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第3話:【初上陸】異世界の街で配信したら、ただの不審者扱いされた件

「みんな、おはろいでー! トカゲさんとのコラボも無事に終わった(物理的に爆破した)ところで、いよいよ異世界の街に向かって歩いてまーす!」


私はドローン型の神権カメラに向かって、いつも通り小悪魔な笑顔で手を振る。

画面の向こうでは、すでに同接150万人を超えたリスナーたちが、狂ったような速度でチャットを流していた。


『トカゲを物理BANした後の生存報告配信、最高すぎる』

『背景のグラフィック、まじで美麗なオープンワールドゲームじゃん』

『ろいでちゃん、誰と喋ってるの? って現地の通行人に二度見されてて草』


そう。ドローンカメラは、りーくんの神権で「現地人には見えない不可視モード」になっている。

つまり、現地の人から見れば、私は『ダボダボの萌え袖パーカーに猫耳ヘッドホンをつけた妙な少女が、誰もいない空中を指さして笑顔でブツブツ喋りまくっている』という、完全に不審極まりない絵面なのだ。

実際、さっき通った街の門番なんて、私が「あ、今同接150万人のリスナーと喋ってるから!」と笑顔で言った瞬間、


『ど、どうせつ……ひゃ、150万の亡霊リスナーを従える使役者ネクロマンサー!?』


と勘違いして、ガタガタ震えながらノーチェックで通してくれた。ラッキー。


『心外だなぁ! ろいでちゃん! 150万の亡霊って何さ! 君を導くこの僕、芸能の神リデーレ様こそ、究極の視聴者リスナー代表だよ!? ほら見てよ、僕が特別にデザインしたこの猫耳ヘッドホン! インナーのピンクと連動してネオンが点滅する仕様! このストリート系の反逆精神、まさに神の領域のデザインセンスだろぉ!?』


ヘッドホンから、鼓膜が震えるほどのイケメン早口ボイスが響く。

無駄に耳に心地よいのがまた腹立たしい。


「あ、りーくん。シンプルに声がデカくて耳障りだから、音量3%にするね」


『待って! 3%は実質モスキート音だよ! かろうじてキーンって聞こえるレベルだよ!? 僕は神様だよ!?』


『りーくん(自称神)、早口ヲタクのそれで草』

『無駄に声が良くて余計にうざいwww』

『早くミュートにして、ろいでちゃん』

『ほら、リスナーのみんなもミュート希望してるから。はい、カチッと』


『ちょ、まっーー(byりーくん)』


頭上のステータス画面の隅っこで、りーくんのデシベルメーター(音量ゲージ)が「0%」のまま激しく上下しているのを無視して、私は街の広場へと歩みを進めた。

中世ヨーロッパ風のレンガ造りの建物が並ぶ、いかにもファンタジーな光景。

その中心に、ひときわ巨大で荘厳な神殿がそびえ立っていた。

神殿の入り口には、白亜の大理石で彫られた美しい神像が飾られている。

私は思わず足を止め、その神像をじーーーーっと見つめた。


「……ねえ、りーくん。ちょっと音量戻すから聞くけどさ。あの神殿の前に立ってる、やたらマッチョでポーズが致命的にキモい石像って、もしかして……」


『そう! あれこそが僕を祀る、この街で一番美しいリデーレ神像さ! 誇らしいよねぇ!』


私はカメラをその石像に向けた。

彫刻としてのクオリティは無駄に高い。職人の執念を感じる。

なのに、なぜかポーズが「正面を向き、両腕を曲げて左右の力こぶを誇示する、言わばボディビルダーのようなポーズ」をキメている。

しかも、石像なのに、マントには例のネオンベルトや安全ピンがジャラジャラとこれでもかと彫り込まれていた。


「石なのにベルトの主張が激しすぎて、画面のバグみたいになってるんだけど。てかあのポーズ何?」


『フッ、よくぞ聞いてくれた! あれは「我が神権の躍動感」と「ストリートの反逆精神」が奇跡の融合を果たした、芸術の最終到達点だよ!? あのチェーンのジャラジャラ感を石で再現するために、現地の優秀な石工職人が3人腱鞘炎になったらしいからね! 自慢の力作さ!』


「職人さん、マジで可哀想。今すぐ天罰じゃなくて謝罪を届けてあげて」


『職人さん腱鞘炎wwwwwwww』

『石像でダブルバイセップスは草』

『神殿の前に置くポーズじゃないだろこれwww』

『りーくんのキモポーズ石像、新観光名所に決定』


「よし、りーくんの株が暴落したところで、本日のメインイベントに行こっか」


私は気を取り直して、広場の奥にある大きな建物に向かった。

看板には、剣と盾が交差したマーク。——『冒険者ギルド』だ。


「やっぱり異世界といえばギルドだよね。ちょっと配信の『撮れ高』作りにいってきまーす!」


私は扉の前に立つと、視聴者に見えるようにカメラの角度を調整し、勢いよく扉を押し開けた。

ギギィ、と重厚な音が響き、ギルドの中の空気が一瞬で一変する。

中は酒場を兼ねているようで、いかにもな荒くれ者たちが昼間から酒を煽っていた。

そんな荒野の荒野みたいな場所に、萌え袖パーカーを着て、猫耳ヘッドホンをつけた華奢な美少女(17)が、独り言をブツブツ言いながら入ってきたのだ。

ギルド中の視線が、一斉に私に突き刺さる。


『うわ、めっちゃガン見されてる』

『不審者が入ってきたと思われてて草』

『お、奥のハゲたおっさん、目つきリアルすぎて怖いんだがww』


「ちょっとみんな、失礼だよ。……あ、ほら、なんか『撮れテンプレ』が向こうから歩いてきた」


どすん、と私の前に大きな影が落ちる。

泥のついた革鎧を着て、これまた絵に描いたような下っ端冒険者の男が、にやにやと嫌な笑みを浮かべて立ち塞がった。


「おいおい、見ねえ顔だな、お嬢ちゃん。そんな奇妙な耳飾りつけて、ママのところに帰りな。それとも、この俺が優しく冒険のイロハを教えてやろうかぁ?」


男が下卑た笑い声をあげる。

ギルドの連中も「ギャハハ!」と下品に同調した。


『あわわわ! 初めての「ギルドの洗礼」だ! ろいでちゃん、ここは僕の加護を使って、雷とか落としてド派手な演出で——』


ヘッドホンの中で、りーくんが1人で大騒ぎし始める。うるさい。敵のセリフが聞こえない。


「あー、ごめん。マイクのハウリングみたいな声質で耳痛い。あと、おじさんの声もちょっとデシベル高くて不快。……というわけで、2人まとめてミュートにするね」


私は猫耳ヘッドホンのノイズキャンセリングボタンを、カチリとタップした。


【神権:音量設定・極小ミュート】発動。


『ちょ、そんっーー(byりーくん)』


と同時に、目の前で偉そうに踏んぞり返っていた大男の口元が、妙な動きに変わった。

「お前っ、舐めた口をーー」と叫んでいるはずなのだが、男の口がパクパクと動くだけで、音は一切聞こえない。

腹話術の逆バージョン、あるいは、動画の音声を完全ミュートしたかのような、完璧な静寂。


「お、おい……? どうしたシェン、声が出てねえぞ?」


周りの冒険者がざわつき始める。

焦った大男は、顔を真っ赤にして近くの木机を思いっきり叩きつけた。

本来なら「ガシャァァァン!」と凄まじい破壊音が響くはずだった。

ーーすん。

音、ゼロ。

机の角が削れて木片が飛び散ったのに、まるで無声映画のように静かに虚空を舞う。


「あはははは! ねぇみんな見て、このおじさん完全に無音なんだけど! 無音のパントマイム始まっちゃった!」


『SE(効果音)入れ忘れたバグゲーみたいで草wwwww』

『ミュートチート万能すぎだろwwww』

『大男、必死にパクパクしててシュールすぎるwww』

『スパチャ(10,000円):無音パントマイム料です!』


大男が自分の喉を掴み、涙目でパニックになっている横で、私の画面には投げ銭の赤い光が乱舞する。

りーくんはステータス画面の隅っこで、今も必死に何か叫びながらじたばた(無音)していた。


「ふふ、やっぱり配信は『撮れ高』が命だよね!」


こうして、私の異世界初ギルド配信は、ギルド全体を恐怖とシュールな爆笑の渦に巻き込みながら、同接200万人を突破したのだった。



(つづく)

作者のねむねむもーどです。

第3話まで一気にお読みいただき、本当にありがとうございました!

ギルドでの初無双(?)は、まさかの「無音パントマイム」でした。

りーくんは裏で必死に叫んでいましたが、音量0%なので何も聞こえません。腱鞘炎になった石工職人さんたちのためにも、裏でたっぷり反省してもらいましょう。

これにて、初日のスタートダッシュ3話連投は無事に終了です!

明日も投稿したいと思います!

さて、ここをキャンプ地(お気に入り)として、ろいでちゃんの異世界配信を今後も一緒に楽しんでくださるリスナーの皆様!

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リスナーの皆様の応援があればあるほど、作者の更新速度が限界突破して上がっていきます!

今後ともこの作品をよろしくお願いいたします!

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