雑念まみれの僕と光の中の君
じゃあ、明日でいいか。という浅はかな言動を恨みつつ、家に帰ってきた俺は一目散に自分の部屋に入る。
「とりあえず持ってる服の確認を…」
片端からタンスを開け夏服をとにかく並べる。
「数がそもそも少ねえし、なんだこれは小学生のタンスか…?」
変な英語の文が書かれたTシャツや謎のキャラが入ったTシャツなどしか無い。
ナイスルック!というダサフォントと、微妙にブサイクな猫が描かれたTシャツまである。
……これなんかは逆に候補に入るんじゃないか?
思考がまずい方向に行っている…こんなことならば明後日くらいにしておけば良かった。
「とにかくマシに見えるように…勇気から借りるか?いやもう遅いし、サイズ合わねえよ」
勇気との身長差は10センチほど。普通に丈あまりの不格好になってしまう。
背丈の似ている父親の服を借りるにしてもシックに寄りすぎるし、変な本気感が出てしまう。
とにかく無難に高校生らしく、馬鹿にされない程度の服装を…
昨日の様子を信じるなら、悪意はなさそうだが、何があるかわかったものじゃあないからな。
無地の黒と青のTシャツを候補に選び、上はお気に入りの灰色の羽織るシャツジャケット。
…なんとか見えるようにはなってきたか…?
「あまりにも地味な色すぎるな…」
もうちょいマシにならんものか。
そんなことを考えながら今どきのオシャレとやらを検索するためにスマホを見ると、噂の(俺の中だけで)姫路さんから、メッセが来ていてスマホを落としそうになる。
危ない…あの5クレ合戦のあと確かにメッセ交換をしたのだが、服に焦りすぎて忘れていた。
待ち合わせ時間の確認の後少し間をおいて姫路さんから、
《当てていいですか?》
とだけ来ていた。
こちらの惨状などお見通しなのだろうなと、察しつつも返す。
《何を?》
《今タンスの中身が黒色しか無くて、絶望してるでしょう!》
《そ、そこまでではないが?》
《私の方はめちゃくちゃオシャレしていきますから、期待してていいですよ〜》
これはもうどうあがいても勝ちようが無いんじゃないか?
「もうこれにして負けを認めるか」
白のインナーシャツに黒いお気に入りのシャツジャケット、下は普段履きのクリーム色のチノパン。
適当に検索して出てきた無難ファッションにも近いしこれで行くしかない。
「普段から凝ってないんだから、これでも頑張ったほうだろ…」
思ったより遅くなってさすがに親に怒られたので飯と風呂を済ませ明日のために早めに眠りについた。
「さすがに早く着きすぎたか」
姫路さんは市内が地元で、俺は3駅向こうに住んでいるから、早めに家を出たのだ。
とはいえ1時間前に着くのは早すぎた。
昼前に集合予定だったのに、まだ出勤中の人もいるような便に乗ってきてしまった。
冷静に考えるとめちゃくちゃ浮かれてるようにしか見えんなあ…
「近くの古本屋で時間でも潰すか」
と、駅から離れようとしたときについ最近見知った声が聞こえてくる。
「あれっ?すごく早く来ましたね?」
まだそこそこ離れたところから、俺めがけ声を投げたその人は、あまりに眩しかった。
ザッ、コン、カッ。
三拍子の小気味いい足音が思っていたよりもずっと軽快な歩きで近寄って来る。
目を引く茶髪は太陽に晒され更に赤くなり優しい炎が揺れているみたいだ。
服に目をやれば、真っ白なワンピースが光を反射していく。
そして、不釣り合いなほど無機質なシルバーの杖。腕を通すプラの輪が付いた機能性重視の飾り気のないものだ。
そして歩くたびに揺れるワンピース。丈が長く露出は薄いが、時折端から覗く真っ白な足、左足を前に出すときには細い素足に麻痺固定用の装具が付いているのが見える。
視線どこに向けても脳が追いつかない。
「うおぉっ…」
「人の服を散々凝視して、言うことがそれですか?進藤さんは、んー結構まともな服じゃないですか。真っ黒かと思って真っ白にしてきたのに」
「さすがに真っ黒は無い…似たような感じにはなりかけたが。それより…なんだ」
「なになに?なんですかぁ?」
いたずらを思いついた子どものように、こちらを見てくる姫路さんに、後ずさりつつも、見たままを言うしかなくなる。
「なんというか、清楚だな。その…姫路さんと真っ白なワンピースの組み合わせは、夏感すごすぎてこんな俺なんかが、見て良いものなのか?」
夏がそのまま擬人化されたような、そんなものを見ている気分になってしまう。
「うへぁ褒めるじゃないですか。もちろん見ていいんですよ!写真も君なら良いですよ?」
「からかってるな?」
少し赤くなった顔をそらしつつ、主題に逃げる。
「まだ時間は早いがすぐにショッピングモール行くか?なんなら帯屋アーケードふらついて飯行くか?」
「こっからショッピングモールなら路面電車乗らなきゃだし先に行っちゃいましょう。時間あるなら昨日の格ゲーもうちょっと教えてくださいよ」
そうか、普通に歩けてるとはいえ歩かせ過ぎたらいけないのを忘れていた。
するとそんな俺の表情に気づいたのか、
「あっ、でもアーケード街で食べ歩きは今度したいですね。そのままあのゲーセンで駄弁ったりもしてみたいですし」
いたずらな微笑みで返され、バツが悪くなった。
「じゃあ、もうすぐ路面電車来るし、待つか」
そこまで待つことなく到着した地元民の足に乗り込む。
「久々に乗る感じしますねーチンチン電車」
おい俺が言うまいと、我慢していたのに。
しれっと下ネタかと思われがちな愛称を言って、こちらを困惑させてくる…俺が言いたかったわけではない。決して。
「あんまり乗り心地は良くないけれど、意外と早く移動出来るから便利だよな」
気にしないようにしながら、当たり障りの無い言葉を返すと、不服そうにほおを膨らまし言い上げてくる。
「もうちょっとツッコミ入るかと思いましたのに」
「もうちょい関係深めてからにしてくれません?俺ら初対面ではないけど、2回目だよ?」
会った時間の総計は、現在3時間ないくらい。顔見知りにようやくなったかな?といったとこか?
「あーまあそうですよね。私はあなたのこと少し探ってたから、勝手に仲良くなってました」
格ゲーも一緒にしましたし!
そう言って無邪気に笑う姿はまさに姫だが、少し引っかかる言葉があった。
もし、もしも俺の予想が当たってたら7月初めからずっとなのか…?
「探ってた…?……やっぱり最近ラブが時々、1組の人に呼ばれてたのって」
そこまで言うと姫路さんは、クフフとキャラの分かりにくい笑い方をしながら、楽しそうにしていた。
「そこは鋭いんですねぇ。ちょっと鈍いほうがモテますよ」
モテはどうでもいいから、説明してくれ。
目線で訴えかけていると折れたのか自白を始めてくれた。
「4月に病院で見かけたり、先生から存在をなんとなく聞いたりしてたのは言いましたけど、目があったのは7月始めでしたっけ」
「やっと、見つけた。とか言ってきたやつ?」
「え!?アレ聞かれてたんですか…ホントに恥ずかしい…」
顔を真赤にして恥ずかしがるが、どちらかと言えば路面電車の愛称の方が、恥ずかしいと思う。
「実は私のともだ…大親友の亜季ちゃんって子がラブちゃんと仲良くてですね」
頼んだら情報くれたの。と言いながらカバンを探り始めたので杖を預かる。
「ん、ありがとうございます…一個いります?」
差し出された何種類かのフルーツ飴から、みかんを選び口に放り込む。
「あなたがあのゲーセンに最近よく行ってるのも、終業式の日に行ってみるかなって言ってたのも、ラブちゃんから聞けたから張り込んでました」
ぶどう味の飴を食べながらさらりと言う。
どうやら俺の周りには、コンプラ意識の低い人間しかいないらしい。
「それであんまりやったことのない格ゲーやりながら待って、気を引こうとしたのか?」
「格ゲーやってたのは割とグーゼンというか…すぐ行ってるならもういると思ったらいなくて」
「教師に捕まって雑用やってた」
書類を運んでくれと言われて、付いていったら振り分け作業までやらされてしまったのだ。
「なるほどぉ。先生に頼られるんですね」
「良いように使われてるだけだよ。しかしよく少しはやれてたな、格ゲー」
「いやね?最近お父さんがアケコンと一緒に買ってやってるの見てたからやれると思ったんですよ…甘かった。何にもできないし分かんないしで、君が教えてくれなきゃもうやんないところでしたね」
俺を待つにしてもなにも格ゲーしながら待たなくてもと思っていたが、なるほど親がゲームをするタイプだったのか。
そして格ゲー初心者あるあるの即引退をしようとしてたのか。
「そりゃどうも。しかしゲーセン案内するのと俺の障害は関係なくないか?」
「うーん…分かってくれると思うんだけど、割と私モテるんですよ」
突然のモテ自慢だが、特に不思議はない。
美醜に疎い俺から見ても、かわ……整った顔立ちをしている。
背が低いのも明るい性格と相まって小動物的に扱われていることだろう。
それに、
「恥ずかしいあだ名もあるしな」
「その話は本当にやめてください…」
心底疲れたようにうなだれ、自分のあだ名を嫌がる。
さすがに「片足の姫」扱いは恥ずかしいらしい。
「好意を持ってくれるのは悪い気あんまりしないんですけどね。でも告白とか断るの面倒ですし、校舎裏に来てーとか「私の足見て言ってるそれ?」みたいなのも、ありますし」
突然の足ジョークに困惑しつつも少し吹き出す。
「それは、なかなか独りよがりだな」
「でしょう?もう中学からだから慣れてはいますけど。それで、身体障害者同士で友達になれたらどうなんだろう?って思ってあなたを探してました」
また奇特なことを。
障害者同士でつるむメリットなんて、俺には皆無に見えるが理屈としては納得はできた。
「なるほどね。俺は3組からほぼ出ないから、さぞ探しにくかっただろうさ」
「4月に病院で進藤さんを見かけてから、3ヶ月かかるとは思いませんでしたよ。えぇ…」
少し申し訳ないなと感じつつも、仕方ないのだ。
それが陰キャの性質だから。ダンゴムシに日の当たるところにずっといろというようなもの。
休み時間など、勇気達に話しかけられなければ基本突っ伏して寝てるし、昼は基本的に自分で用意した弁当ばかりだ。
そんな話をしていたら、いつの間にやらショッピングモールの最寄りに着いていた。
杖を返し先に降り手を差し出す。
さて、どう出てくるか。
「ふふ、ありがとうございます」
「あ、ああ。気をつけろよ」
半分冗談で出した手をすっと取られて逆に困ることになった。
路面電車と駅の隙間を姫路さんは杖を使い難なく通過し俺の手を離す。
「そんな赤くなるなら、しなくても良かったのでは?私結構バランス感覚ありますよ」
さすがにバレるか。
探りを入れるつもりで無理にエスコートしようとしたのが顔にしっかり出ているらしい。
「そうかい。自分でもこんなに俺がへなちょことは思わんかったわ。笑ってくれていいぞ」
「いいえ、嬉しかったからいいですよ。今も車道側歩いてくれてますしね」
言われて気づいて自分の立ち位置を見る。普段からラブたちや妹と歩くときのクセが出ていたようだ。
「……これは単にそっち側だと、姫路さんに杖で殴られるかと思ってだよ」
「しませんよ!素直じゃないですねぇ」
そう言って姫路さんはクスクスと笑いながらちょいちょいと杖を振る。
それに大げさに怖がってみせると弾けるように笑っていた。
バス移動も挟みつつ下らないことを言ってるうちに目的のショッピングモールに着いた。
徒歩を挟んで来ることをしたことなかったから実際に歩いた距離よりも長く感じる。
「こんな遠かったかな…」
「私も普段は父親の車だから、遠く感じましたね」
普段家から出ないということは距離の把握も出来てなく、体力もないということ。
……喋りながらじゃなければ絶対にダレていたな。
モールについてベンチで涼を取り休んだ後、この後を話し合う。
大体今で11時。さすがにクレーンゲームだけだと間が持たない時間ではある。
「じゃあさっさとゲーセン行くか?それとも少し早いけど、フードコートでなんか食べようか」
「朝ごはん少なめで来ちゃったし、ご飯行きましょう」
「あいよ、俺も遊ぶ前にカロリーと体力補充したいわ」
「熱量を補充するのは確かに大事です。少しガッツリ食べてもいいかもですね…」
「いやそこまで考えて食うものじゃないだろう、フードコートなんて…」
まだ着いたばかりだというのに、ここまで気疲れしてるのは自分の対人経験値の低さを思い知る。
平気な顔をするよう頑張っているが家族や親友カップル以外と飯を食うなんて初めてのことだ。
あまりに始めてばかりだという反応をしていては、手玉に取られ続けてしまうことだろう。
これからが本番だぞ、進藤才人…気を許しすぎるなよ。
「…これからだぞ、姫路真恋…」
「姫路さんなんか言った?」
「いやぁ?何食べようかなって」
二人ともが同じような理由で変な気合を入れていることなんて、今は知る由もなかった。
2話にしてゲーセンがどっかいった




