#1 知られた僕と君の掌の上
初めての投稿になります
経験が無いゆえのなにがしがあるかと思いますので生暖かく見守ってくだされば幸いです
自分が隠したいと思っていることを武器にしている人間に、僕が抱く感情は何だろうか。
少しばかり夏が遅れていて過ごしやすさはあるが他は何のことない昼休みに友人と学食に向かう。
普段は弁当を持ってきているので教室から動かない俺がもぞもぞと動き出すと、ここぞとばかりに友人が絡んでくる。
「なあ才人、お前弁当今日忘れたんだな」
「だからお前らカップルに付き合って学食行ってやってんだろ」
「忘れたのに上からなんだぁ…」
「まあ、俺は最近付き合い悪いお前が一緒に飯食ってくれるのが嬉しいよ」
「人付き合いには、もう懲りたからな」
付き合いも口もあまり良くないこんな俺に付き合って、学区外の高校まで着いてきてくれたほぼ唯一の友人二人。
勇気とラブは一見すると少しお近づきになりたくない感じの、イタリア系ハーフ男子の筒見勇気とゆるふわ地雷系女子の梔子ラブ(くちなし らぶ)という組み合わせ。そこにただひたすら地味なだけの俺、進藤才人を含めて三人で幼なじみだ。
見た目はともかく気のいいヤツらで、二人は付き合っているが俺にも気を回してくれている。
そんな友人カップルに呆れられながら歩いていると、2つとなりのクラスの前に少し騒がしい集団があった。
訝しそうに見ていると、勇気がそれとなく教えてくれた。
「おぉ姫さんがまた廊下で喋ってら」
「最近よくいるよねぇ」
「姫?あだ名?なんか恥ずかしいな」
「はは…まあ名前が姫路真恋ちゃんだし可愛いし、その…特別なとこもあるし…」
あー、クラスの奴らが騒いでいるのを、聞いたことがあるような。
一応ちょっとくらい拝んどくか。
そう思って顔を上げて見れば周りの女子と比べても低めの身長に、ちょい遠くでも目立つ三本足。
右足と装具の着いた左足に加えて三本目、腕につける丸いのが着いた杖。
顔もうまく見えなかったがたぶん可愛いんだろうな。
片足の姫なんて聞こえてくるのもまあ分かるか…ちょっと痛い気もするが。
と通り過ぎようとしたところで、
バチっ
目があった。
姫と。
「やっと、見つけた」
小さな声で喧騒に紛れながら、だけど明らかにこちらを見て言われた謎の言葉。
俺なんかしたかな?いや聞き違いか。と、勝手に結論をつけて、先に歩いているバカップルを追いかける。
意味深な事があった割に、それから3週間近く経っても姫様とやらに会う機会もなく、一転してクソ暑いだけの普通の日々が過ぎていく。
「夏休みが待ち遠しすぎる…」
自分の席でやる気のない学生のお手本のようなことをのたまっていると、ラブが呆れながら来ていた。
「えー…課題多すぎるから遊ぶ暇あるのかなぁ」
「最悪はお前の彼氏のやつを全写しする」
「きぃくんはサイくんに頼られたら断れないから駄目だよ…普通にこつこつやろうよぉ」
そういうお前が一番溜めるんだろうがよ…
軽口を言いつつ机に突っ伏してエアコンを浴びつつ、もうすぐに迫った長期休暇に思いを馳せる
「明日あのゲーセンまた行ってみるかなぁ」
最近行ってみたゲーセンが思ったよりも人が少ないうえに、最新から旧ゲーまで揃っていたのだ。
夏休みはそこに通い詰めるのも悪くはないな…と思いながら机に寝そべっていると、勇気も遅れてきた。
「よう親友殿!相変わらず溶けてんな」
「明日終業式だぞ、溶けない理由がない」
「らぶはそれわかんないぃ…」
「ラブ、こいつのこういうの大体意味は無いぞ」
「親友扱いなのに酷くないか、勇気」
ていうか、お前が言い出したことだろ。
唯一の友人2人に、意味のない話をぶつけていると、
「ラブチャンーごめーんこっちにー」
他のクラスの女子からこちらへ声がかけられた。
うっすら見覚えのある金髪の女子。
「あきちゃんだぁー、はぁい」
「あの人、姫さんの隣にいた?」
「さすがに良く見てるな、お人好しのお前のことだ。ラブが心配か?」
「んなわけないだろ」
「そんなこと言ってぇ。それにしてもラブが1組のやつに呼ばれるのは珍しいな」
確かにラブは俺よりは友人が多いが、クラス外に呼ばれることはまず無い。
まあ平穏な用事だったらしく、特になんもなくラブは数分で帰ってきたが、内容は何故か気まずそうにはぐらかされた。
そして翌日、終業式は無事に終わり校長の話で取った睡眠を活かしアーケードを進む。
少し教師に手伝いを頼まれたせいで時間が経ってしまった。なかなかに人使いの荒い…
あのゲーセン、夏休み始まってもそこまで混んでなければ良いのだけれど。
たまに行くアーケード街の端の寂れ気味のゲーセン。
ほぼ手前のプライズに人が集中していて、奥に行くにつれ2人プレイのガンシューやホッケーがあり人が少なくなる。裏手から入れば誰にも会わずにコインを入れられるだろう。
自分が用があるのは、さらに物好きしか行かない2階、一応最新も置いてあるビデオゲームコーナーだ。つっても台数もないし自分以外がいるのも稀。更に格ゲー筐体になんか人は……
…いた。しかもやたらに目立つ。
少し赤みかかった茶髪は腰まで伸びている。少し癖っ毛なその様は一瞬見れば毛玉にも思える。
そしてそのまま視点を下げれば、立てかけられた杖と綺麗に畳まれた細い足。その隣には少し無骨な装具に包まれた右脚が覗いていた。
珍しすぎる状況に戸惑いつつも好奇心に負け、後ろに立ちプレイを眺める。
小さく…あっ。くそっ。だの言いながら低難度のCPUと死闘を繰り広げるのを少し眺めていたが、こちらに気づかない様子だ。
自分より遥かに眩しく、人に囲まれて生きている人。障害を隠すことなく、強く生きているひと。
……でもなぜか少し背中が寂しそうに見えて、声をかけずにはいられなかった。
どうせこないだの発言について、聞いてみたかったんだ。
自分に言い訳をして、十分に頭に中で言葉を選んでから話しかけてみる。
「姫さ…じゃなくて姫路真恋さんだっけか。珍しいね」
「ぬひゃあ!?」
何だその声?
奇声ののち、振り返りながらこちらを向く。
…こりゃあ確かに姫だな。
幼気だが整った顔は、低い身長と毛量ある髪に合っていて、しかし奥には大人っぽさも覗き始めている。
コケティッシュとか言うんだったかな。あまり他人に興味のない自分でも、美人だなと感じた。
「ぉほん…こんにちは、進藤才人さん」
咳払いをしながらも、かちゃかちゃと膝のサポーター?部分を動かして立ち上がり、丁寧に挨拶を返してくる。
きょうびにスカートの裾を上げるお嬢様お辞儀を生で見れるとは思わなかった。
「名前知ってたんだ」
「あなたに用事があって、ここに来ましたからね…ちょっと熱中しすぎちゃいましたけど」
「用…?俺に…?」
警戒をする。
こんな学年の中心な美人から何かを頼まれるような人間じゃないぞ。
俺みたいなのに用があるなんて、ロクなことじゃないに決まっている。
そんな俺の危惧をよそに、姫路さんは服が触れ合いそうなほどに近づいてくる。
その意外なほどに俊敏な動きに驚いて逃げる間もなく、姫路さんは耳元で小さく囁いてきた
「あなたも、身体障害がありますよね?」
警戒を強めながら、後ろに下がる。やっぱりロクなことじゃなさそうだ。何を要求してきても不思議じゃない。
「そんなに警戒しないでくださいよ!実は先生からもう1人身体障害者さんがいる様なのはそれとなく聞いていたんです」
姫路さんはあまりに警戒する俺に、本気で面食らったらしく必死に理由を話す。
だとしても、そちらのクラス、一組の教師も学年主任経由で俺が障害隠しているのを聞いているはずだが。
コンプライアンスはどうした、我が校よ。
「あとは春に病院で見かけましたからね。君が通りかかったとき走ってた子どもが転んで、介抱してましたよね?」
「そんなこともあったかもしれないが…」
「あのとき私も、駆け寄ろうとしてたんですよ…まあ駆けられないんですけども」
笑って良いのか微妙な事言うの、やめてくれないかな。
「ごめんて…話を続けますね」
声に出てたらしい。しかしあの時か…今より周りが見えてない時期だったからなぁ…
「そのときにうちの制服なことと、タイが1年の色なことは確認しました。あとは診察用紙を持っていたことも、なにか持病からかと」
すべての推理は合っている。俺は循環器系の障害を持っているし、病院で転んだ子どもを慰めた記憶もある。
あのとき子どもを介抱しようと少し勢いよくしゃがんだのを、発作だと勘違いした親が会計を放り投げて走ってきたのを覚えている。
そんなこともあってそのときにこんな目立つ人がいたことすら見えていなかったのだ。
「それだけの理由で張り込みしてたのか?」
「いえ?交友関係を使って裏を取りました」
そこで一人の顔が浮かぶ。……なるほどな。
「それで?名推理の探偵様は何がお望みで?言いふらす権利?」
「まさか!そんなものはいりません。でもそうですね…聞いてくれるんなら一つお願いがあるかな」
言いふらされないらしいのは助かるが、なんかめんどいことになりそうだな…
普通にゲームしたくて来ただけなんだが…そうだ。
「いや、せっかくここはゲーセンで二人ともやってるゲームもあるんだし、ここはゲームで決めないか?」
めんどくさがって引き上がってくれたら、それで良し。
乗ってきても俺はそんなに上手くはないが、低難度と戯れてる姫さんには負けないだろう。
「むぅ…いいでしょう!私残機無限ね!」
乗ってくるのか…でもあまりやったことも無さそうだし、3回くらいで音を上げるだろう。
……あげてくれ。もう結構声かけたの後悔してるから。
「一回でも勝てたら話を聞きますよ姫さ…姫路さん」
友人の姫さん呼びに引っ張られるのを直しながら、煽りを込めて返す。
そんなことには一切気を取られずに、やるぞ!と腕を回している姫路さんに苦笑しつつ、反対側に行きコインを入れて乱入する。
二年くらい前に一番の大手が出した流行りの格ゲーだ。かなりの人のご多分に漏れず俺もこのゲームで格ゲーを始めたニワカにあたる。
俺のランクもダイヤ2で、正直全然強くないけれど…
「あー3連敗!何もできないんですけど!」
……対空だけで勝ててしまった。
悔しがる言葉に弾んだ口調。
初めての格ゲーを楽しんでいることがよく分かった。
楽しそうにボロ負け宣言をする姫路さんの方に回り、少しアドバイスでもしてみる。
「ちょっと飛びすぎかもよ、あと起き上がった時は冷静に、斜め下に入れてしゃがみガードした方がいいよ」
「くっ敵に塩を渡すんですね…信玄!」
進藤です。
なんかときどき変なテンション入る人なのだと思ったけれど、あまりにも荒唐無稽だし少しばかり棒読みだ。
意外と無理をする人なのかもな。
正直拒否するのが目的なら、打ち切って勝利宣言をしても良かったのに。何も言わずに淡々と処理し続けてもよかったのに。
…なんでか、アドバイスをしてしまった。
その後も2試合勝ち、5連勝したとき…
「もうちょい…ここでこう!」
やっぱり飲み込みが早い。
さっきの自分のアドバイスもすぐに活かしている…なにを嬉しがっているんだ俺は。
「ラウンド取れましたよ!」
「やるじゃん。けどまだ負けてはないからね」
「もう勝てますから!負け惜しみ考えといてくださいね!」
「お願い聞くだけじゃなくて、なんか増えてないか?……下大攻撃とかけん制に振るといいよ」
「また塩だ!ありがたいですね!」
交易でもしてらっしゃる?
そのままズルズルと、11クレ目に差し掛かったところで雲行きが怪しくなる。
明らかに姫路さんの攻撃がこちらに噛み合い始めた。
さっき教えたけん制もいいところで振ってくるし、連係も少しずつだけどしてきてる
「んぅ………」
「喋れてないじゃないですか、進藤くん…!疲れた?最初の自信はどこに行きましたか!」
いやどちらかと言えば、筐体で対戦するのはだいぶ久しぶりで、少し勝手が違うのに手こずっている…これも苦しい言い訳だな。
女子がこんな回数挑んでくるとは思ってなく、混乱が始まってしまっている。
いや、素直に……有り体に言えば楽しいのだ。勇気…唯一の男友達とさえ、最近あまり遊んでいない。
こんなふうに誰かと遊ぶのなんて、いつぶりだろうか。
「そこでこれでしょう!」
派手な音が響き、姫路さんの座る1P側の勝利が表示される。
ついに負けたか…
「やられた…手加減出来るほど上手くもないんだけどな」
「どうですか〜約束通り何でも聞いてもらいますからね」
「あい何でもどうぞ。あ、あんま金はないよ」
両手を上げてヒラヒラと、今手持ちが少なめなので…という素振りをすると、姫さんは心底あきれた様子をしてくる。違うのか。
「別にいらないですよ…ねぇ進藤くんって、ゲーム…ゲーセンって詳しいんですか?」
「そこまで店舗数あるわけでもないからな。ここらへんのは大体行ってるかな」
「じゃあ私も一緒に連れて行ってくれませんか?あ、足は気にしなくて大丈夫ですよ?」
……は?ゲーセン巡りはおれの趣味、一人の時間なんだが?
「それはまた、まあ……」
ここは断るんだ、進藤才人!
「……じゃあどんなとこ行きたい?」
意識とは全く逆のことを上ずった声で答える…仕方ないじゃん、理性の俺。
趣味の合う可愛い女の子に敵うわけはなかった。
……陰キャ風情が。
まだ陽の落ちない18時のアーケード。
ゲーセンの外で今日知り合ったばかりの二人で予定をすり合わせる。
カシュッ
いい音を立てて開く缶ジュース。
少し散ってきたそれをハンカチで払っていると、姫路さんが笑顔で俺を見てくる。
「んふふ、でも進藤くんが、予想通りの人で良かったです」
「んぇ?」
負けてしかもお願いも承諾した以上、本題は次の予定なんだが、目下の問題は先の11試合分のお金だ。
ほぼ俺が出させたようなもんなので、半分の5クレ分を渡そうとしているところで、不意にそんなことを言われる。
「だって私の足のこと一回も話題に出さなかったですし」
……すまん見てはいたが。
別にいいよ、私が勝手に出したお金だし…と断る腕を強行突破して、5クレをカバンにねじ込もうとしながら答える。
「左足が動かんだけなんだから、言うこともあんま無いのが普通だろ。そんなこと言ったら俺は心臓が止まっとる」
5クレを突き返しながら、姫路さんが続ける。
「んふーそういう普通のことが出来る人は特別な人なんですよ。いいからお金返させてくださいお金………!」
「次はじゃあいつ空いてるんだ……!いいから俺に払わせてくれ」
「正直夏休み中は、ずっと空いてるんですよ…!」
小競り合いをしつつ、ついに5クレは俺の財布に返還され本題に関係のない水面下の戦いは敗北で幕を閉じた。
「じゃあ明日でいいか。ショッピングモールのプライズに欲しいやつが入る。」
「いいけど、めっちゃくちゃ人いるところですね」
「そうなんだよなあ…姫路さん連れてりゃ、まあ気も楽かな」
一人で行くのは息が詰まるが、同行者が入れば浮く心配も無いしな。
その言葉に、なぜか姫路さんはぽかんとして。
「目立つだろうに、奇特な人ですねぇ」
…思った通りの、優しい人だ。
彼女の小さな声は夕焼けに溶けていった。
「しかし片足の姫様とお近づきになるとは…」
学生特有の気恥ずかしいあだ名。
しかしそれに相応しいバイタリティと容姿のある人だった。
……だけど。
「やっぱ眩しすぎる人だな」
俺には友人としてすら絶対に不釣り合いだ。
学校で囲まれて明るく周りを引っ張りながら笑っている彼女も、ゲーセンで良くわからないギャグを言いながら叫んでいる彼女も、俺には等しく眩しく見えた。
「さぁて何をお考えかは分からんけれど、降って湧いた幸運だろうし。見限られん程度に予定立てますか…」
独りごちながら、帰路の電車を目指す。
「そういえば、やっと見つけたって結局なんだったんだ…?」
考えても答は出ないけれど、なぜか頭から離れてくれなかった。
ご精読いただきありがとうございました
障害者同士というニッチな作品になりますが、自分もICDという心臓に繋ぐ機器、主人公と同じ障害を持っております。
そんな自分だから書けるものを書いていきたいです。




