#14 知っている僕と
親友たちが帰ったあと、考えをまとめようとしてみるがどうも上手くいかない。
何故姫路が急に取り乱したのかは、結論が出ないままなのだ。
姫路に貰ったスマホのカバーをふと眺め、途中であのめざといカップルに見つかった時を思い出す
「そのカバー、センスいいじゃないか」
「うわ〜かわいいねぇ〜、どこで買ったの?」
「絶対に言わん」
(半分言ったようなもんだったよなあれ)
軽い後悔を抱えながら、スマホの画面を点ける。何回もメッセを送ろうとして、消してを繰り返していたから、画面には姫路とのやりとりが映っている。
最近の淡白なやりとりから少し遡れば、ゲームの攻略や課題の相談、果ては2時間程度の通話履歴など、どう見ても親しい友人としか思えない履歴が残っている。
「……よし、やるか。」
タタタとメッセを打って送信し、ベッドに放る。
《15日の登校日、覚悟しておけよ》
それだけ送って、PCをつける。
すぐに格ゲーを起動して、ランクマッチを選択する。
「俺として接しろ、か」
俺はそんな一本芯の通った人間じゃない。人によって態度を変えるし、頻繁にイラッとするしめんどくさくなったら逃げる。
でも、それでも俺としてあるのが良いってんなら、ちょっとくらい見栄を張れる自分になっていたい。
……気づいたらもうXデイである登校日の朝になっていた。
かろうじて、隠し球の準備は整えたけれど、結局前日は今日のために夜遅くまで粘ったからいつ寝たかも定かじゃない。
メッセで今日の動きを勇気たちと確認する。姫路からは既読はついているが返信はない。
作戦と呼ぶのも微妙な、出たとこ勝負の動きを確かめ合って、朝飯をかき込む。
登校日はあと今日だけ。
ここでどうにかしないと9月になるまで、このモヤモヤのまま過ごすハメになってしまう。
それだけは絶対にいやだ。
「今日は時間ずらさずに乗るか。」
普段は勇気とラブに会わないように一本早い汽車に乗っているが、今日は合わせて乗ることにする。
(まあこっちの時間だと普通に遅刻ギリギリになるのが嫌なんだが……)
そう思っていると発車ギリギリで二人が滑り込んできた。
「あっぶねー。ラブもうちょっと早く起きて…」
「ごめぇん。アラームかけ忘れてて……」
「いつもこんななのか、お前ら」
こちらに気づいてなさそうな二人に、分かりやすく声をかける。
「ふぇ!?サイくんなんでいるの!?」
「声がでかい、周りに迷惑だ」
「いやしかし、才人がこの時間乗るの意外すぎてな」
まあ、そうだろうな。
これに乗ると早歩きで学校に行く羽目になる。疲れたくない。
「最終確認をしておきたかったんだよ」
「あー、うん。そうだよなあ」
俺と勇気の視線が同時にラブの方へ向く。
「うぇぇ、ちゃんとやれますぅ…あきちゃんとゆみちゃんにもHR終わったら1組行くって言ってあるから大丈夫。」
「ん?待てラブ、お前言っちゃったのか?姫路さんの友人に?」
勇気が確認したことで完全に目が覚める。
それを言っちゃってるのは……かなり、だいぶまずい。
「もしどちらかがラブが来ることを知らせたら、姫路は100%察して逃げるぞ」
ここ最近ずっと遊んでいろんな顔をみた俺が思うに、あいつはそういうとこ絶対に聡い。
「えっ、あっ……ごめんなさい……」
「……まあしゃあない。どうにかするしかないだろ」
どうせ上手くいかない可能性が大きかった作戦だし、むしろ動きが絞れたと思おう。
「才人、何かあてはあるのか?」
「何にも」
「うぐぅ……ごめん」
「でも、姫路の行きそうなところなら、なんとなく分かる気がする」
最初から俺と姫路の問題なんだ。
俺がやれることをやるしかない。
それどころじゃなくてあまり確認できていなかったけど、第二登校日は平和学習が主で、一応教師が全員の顔を確認もする感じのようだ。
平和学習は学年合同だったおかげで、姫路がきちんと登校しているのを確認できたのは幸いだ。
学習終わりまで一度もこちらを見ることはなかったが、それでいい。
(少し体調が悪いように見えるのが心配だが、来てくれていて助かった)
終わったあとの喧騒の中、普段通りに明るく振る舞っている。
だが、目はちょっと虚ろだし歩くのも遅い。
無理をしているのが見え見えだ。
取り巻きの中でも一番近くでガードしている常田さんと建山さんが明らかに心配して、いつもより気を張っているのがよく分かる。
(俺のせいじゃないっつっても、気にするなってのは無理だろうがよ)
「うわ〜姫ちゃんその髪飾りなに〜?すっごい可愛い〜」
「え〜木の三日月なんてオシャレ〜、ちょっとイメージと違うけど似合うね〜」
名前も知らない他組の女子たちが、その絶対に今日は着けていないと思っていたアクセサリーに気づいた瞬間、あまり目立たないように横目だけで見ていた俺は、思わず、顔を向けていた。
そのとき、何故かこちらを見ていた姫路と、目が合う。
(覚悟、しておけよ。)
本来着けてくる理由なんてない、月のバレッタ。
それをつけてきた以上この件は、誰にも邪魔させない。
姫路、お前が何を思って何を悩んでいるかなんてもう関係ない。だけど、それを着けてきたんだったら、もう迷う必要はない。
ポケットに入れたまんまのスマホを強く握る。
決意でもない。誓いでもない。
ここからあるのは、俺のエゴイズムだ。
「えーじゃあうちのHRはこれくらいかな。夏休みもあと2週間、悔いのないように過ごすようにね」
担任の話が終わったと同時に普段はのっそり動くラブが、見たことのない俊敏さで1組の様子を確認しに行く。
俺がすぐ行くと確実に逆効果なので我慢だ…
遠くから「うぇぇ!」という声が聞こえてきたかと思えば、ラブがすごいスピードで戻ってくる。
……何故か姫路の筆頭取り巻きのギャルの常田さんが一緒に、なのが分からないが。
「ごめぇん、1組は今日、ほぼ帰りのHRなしだったみたい〜」
「3組は今帰り?ちょっと聞きたいことがあってね〜」
勇気がさりげなく俺を隠すように、少し前に出る。
「そうだね、いまHR終わったとこ。ラブがなんかやっちゃった?」
いつもより少しだけ警戒の混じった声で、話を進めようとしてくれている。
俺は関係ない風を装い、カバンを背負い早足で教室を出ようとする。
……実際関係はない(ように見えている)はずだ。
「あ、ごめん。用があるのはそっちの君」
そうやって出ようとするところを、常田さんに呼び止められる。
一瞬ビクッとして止まってしまったところでラブに裾を掴まれる。
裏切りか!?
(ちょっとだけ、あきちゃんのお話聞いてみない?なにか分かるかも)
……姫路の場所自体は見当をつけているけど、実際少し確かめてみたいこともあった。
もしかしたら、姫路のあの様子の理由の一端くらいは、見えるかもしれない。
「俺は、ほぼ初対面の方に、用はないんですけれど」
「アタシはあるの。進藤くんって君でしょ?明らかにラブちゃんと勇気くんに守られてるし」
守られてる……まあそういう見え方になるよな。
「真恋が、アタシとの通話で何回か口走って、その都度新しい友達って訂正してたの」
アイツ、なんてことをしてくれているんだ。
「そのときの真恋が、幼なじみのアタシでも見たことない可愛い顔いっぱいしてたのよ」
「すまんが話が見えない」
「だからその友達がオトコのコでもまあいいかなって、思ってたんだけど。でもこの1週間は、また昔みたいな…昔よりも険しい顔するようになっちゃった」
なんとなく意図は分かったがこのまま昔話のようなことをされるんであれば、すぐにでも振り切って行かなくちゃならん。
そんなこちらの考えを見通したのか、キッと目つきを鋭くし、こちらを睨みつける。
「しらばっくれても駄目だよ。君と真恋が楽しそうにアーケード歩いてるの、見てんだからこっちは」
見られていたし、誰かもバレていたのか。
……それでもなぜ今、俺に詰め寄る必要がある?
いまやるべきことは、違うんじゃないか?
「進藤クンが、真恋になんかしたとは思いたくないけど、もしそうなら……」
「……じゃあ、なんで今、姫路さんのそばに居ないんだ?」
言葉を遮りながら言われたことが気に障ったのか、露骨に嫌そうな顔をして。
「そりゃアタシだって、心配したし一緒にいようとしたけど、あんな顔で一人にしてくれって言われたら、どうしようもなかったんだよ」
それで、何か知ってそうな俺を詰めて、情報を聞き出そうとしているのか。
……この人も、大切な友達のために動いているのか。
………でも。
「なにかあの子の行きそうな場所のあてある?近くにいないと心配なの。この際、何があったかは後でいいから。あの子、脚も悪いし結構頑固だから、せめて場所がわからないと……」
近くにいないと心配?脚が悪いから?何を言っているんだ?
常田さんと話し始めてから、ずっと抱いていた違和感の正体がやっと分かった。
チラリと黙って俺の会話を見ていた友人カップルに目を向ける。
コクリ、と二人は俺の目を見て頷いた。
「……良かった。今回のことは、本当に俺のせいじゃなかったみたいだな」
「な、なに?」
「まあ先に帰ってくれ。たぶん俺だけで行くのが一番いいと思うから」
「あっ、ちょっと待ってよ!」
そのまま常田さんの相手を友人カップルに託して駆け出す。
目的地はもちろんあそこだ。きっとあの場所にいるという確信があった。
一人だと距離があるように思えて、アーケード街に着く頃には息も絶え絶えになってしまった。
いつものあのゲームセンター、登校日だったのもあって入り口付近のプライズやプリクラにはうちの制服も見えるが、こちらのビデオゲームコーナー側にはちょいちょい人がいるだけだ。
階段を一段登るごとに喧騒は遠くなり、薄暗く人の声のしない、ゲームの稼働音だけの空間に繋がっていく。
つい最近知ったことだが対戦がしたい人は近くの台数が多くメンテのいいゲームセンターの方か、明るい複合レジャー施設内のゲームコーナーに行っているらしい。だからここの2階にはほとんど人が来ない。
「まあだからこそ俺みたいな陰キャはここでゲームしてたわけだが。」
古めのゲームに囲まれた中にある1台ずつ程度の新作台、その中の1台、最近の格ゲーで一番流行った家庭用先行の作品。
台に備え付けられた椅子にちょこんと座っている、目立つ姿。
小さめのシルエットに、腰まで覆っている赤茶の髪は、座っていると毛の塊にさえ見えるが、月のバレッタがふわふわと無邪気な動きを少しだけ抑えているため、落ち着きも見えてくる。
「……やっと、見つけた」
そう言うと、探し求めたその人はゆっくりと、こちらに顔を向けた。
「……私が思わず言ったことをいつまで覚えているんですか」
今にも泣き出しそうな顔で、いつもよりちょっとクシャクシャな髪で、バツが悪そうに目をそらしている。
姫路真恋はそこにいた。




