#20 夏の終わりに君との逢瀬を
あれから俺の都合や真恋の都合、さらにはバイトやお金の都合などが組み合わさった結果、あまり時間が工面できなかった。
真恋と会えたのは2回程度ファストフード店やいつものゲーセンで格ゲーについてや、課題の進捗と参考書の進め方などを話す程度に収まっていた。
そして今は8月31日、夏休み最終日になってしまっている。
9月が来ようとしているのだが、太陽は一切手を抜くことなく地面を焼いている。
「暑すぎませんか…?もう暦の上だととっくに秋ですよ?」
「毎年だけど堪えるよなあ…11月くらいまで暑いからな」
特にこの県の9月はむしろ湿度が上がるから更に暑く感じるまである。
「せっかく買った秋ものが使えなかったら、どうしてくれるんですか地球さん…」
「地球も迷惑してる側なんじゃないか?」
「そうかもですね…そういえば才人くん日傘からはみ出てません?もうちょっとそっち側にしても大丈夫ですよ」
「いや、俺こそ大丈夫だからな?暑すぎるから日傘借りてるようなもんだし」
真恋の持参した日傘に二人で入りながら田んぼだらけの道を進んでいく。
目指しているのは、何個か駅を跨いだ市にあるゲームセンター。
駅から30分以上も歩かないといけないのは、汽車から降りたときに気づいた。
そこそこ大きくプライズなども多いが、特徴としては2階が音ゲーなども含めたビデオゲーム専門になっていて、最新からレトロまで幅広く置いてある。……と、公式サイトに書いてあった。
「国道から見かけたことはありましたが、入るのは初めてですね」
「腹ごしらえしたら、早速行ってみるか」
「そうですね、飲食店が近くにあって助かりました」
回転寿司屋も道すがらあったのだが、財布が軽かったので辞退した。
そうして入った牛丼チェーン店で文明の利器の力を存分に感じつつ目の前の丼に手を合わせる。
「ていうか、お金無いならいつものゲーセンでもよかったんですよ?」
「いや、俺もこの市のゲーセンは1回しか来たことないし、夏休み終わったらなかなか行けないと思って…」
「まあ、そうでしょうね。土日で来るのはしんどいと思います」
ネギトロ丼を丁寧に食べながら、真恋は分析する。
「国道近くではあるので車ならそこまでなんでしょうけど」
「ちょっと駅が遠すぎるよなあ」
俺は高菜明太牛丼を注文した。たまに気道に明太が入ってくる以外はとても好きな味だ。
「今は平日昼だから居ないだろうけど、夜だと社会人の人が結構対戦してるゲーセンらしいんだよな」
「人の多いはずのアーケード街のゲーセンは、なんであんなに対戦人口がいないんでしょうか」
「多分、人が多いからだな。ゲーム好きじゃない人の割合が多いなら、プライズで稼ぐほうがいい」
「あーそうですね、対戦ゲームまでやる人は少ないでしょうし」
俺たちのいつも使ってるゲーセンだって電気代の元は取れていないだろうから、いつ撤去されてもおかしくない。
なかなか世知辛いな。
「そういえば、この夏、一緒にアレ行けませんでしたね」
「アレ?」
「海水浴ですよ」
しれっと言い放った真恋に箸を落としそうになるが、なんとか平静を装い答える。
「一緒にて。別に常田さん達と行けばよかっただろう」
「まあ、そうなんですよね。そもそも私は海水浴場とかだと目立つのであまり行きませんし」
「それはまあ、そうだろう」
ならなんで聞いてきたんだ。
「しかし考えても見てください」
何故か芝居かかった口調と、手振りで何かを主張し始める。
「夏休み中に10回以上も逢瀬を重ね、夏祭りまで一緒に行った男女ですよ!」
「真恋、お冷いる?」
「あ、お願いします」
無くなっていた真恋のお冷を継ぎ足しながら見守る。
「これで海やプールに行って互いの肌を見てワーキャーしてない!逆におかしくないですか!?」
「そうかな……?」
「いやまあ、この前亜季ちゃんにどこまで関係進んでるか聞かれたので素直に答えたら、こんな感じで引かれたし、そのテンションに私も引いたんですけど」
常田さんは一体何を言っているんだ…別にウマが合うから遊んでるだけだしなぁ。勝手に推察して勝手に引かれても困る。
「海かプール…嫌だな…身体に自信無いし、傷あるしな」
「私も、装具外せないですからね」
そう言いながら、装具付きの左足を右足で器用に押してこちらの足を突っついてくる。
硬いから意外と痛いんだが。
それはあしらいつつ、それなりに気になっていることを聞いてみるか。
「泳ぎはどうなんだ?」
「割と泳げますよ、速くはないですけど。リハビリで院内のプール使ったりしますし、市民プールにも昔はたまに行ってました」
「へえ、思ったより泳ぎ慣れしてるんだな」
「そこの人たちは、私に慣れてたのであまり気にせず泳げてました」
サラッとだが、過去形なのに引っかかってしまう。
おそらく中学以前は泳ぎに行っていたんだろうな。
「私のことより、才人くんはどうなんですか?泳げますか?」
「授業で困らんくらいには。具体的には中間くらいのタイムだな」
大体何でも中途半端にしておけば自分のランクになる。
「全然いいじゃないですか。一緒に行っても安心ですね」
「そこの話は継続なんだな」
「あなたと行くのが、たぶん一番楽なんですもん」
真恋はあぐっと少なめの量のネギトロを口に収めながら、こともなげに男女で泳ぎに行く話を続ける。
……意味が分からん。多分で一番を語るなよ。
「説明いらないし、大体趣味合いますし」
ああ、なるほど。察して動ける人間が欲しいのか。
「あ、でも私も了承したとはいえ、今日の歩きはキツかったです」
「それはすまんが、帰りもあるぞ」
「うー、おぶってください」
「断る」
「ちぇっ、仕方ないですね…」
当たり前だろう。あんまりならタクシー取るけど、真恋がなんなら俺より体力あるのは良く知っている。
「さて、そろそろ出るか」
「はい、ごちそうさまでした」
昼飯を食べた後、やっと本日のメインであるゲーセンへと足を踏み入れた。
「やっぱり一階はプライズなんですねぇ」
「まあそれはそうだろ。俺達が用事あるのは、二階だな」
二階は見慣れたような薄暗さではあるが、いつものゲーセンのただ照明切っているだけのような薄暗さとは違う感じがする。
「おおー、やっぱりちょっと雰囲気違いますね」
「照明を調整してんのかな、画面が見やすく感じるな」
真恋は、少し周りをキョロっと見回している。
ミーアキャットかな?
「それはネズミではないですね。ミーアキャットはプレーリードッグとは遠く、マングースに近いです」
少し落胆したように、ミーアキャットとプレーリードッグの違いを教えてくれた。
いや、やっぱネズミ好きだろ、真恋。
「……あの競馬ゲームって他でも見ますけど、いつでもスーツ姿の人がいますよね」
「俺らにはまだ早い大人の事情があるんだろう…」
競馬ゲームやスロットは、いままでも良く見かけていたのだがいつも社会人ぽい人が数人座っている。
競馬ゲームに関しては、リクライニングのようなものもあるし最初から想定された客層ではあるのだろう。
「あ、ありますね。いつもの格ゲーも、他のも」
「レトロゲーは格ゲーもあるけどベルスクが多いの良いな」
あんまりやらないけれど、ベルスクが多いとレトロゲー大事にしてるゲーセン感が出てる気がする。
「ベルスクってやったことないですねえ。最近も出てるんですか?」
「インディーズやらで細々と。ゲーセンにはもうレトロ以外ほぼ無いのかな?」
「貴重ですね。やってみたいです」
そう言ってきたので、コインを入れて2人プレイで始める。
さて、俺もほとんどやったことないんだけども。
「おわ、レバーで奥行けるのなんか変な感じします」
「確かに独特な感じするなあ。ちなみに、俺もベルスクは知識ないから頼るなよ」
レバーの調子を確かめつつ雑魚と殴り合うが、かなり被弾してしまう。
ベルスクの知識なんて箱壊すのとヒットアンドアウェイが有効なのしか知らんぞ…
「あ!236コマンドで必殺技みたいなの出ますよ!これ連打しましょう」
「あ、ほんとだ。でもやっぱ必殺技は体力消費制なんだなー」
「え!?」
言うが早いか、真恋のキャラが倒れてしまった。遅かったか。
「知ってたなら、先に言ってくれませんかねえ」
「いや、俺もほんとうにほぼ初プレイだから…あ、死んだ」
その後の残機もほぼ良いところなく、普通に一面の中盤ほどで終わってしまった。
「うー…悔しい…悔しいけど楽しい…」
「確かこのゲームではないけど、いつものとこにもベルスク一個あるぞ」
「え?ほんとうですか…?あんなに狭いのに気づいてなかった…」
あそこのは格ゲーの真逆のシューティングとかに挟まれてあるから見えなかったんだな。
俺も真恋にあの場所を侵略される前に、全体見ててやっと気づいたくらいだし。
「うーん。他のゲームも見たいですし、一回離れましょうか。また今度やります」
「割と気に入ってんな」
正直、意外ではある。レトロの悪い面もかなり出てるゲームだと思うんだけど、何が刺さるか分からんもんだ。
「……しっかし、アレですよね」
「なんだよ」
「平日昼間のゲーセンに女連れって、中々良いご身分ですよね」
突然、真顔で繰り出された言葉にわかりやすく絶句をしてしまう。
「……………いや、女側が言うことか?それ?」
それ言うにしても、因縁かけてくる相手が言わないといけないやつだろうに。
しかし、言われてみればすれ違う人の視線がいつものとは、少し違うか?
「……確かにいつもは変な生暖かさとか、真恋の脚とかに視線がきてたけど今日の視線って」
俺だ。……俺に視線が来ている。
あまり気持ちのいいものではないが、内容的にはおそらく、
「値踏みされてる…?」
「あ、多分正解です。こういうところ鋭いから面白くないんですよね〜」
「おまえなあ…まあ気にしても仕方ないモノというのはわかった」
「おお、男らしい。それも多分正解ですよ」
「なんのだよ?」
「なんのでしょうね?」
謎が謎を呼ぶ言い回し。最近の真恋に多い口調だ。
煙に巻くってこういうのを言うのだろうか。いい用例だな。
……なんで一人で国語の勉強してんのかな俺。
「音ゲーって、敷居高く見えますよね」
「なんつうか、一人用のゲームだから逆に近寄りがたいところはあるよな」
同じく2階フロアの音ゲーが並んでいるコーナー。
大衆向けの太鼓叩きゲーは1階にあるのだけれど、こちらはパッと見だとどう遊ぶのかもわからない筐体が並んでいる。
「今日は平日なおかげで人少ないし、どれかやってみましょうか」
「うーんじゃあ、俺これ」
洗濯機のような筐体にコインを入れる。カードを入れるとデータが残せるらしいけど、もちろん持っていないのでそのままスタートだ。
「ん、お?チュートリアルの時点で、ムズいというか…目が滑る」
「目でやるんじゃなくてリズムですよ、リズム」
「簡単に言ってくれるなあ」
そのまま低難易度の曲に挑み、80%ほどの達成度でクリアできたんだけども。
「あ、これ1クレ3曲なのか…」
「ほらほら、頑張れー」
真後ろのベンチから、気の抜けた声援が聞こえる。
「真恋、他のやってても良いんだぞ」
「才人くんが悪戦苦闘してるの見ながらお茶飲むの最高ですよ」
「いい趣味でございますなあ!」
その後も真恋にせがまれて、あらゆる音ゲーのチュートリアルをやって回ることになった。
「いやー満足です。どれも面白そうですね」
「ならやれよ…」
とはいうものの、苦手で避けてたジャンルをいろいろ触れたのは正直楽しい。
こういう機会でもないとやらないからなぁ。
「じゃあ、下で太鼓やりましょう。私アレだけは少しできるんですよ」
「あ、お前!できる音ゲーあるのにわざと黙ってやがったな!」
「アハハ!じゃあ見せつけてやるとしますか!」
その後、多少の高難易度くらいならクリアできる真恋の腕に驚いたり、コインゲームに引き寄せられるなどして夏休み最終日の「逢瀬」とやらは駆け抜けていった。
「夏休みも終わりか」
「楽しい楽しい学校生活の再開ですよ」
「まあ、嫌いではないけどさ」
「あら?あなたは休みたい〜って駄々こねる方かと」
「こねるかよ…課題も終わってるしな。それに…」
「それに?」
「なんやかんやで、なんか苦労してるほうが気が楽だからな」
「うーん。わかんない感覚ですね」
まあそうだろう。自分でもズレている感覚はある。
「流されつつ、適度にやることこなしつつ、適当に過ごす日々がまた始まるってことだな」
「そこに私をひとつまみ」
「強烈そうな隠し味だな」
この夏は、真恋と出会って始まって、終わりも真恋といたことになるのか。
……確かに、良いご身分なのかもしれないな。




