表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
- Mixed blood -  作者: Dave-show
第一章 旅立ち
4/25

Aランク狩猟者への道

「ロックリザードでいいんだな? こいつの体皮は防具にいいぞ」

「じゃあ、倒したら防具が新しくなるね!」

 

 Aランク狩猟者(ハンター)になる。それはリーベン島へ向かうための第一歩だ。それに相応しい防具も手に入るなら、願ってもない相手だった。

 

「ランクアップ試験の条件は要らないか?」

「いや、一応聞いとくよ」

 

 三人以下のパーティーであること。

 全員がBランク以下であること。

 試験の達成は、ロックリザードの体皮を持ち帰ること。

 

「Bランクの試験の時も疑問だったんですけど、高ランクの狩猟者(ハンター)に手伝ってもらったり、四人以上で倒したりしても分からないんじゃないですか?」

 

 トーマスの素朴な疑問に、受付のおじさんは手を振った。

 

「いいや、不正は出来ないようになっている。狩猟者(ハンター)ライセンスには各個人の魔力が登録されているからな。今からお前らのライセンスカードを同期するんだが、お前ら以外の魔力の干渉があれば分かるようになっている。だから三人で依頼をこなす他にない。まぁ、他にも細かい条件はあるが、三人で行くなら関係ない話だよ」

 

 他にもどんな魔物と交戦したかなど、魔力の干渉をカードが記録する仕組みになっている為、不正はできないらしい。

 

 確かに、不正で高ランクになったような奴がパーティーにいたら、いざという時に確実に全滅する。上手くできているもんだ。

 

「ただ、Aランク以上の依頼品はかなり高額なんだが、商人なんかが高ランクの依頼品を金で買い、ライセンスを得ることはある。商人が依頼を受けるようなことはない、死にたくはないからな。町に入る際に関所に並ぶのを避けるためだが、それは黙認しているのが現状だな」

 

「そういうこともあるのか……。じゃあ、この内容でランクアップ試験の受付を頼むよ」

「あぁ、分かった。狩猟者(ハンター)ライセンスを預かる」

 

 カウンターに並べられたオレたちのカード。それぞれの生き様が、その肩書に刻まれている。

 

 剣士(ソードマン)

 ユーゴ・グランディール

 

 盾士(タンク)

 トーマス・アンダーソン

 

 回復術師(ヒーラー)

 エミリー・スペンサー


「受け付けたよ。頑張ってこい」

 

 相手は決まった。

 あとは、斬り伏せるだけだ。


 

 ◇◇◇


 

 その夜、オレは自室のベッドに横たわっていた。

 窓から差し込む月明かりが、壁に立てかけた父さんの刀『春雪(しゅんせつ)』を静かに照らしている。

 

 Aランクへの昇級試験。相手はロックリザード。オレの胸には鉛のような重しがのしかかっていた。

 

(この程度で緊張してるようじゃ、狩猟者(ハンター)にはなれないぞ?)

 

 父さんの声が聞こえた気がした。違う、これは緊張じゃない。もっと根深い……恐怖だ。

 

 目を閉じると、瞼の裏にあの光景が浮かぶ。何度振り払っても、悪夢のように蘇ってくる。

 

「キャァァァーッ!!」

 

 母さんの、耳を劈くような悲鳴。

 次に気が付いた時、オレは父さんの腕の中にいた。ひどく震える、傷だらけの腕。血と土の匂いが鼻をついた。

 すぐ側には、いつも微笑んでいたはずの母さんが、まるで眠っているかのように静かに横たわっていた。

 

「母さんは魔物に襲われた……ユーゴ、お前は大丈夫だ……母さんが守ってくれたんだ」

 

 父さんの涙を、オレはあの時初めて見た。嗚咽を漏らしながら、ただ強く、強くオレを抱きしめる父さんの体温だけが、やけに生々しかった。

 

「昼寝なんてしなけりゃよかった……ハイキングに行きたいなんて……言わなけりゃよかった……ウワァァァー!!」

 

 幼いオレの絶叫が、静かな森に虚しく響いた。

 

「ユーゴ……お前は悪くない。大丈夫だ……」

 

 大丈夫だ。

 父さんはいつもそう言った。魔物との訓練でオレが気絶するたびに、目を覚ますと父さんは傷だらけの身体でオレを抱きしめ、そう囁いた。オレはいつも無傷だった。父さんの腕の中で、その傷を見るたびに、心に誓ったんだ。

 

 もう二度と足手まといにはならない。

 もう二度と、大切な人を失わない。

 

 もっと強くならなければ。誰かを守れるくらいに。Aランクなんて、ただの通過点だ。父さんのように、誰にも負けないくらいに。

 

 ベッドから身を起こし、春雪を手に取る。

 ひやりとした鞘の感触が、昂ぶる心を少しだけ落ち着かせてくれた。

 

「……見ててくれよ、父さん、母さん」

 

 呟きは、誰に聞かれることもなく夜の静寂に溶けていった。


 

 ◇◇◇

 


 翌朝、狩猟者協同組合(ハンターギルド)の前で待ち合わせる。

 二人とも時間通りだ。トーマスはもちろん、エミリーも普段は真面目な狩猟者(ハンター)だ。時間にルーズなんてことはない。むしろ主要レースには夜明け前から並ぶほど朝には強い。

 

 三人揃って鍛冶屋街へ向かう。

 ダンさんの店から漂う鉄の匂いが、オレの気を引き締めた。

 

「ダンさん、おはようございます」

「おはよう、待ってたよ」

 

 丁寧に整備された革鎧を身に着ける。身体に馴染んだ革の感触が心地良い。

 

 そして『春雪』。ダンさんの手によって、刀身は日差しを浴びて美しく輝いていた。

 

「では、行ってきます」

「あぁ、気をつけてな」

 

 お代を支払って店を後にした。

 当然エミリーは無一文だ。魔石入りの杖は手入れの必要はないけど、革鎧の代金は立て替えてやった。後で報酬から天引きだ。



 依頼のロックリザードは、採掘中の坑道に住み着いたらしい。

 

 Aランクの魔物。そのランクは、同ランクの攻撃役(アタッカー)盾役(タンク)回復役(ヒーラー)、基本の三人パーティーで一体倒せる事を想定して付けられる。Aランクの魔物が複数体いれば、Sランク依頼になる。 

 父さんのようなSランク狩猟者(ハンター)は、Aランクの魔物を一人で瞬殺するほどの猛者だ。いつか、必ず追いついてみせる。

 

 リザードという名から四足歩行のトカゲを想像するが、実際は二足歩行の小型ドラゴンのような風貌だ。しかも、体皮が岩のような鱗に覆われて相当硬いらしい。

 

「前に一度だけ見かけたことあるよね」

「あぁ、あの時は必死に逃げたな。まさか自分たちで挑むことになるとは」

「どれくらいの大きさだったっけ? 遠かったからそんなに大きくは見えなかったけど、所詮はトカゲでしょ?」

 

 分からないことを議論しても仕方ない。

 ゴルドホークの喧騒を背に、オレたちは依頼場所の坑道へと向かった。

 

「ここだな。中は真っ暗だ」

「暗かったらマジックトーチを着けるよ」

 

 マジックトーチは魔力で点火する松明だ。小型で軽量なうえに、少ない魔力で周囲を明るく照らせる便利な魔法具だ。

 

「よし、準備はいいかい? 入るよ」

 

 トーマスを先頭に、湿った空気と土の匂いがする坑道の中に入る。 

 十歩程進んだだろうか。

 

「やっぱり暗いな。足元に気をつけてね」

 

 トーマスがトーチに魔力を込める。

 ぼんやりとした光が灯った瞬間――数歩先に、いきなりドラゴンの巨体が浮かび上がった。

 

「「「ギャァァァ――!!」」」

 

 オレたちは悲鳴を上げ、もつれるようにして坑道から一目散に逃げ出した。

 

「おい! なんだよ今の! 心臓が口から出るかと思ったぞ!」

「で、でかすぎるでしょ……!」

 

 坑道の闇から、地を揺らしながらゆっくりと何かが姿を現した。

 ロックリザードだ。

 

「そ……外におびき出すことには、成功したな……」

「たまたまだけどね……。思った以上に大きい……」

 

 小さなドラゴンとはよく言ったものだ。まさにその通りだった。岩と見紛うほどの鱗が、朝日を浴びて鈍く光っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ