episode20.記憶喪失-静咲の焦りとギルラスの秘密ー
「ギルラス!居るのだろう⁉」
静咲は、息せき切って、ギルラスの居る場所を匂いで嗅ぎ当てると、
その場所に足早に出向いては、辺りに怒鳴り散らしていた。
「・・・。ミルディアの事で来たのかい?」
林の奥の方から、ゆっくりと姿を現した、
ギルラスのその言葉は、何処か含みがあった。
「知って居るなら!助けろ!」
掴みかかりながら、その鋭い牙をむき出しにし、
怒り狂いながら、ギルラスに言う静咲だが、
ギルラスのその表情も、静咲に負けず、劣らず、怒り狂って居た。
「お前・・・。その前に、彼女が、〝何故そうなったのか〟は考えないのか。」
「何⁉」
更に、掴みかかる、静咲に対し、その手を力強く跳ねのける。
その力強さは、何時ものやられてばかりのギルラスでは無かった為に、
静咲の身体はギルラスの居場所から遠くへと飛ばされて行く。
しかし、静咲も、そのまま華麗に着地すると、ギルラスを睨みつける。
「何が言いたい?」
「ミルディアは、我々の瞳孔の呪いが効き辛い事をお前は知って居る筈。
だから、あの時・・・。」
ギルラスは、そう言いながら、〝あの時〟を想い出す。
[ルーティ。あの・・・私。[出てけよ。]
[取り合えず、ミルティと話がしたい。お前ら・・・出てけよ。]
「ルーティが出ていけと言った、あの時・・・。」
[私は出て行かぬっ![ほぉら、行くよぉ。我が愛しの愚仙弟。]
「無理やり、お前を部屋から連れ出した後。」
[何故。ちょ、放せ![はいはい。行こうねぇ。]
「私は、お前に提案した。あの瞬間に・・・。お前は・・・。」
[ルーティは、恐らく、ミルディアをこの国から連れ出そうとするだろう。]
[何だと⁈ならば、何故、部屋から連れ出した、今すぐ止めに!]
[まて、今止めた所で、ルーティは、次に別の方法で、
ミルディアを抜け出させようとするだろう。]
[何故?]
静咲は、眉を顰め、ギルラスに問う。
[ミルディアには、旅の目的があるからだ。]
ギルラスのその言葉に、静咲は、黙り込む。
それは、明らかに、トラッドネスと言う男の事だと解って居たからで、
胸の奥底が、もやもやとし、何か、沸々と湧き上がってくるものを感じたからで、
その感覚は今まで感じた事が無かったもので、静咲は、それが、気持ちが悪く思えた。
[とにかくどうだって良い。この気持ちの悪い胸の奥底の何かが解消されるなら、
どんな手でも使ってやる。]
静咲のその言葉に、一瞬目を丸くするが、すぐにそれは真剣な表情へと変わる。
[ならば、今は、やれる事は一つしかない。
ミルディアを、旅立たせようとしている、その記憶自体を曖昧な物にしてしまえば良い。]
[ならば、お前の聖天水を使うしかないと言う事だな。]
「あぁ言ったのだろう?
瞳孔の呪いが効かないと知って居たから・・・。
私の聖天水を・・・。この・・・。樹天仙が飲めば輪廻転生が望めぬ身体に。
人間が飲めば、記憶を操る事の出来る妙薬になる物を、
お前は、確実に効くように何時もの千倍に濃くして飲ませたのだろう?」
「ふん。よくもまぁ。つらつらと。」
静咲は、不敵に微笑み、それと同時に、周りの空気は、殺気に満ちて居て、一つ風が吹くだけで、二人の頬を切り裂くのでは無いかと言わんばかりだった。
「お前こそ・・・。実に〝突然の事〟にしては、〝用意周到〟だったな。」
静咲の言葉に、ギルラスの眉が僅かに動く。
「私は、ミルディアの武器を全て取り上げて居た。
だが、ルーティと共に樹ノ国の入口付近に差し掛かって居る時は、
何故か、ミルディアは、その武器を全て所持していた。
何者かが、私が隠して居た場所から密かに盗み出し、
ルーティに手渡したとしか考えられぬ。
それが出来るのは、あの場所を提供した貴様だけだ。
それだけでは無い。武器を提供すると言う事は、
恐らく貴様は、ルーティがミルディアを連れ出す事まで読んで居た筈だ‼
その証拠に!貴様は、本来ならば、5日掛かる調合の貴様の調合された血液の入った薬。
あの場ですぐに出せた。あれは、お前が!既に!
ミルディアが此処に来た時点で、ルーティが少なくとも
ミルディアを連れて逃亡すると言う事が読めて居た事になる!」
静咲が説明する中で、ギルラスは、ゆっくりと、静咲に近付き、静咲の瞳もそれに合わせる様に動く。
「紅将皇の貴様なら出来るだろう。だが、私が不思議に思って居るのは、それだけでは無い!」
その言葉で、ギルラスの足は再び止まり、静咲のその瞳を射貫くように見つめる。
「今この場には本物の貴様は居ないと言う事だ!
それはつまり、本当のお前は既に、ミルディアの危険を感じ取り、
ミルディアが作り出したと思われる迷動樹海へと出向いて居ると言う事だ!
唯の娘一人に、樹天仙はそこまでの力は発揮できぬ。
私でも不可能だ!紅将皇のツキジでも同じ筈!ならば何故だ!」
静咲の言葉に対し、ギルラスは、口が裂けんばかりの微笑みを浮かべ、
その瞳はもっと鋭い瞳で静咲を見つめると、静咲に言う。
「さぁ。何故だと思う?お前・・・。
本当に、解らないで、それを聞いて居るの?それとも・・・。」
そう言いゆっくりと姿が消えながら、その最後の言葉は、まるで辺りに響くように告げられた。
「解って居て、聞いて居るのかい?我が愚仙弟。」
その言葉に、静咲は只管苦虫を嚙み潰したような表情をして居たのだった。




