episode16.静咲の嫉妬
「そうだったね。君は、この力は元々、効きにくい体質だったね。」
ミルディアが泣き止み宝玉を一緒にひろい集めながら、
ギルラスはミルディアに言うとミルディアの動きが止まる。
「?どうしたの?」
動きが止まった事にギルラスは不思議に思いミルディアの顔を覗き込む。
ミルディアの顔は悲しそうだった。
「さっきから思ってたんですが、ギルラスさんの言い方、
まるでミルディアの民と言うより私、個人を知って居る様な言い方ですね。」
「あっ、当り前じゃないか。既に君の事は、
王伝いで、樹天仙全てに伝わって居るよ。」
あっさりとそう言われ、そうか、それで、こんなにも、
私の事を知っているのかと、素直に納得するミルディアだったが、
ギルラスは、何処か、苦笑していた。
「・・・・君。本当に異常なの?」
ギルラスのその言葉に、ふと、宝玉を拾う手を止める。
「どう・・・して。」
ミルディアが、そう言いながら、ギルラスをゆっくりと見つめると、
ギルラスは、その鋭い爪で、ミルディアの胸元を指示しながら、言う。
「ずっと、ここで叫んでいるでしょう?」
「それ・・・は。」
言葉に詰まるミルディアに、ギルラスは、ガッシリと、顔を掴むなり、自らの顔を近づける。
「どれどれぇぇ「ちょっ!」
ギルラスはミルディアの頬をつねりながらじろじろと上から下までその赤い瞳で見つめ微笑む。
「ううん。何処からどぉぉみても。女の子なんだけど。」
「ギルラスさん!「君は、異常じゃないよ。」
ミルディアが怒ろうとした瞬間ギルラスは、薄く微笑む。
「異常って言うのはね。怪物って事。解る?
怪物って言うのは、心の中がって意味。
そうでないならば君は異常でないって事さ。
それに、異常って言うなら・・・俺達樹天仙の方がよっぽど異常だよ。」
[不気味って。そんなこと言ってたら、私達種族の能力の方が余程不気味だと私は思うよ。]
「そう言えば、静咲さんも同じような事言ってました。
私はそんな風には思わないです。
それは、多少なり、最初は見た目は怖いって思いましたけど、
でも、それは私が外界を訪れたのが初めてだからで・・・。」
ギルラスは、そう言われ、満面の笑みを浮かべ、心から、喜んだ。
「そうだね。では、今は怖いと思わないんだね。
あはは、俺なんかは別として、少なくとも、静咲はっ⁉」
そう言うと、ミルディアは、ギルラスの、額を弾きながら言う。
「ほらまた‼」
「静咲さんは静咲さん。ギルラスさんはギルラスさんです!
なのに、何で、何かが付くんですか!
それに、笑う事は、良い事だけど・・・貴方のその微笑み、
時々、何て言うか、諦めてると言うか、投げやりと言うか。
今の笑い方はとりあえず、あの、庭で会った時の美しいなって思う笑いじゃない気がします。
自分なんてどうでもいい、どうせ自分なんてって微笑み。どうしてそんな顔をするんですか?」
その言葉に心を見抜かれたと言わんばかりに驚きの表情を浮かべるギルラス。
「可笑しな子だね。君は。俺は君達を引き裂こうとあの辺りをうろついて居たって言うのに。」
微笑んではいるがその瞳には白い聖天水を浮かべているギルラス。
「やりたくない事を、やれと言われて居るのに、
それを責められる訳が無いでしょう?」
後ろに手を回しながら、再び、首を少しだけ傾けるミルディア。
「・・・・ねぇ。やっぱりミルディア。君・・・さっ⁉」
ギルラスは、何かに気付き、とっさに、よけると同時に、
ミルディアの肩越しに、突風が吹き、それは、ギルラスの頬を霞めた。
すると、ギルラスの頬からは、ゆっくりと白い液体が流れて来るのがミルディアの目に留まる。
「ギルラスさん?怪我を⁈」
「ミルディア。探したよ。」
後ろから、声が聞こえ、振り返ると、静咲が居た。
けれど、その顔、その瞳はミルディアの知る静咲ではなく、
深い群青色の瞳を青く熱せられた閃光の様に輝かせて明らかに怒りを露わにしている。
「どうして?どうして、逃げようとするの?私が、化け物だと知ったから?」
静咲の瞳からは、透明な樹血が流れていた。
「違う。私逃げようとしたのではなくて。」
「では、何で?何で、腐天仙と一緒にこんな廃天所にうろついて居るの?
もしかして・・・。そいつが、毒を吐いたの?」
静咲はそう言いながら、ギルラスをその冷たい目で睨む。
「ねぇ。静咲違うよ。私。違う。私は貴方を探して居て。」
「では、私の所に、真っ先に来ればいい。何故?何故こんな奴について行くの?」
ミルディアを、責める様に詰め寄る。
「何故。どうしてと・・・。まるで駄々をこねる子供の様だね。静咲。」
それに対し、再びギルラスに目を向ける静咲の目は、不機嫌極まり無かった。
「おっと。そんな顔。見たの、初めてかも。
まさかお前、本当に、求愛の儀式を最後までやるつもりなの?」
ギルラスは、最初は面白そうに、そう言うが、そんなギルラスに対し、
曇りのない瞳で、見つめる静咲を見るうちに、
ギルラスのからかう表情は次第に、真剣な表情へ変わって行く。
「おいでミルディア。」
静咲は、ギルラスにそれ以上何も告げず、
ミルディアの手首を優しく掴むと、ゆっくりとその手首を引く。
「静咲。待つんだ。」
ギルラスの真剣な声は、ミルディアと静咲の背中に響き、
ミルディアの足を止めるには十分だった。
けれど、静咲は、止まろうとしなかった為に、
ミルディアは、少しだけ前のめりになる。
それに気付き、それを受け止める為に、静咲はやっと足を止めると、ミルディアに一言言う。
「ここの道を真っ直ぐ行って、突き当りを右に曲がると直ぐに、霧が出る。
そなたの思うままに、歩くと、あの木の家がある場所に付くから、先に行って待って居て。」
「でも!「お願い。ミルディア。言う事を聞いて。」
静咲に対し口答えをしようとするが、静咲は、それを言葉で塞ぐ。
ミルディアは、どうしても、静咲が悲しい様な、けれど、殺気だっている様な、
まるで、冷たいナイフの様に見えて、放っておけず、中々立ち去れないでいた。
「ミルディア。大丈夫だから。」
そんなミルディアの不安が静咲に伝わったのか、ため息を付くと、
その纏っていた冷たいナイフの様な雰囲気は無くなり、
少し安心すると、ゆっくりと頷き、その場を後にした。
ミルディアが、立ち去ったのを、最後まで見送った静咲は、
先程の冷たいナイフの様な表情を浮かべ、ギルラスを見つめる。
そんな静咲に対し、ギルラスは、ため息を一つはき告げた。
「なぁ。静咲。ミルディアは。本当に、麗しい娘だ。
この世の美しい物など、ミルディアには要らない程だと、私は思う。
だからこそだ。だからこそ・・・。お前・・・。あの娘に情があるならば、これ以上構ってやるな。
互いの為にも。私が、忘れさせてやるから。死なせたりしないから。」
そう言うギルラスに対し、その瞳はあの、怒りに満ちた青い光を放ちギルラスを見つめて、
静咲はその想い口を開いた。
「ギルラス。お前は私の事をよく知って居る。
誰よりも何よりも、だから私はお前が・・・・。」
言葉を溜めた後に、それは協調される。
「殺してやりたい程憎いよ。」
それは、静かな森の中で一際強調され更に静咲は言葉を続ける。
「そんなお前だからこそきっと、私を理解して居ると思うが・・・。
私はミルディアを・・・もう・・・手放す気はない。」
「静咲⁉お前・・・まさか‼」
ギルラスの驚き様に、静咲は俯き苦笑する。
「覚悟は最初から決めていた。ただ時を見ているだけだ。
私の覚悟が決まって居ても・・・。あの者が決まって居なければ・・・
結局私は廃天所にミルディアは魂と身体をデイガーディアンに奪われる。
そう、私の・・・覚悟だけでは・・・無理なのだ。」
そう言って、その場を後にする。
「静咲・・・。それだけでは無い。
お前達が超えないといけないのはそれだけでは無い。
彼女は・・・不死ではないんだぞ?
静咲。彼女が死んだら、輪廻でも、この世でもどこでも来世ですらも・・・もう会えない。
お前は・・・これから長く生きる中のこの僅かなる愛に身を焦がすと言うのか?
お前が一番忌み嫌って居た一番壊れやすい者その最たる者だ。お前も、私の様に成りたいと?」
ーーーーーーー
ミルディアは静咲よりも、一足先に、森の中の家に帰って居たが、
考え事で頭がいっぱいで、出たり入ったりを繰り返していた。
私の旅の目的は、ラッドを探す事だった筈なのに、何でこんな事になっちゃったんだろう。
ギルラスは、静咲は、私を愛して居ると言って居たけれど、本当だろうか。
もし本当だったら、どうしたら良いのだろうか。
ギルラスもギルラスで、私を求愛の相手に死体だなんて、
樹天仙は、恋に身を焦がす事にも弱いって言われて居るのに、
そんなリスクを冒してまで、私に価値はあるのだろうか。
からかわれて居るのでは?
それなら、いっそう、逃げてしまった方が・・・。
ミルディアは、頭の中でぐるぐるとそんな事を考えて居たが、
どうしても、トラッドネスの事だけでなく、
ふと、あの冷たいナイフの様な表情の静咲が過り、胸が苦しくなる。
《貴女様が願い、望み、諦めた物は何ですか?》
頭の中に誰かの声が木霊する。
「頭が・・・痛い。」
静咲の事を考えると、如何してこんなにも苦しくなるんだろう。
しばらくして、静咲も、森の中の家近くに戻ってきていた。
ふと見上げると、水硝子で作られた窓は開けられて、
そこから、ミルディアが外を眺めて居るのが見え、その顔をじっと見つめる。
「何を。悩んで居るのだろうか。」
ミルディアは、此方には、全く気付かず、
光も、何もない、少し暗くなった群青色の空をじっと見つめ頬杖を付いていた。
彼女の考えが解らない。
「この国を出ようとして居たのだろうか。」
そんなまさか。旅の共を置いて出る訳が無い。
「そう言えば、彼女は、何故この国に入ってきたのだろうか。」
私は・・・。私は、彼女の事を何も知らない。
こんなにも、こんなにも、彼女の事を考えているのに、
私は、彼女と言う人物の事を何も知らない。
普通なら、あの時、初めて、彼女を治療した時に、
共に眠った瞬間に、彼女の記憶も流れ込んでくる筈だった。
けれど、見えた物は・・・。
「泣いて居る彼女と思わしき女人の姿。」
地面は彼女が泣いた事により、
まるで池の様に彼女を中心に広がって居た。
時折、悲しく落ちる雫の音色は、
静けさの中に広がる空間には十分な程に響いた。
その女人は、今のミルディアよりも、髪が自分の様に、
地面に届く程に長く、嘗て、書物に書かれていた丸い月の様に、
美しい白銀とこの、樹ノ国の豊かな緑の様な鮮やかな緑色の斑の髪で、
その一本一本は朝露に濡れているかの様に美しかった。
容姿も何処か、ミルディアよりも大人の女性に思えたが、
何故か、それがミルディアな気がしてならなかった。
《セラフ・・・。如何か、こんな事・・。止めて。》
大人のミルディアは、そう言いながら、ずっと泣き続ける。
セラフとは誰なのだろうか。
記憶の中の彼女に近付こうとしたら・・・。
《お聞きしたい事が。》
頭に声が・・・響いて来ていた。
それは、まるで自分の内側から聞こえて来るようだった。
《貴女が、願い、望み、諦めた物は何ですか!》
泣いて居る彼女を見つめると、泣いて居る彼女と目が合っていた。
《ごめんなさい。ごめんなさい。私のせいなの。全て、私のせい。ごめんなさい。》
泣いていた、大人のミルディアは、そう言いながら、
少しずつ消えて行き、まるで、消えた後ですらも、
ずっと泣き続けて居るかの様に、悲しい涙の雫が落ちる音は止む事は無かった。
再び、頬杖を付き空を見上げているミルディアを見つめる。
あの時見た物が、彼女の記憶だとしたら、
何故、自分にもまるで記憶があるかの様に、
まるで、ミルディアの記憶の中を知っているかの様に、
私は、こんなにも切なく、ずっと、ずっと、
待ち焦がれた片割れが目の前に現れた様な嬉しさを感じそれと共に、
他の樹天仙の男や、私の知らない誰かを想うミルディアに対し、
こんなにも気持ちが落ち着かないのだろうか。
「っ⁉」
静咲は、ふと、目を丸くする。
それは、頬杖を付いて居た、ミルディアの瞳から、
ゆっくりと涙が流れ、それは、整えられた、地面の草花に落ちる。
すると、それを中心に、地面が虹色に輝きながら、波紋の様に広がる。
それは、ミルディアが、涙を流すたびに起きる。
すると、そこから、新たな花が咲き、その花は静咲が今まで見た事のない植物だった。
それは、悲しい光景の筈なのに、美しくも思えた、静咲だったが、
どうしても、今のミルディアを見て、胸が締め付けられ、
力一杯に抱きしめて、泣き止むまで言葉をかけたいと、思ったけれど、
自分には、その言葉が何もない事に、唯口惜しさを覚えていた。
ミルディアは、泣きながら、地面が光って居る事に気付き、
ふと真下を見ると、今まで見た事の無い光景に目を疑った。
「綺麗。」
ミルディアは、そう言いながら、更に思った。
この光景。ラッドと見れたら。ラッド何て言うかな。
きっと、綺麗って言葉じゃなくて、もっとましな、まるで何々みたいだとか、
外界の色んな物に例えて表現するんだろうな。
そう思うと、トラッドネスに、会いたくてたまらなくなり、ますます、泣きべそをかく。
「トラッドネス!どうして?私。頑張ってるのに。
頑張ってるのに、どうして、何処にも居ないの?」
胸元にしまっていた、トラッドネスの黒い友情の宝玉を取り出し、
まるで、トラッドネスに話しかける様に、涙を流し続ける。
「ラッド。静咲を見てると・・・。私、心がきゅっとなって、あの横顔を見て居ると、
何処か懐かしくなってしまうの。」
再び涙を流し、それは、トラッドネスの漆黒の宝玉に落ちる。
「だから、落ち着かないの。ギルラスさんに言った事は半分は嘘。
誘惑されそうだなんて、思ってない。
本当は・・・。本当は、あの、まるで銀のナイフの様な表情を見るたびに、
何とかしてあげたいと思う。放っておけないって思うの。
銀のナイフの様てもあると、同時に、に、薄い硝子にも思えて・・・。
何かの拍子に、簡単に壊れてしまいそうで・・・。
どれ程の想いをしたら、どれ程の辛い経験をしたら、
あんなふうに・・・あんなに、きっと想像も出来ない様な想いをしたのだと思うと・・・。」
それなのに、彼は、何時も私を助けてくれる
それは、何故?
「私が求愛の儀式の相手だから?」
それとも・・・。
「私を、本当に・・・。」
愛して居るから?




