修羅場
遅くなって申し訳ありません…!少し長めです。
新キャラ登場。しかしモブです。
さてさて、書記の元を去った私がどこへ行ったのかというと、次の穴場を探しに行ったのだ。
一応眼操を使って探してはいたんだけど…やっぱりこういうのは実際にその場に行ってみないと分からないものだと思う。
人の視線っていうのは目で感じるんじゃなくて体で感じるものだろうし、ね。
副会長のところへ行くか迷ったけど、まだ品評会してるみたいだし、後ででいいよね。
もし案が通るなら準備とかあるだろうし早めに行かなきゃいけないのは分かってるんだけどさ。
そうして人目を避けつつご飯をつまみつつお皿に盛りつつうろちょろしていたら、良さそうな場所を発見した。
植木で人の視線が遮られる上に影になっており、ベンチも置いてある。うむ、良いぞ良いぞ。
そそくさと移動して、いざ座ってみると、そこは予想以上に良い場所だった。
影になっていて私のことは会場からは見え辛いが、私からは会場内が大体見渡せるのだ。目操で確かめたので間違いない。
その場に座って、攻略キャラと主人公、それに会場を観察しながら料理を堪能する。
あ、このカップ寿司美味しい。こっちのペペロンチーノも好きだな。
んー、どれも美味しいなー。次に何を取るか、迷っちゃう。
そんな風に木陰で美味しいものを堪能していたら、少し先で3人の男女が争っているのが目に入ってきた。
漏れ聞こえる声を聞く限り、1人の女子を2人の男が取り合っているようだ。
うわぁ、ザ・修羅場って感じ。
面倒な匂いがするんでスルーしたいところだけど…あの3人がいる位置がちょうど会場からは死角になっているようで、各所に立っている風紀委員も先生も見回りの生徒会役員も気付く様子がない。
ちっ、こんな時だけ役立たずだな。
気付いているかもしれないが、この会場、実はかなり死角が多い。
何故なら、特能持ち同士の恋愛を推奨しているから。まぁ他にも色々あるんだけど、一番大きな理由はそこ。
お金持ちのお坊ちゃんお嬢さんは多いから大丈夫なのかと思われそうだが、そもそもここにたどり着くまでのセキュリティが、ね。
特能持ちだけだとPTAやらモンスターペアレントさんやらに差別がどーたらこーたら言われちゃうんで、学園全体で恋愛を推奨してる。
生徒同士はもちろん、生徒と先生間でもおっけー。
では何故恋愛推奨なのかというと、お察しの通り、より多くの特能持ちを得るため。
つまり子作りしろってわけだ。
でも流石に学生の内に子供が出来てしまうのは世間体が悪すぎるために、将来の子作りの相手を今の内から見つけておけということで、恋愛推奨となっている。
あ、ちなみに、ここらへんの事情は一般生徒にはおおっぴらには公開されてない。特に隠されているわけでもないから、聞けば答えてくれるはず。
でも聞いたら聞いたで何で知ってんだ、となってしまうため、聞くに聞けない。元々聞く必要もないけど。
閑話休題。
考えている間に2人の男はどんどんヒートアップしているみたいだし、女の子の方はオロオロしているばかりで何もしていない。誰か仲裁役を買って出てくれそうな人が此方に来る気配もない。
あ、片方が胸ぐら掴んだ。今にも殴り合い始めそうだなー…。人、来ないなー…。
…私にやれと、そういうことか。面倒くさい。
「おい、小夜子が嫌がってんだろ。いい加減諦めろ」
「あ゛?小夜子はお前と回るのを嫌がってんだよ。そっちこそいい加減にしろ」
「はぁ?テメェの目が腐ってんのかそれとも頭が腐ってんのか?どっちにしろ病院の紹介が必要そうだな」
「お前、喧嘩売ってんのかコラ!?」
「はぁ……おーい、そこのお二方ー」
「「あ゛!?」」
「そうそう、あなたたち、暗がりで女の子取り合って今にも取っ組み合い始めそうなガラのわるーいあなたたちですよー」
ため息を吐きつつ、3人の所へ近付く。
お皿を片手に持っているので締まらないのは勘弁して欲しい。
それにしても、お坊ちゃんお嬢さんの多いこの学園の生徒にもこんなにガラの悪い人たちがいるんだねー。高入生かな。
ただ単に頭に血が昇って普段の口調が崩れてるだけだと嬉しいんだけどなー。なんとなく。
「はいはい、離れて離れてー…彼女さんも可哀想に、すっかり怖がっちゃってますよ」
「んだよテメェは…関係ない奴はすっこんでろ」
「怖がらせてんのはコイツだよ、俺じゃねぇ」
「別にあなた方が彼女さんを取り合うのは勝手ですけどねー…生徒会主催の行事で揉め事起こされちゃうと面倒なんで、後にしてくれません?」
にこにこと笑顔を浮かべながら、互いの襟をつかみ合っている二人を引き離して間に入る。
どうでもいいけど、好きな人が何に怖がっているのかも分かってないというか、分かろうとしていないのは、本当に好きって言えるのかねー。
一見すると、ライバルに負けじと想い人を勝ち取ろうとしている自分に酔ってるようにしか見えないかなー。
ま、どうでもいいけどねー。
「…あぁ、思い出した。テメェ、こないだ生徒会入りしてた、安土なんちゃら」
「は?あの、上杉からずっと逃げ回ってたっつー後天の?」
「はぁ…まぁ間違っちゃいませんけどね。上杉さんとお知り合いですか?」
話題を逸らして頭冷やしてくれないかとあがいてみたり。
冷静になれば案外直ぐに解決する揉め事って多いんだよ?
「あぁ、まぁ…有名だし、こっちの階まで探しに来てたからな」
「そういや騒いでたな。今はもう捕まったんだったか」
「逃げ切る方に賭けてたのによー…おかげで大損だよどうしてくれんだ畜生!」
「俺も俺も…何が嬉しくて野郎にラーメンなんざ奢らなきゃならねぇんだ!」
「いや、それを私に言われましても…」
そろそろ誰か私に取り分を分けに来るべき。いやマジで。
というか当たる確率なんて無に等しいんだから大損するほど賭けてるわけがないよね。賭けてたとしたらただの大馬鹿か。
私だって捕まる前に主人公が諦める方に賭けたかったよ!
ってこれだと私が最初っから諦めてたみたいじゃないか。いやまぁ、悪あがきの自覚はあったんだけども。
あとラーメン奢った方の人はその言葉そのまま自分に返ってくると思うよ?
もし勝ってたとしても相手もそう思うんじゃないかな。
主人公の行動力の凄さに白目になりそうです。嘘だけど。
だって、この人たちは多分高3で、主人公は高1だよ?私もだけど。
この学校は階ごとに学年が分かれていて、1学年違うだけで上に一人で行くにはなかなか勇気がいるのだ。
この人たちが知ってるということは、わざわざ3年の階まで探しに行ったというわけで。うん、無理。用事でもない限り、私には無理。
何でこの人たちの学年が分かるのかというと、制服のおかげだ。
女子はブラウスの襟のライン、男子はワイシャツの襟のラインの色で学年が分かるようになっている。あと上履きでも。
ただし今は庭園でのパーティということもあり、皆ローファーなので、見分けたのは襟のライン。
現在の会長やら副会長やら監査やらが緑で、この人たちも緑なので、高3だと判断したというわけだ。
だいぶ暗いから、今の高1の色の青と見間違えてるかもしれないけどね。
ただ、会話から判断するに高1ではなさそうかなぁ。多分ね。
「あ、あの……」
「ん?あぁ、えぇと…小夜子(仮)さん?初めまして、安土と言います」
話を逸らすことに成功したとこっそり喜んでいたら、オロオロしていた小夜子(仮)さんが困惑したように話しかけてきた。
(仮)に他意はないですよ、口にも出してないし。ただ単に正式なお名前を知らないので仮で呼んでいることを表しているだけですから。通じるか分からないけど。
「あ、えと、ご丁寧にありがとうございますっ。岡内小夜子と言います。不束者ですがよろしくお願いしまひゅりゅっ」
うわ、痛そう。
予想外に丁寧に返されて地味に焦っていたら、最後の最後でわけのわからない噛み方をなさいました。え、私まだ何もしてない。
口を抑えて若干涙目になっています。話を逸らされた男2人も困ったようにオロオロとして彼女を見ている。
「…大丈夫ですか…?」
「あっ、は、はいっ!大丈夫でしゅっ!…………うぅぅ~…」
あー…、うん。何となくどういう人かは分かった。確かにこんな人放っておけないわな。
「えーっと…うん、深呼吸でもして落ち着いてください…」
「は、はいっ。……すー…、はー……、すー…、はー……」
生暖かい目で見ながら深呼吸を促すと、実際にすーはー言いながら深呼吸をなさった。今時こんな素直な人が居るなんてお姉さん感動。姉さんって年でもないね、てへぺろ。
どっちの意味でお姉さんって年でもないのかとか聞いたやつは怒らないから名乗り出てね。ついでに似合わないとか思ったやつも。
「お、お恥ずかしいところをお見せしました…っ。ありがとうございます…。」
「落ち着きましたか?」
「はい、お陰さまで…」
「それなら良かったです。ところで、何か御用でしょうか?」
「あ、いえ…その、何でもないんですが、居た堪れなくて…」
すっかり顔を真っ赤に染めながら、消え入りそうな声で答える岡内さんに苦笑が漏れる。
しかしそこ、素直に答えちゃうのね…。普通もっとこう、無視されるのが嫌だったとかそういう理由がありそうなものだが、彼女はどうやら嘘は言っていなさそうだ。
まぁ、自分を巡って争っていた二人が別の話題を提供された途端その話ばかりするのを傍から見ていたら、確かに居た堪れなくもなりそうだが。
「あぁ、それは申し訳ありません。それで、岡内さんはどちらと一緒に回りたいんですか?」
「あ、小夜子で構いませんっ。えと……その、笑わないで聞いてくれますか…?」
ふむ、許可も降りたことだし名前で呼ばせてもらうか。
折角逸らした話題だが、当の本人に居た堪れない思いをさせるなら話題を戻すことも吝かではない。
何より小首をかしげて恥じらいながら言う小夜子さんは可愛いです。
そう、可愛いのだ。
主人公のように、誰もの印象に残るような可愛さではないけれど、何というのか。こう、道端に生えている花のようにというのか、そういう地味な可憐さがある。
ちなみにおさげです。
男2人の方?まぁ顔は整ってるんじゃない?興味ないけど。
「では、小夜子さんと…もちろんですよ、教えてくれますか?」
何となく先程から自分が男装しているんじゃないかと思うほど気障ったらしい気がする。気のせいだといいな。男2人が若干睨んでくるけど、気にしなーい。
「えと……2人ともと、回りたいんです…。こ、子供っぽいですよね、この年になって…っ」
顔を真っ赤にして言い淀んでいるから何を言い始めるかと思ったら、なんだ、そんなことか。
「いいと思いますよ?仲が良いんですねー」
「うぇ…?え、あ、その…小さい頃から一緒ですし…」
「コイツとは仲良くないけどな」
「小夜子とだけだっつの」
私の反応に戸惑ったように、けれどはにかみながら言う小夜子さんと、若干頬を染めた男2人を生暖かい目で見守る。
どうでもいいけど頬を染めた男ってあんまり見てていい気はしないよね。それで可愛いのは女の子だけだから。
「では、折角のパーティですし、今日ばかりは喧嘩せずに小夜子さんを楽しませてあげてくださいね、先輩方?」
「ん、まぁ…努力する」
「小夜子を楽しませる方が大事だからな」
「あ、ありがとうございました、安土さんっ」
「いえいえ、楽しんでくださいねー」
小夜子さんを真ん中に、並んで会場中央まで向かう3人を、手を振って見送る。
んー、良い事すると気持ちいいね!料理のこと忘れてたけど!




