#11 浮かれる私と隙の多めのあなた
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会う回数を減らすと決めたのに、すでに次の約束はしているし、なんだったら自分で「仲良くしてくれ」なんて言っちゃってるわけで。
「とりあえず意味ないと分かった以上ベタベタするのやめましょう……逆効果かもしれませんし。」
もう嫌いになれないと分かった以上、ボディタッチをする理由もない。向こうも気まずそうにしてることが多かったし普通に遊びながら少しずつ会う頻度を下げていくことにしよう。
「今日で8月3日…夏休みが始まってまだ11日目ですか」
スマホの電子書籍で少女漫画を開く。そんなに集めているわけではないけど、私の数少ない趣味の一つだ。
「やっぱりおかしいですよ…1話からこんなにからかってベタベタしてるのに、付き合うまでに10巻もかかるなんて」
少し前には疑問にも思わなかったが距離の近いヒロインと男の子モノはちゃんと学校行事が一周するまで付き合わないことが多い、これでは夏休みの前半だけで髪まで触らせた私が、特別チョロいみたいじゃないか。
「いや別に……まだ好きとかじゃないとは思うんですけどね~」
けどなーっとぬいぐるみを抱きかかえる。可愛らしい丸いネズミのぬいぐるみはほほ笑んだような表情のままおとなしく私に潰されてくれる。
今日は彼はバイトで明後日にまたあの、人の少ないゲーセンで遊ぶことになっている。つまりは異様に優しく見えるがどこかに影を感じさせるあの横顔をまた見れる。……いや、見ることになる。
「別にやりたいこともないんだが…まあ姫路がいいなら俺は暇だし付き合うよ」とは私に会うために毎度3駅乗ってきてくれる人の弁だ。
人のことを言えたことではないが、彼も大概人を穿った目で見てる節がある。私にも本音は聞かせてはくれてないだろう。…そうすると私のことを太陽だと言ってきたアレは、本音で良いのだろうか。
……アレが本音だとしてもそういうのではなく、胸の中にあるいろいろ、物理的にも胸に抱えている彼はきっと言えない、言わないことを抱えていることだろう。
「私が太陽なら、あなたは月なのでしょうね」
ネズミを潰す腕に力が入り、顔に熱がこもる。
……………会うの控えようって言ってるのになんで彼のこと考えてるんだ?
どこでスライドした?最初からか?私はここまで重症なのか?
「好きとかではないんですけどねえ!!」
仕方ない。気楽に喋れる相手だから仕方ないんだこの感情は。だからこそ、弁えなければならない。
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俺ももうさすがに慣れてきてしまったお昼の駅前、約束の1時間前の待ち合わせ。姫路がまたあのゲーセンで格ゲーがしたいということで流行りゲーだけじゃなく何作品か置いてあるレトロゲーのリサーチも軽くだがしておいた
「突然変なゲームしたがる可能性もあるからなあ」
「あら?いいじゃないですか。私からしたらどれも新鮮なんですもん」
姫路はまだ来ていなかったから少しだけスマホの確認をしていたら、いつの間にか背後に回られていた。
気配が全くなかったぞ…いつものことながらどうやってその脚で人に勘付かせず歩けるんだ。恐怖に満ちた表情を作り、スマホの木製カバーを指で撫でる。
「でも不用心ですねえ、進藤くん。私いつもと逆から来ただけでふつうに歩いてきましたよ」
……言葉を失う。考えてもみなかった、言われてみればずっと一方向だけを気にしていた。
後ろから来ることも想定しておくべきだったか…
「……んじゃ、さっさと行くか」
「あ、ちょっと照れてますねえ、フフフ」
姫路の指がこちらの頬の横に伸びてきて、一瞬止まり、突然目の前に来る。
「ふふふふふふ」
「どんなテンションなんだ…ほら、これ持っとけ」
不敵に微笑みながら目の前でトンボでも捕まえるように指を回している姫路に、その指を軽く払うように買っておいたスポドリを1本渡す。
「え、買っておいてくれたんですか?」
「この前歩いたとき思ったよりも汗かいたからな、俺より歩数かかるんだから、持っといてくれ」
以前のカラオケのときに俺だけスポドリ飲みながら歩いていたの、ちょっと配慮が足らなかった気がしていたのだ。歩いている間は会話がずっと続いていたので、変なところで殊勝なことがある目の前の人は我慢していたんじゃあないかと。
「ちょっとちっちゃい子扱いしてません?自分で管理くらい出来ます〜」
「そうかい、にしては前のカラオケんとき着くなり、がぶ飲みしてたような……」
「それは謝罪で緊張してたからです!」
頬を膨らませて抗議をしつつもスポドリを受け取ると、すぐに開けて飲み始めた。よく考えたらここまで来てる時点でそこそこ歩いてるはずだし、喉も乾いてるか。
「そういや毎度駅まで来てるけどそこまで近いのか?普通に大変だろう?」
「近いってほどでもないけど疲れるって距離でもないですよ、マンションから15分くらい?」
「まあまあ遠いじゃないか!普通にゲーセンで待っててもいいのに」
来ている方向的にゲーセンに行く時間とあまり変わらない様に思えるんだが。
「まあ私が勝手に来てるだけですから気にしないでください」
「あーそれもそうか?考えたら今待ち合わせより1時間早いんだもんな」
今日の待ち合わせは13時半、今は話した時間入れても12時40分だ。
「そうなんですよ、誰かさんが時間通りに来てくれてたら、私は駅中のお店で休めるんですよね〜?」
「そいつは悪いなあ。でもこの感覚で来るのに慣れちゃったからなあ」
「あら、奇遇ですね。私もここまで歩くの慣れちゃいましてね」
ひとしきり二人で笑い合いそのままゲーセンまで歩いていくことにする。
「…………」
「…………」
さっきまでバカ話をして合間の少しの沈黙。なぜか姫路が俺の袖を見ている。というか定期的に見られている気がするが…
「なあ、俺の袖になんか付いてるか?」
「いえその……何も。…そうだ、今日の服どうですか?レパートリー見せてかないと同じ手口で来る女と思われちゃいますので、清楚さは残して雰囲気変えてみました」
「手口て。」
そういう姫路の服装をまじまじと見てみる。
清楚というだけあり、爽やかな白のフリル付きのシャツに濃いめの緑の長スカート。
俺の知識が乏しすぎてちゃんとした名称が言えないのだけど、お嬢様ルックという感じで、完璧に馴染んでいる。
完成品を見ている気分というかこの姿をすることが決まっていたかのような着こなしは流石と言う他ない。
「似合っているというか、余りにも完成度高くてオーダーメイドで作らせたんじゃないかってレベルだな。感心にまでいきそうになるなあ」
「……全部既製品ですよ、ありがとうございます。やっぱり清楚系がお好きなんですねっ!」
自分から言わせた癖に照れているらしい姫路が、コツコツとわざとらしく杖の音を出しながら俺を追い抜く。
そこには小さな三日月が、彼女を支えるように後頭部に張り付いている。こないだプレゼント交換したバレッタ……使ってくれてるんだな。
「バレッタ、どうかとも思ったが似合ってるな。」
「どうも。ちなみにあの日の明細はすべて母に提出しています。」
機嫌が落ち着いてきたらしい姫路が徐々に速度を落とし、俺の隣、ギリギリ肩が触れない程度を維持しながら顛末を教えてくれる。
「ああ、使い切れって話だったもんな。結局俺のせいで余っちゃったけど」
「なので全て母に返還しようとしたんですけど、そのまま持たされてしまいました。私は食べてますけど、まだでしたら昼食代にでもします?」
「俺も昼食ってきちまったんだよなあ、帰りにどっか寄るか?」
「ふふ、そうしましょうか」
やっと目的のゲーセンに着く。
2人のスポドリはもうどっちも残っていないが喋り疲れた喉を、きちんと潤してくれた
「んで、いつものゲーセン着いたわけだけど、どうするんだ?」
「思えばこっちのゲームは対戦ばっかりで、教えてもらうこと少なかったなあと思いまして」
そう言って流行りゲーの方に座る姫路。
「そういえばそうだなあ、でも教えるんだったら家庭用でも良くないか?わざわざゲーセンまで来るなんて」
そう言うと姫路は信じられないものを見るような顔でこちらを見てくる。
「……今、私があなたの部屋に行くか、あなたを私の部屋に入れるかという話ししました?」
「い、いやネットトレモしながらメッセ通話とかでもいいんじゃあないのか…?」
「……なんか浪漫無いですよね」
いや、分かるけど。唐突に浪漫を求めてきたな
「まあ通話ネットトレモもおいおいやるとしてですね」
「あ、やるんだ」
「やります。でも、こうやって並んでやるのもいいものでしょう?」
「それには同意する。ゲーセンにはゲーセンにしかない栄養素が確かにあるんだよな。」
この雑多で薄暗く騒がしい雰囲気にしか存在し得ないモノは、意外と多いんだと思う。そんな中に姫路(お嬢様の姿)がいるのはなんとも浮世離れして見える。
必死にレバーをガチャガチャしている姫路の横で、目線を合わすようにしゃがんで問いかける
「うわっなんですか、近いですよ!」
何故かすごい慄くようなポーズをとる姫路。
いや普段より遠いくらいだし、基本的にお前から近づいてくる方だろうに。
「やるんだったら真面目にやるんだな?俺も上手い方ではないから調べながら、とかになるが」
「真面目です!最近ネット対戦もちょっとやってみてるんですよ」
へえ、知らない人との対人戦はかなり心理ハードルが高いんだけどな。
「偉いな、してどのくらいの勝率で」
「勝率20%のブロンズ4。」
「思ったより頑張ってる数字だな」
初めたばっかりなら普通に10%とかもありうるかと思ったけど。そういえばお父さんがやってたんだっけか。
「お父さんも週末にやってるくらいだからプラチナとかなんだよね」
「まあ忙しい社会人ならそうなるか。親戚に何キャラもマスターの人いるから麻痺してた」
たまに格ゲー教えてもらってるフリーターの従兄弟がいるから、大人は強いと無条件に思ってしまう。
「その人もすごいですねえ、調べたら私たちくらいの歳でプロもいるじゃないですか?才能ってあるんですねえ」
「才能……そうだな。」
俺には一欠片も無いものだな。と、言いかけて、やめる。と目線がこっちに向いているのに気づいた。
「なに?……ほらちゃんと画面見ないとまた最弱cpuに負けて泣くことになるぞ〜」
「そうなったら教えてる方が原因では?」
思いっきり疑うような顔を向けてくる姫路に笑いが堪えられなくなってきてしまう。
「そうかもしれんなぁ」
つい二人で吹き出して。そのまま姫路は最弱cpuに負けた。……負けたくせに上機嫌な姫路に1クレを渡す羽目になった。




