episode3.悲しみの始まり
「あとは、この金の楔を、首飾りから、
腕飾りぐらいになる様にして・・・。出来た!」
そう言いながら、トラッドネスが帰ってくるまでに仕上げられた事を喜ぶ、ミルディアは、
今度は、早く帰って来ないかなと、ソワソワし始め、部屋の中を行ったり来たりし始める。
「ミルディア!トラッドネスが帰って来た様だよ!
商人達が次々に村の入口に帰ってきてる!
トラッドネスとキリの二人組もきっともうすぐ入口に!早く、早く!」
ルーティは態々呼びに来てくれ、ルーティのその言葉に、
ミルディアは、作った腕飾りを持ち、トラッドネスとキリの通る入口で二人を待った。
ミルディアは、文字通り首を長くし、
トラッドネスの姿を探すが、未だに、現れない。
最初は、ある程度の商人達が、傷だらけになりながらも、
帰って来ては、迎えに出て居た家族が、
無事に帰ってきた喜びをかみしめる様に抱き付き、その無事を噛締めて居た。
「それにしても、今回帰って来る商人の数、少ないと思わない?」
ルーティの何気ない一言に対し、ミルディアは、少しだけ不安に思う。
そして、家族が再会し合う、その姿も徐々に少なくなって行く中で、
何時自分にもその瞬間が訪れるのかと、心待ちにして居たが、
結局最後は誰一人として、居なくなってしまい、
それでも、入口にある大きな柱にもたれ掛かりながら、
俯いて、ずっと、待って居るミルディアの姿をルーティは、そろそろ止めたくなる。
「ミルディア・・・あの・・。あのね・・。」
けれど、なんと言って止めて良いのか、解らずに居た。
「きっと。先に中に入ってしまったのよ。」
ルーティが何が言いたいか、何となく解って居たが、
それを言われるのが怖くて、ミルディアはキリの家へと足を向けるのと同時に、
ルーティは、不安げな表情で、ミルディアについていく。
キリの家に付き、あたりを見回すと、キリはやはりそこに居た、
そして、あらゆる国から買い取って来た、物珍しい物資から、
見慣れた物資まで、降ろしている。
「あぁ。良かったね、ミルディア。
どうやら入れ違いになって居たみたいだ。」
ルーティは、ほっとしたように、ミルディアに言うと、
彼女は、満面の笑みを浮かべて頷き、キリに近付いて荷物を降ろしているキリに明るく話しかける。
「キリ。ラッドは?」
トラッドネス達が帰って来ると、ミルディアが言う最初のお決まりのセリフだった。
しかし、いつも聞かれる問いに対しキリは、いつも即答でここに居るだの、お前の家だのと、
答えるというのに、ただ黙々とその荷物を運びこむだけで、答えようとしない。
「えっと・・・。キリ?私。ラッドをさっきから探してるの。見つからなくて・・・。」
キリと言う男は、決して無口な男ではない。
増してや、トラッドネスとミルディアの事となると、
必ず何かしら、からかいながら答えるのが彼だ。
しかし、どうだろう、今日のキリは、あの威厳のある男その者と言うより、
それ以上に近寄りがたい男と言った雰囲気になって居る。
「もしかして、入れ違いになって、私を迎えにこの村の入口にもう一度戻ったのかな?」
そんなキリの、雰囲気に対し、ミルディアは、〝一番言いたくない〟問いは、口にはしなかった。
「・・・私の・・・家?」
けれど、ミルディアの問いに対しても、キリは、反応せず、黙々と只管荷物を運んでいく。
「・・・それとも、水飲み場に直接行ってるの?」
ミルディアも、そのキリの反応にだんだんと不安の色が出て来る。
「長旅だから疲れて居るだろうし、私達の家でもう寝ちゃってるのかな。」
その問いに対しても、やはり何も答えない為に次第に
涙がぽろぽろと流れ、それは友情の宝玉へと変わると、地面に落ちて行く。
「・・・どうして。・・・どうして答えてくれないの?」
そのミルディアの、言葉に、ずっと黙って居たルーティは、
ミルディアの空いて居る手をゆっくりと握ると、
彼女の言いたくないセリフを代わりに言う。
「・・・キリ。トラッドネスに。
トラッドネスに・・・何か・・・あったの?」
ミルディアは、持って居た、トラッドネスへのプレゼントをぎゅっと握りしめる。
「良いから、荷物を中へ、そして、私の家へ入りなさい。それから話そう。」
「キリ?おかしいよ。どうしてそんな不安を抱かせるような事。
ミルディアが可哀そうだろう?それじゃあまるで・・・。
まるで、トラッドネスに何かあったみたいじゃないか!」
ルーティのその言葉に、ルーティが握ってくれている手に、
僅かに力が入り、その、深い、深い緑色の瞳は揺らぐミルディア。
そんな、ミルディアの瞳を見つめた後に、
手に握って居る装飾品を眉間に皺を寄せながら見つめるキリは、
作業を止めると、沈んだように、二人に言った。
「二人共・・・中へ入りなさい。」
キリのその言葉で、ルーティは少なくともトラッドネスは良い事には巻き込まれておらず
ここには帰ってきていないということは、考察できた。
ただ、おそらくミルディアもそれは頭では分かって居るんじゃないかと思うと
いつもは楽観的に考えられる頭でも彼女の事を思うと心が締め付けられる。
「ミルティ。とりあえず行こう。トラッドネスに何があったのか、話を、聞かなきゃ。」
ルーティは、泣いて居るミルディアの宝玉を全て拾い集めると、
ミルディアの手を引き、キリの家の中へと足を進め、
ミルディアも、それを拒む事は無かった。




