渡航
夜はサメの歯を売ったお金で、昼間より豪華に宴会をした。お気に入りのカルパッチョを白ワインで流し込む。
「リーベン島はどんな料理が食べられるのかな」
「そもそもどんな町なんだろうな。島って独特な文化を築いてそうだ」
「島でちょっとゆっくりしたら次の旅のプランも立てないとね! 最近強い魔物と戦ってないから、腕なまっちゃうよ!」
「確かに、Aランクの目標クリアして、お金もあるから欲が無くなってたかもな。リーベン島で強い魔物に会いに行くのも良いかもな」
美味い魚を堪能しながら、ほろ酔いでワインを飲み進める。
明日にはリーベン島。オレのルーツがその島にある。父さんは始祖四種族かもしれない。置き手紙の内容が、頭の中を回る。
「ユーゴ、どうかした?」
俯き加減にワイングラスを回しているオレに、トーマスが声を掛けた。
「あぁ、いや、なんでもない。話は変わるんだけど、二人は始祖四種族を見た事ある?」
「僕はノースラインで魔族は見かけたよ。真っ赤な髪の毛が凄く目立ってたね」
「私も魔族と……仙族には会ったことあるかな。鬼族と龍族は見たことないね」
ゴルドホークで他種族を見かける事は無かった。他の町で生まれた二人は、さも当たり前のように答えた。
「そうなのか……オレはつい最近まで絵本の中の御伽話だと思ってたよ」
「私も小さい頃はそう思ってたな」
気付けば三人でワインを三本空けていた。
「明日はゆっくりだけど、もう出るか」
明日は昼前に出る船に間に合えばいい。良い感じに酔いも回り、店を後にした。
ホテルを選ぶのも面倒だ。レストランを出て一番近い寝床にチェックインし、ゆっくりと旅の疲れを癒した。
◇◇◇
狩猟者の朝は早い。遅くまで寝過ぎると体が動かない。早起きが体に染み付いている。重度の二日酔いの日以外の話だけど。
魚をふんだんに使った朝食を腹いっぱい平らげて、紅茶をゆっくりと楽しむ。船出までは少し時間があるけど、早めに船着場まで移動する。
「すみません、フドウの里は大陸の通貨で問題ないんですか?」
船着場で切符を買う時に聞いてみた。
「あぁ、フドウもブールに統一されたのは大昔の話だ、問題ないよ」
「あー!!!!」
突然エミリーが素っ頓狂な叫び声をあげた。
「どうしたエミリー!?」
「ボートレース忘れてたー! ブールで思い出したー!!」
そう言えば、ルナポートといえばボートレースだと楽しみにしていた。
「美味しい魚と楽しい海水浴で忘れてた……ギャンブルを忘れるなんて……エミリー一生の不覚……」
エミリーは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「リーベン島から帰るときは絶対ここに寄らないといけないんだから。次は少し滞在しようよ」
トーマスがエミリーを慰める。
「うん……そうしてくれると嬉しい……」
エミリーの落胆ぶりは相当なものだった。リーベン島にもギャンブルはあるさ、と二人で慰める。いや、彼女ためにはやめさせるべきなんだけど……。
無事に船に乗ることが出来た。大型じゃないけど、割と立派な船だ。黒髪の人も数人いた。父さん以外で初めて見る。
昼過ぎには着くようだ。ホテルで軽食を買ってきている。それを食べようと思った矢先の事だった。突然、船が大きく揺れた。
「なんだ?」
船のすぐ近くに、大きなシードラゴンの首が現れた。
「魔物だ! 行くぞ!」
「下がってろ」
後ろからの声で振り返る。声の主は黒髪の青年だ。
『風遁 嵐塵』
途轍もない風切り音と共に、無数の風の刃が放たれ、シードラゴンが一瞬で斬り刻まれた。それを確認することなく、青年は何事も無かったように操縦室へと戻っていった。
「すっご……なに今の魔法……」
エミリーは目を丸くして、青年が去った方向を見ている。
「ふうとん、て言ってたな」
「おそらくリーベン島の戦闘方法なんだろうね……習得したいもんだ」
トーマスも感心した様子だ。
その後は何事もなく船着場に着き、島に上陸した。
「ユーゴやシュエンさんみたいに、みんな髪が黒いね」
「本当に父さんの故郷なんだな。この光景を見たら間違いないなって思うよ」
「ここはどんなギャンブルがあるかな」
当面の目的地、リーベン島に到着した。
【第一章 旅立ち 完】
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