港町ルナポート
港町ルナポート。
父さんの故郷だというリーベン島への船が出ている。魚介類の漁が盛んで、漁港にはかなりの船が停泊している。
「うおぉ! これが海かー!」
思わず叫んだ。目の前に広がる青い水平線は、今まで見てきた川や湖とは全く違う迫力がある。
「僕も初めて見るよ。これが潮の香りって言うのかな」
トーマスも目を細めて海を見ている。
「とりあえず、船がいつ出るのか確認しようよ!」
エミリーが先導して船着場に向かう。漁船の上で作業をしている色黒の男に聞いてみると、一日一往復だけらしく少し前に出てしまっていた。次は明日の昼前に出るようだ。今日はここで一泊する他ない。
「オレ、海の魚が食べてみたいんだ。川魚との違いはどうかな?」
遠くからでも目立つ派手な看板の、一際大きいレストランに入った。船乗りが多いんだろう、色黒の男達が昼間から酒を酌み交わしている。家族連れも賑やかだ。女性も子供もよく日に焼けている。
念願の魚料理が運ばれてきた。白身魚のマリネ、魚のカルパッチョ、魚介のパエリア、見たことも聞いたこともない料理が、テーブルいっぱいに並んだ。
「これは酒が進むぞ……夜は飲もう」
「んじゃ、いただきまーす!」
皆の顔に笑顔が浮かぶ。生でも食べられるのは鮮度がいい証拠だ。魚は傷みやすく、街道での輸送はできない。だからここでしか食べられない。
「おいしー! 私このパエリアっての好き!」
「オレは断然カルパッチョだな。ワインがすすみそうだ」
「今まで味わったことない味だね。世界を旅するって本当に楽しいよ」
酒を我慢しつつ、全ての料理を平らげた。食事を終えてもまだ昼過ぎだ。
「海水浴でもするか?」
「ユーゴ、私の水着姿見たいんでしょ? スケベだから!」
「残念だったな、オレはグラマーな女が好きなんだよ」
「……チッ、スケベ野郎」
「だいたい、エミリーの水着姿はサウナの時に散々見てるだろ」
「あ、そっか」
エミリーは納得して、すぐに水着に着替えた。
ジリジリと照りつける陽の光が背中を刺す。波打ち際で足に当たる海水はまだ冷たい。意を決して飛び込むと、意外にも冷たさは感じなかった。海水浴には適した気温らしい。
川遊びと同様に手足をバタつかせるが、波が押し寄せてうまく泳げない。
「本当にしょっぱいんだね!」
エミリーは顔を顰めて、海水を吐き出した。
オレも海水を舐めてみる。
「ん? ホントだ!」
「海で漂流したら飲水無いね。大変だ」
「何言ってんの? 水魔法で作ったらいいじゃん。トーマスらしからぬこと言うね」
「あ、そうか……」
他愛もない会話をしながら海水浴を楽しんだ。
「そういえば、オレら以外一人も泳いでないんだな。シーズンじゃないのか?」
すると、浜辺の方から声が聞こえた。
「おーい! 君ら危ないぞ! こんな時期に泳ぐもんじゃないぞー! 早く上がりなさい!」
中年男性が両手を振って叫んでいる。
「危ないって言ってるな」
「あのでっかい魚の魔物とかの事かな?」
「仕留めたら売れるかもね」
好戦的なエミリーが、標的に向けて魔力を込めた手のひらを向けた。
『風魔法 強風砲!』
小さな手から放たれた風魔法は、海を割って一直線に魔物に飛んでいった。風穴が空いてプッカリ浮かんできた大きな魚を、三人で浜に向け押して泳ぐ。
「君ら凄いな。狩猟者かい?」
浜辺で大声を出していた中年男性が、オレ達に話しかけてきた。
「はい、明日リーベン島に向かいます」
「あぁ、その黒髪。なるほど、フドウの人か」
中年の男性は、オレの髪色を見て合点している。
「フドウ? リーベン島じゃないの?」
「え? フドウの人じゃないのか? リーベン島には『フドウの里』っていう町があるんだ」
フドウの里。
目と鼻の先に目的地がある。明日には到着する父さんの故郷の名を、頭の中で反芻する。
「なるほど、そういう事か。ところで、この魚って売れますか?」
「このサメかい? 肉は臭くて食べられないけど、歯がそこそこの値で売れるよ」
この魔物のランクは知らないけど、素材が売れるならCランク程度か。夕飯が少し豪華になりそうだ。
「おじさん、ありがとー!」
「リーベン島行き気をつけてな! 魔物に襲われたりするから」
「そうなんだ……」
もう少しすると海水浴のシーズンに入るらしく、サメなどが入れないようにバリケードを設置してから海開きをするらしい。
なんとか海水浴を楽しめはしたけど、オレのもう一つの目的は、水着のお姉さん達を拝む事だった。まぁ仕方ない。




