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- Mixed blood -  作者: Dave-show
第一章 旅立ち
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探偵トーマス 2

「おい、エマはいるか」


 お、意外と冷静だ。


「なんだテメェ、エマに惚れたか? あいつはオメェみてぇなガキ……フゴォッ……!」


 ユーゴの拳が、見えないほどの速さで男の鳩尾にめり込んだ。目に見えるほどの気力を纏った、怒りのボディブローだ。この馬鹿のおかげで、ここが元締めであることは確定した。偽名であることも心配したが、それはないらしい。


「テメェ! いきなり何しやが……ブベラッ……!」

「エマの所に案内しろ。殺すぞ」


 こんなユーゴは初めて見る。

 刀のこともあるだろうけど……多分、それ以上に、初めての街で浮かれていた自分自身への怒りが、彼を突き動かしているのだろう。ユーゴは倒れた大男を、感情を殺した目でただ殴り続けている。

 

「言う! 言うから止めてくれ!」

「オレは、案内しろと言ったはずだが?」

「分かった! 分かったから、とりあえず……ブッ! 殴るのを止めてく……ベッ!」


 どうやら、強い怒りと冷静さが同居すると、彼の口調は変わるらしい。このモードのユーゴは敵に回したくないな。

 大男は、這うようにして渋々屋敷の中へと向かい始めた。


「分かっているだろうが、おかしな真似をしたらマジで殺すぞ」

「しませんて……!」


「ここだ……です……」


 案内されたのは、三階の最奥の部屋だった。

 ユーゴは、豪華な装飾が施された扉を躊躇なく蹴り飛ばした。


『バァーン!』


 いや、蹴り飛ばしたというより『蹴り砕いた』という表現の方が近い。蝶番が弾け飛び、扉が内側へと倒れ込む。

 一応、中にいるかもしれないレディに怪我をさせないための配慮だろうか。だとしたら、冷静すぎる。


 中には、エマと見知らぬ中年の男性が寝ていた。壁には高価そうな紳士服が掛かっている。


「おはよう、エマ。昨日は世話になったな」


 二人は恐怖で声も出ないようだ。服を着ていないことを忘れているのか、無様に身体を晒している。


「今から君に選択肢を与える。どちらでも好きな方を選ぶといい」


 ユーゴの冷たい声が、部屋に響く。


「まず一つ目。入口の扉のように全身の骨を粉々にするか、オレの刀を返すか。選べ」


 エマは恐怖で引き攣った顔を必死に横に振り、震える手で部屋の隅にある衣装部屋を指差した。

 中には武具が多数入っていた。ユーゴの刀も無事だった。


 ユーゴは刀を鞘から抜き、その切っ先をエマに向けた。


「二つ目だ。その自慢の乳を切り落とすか、昨日の金を返すか。選べ」


 エマは美しい顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、震える手で金の入った袋を差し出した。


「これからは、狩猟者(ハンター)を食い物にするのはやめた方がいい。狩猟(ハント)するのは魔物だけだと思うなよ」


 ユーゴは受け取った金の中から、数枚ベッドに投げた。


「ドアの修理代と、昨日のお代だ。普通に楽しめていたら、この金は全部チップとしてくれてやってもよかったんだけどな。まだ若いんだろ? 早めに足を洗った方が身のためだと思うぞ。まぁ、オレには関係ないけど」


 そう言い残し、ユーゴは部屋を後にした。

 僕も一礼してそれに続く。


  

 娼館を出て少し歩くと、ユーゴは僕の方に振り返った。


「トーマス、本当にありがとう。オレ、浮かれてたよ。初めての旅、初めての大都市で完全に舞い上がってた。武器を盗られるなんてハンター失格だ。これで目が覚めた。……これ、取っといてくれ」


 ユーゴは深々と頭を下げ、さっき取り返した金を僕に差し出した。


「いいよ、そんなの。無事に返ってきて良かったじゃないか」

「いや、昨日の夜、お前は動いてくれてたんだろ? 自分の楽しみを捨ててまで、オレの刀を守ろうとしてくれた。こんなものじゃまだ足りない」


 こうなったら、ユーゴは絶対に引かない。


「……分かったよ、受け取る。でも、礼はこれで十分だ。その代わり、僕がピンチの時は助けてくれよ? それでいい」

「もちろんだ!」


 一件落着だ。

 ホテルのロビーに戻ると、エミリーがまだしょげている。


「刀、戻ったんだね。……ねぇトーマス、私のお金も取り戻してよ……」

「エミリー、それは無理だよ……」


 ユーゴと二人、呆れながらもエミリーを宥める。豪華なはずの朝食は、全く味がしなかった。このほろ苦い経験も、いつか笑い話になる日が来るんだろうか。僕はただ、無事に戻ってきた友の横顔と、彼の手に戻った刀を静かに見つめていた

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