実際頬の傷は、そなたの傷薬で治したのだから。」

そう言うと、完璧に中が見えない最早鳥籠と言うよりは鳥の巣の玉状にも見えるその、籠の中へと入っていく。


「何をするの?」


「・・・私が鳥籠の中へ入らねば、力が注げない。ただそれだけだ。それ以外に何がある?」


「いっ、いや・・・その。」

ルーティは一瞬ミルディアと彼を二人で居させる事が何となく変な想像を掻き立ててしまい、思わず、顔を真っ赤にするが、彼のその言葉に、自分がそんな想像をした事を恥じる。


「もしや、何か問題があるのか?」


「い、良いから。早く治療に専念してよ。」


「ふん。訳が分からぬ。」

不思議そうに首を傾げ、鼻で笑うと

彼は鳥籠の中に完全に消えたと同時に、鳥籠はより一層閉じて行き、

何か刻印のようなものが刻まれ、それは虹色に光を放つ。


「凄い!これ何て文字だろう⁉

樹ノ国の文字なのか⁉いや、これは古ノ遺跡にもあった文字列に似ている。」

ルーティはそれをボロボロの手帳に書き記し。急いで、大きなリュックから、書物を取り出し解読し始める。



一方鳥籠の中では、眉間に皺をよせ、ずっと苦しそうにうずくまっているミルディアを

どこか、悲しげな表情で見つめながら、その、ひたすら真っ白い手をミルディアの頬に僅かに掠めた後に、ゆっくりと、自らも蹲る様に彼女の反対に横たわり彼女の顔を見つめながら、自らの銀色の髪を鳥籠と一体化させていく樹天仙の男。

すると、鳥籠の蔓がミルディアの傷口に触れ、まるで樹天仙の男から生命でも流れる様に

緑色の光が蔓を伝ってミルディアに流れ込んでいく。


樹天仙の男はそんな中鳥籠を作って居ない片手で自らの胸を軽く抑える。


何だ・・・。この感覚。

胸の奥が温かく、けれど・・・苦しい。

何だか、解らない、この者が矢を受けた時のあの痛々しい表情が・・・。

何度も頭から離れない。


あの頬の赤い液体を見た瞬間、異常なほど不快に思った。


そして、私を庇った瞬間・・・。


あの金ノ刺客を地に引きずり込むだけじゃ済ませず、この爪で八つ裂きに、したいと。


今も。苦しそうなこの者を見て。

胸がこんなにも苦しくて・・・。


「っ⁉」

ふと、自らの目元に触れる。


樹血(じゅけつ)

何故目から。


「先程の戦いで目を負傷したのか?」


この者からも涙が。私と同じように。


けれど、これは、虹色の玉?


「体内に吸い込まれていく。」

変な感じだ。この者の生を感じる。


「なんて・・・。」

麗しいのだろうか。


「では・・・私も眠ろう。そなたと共に。

たった3日の縁だ。そなたの記憶にも残らない男。この絆の儀式も樹天仙である私には意味があっても、そなたには意味は無い物となる。つまり・・・我々は、たった3日だけの約束であって、そうだ・・・きっと・・・2度と合う事は無い。」


そうだ・・・。2度と、2度と出会う事は無く、我々の絆はこれ以上深まることもない。


そして、3日が経った。

ミルディアが目を覚ます頃には樹天仙の男が言った通り、男の姿はなく、ミルディア自身も記憶がうつろになっていた。


「っ、なんだか・・・夢?を見ていた様な。

ううん。夢だったのかな?」


「傷は・・・その、僕の薬で治したよ。」


「ううん。それは、感謝して居るけど、でも、なんだか、もっと別の。何て言うか、優しい目が、私を見ていた様な気がして・・・。」

ミルディアは、こつんと頭を叩きながら、

私やっぱり何か忘れてる気がするとルーティに言う。


「なっ、何を言ってるの。夢の見すぎだよ。

うなされてたから、幻聴幻覚でも見てたんじゃない?」

そう言いながら、ルーティはミルディアに背を向け、痛み止めの薬を調合する。


「本当に、幻聴と幻覚なのかな。

なんだか・・・優しい、温かい何かが私の傷を、覆ってくれて、そう、頬の傷をそっと・・・。」


そっと触れたような。

涙をそっと拭ってくれたような。


「因みに・・・なんだけどさ。」

ルーティがゆっくりと、こちらを向きながら言葉を続ける。


「どんな感覚だったの?」


「ううん。どんな感覚・・・。」

ミルディアはしばらく考えやがて、重い口を開く。


「・・・なんだか愛を囁かれて居る様な感覚だった。・・・なんて。変、かな。」

その言葉に、ルーティは目を見開き、驚きの表情を浮かべた。


ミルディア・・・その感覚は当然の事なんだ。そう思いながら、ボロボロの手帳を横目で見つめあの鳥籠に刻まれていた虹色の光る刻印を訳した文字を見つめる。



だって・・・。


だって。


あの樹天仙の男の鳥籠には、古の文字でこう書かれていたんだ。


≪我、汝に乞う者

汝の心を欲す

汝の永遠なる涙と共に

愛を乞わんとする者

ここに誓いを結ばん≫


「・・・まさか‼誰が、愛を囁くのさ。

僕?それとも、どこかも解らない誰か?」

ルーティは、手帳を閉じると、ミルディアのその言葉を鼻で笑い、再び調合する事に専念する。


[3日後彼女が目覚めを迎えると同時に、

私はこの場から消え2度とそなた達の前には姿を現さない。]

それはつまり、ただ、ミルディアを助ける為だけに彼は、あの誓いを立てたに過ぎなくて

別に、ミルディアを愛したから、鳥籠を作った訳じゃないんだ。



そうだ。彼は君を、愛した訳じゃない。



「ティ・・・ルーティ?ルーティ?」


「あっごめん。何?」

いつの間にか、ミルディアが、自分の顔を覗き込んでいる事に少し驚き、目を背けるルーティ。


「ありがとう。ルーティがずっと看病してくれたから、もう起き上がれそう。

今日中には樹ノ国の中心部にたどり着きたい。」


「無理言うなよ。」

そう言いながら、ごりごりと草を練り合わせたり、液体を調合させたりする。


「まだ休んでないと。今回の傷は深かったんだ。」

ルーティはいつにもまして真剣な言葉で言う。


「ラッドは。」

そんなルーティの言葉にミルディアは俯きながら答える。


「私の・・・不注意で気絶している間・・・。

ラッドは一人でずっと、その日数だけさ迷い続けてる。

水も、食べ物も何もない土地で。明日も何も解らない状況で。

ルーティみたいに薬を塗ってくれる人なんてラッドの近くには・・・居ないかもしれない。なのに、私だけ、こうして休んでちゃ駄目だ。」


「ミルディア。でも、それじゃ「私は、大丈夫。」

ミルディアは起き上がり、ふら付きながらも、樹ノ国の方へと足を向ける。


「っク‼だから。どうして、何時も君はそうなんだ。」

何時も他人の事ばかり、自分の事なんてそっちのけ。


今だって、いくら回復したとは言え、沢山の血を流したって言うのに。

ほら、ふらふらじゃないか。

しかも、僕荷物を広げたままだって言うのに、その状況理解すらする余裕、今の君には無いんだよ?


「ストップ‼もう耐えられない。はいこれ!!」

ルーティは、真剣な表情でミルディアの前に立ちふさがると、一本の瓶を渡す。


「そう言うと思って、3日かけて作った‼多分今までで最高傑作。

君、血が足りてないはずだから、その補給薬‼これ飲まないんだったら、這っ倒してでも、進ませない。」

そう力んでいた、ルーティだったが、ミルディアは、すんなりとそれを受け取ると、その緑の様な青い様な黄色い様な金色の様な赤色の様な兎に角見た目に美味しそうにないその物体を、一本丸々飲み干す。


「へ?」

素直すぎて意外と言わんばかりに、素っ頓狂な声を上げるルーティ。


「何?まさか、こんなふらふらな状況下の中で、栄養補給ですよ。と差し出された薬をわざわざ割って、先に進む程馬鹿だと思った?」


「いや・・・でも・・・・あの・・・え?

ちょっと・・・覚悟してた・・・。」


「飲んだんだから、行くよ。」


「あっうん。」

ルーティは、少し嬉しそうに、ミルディアの後ろをついていくのだった。

しかし、ルーティの見えない所で、ミルディアが嘔吐き、涙目になった事は、その嬉しそうなルーティには後にも先にも知られない余談だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ