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episode4.約束した事

ミルディアは、一人、村で唯一の水飲み場に居た。

そこで、先程キリの家で言われた事を整理していたのだった。


けれど、どれだけ整理しても、どれだけ理解しようとしても、無理だった。


「・・・嘘。・・・夢。」

ぽつりとつぶやくミルディアのその瞳はうつろで、じっとその湖を見つめて居た。



キリの家での出来事・・・。



[トラッドネスが・・・死んだ。]


キリは、土づくりの椅子に座り足を組みながら、

眉間に皺をよせ、その目は、俯いていた。


[何言ってるの!いきなり....。

冗談が過ぎるよキリ!

彼女がびっくりするじゃないか!

ミルディア信じちゃ駄目だよ⁈

キリは、きっと冗談を言ってトラッドネスと共同で君を驚かせようと・・・・。]

その場の空気を取り繕おうとするルーティだが、

キリはいつもの事ながら、冗談を言う者ではなく、

ミルディアは相変わらず泣いて居る。

それだけでなく、持って居た装飾品を更に強く握りしめて耐えて居る様だった。

幾ら、驚かせようとしているにしてもここまでやって居たなら、

トラッドネスは、もう耐えかねて出て来るだろう。


つまり、出てこないと言う事は、嘘では無いと言う事だ。

そう思った瞬間ルーティの顔色は、青くなる。

ミルディアは、ゆっくりと、首を横に振りながら、耳を塞ぐ。


[どこで?]

ルーティが、キリに真剣な眼差しで問うと、

キリは、両手で顔を覆い拭うと、悲しい表情を浮かべ、重い口を開く。


[常夜ノ国。今は金ノ国の者の領土となって居る所だ。

そこで戦乱に巻き込まれ、劫火に飲まれた。

俺達だけじゃない多くの商人が仲間を見失い、連れて帰る事が出来なかった。]


『それにしても、今回帰って来る商人の数、少ないと思わない?』


ミルディアが力なく、近くのベッドに座り耳を塞ぐ中で、

ルーティが、キリに、真剣な顔で、問う。

すると、キリは懐から一つの宝玉を取り出す。

それを見てルーティは絶句し、耳を塞いでいたミルディアは、

顔を上げそれを見るなり、驚きと悲しみの入り混じった表情を浮かべゆっくりと立ち上がり、

その宝玉を受け取る。


それは紛れもなく漆黒に染まった友情の宝玉だった。


[何方の宝玉かは、解らない。もしかしたら、奴のかもしれん。

だが、これがミルディア・・・お前さんのならば・・・。]


そして、今に至る。

ミルディアが見つめて居る湖は、今のミルディアの心の中によく似ている程に悲しい色をしていた。

いつもはもっと綺麗に見えた気がしたのは、

やはり、トラッドネスが帰って来て、一緒にこの水を飲み、旅の話を聞くからだろう。


「ミルティ・・・。」

後ろからゆっくりとルーティが現れ、

ぐったりとし、目に光が無いミルディアを呼ぶ。


「ラッドは、もともと宝玉は漆黒だった。」

ゆっくりと、口を開き、ルーティに説明するミルディア。


「・・・・解ってるよ。・・・・。

普通漆黒の宝玉“死の揺らめき”は僕達にとっては

相手の死を意味する。」

再び沈黙が走り二人の間に砂漠の夜の冷たい風がゆっくりとふくと、

唯一水飲み場のに咲く花の香が花をくすぐる中で、

ミルディアはゆっくりと口を開く。


「でも、もともと漆黒色だったトラッドネスの場合は・・・。

死んでも、それが・・・・解らない。

私の宝玉も特殊な色をしてるし、交換の仕方すらも、おかしな感じだったから。

トラッドネスが死んでも、ほかのミルディアの民みたいに、

宝玉の色で判断はできない。」

俯きながらミルディアに遠慮がちに話すルーティ。


「ラッドが!私を!置いて逝くわけない!ラッドが・・・。私を、っ。」

涙を流しながら、ルーティをにらみつけるミルディア。

けれど、普段から人を睨む事をしないミルディアのその睨みに凄みは無く、

弱弱しい物で更には、その涙は無意味な程に宝玉となって

ポトポトと音を立てて下に落ちて行って居た為に、怖さなどみじんも感じることはなかった。


「ミルディ・・・。」

ルーティは、そんなミルディアを、慰める様に、

白く癖のある髪をゆっくりと撫で、更に遠慮がちに、小さい声で、言う。


「そうだね、彼が・・・彼が君を、一人ぼっちにするわけないね。

何時でも、彼は、君の事を一番に考えて来た。

君達はこの世で唯一無二の、存在で、この村で最若年で友情の宝玉を交換した絆の深い存在。

それは、昔から見てきた僕が一番解ってた筈なのに・・・。ごめんね。

本当に・・・ごめん。だから、泣かないでよ。

こんなに宝玉大量生産してたら、僕が戻ってきたトラッドネスに怒られちゃうよ。

それに、キリが言ってたじゃない。遺体は確認していないって。ただ・・・。ただ。」


ミルディアは、キリの言葉を思い出す。


[遺体は・・・確認できなかった。樹ノ国と金ノ国の戦があまりにも激しかった為にその巻き添えに。

あの劫火じゃ、樹ノ国の燃えている軍勢の巻き添えになって跡形もないだろう。]


「ミルディア。紅蓮劫火とは、金ノ国の王族が使う一種の王技(おうぎ)なんだ。

かつての金ノ国の神の業と言われている。

そんな物....人に近いトラッドネスが耐えられるわけ....」


ミルディアは泣きながら、今はボロボロになってしまった、

トラッドネスが作ってくれた小さな白い、ブランコを眺め昔の記憶を思い起こす。



ーーーーーー


あのブランコができる前の....。

そう、まだ私が目を覚ましたての頃....。


[あぁぁぁぁぁぁぁ。]

不安だらけの小さな私も。こんな風に泣き虫だった。


[っさいなぁ。]

ラッドは、そんな私に何時も手を焼いて居た。


[今度は何言われたんだ?]


[お前みたいな化け物には、

遊び相手は居ないだろうって言われたわ。近づくなとも。]

その時、泣き止まない私にこのブランコを作ってくれて。

でも、後で、キリに、勝手に村の唯一の水飲み場に遊具なんか作るなって、怒られてた。


[っ。お前。その額。如何した。]

村の人に、化け物だって、石を投げられて、怪我した時も・・・。


[ラッド?如何したのかな?

キリが、村のおばさんに何か言われてるみたい。]

後で、そのおばさんに出会った時に、解ったんだ。

そのおばさんの息子が私に石を投げる様に村の子達にけしかけてた事を知った、

ラッドは私に、知られない所で石を投げてきた少年と

その親に私に対し二度と手を出さない様に言ってくれた事。


そして・・・。

そして、あの、友情の宝玉を交換した時だって。


[うっ。ひっく。]


[また。泣いてるのか?今日はどうした?]


[皆が・・・。お前達は・・・。化け物だと。酷い。

私だけじゃなくて・・・。ラッドまで。

どうして皆自分とは違う存在を化け物と言うの?

私達だって、ちゃんと話せる。ちゃんと、心はあるし、ちゃんと・・・ちゃんと・・・。

宝玉だって・・・。]


[俺達は。化け物じゃない。だって。]

ラッドは、そう言うと、私の前に雑に座り込んで、

あの印象深い大きな鋭い黒い瞳で私を優しく見つめてくれて更に私に言ったんだ。


[お前は俺の。俺はお前の友情の宝玉を受け取れば、相手は見つかった事になる。]

不思議なことを言うものだと思った。

ミルディアの民ですら、交換したがらない上に、

大量に流したい放題流すこんな涙の宝玉など本当に欲しいと思うものなのだろうかと。


[俺はお前を化け物何て思った事ねぇよ。それじゃ。

駄目なのか?俺が、お前の、唯一人の・・・友って奴になってやるって言ってんだ!

村の奴らが、お前の事を化け物って言っても、俺がそれを否定してやる!何度だってな。

解ったら、泣くな。そんなに宝玉大量に出されたら、俺のだけのじゃなくなるだろう?]

そういうとラッドはその漆黒の涙を流すと宝玉をミルディアの首にかけ辺り一面に散らばって居た、

ミルディアの友情の宝玉の内一つをとると、それを首にかけた。

そして、ミルディアの周りに落ちていた大量の宝玉を全て拾い上げ、

綺麗な巾着に入れると、自らの懐にそれを大切に仕舞った。


[これから、流れた宝玉は全部俺が貰う。その代わり、俺は約束する。

お前を裏切らないって。お前が困ってた時には必ず俺が助けてやる。

お前がどんな奴でも俺がお前を受け入れてやる。化け物?そんなの関係ねぇよ。

そして何よりミルディア・・・俺はお前よりも先に、死んだりしない。

だからその代わりお前は、一つだけ約束しろ・・。]


「・・・・ルーティ。やっぱり私ラッドは死んでないって思う。」

現在の自分をなだめすかしているルーティに消え入りそうな声で言うミルディア。


「ミルディア?」


「ラッドは私に約束したんだ。

私も約束した.....。」


そう言うと、ミルディアは、涙を拭い、走り出す。


「何処へ行くって言うの!?

ミルティ!ミルティったら!もう、傍に居たのは僕なのに。

ミルティの頭の中にはいつも・・・。」


訓練場へと向かうとミルディアは瞳を閉じて、

再び、その深い、深い緑色の瞳を開き、弓と更に近くにあった、

使われていないボロボロの剣を取り、

次に自分の家の中に入り樹ノ国の特別な獣の毛で作られた、カクギナ(樹の国名産の布)の毛布。

そして、食料と水を持てるだけ持つと村の入口へと向かう。


砂漠は既に夜と化し、辺りは息が白くなるほど寒くなって居たが、

日中の光の照り返しがまだ残っているせいなのか、砂の暑さだけはまだ残って居る為、

そこからは、微かに、蒸気が出ている。

そんな砂を踏みしめながら、あの、トラッドネスとの約束をゆっくりと頭の中と心の中で、

まるで目の前にトラッドネスが居るかのように、思い出す。


[だからその代わりお前は、一つだけ約束しろ・・。

俺がもし、お前の前から消えたなら。

探しに来い。きっと俺は、帰り道がなくて迷って居るだけだ。

絶対に俺はお前を置いて、死んだりしてねぇから。だから、ちゃんとお前が迎えに来いよ。]


【・・・ちゃんとお前が迎えに来いよ。】


「私が、約束を守る限り、貴方は私との約束を守ってくれる。そう信じてるから。」


入口付近へと向かう最中、キリの姿がそこにはあった。


「やっぱり・・・確かめに行くのか。」


「キリ。私・・・。ラッドと・・・。

トラッドネスと約束したの。トラッドネスは私との約束を、破る様な。

そんな事、しない。だから、私も、約束を破ったり出来ない。」


「お前は、解って居ない。今は、樹ノ国と金ノ国は休戦中だがまた戦が起きる。

あいつの遺体が見つかるかどうか「遺体を見つけに行くんじゃない。」

ミルディア、は、キリの言葉に被せる様に優しくその言葉を、言う。


「彼を迎えに行くの。「現実を受け入れろ。」

今度はキリがミルディアの言葉に対して、今度はキリが、ミルディアの言葉に対して被せる様に返した。


「あいつは!死んだんだ!それなのに、お前まで村を出て

あんな人ならざる者達が血で血を洗う、

恐ろしい所に行く事を。あいつが望むと思うか?

何時もどんな思いで、お前と一年に一度会って居るか、

どんな思いで、別れているか。知っても尚、お前はこの村を出ると言うのか。」

キリは悲しそうな表情で、ミルディアを見つめるが、

ミルディアの眼差しは、一向に変わらなかった。


「お前まで。お前まで、死んでしまったら、俺は死んだあいつに‼」

キリのその言葉で、ミルディアは、キリに言った。


「キリ。私達を・・・本当の子の様に愛して大切に思ってくれてありがとう。

だからこそ、私、兄妹の様に一緒に育ってきたラッドの死を受け入れられないの。

どうしてもラッドが私を、置いて行くなんて、考えられない。だから・・・。だから。」

その言葉にキリは険しい顔をしながらも、

ミルディアを見つめ、しばらく沈黙が走るが、やがて一つため息をつき、四色の鍵を手渡す。


「これ・・・は?」

ミルディアは、それを見つめながら、首をかしげる。


「それが、絶対に必要になる時が来る。

必ず肌身、離さず持っておけ。

良いね。どんな結果になっても、どんな選択肢があったとしても。

君自身で選べ。他人の事なんて考えなくて良い。

逃げたい時はちゃんと逃げろ。良いね?」

途中から、何時ものキリとは違う、別の誰かが私に語り掛けて来る様な言い方をしながら、

キリは優しく問いかけた。


「私は・・・彼を助ける為なら。どんな事だってする。」


「君は・・・解ってないだけだ。まぁ・・・当然か。

早く行け。でないと、フェミナーガへの各大陸へ渡る川が、干上がって何処の国にも行けなくなる。

正直、二つの国が休戦する理由もそれだからね。あぁ。それと。

そこでさっきから話を聞いて居る。やつも・・・・。」

そう言いながら、ミルディアの肩越しの柱の影を見つめる。


「一緒に行くなら早く出て来い。ルーティ=ザン。」


「あっ、あはは、やっぱり見つかっちゃいましたかぁ。

もうキリはまるで神様みたいなんだから。」


「お前は、頭が良いが身のこなしが兵士向きではない。

身を隠すならもう少し身を軽くしろ。その恰好・・・。」

キリは飽きれた表情でルーティを見つめる。


その恰好と言うのは、片方のベルトには双眼鏡。

片方のベルトには望遠鏡を吊り下げて、

リュックは彼が三人分は入りそうな程に、パンパンだ。

最早背負って居るリュックの、重さで肩ベルトが引き千切れそうな程だ。

逆にそれ個体だけで、ある種の武器になるだろう。


「どう考えたって、長旅向きではない。」

キリがそう言うと、ルーティはそれに対し反論する。


「こっ、これでも!荷物を減らしたんだ!

でも、旅行中肌荒れだけは嫌だ!「お前は女か‼」

キリは大荷物を抱えているルーティに突っ込みを入れる。


「なんで男のお前がそんな大荷物で、

女のミルディアが弓と剣と少量の食料だけなんだ!

どう考えたっておかしいだろうが!

ミルディア、お前もお前だ。もう少し女らしさをだな。」

キリは、ミルディアに対して、呆れながら、言うが、ミルディアは、ルーティとは真逆の考えで・・・。


「えっと・・・。トラッドネスの事だけ考えてたら、こんなになっちゃって。

私髪はこんなだし、これ以上手入れしてもどうにもならないかなって・・・。

「お前・・・それで良いのか?」

それに対し、キリは、更に呆れ返る。


「お前達と一緒にいると本当におかしくなりそうだ。さっさと行ってしまえ!」

そういうと、キリはひらひらと手を振りその場を後にした。


「行っちゃったね。僕らも行こう。」


「うん。」


迎えに行くから・・・。


待って居て、トラッドネス。



ーーーーーー



「所で・・・ルーティ・・・本当にその荷物の量で行く気?」


「あったりまえ!ミルディアにもちゃんと肌のケアをしないとって思って

僕お手製の化粧持ってきたんだぁ。」


「えっと・・・。それってもしかして、やっぱり。」

ミルディアは、苦笑しながらルーティを見ると、

大きなリュックの外ポケットから、試験管を取り出し、緑や黄色に光る毒々しい液体を見せる。


「ううん。やっぱり。そう来るんだね。」


「これは、自分で試して効果があった物だから安心して?」


「何だか、本当にルーティが女性に見えてくる。」


「なっ僕はれっきとした男だ!

ただ・・・ミルディアが、僕を意識してないだけで・・・。」


「え?ごめん。何か言った?」

ミルディアは殆ど最後まで話を聞かずに既にかなり前に進んでいた。


「ま、まってよぉぉぉ‼」

ルーティは、少し砂に足を取られながらも、ミルディアの後を追うのだった。



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