14話スーパー突発的弾丸旅行
「おっし!」
突然、父が勢いよく立ち上がった。
「今度の家族旅行はスバルビジターセンター行って、そのままトヨタ博物館行くか!、あとホンダも日産も、三菱も、全部回って帰る!」
「なんでそうなるんですか!?」
イクトが振り返る。
「いいじゃねぇか。お前ら二人とも車好きなんだろ?」
「俺は行きたい」
斗真が即答した。
「僕も行きたいですけど!」
「じゃあ決まりだな」
「決まるの早っ!」
母もまんざらではなさそうに頷いた。
「久しぶりに家族で遠出もいいわねぇ」
「母さんまで……」
「昔の車も見られるんでしょ?」
「見られると思いますけど」
「じゃあ行きたい」
「…………」
イクトは家族を見回した。
父――刺さり屋榊。
母――元サーキットの女神。
弟――青のVABを欲しがり、第二候補にアルシオーネSVXを挙げる男。
そして自分――免許取得前からスポーツカーを買おうとしているうえ、整備工場まで手に入れようとしている。
「……あの」
「ん?」
「この家族、車から離れた旅行先って選べないんですか?」
三人が顔を見合わせた。
「「「…………」」」
「なんで誰も答えないんですか!?」
斗真がスマートフォンを取り出す。
「そういえば・・・イクト、データセンターって見学できるものなのか?」
「無理ですね。」
ト父さんはリビングの奥にある開かずの扉を見ながらこう言った。
「無理かぁ~アレの本場を見てみたかったんだが。」
「一般見学はまず無理ですね。見学会や関係者向けなら別ですけど、さすがに僕にあっちの伝手はないですよ」
「兄ちゃん、トヨタ博物館にSVXあるか調べて」
「なんでトヨタ博物館にスバル車を期待してるんですか!」
「博物館なんだからあるかもしれないじゃん」
「……ちょっと待ってください。調べます」
「調べるんだ」
父が笑った。
「ところで母さん」
「なに?」
「せっかくだし、帰りにどっかサーキット寄るか?」
「いいわね!」
「増えた!!!」
イクトの叫びがリビングに響いた。
こうして榊家の家族旅行は、観光旅行ではなくなった。
自動車産業視察ツアー――だったはずなのだが、途中からITインフラ視察まで混入し始めた。
「さすがに飛行使おうか。現地からレンタカーで。」
「いうごろ行くんです?」
「週末?」
「近々過ぎんのよ!!!!!!」
榊家弾丸ツアー決定
「なんで僕が……」
とか言ってるのに30分後、
「この移動時間だと無駄ですね。こっちを先に回して……レンタカー返却をこの営業所に変更すれば47分短縮できます。昼食は移動経路上で――」
「兄ちゃん楽しそう」
「効率化してるだけです。」
「楽しそう」
「…………」
「楽しそう」
「うるさいです。」
「良し飛行機取ったどー!
帰りの飛帰行機遅すぎず早すぎずの塩梅で撮ったぞ。」
「ってこれ朝帰りじゃないですか。僕学校あるんですけど。」
「楽しそう」
「うるさいです。」
イクトが旅程表から顔を上げる。
その時だった。
「よぉし! 飛行機取ったどー!」
リビングの向こうから父の声が響いた。
「早っ!」
「行きも帰りも確保したぞ。帰りは遅すぎず早すぎず、ちょうどいい塩梅だ」
「おお、珍しくまともですね」
「だろ?」
イクトは父からスマートフォンを受け取り、予約内容を確認する。
「…………」
「どうした?」
「父さん」
「ん?」
「これ、朝帰りじゃないですか」
「そうだな」
「僕、学校あるんですけど」
「大丈夫だ」
父は力強く頷いた。
「俺も仕事がある」
「何が大丈夫なんですか!?」
母も予定を思い返す。
「あら。私もパートあるわね」
「ほら」
父が満足そうに腕を組んだ。
「よし、問題ない。平等だ」
「平等なら問題が消えるわけじゃないんですよ!!!」
斗真が予約画面を覗き込む。
「俺も学校だけど」
「これで全員だな」
「被害範囲が家族全員になっただけです!」
「家族旅行なんだから当然だろ?」
「そういう意味の家族旅行じゃないでしょう!」
父はイクトの抗議を完全に聞き流し、予定表を確認した。
「よし。じゃあお前ら、当日は学校終わったらマッハで帰ってこいよー?」
「え?」
「そのまま行くから」
「…………」
イクトの動きが止まった。
「ちょっと待ってください」
「なんだ?」
「そのままって」
「そのまま」
「学校から帰宅」
「うん」
「荷物持つ」
「うん」
「空港」
「そう」
「…………」
イクトは自分が作った工程表を見た。
出発日は金曜日。
放課後。
そこから空港へ直行。
飛行機で移動。
現地到着後、レンタカー。
土曜日、各施設。
日曜日、各施設。
可能ならサーキット。
そして帰りは――月曜早朝。
帰宅。
学校。
「…………父さん」
「なんだ?」
「これ旅行じゃないです」
「家族旅行だぞ?」
「遠征です!!!」
斗真が吹き出した。
「確かに」
「しかも翌日の休養日がない!」
「若いから大丈夫だろ」
「父さんも仕事でしょう!?」
「俺もまだ若い」
「母さん!」
「私は車で寝られるから大丈夫よ?」
「運転手以外全員寝る前提になってる!!!」
父がパン、と手を叩いた。
「はい決定! 金曜は学校終わったら即帰宅! 荷物積んだら出発!」
「せめて一回着替えさせてください!」
「空港で着替えりゃいいだろ」
「修学旅行より雑!!!」
斗真がスマートフォンをしまいながら立ち上がった。
「じゃあ俺、今のうちに荷物作っとこ」
「斗真!?」
「兄ちゃんも早く作った方がいいよ」
「なぜ順応してるんですか!」
「楽しみだから」
「…………」
「兄ちゃんも楽しみでしょ?」
「…………」
「楽しそう」
「うるさいです。」
こうして榊家弾丸ツアーは、
金曜・放課後スタート。
月曜・早朝帰宅。
そのまま全員通常営業。
という、家族旅行とは思えない運用スケジュールで実施されることとなった。
なお父は最後まで、
「全員予定あるんだから平等だろ?」
と主張した。
平等性と可用性は別問題である。




