眼
レトルコメルスを出て、三日目の夕方。
「この河原、テント張るのに良くないか?」
オレが問いかけると、トーマスが周囲を確認する。
「そうだね、ちょっと早いけどここにしようか」
横には緩やかに川が流れている。
「水浴びでもまだそこまで寒くはないけど、やっぱりお湯が恋しいね」
トーマスが嘆いている。
「ふふふ。エミリー君、では例のものを出してくれるかい?」
「むふふ。分かったよユーゴ君」
エミリーの空間魔法から新品のテントを出してもらい、二人で組み立てる。四角いテントを川の側に張った。
「あれ、新しいテント買ったんだね。でもこれ、天井に穴空いてるけど……」
トーマスは不思議そうにテントを見ている。オレはエミリーと顔を見合わせた。
加工金属製のストーブを中に入れて、煙突をテントの穴から出し、ストーブの上には火成岩を並べる。中には木製のベンチを置いた。
「ユーゴ、これはまさか……」
トーマスの目が大きく見開かれる。
「そう、テントサウナだ」
「休憩のリクライニングチェアもちゃんとあるよ!」
珍しくトーマスが嬉しさを顔に出している。
「不銹鋼製のストーブだ。熱に強く錆びにくい。サウナだけじゃなく、鍋の加熱にも使えるし暖もとれる」
オレがストーブを指差して説明すると、トーマスは感動したように頷いた。
「毎日サウナに入れるじゃないか! すばらしい!」
「ストーブに火入れするから、二人は寝るテントの用意とご飯の用意を頼めるか?」
「「了解!」」
テント内の温度は最適。三人で水着に着替えて、いざサウナ。たっぷり汗をかいて川にダイブ! エミリーにいたっては泳いでいる。
先にオレとトーマスが、リクライニングチェアで休憩する。
「やっぱり最高だ……」
トーマスは天を仰いだ。
「オレらバカンスに来てるんだっけか……?」
遅れてエミリーが椅子に座って休憩する。
「ほんと、こんな気持ちいい事あるんなら、早く教えて欲しかったよ」
しばしの休憩……。
緩やかに流れる川のせせらぎ、時折聞こえる野鳥のさえずり。サウナの高温で高まった鼓動が徐々に落ち着きを取り戻し、旅の疲れが癒される。魔物に襲われる可能性もあるけど、この気持ち良さには代えられない。その時は戦うまでだ。
「さて、夕飯に火を入れるか」
「お腹すいたー」
皆で立ち上がったその時、何か違和感を感じた。
「あれ? エミリーこっち向いてみて?」
オレはエミリーの顔を覗き込んだ。
「ん、どうしたの?」
「やっぱりだ、片目が青いぞ?」
「本当だ、青いね」
トーマスも驚いたように言った。
「えっ……い…やっ……」
エミリーは顔を両手で覆った。
「ん?」
「いやっ……いやだ……」
「おいおい、どうした?」
エミリーの様子がおかしい。
『イヤァーーッッ!!』
これは尋常じゃない。エミリーは悲鳴を上げて、その場にうずくまった。
「おい! 大丈夫か!?」
二人ですぐに駆け寄る。
「だめだ! 過呼吸起こしてる!」
トーマスが冷静に判断した。パニック状態のエミリーは、そのまま気を失った。
◇◇◇
リクライニングチェアにエミリーを寝かせて、毛布を掛けている。
少しすると、エミリーが目を覚ました。
「エミリー、大丈夫か?」
声をかけると、エミリーはゆっくりと体を起こした。
「あぁ、気失ってたんだ。ごめんよ、ありがとう」
「いや、無事で良かった……」
エミリーは体を起こして座り直した。オレ達に背を向け、右目に何かを入れている。
「見られちゃったね……二人が察した通りだよ。私はこの青い眼を隠して生きてるんだ。色付きのレンズを入れてるんだけど、川で取れちゃったみたい……気をつけないと。前に、過去のことはあまり話したくないって言ったよね? 二人を信用してないから言いたくないって事じゃないんだよ……どう話せばいいか分からないだけなんだ……」
少し沈黙が流れる。オレは静かに言葉を選んだ。
「エミリー、オレたちは仲間だ。家族じゃない。仲間は仲間のいい距離感がある。言いたいことは言ってスッキリすればいいし、言いたくない事は言わなくていい」
「エミリー言ってくれたよね。みんな辛い過去の上で生きている、仲間で助け合おうって。それでいいじゃないか」
トーマスも優しく続けた。
「うん……ありがとう……」
エミリーは安堵したように、再び笑顔を見せた。
「よし、ご飯食べようか! いつ起きてもいいように、じっくり煮込んだから美味しいよ!」
トーマスが作った美味しいご飯で、エミリーの顔に笑顔が戻った。
その後も順調に歩をすすめ、レトルコメルスを出て11日。
港町ルナポートに到着した。




