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- Mixed blood -  作者: Dave-show
第一章 旅立ち
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探偵トーマス

 ユーゴがエマと連れ立って店を出ていくのを、僕はグラスを傾けながら見送った。その背中を見送るエマが、ふと黒服の男に何かを耳打ちし、口元だけで卑劣な笑みを浮かべたのを、僕は見逃さなかった。


 これは危険な匂いがする。

 そう思った瞬間、彼女はこちらを向き、僕と目が合った。まずい、警戒されたか。


「トーマス君? 何か考え事?」


 隣に座るジェニーと名乗った女性が、甘い声で僕の顔を覗き込む。僕は平静を装い、グラスに残ったウイスキーを飲み干した。


「あぁ、いや、何でもないよ。連れが帰ってしまったからね。見ていただけ」

「そっか。トーマス君もAランクの狩猟者(ハンター)なんでしょ?」

「うん、そうだよ。もう一人、回復役の仲間もいるけどね」

「ユーゴ君と一緒で、三日くらいここにいるの?」

「そうだね、その予定だ」


 するとジェニーは、僕の耳元に顔を近づけた。

  

(トーマス君の部屋に、行きたいな……)


 おそらく、ユーゴもこう囁かれたに違いない。

 けど、なんの脈絡もなく、部屋に行きたい、だと? この子は馬鹿なのだろうか。それとも、僕が馬鹿だとでも思っているのか。どちらにせよ、警戒しない方がおかしい。

 

 さて、どうする。

 僕達がAランクの狩猟者(ハンター)であることは確認済みだ。狙いは金か、あるいは武具か。どちらにせよ、ユーゴの父の形見であるあの刀だけは、絶対に奪わせる訳にはいかない。


 すぐにホテルに戻り、正面で待ち伏せるか? いや、さっき目が合ったことで警戒されているなら、裏口から逃げられる可能性がある。裏口で待っていて、正面から堂々と出てこられたら意味がない。分からない。


 ……ならば、この子を泳がせて、奴らの拠点を特定するか。元締めがいるとすれば、この店からそう遠くはないはずだ。


「残念だけど、実はこの後、友人とカジノで待ち合わせをしてるんだ。ジェニーちゃん、道がよく分からないからそこまで案内してくれないかな? もちろん、デート代ははずむからさ」

「うん、いいよ! 行こっか」


 話をしながら、ジェニーに腕を組まれて店を出る。組んだ腕に当たる大きな胸の感触に、男として嫌な気はしない。でも、今はそれどころじゃない。


「カジノはここだよ!」

「ありがとう、助かったよ。これ、お礼ね」


 僕は懐から、割と多めの札束を手渡した。僕も楽しかったのは間違いない。そして、あれだけの額だ。一度、元締めの所に金を預けに戻るはずだ。

 カジノに入ったふりをして、ジェニーの後をつけた。思った通り、彼女は繁華街の裏手にある立派な屋敷に入っていく。間違いない、あそこが拠点だ。

 しばらく待っていると、彼女は再び客引きのために表通りへと向かった。僕はその建物を改めて確認する。


 看板も何もないが、作りはどう見ても娼館(しょうかん)だ。もしもの時は、ここに来ればいい。


 ホテルに戻り、正面玄関が見えるロビーのソファで待ち伏せた。

 しかし、エマは出てこない。もう既にホテルの中にいないか、裏口から出たか。あるいは、普通にユーゴと楽しんでいる可能性もゼロではない。部屋に突撃はできない。

 仕方ない、拠点は押さえた。今はそれで十分だ。


 部屋に戻り、軽くシャワーを浴びる。

 一週間ぶりの清潔なベッドだ。旅の疲れと、張り詰めていた緊張の糸が切れ、深い眠りに落ちた。

 


 ◇◇◇

 


 美味しい料理に美味しいお酒、そしてフカフカのベッドでの目覚め。素晴らしい朝だ。よく眠れた。

 着替えて、ホテルの朝食を食べに行こう。少し早いが、ユーゴの事が心配だ。

 フロントロビーを通りかかると、ユーゴとエミリーがソファに並んでうなだれていた。


「二人共……どうしたの……?」

「……全財産の三分の一、持っていかれちゃった……」


 うん、エミリーは分かる。いつものことだ。

 問題はユーゴだ。


「睡眠薬を盛られた……。目が覚めたら、手持ちの金が全部無くなっていた。いや、金はいい。……刀が無いんだ。父さんから譲り受けた、大事な刀が……。追うにも手掛かりが無い。父さんに、会わす顔がない……」


 やっぱりか。

 予感は当たった。裏口から出たんだろう。


「……おそらくだけど、場所は分かるよ」

「本当か!?」

「あぁ、案内する。まだ早朝だ。刀が売られているってことはないだろ」


 そう言うと、ユーゴの落ち窪んでいた瞳に、みるみる怒りの炎が宿っていくのが分かった。

 いや、ユーゴにも非はあるんだけど……それを今言うのは野暮だろう。


 ホテルから少し歩き、昨晩確認した娼館へユーゴを案内する。

 大きな屋敷の入口には、僕達より頭一つ分は大きい、屈強なスキンヘッドの男が仁王立ちしていた。ユーゴは一瞬たりとも歩を緩めず、そのまま男の前に立つ。

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