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服を買うならこんな風に

 かつて母も通ったというこの女学校は歴史ある名門校だ。学校に歴史があるくらいだから町の歴史はもっと長い。石造りの街角のここにもそこにも古いエピソードが佇んでいて、見るべきところはたくさんある。

 僕はまだ大して見てないんだけどね。何しろ九年間も孤児だったものだから観光という発想がスコンと抜け落ちていた。

 一度だけ午後の授業で史跡巡りをしたことがある。課外学習と称して教師の案内で歩いた古都は時代を加えた大理石でできていた。二十一世紀の地球人なら何日でも潰せそうだ。


 まあ、僕だけじゃなくて、この学校の生徒はあまり校外に出ない。この学校の敷地はとても広くてその気になれば散策するだけでもちょっとしたアウトドアの気分を味わえるし、図書館やギャラリーもある。コンサートやパーティーも開ける多目的ホールなど、いろんな施設が充実している。

 買い物はどうしているのかというと、ここにいるのは資産家のお嬢様ばかりなので、基本的にショッピングということをしない。子供の頃から家に出入りする業者が何でも運んでくるという生活に慣れている。ここでもわざわざ自分で買いに出向かなくても注文すれば必要なものが届く。オンラインショップを先取りしてるね。


 それに外出するには許可がいる。平日はダメ、前日までに申請すれば休日は許可が下りるけど一人歩きは許されない。いつどんな『事故』が起きるとも限らないから。外出中に発情期に入ったりしたら大変だ。

 いや、ここに来るまでは我慢できない男が悪いと思ってたんだけどさ。実際に体験してみたらわかった。あれ無理だよ、我慢するの。女の方だって我慢できてないわけだし。どっちが悪いとかじゃなくて事故としか言えない。

 とにかくそういうわけで外出は最低三人一組からということになっている。


「ねえ、今度のお休みにお出かけしようよ」

 放課後、いつものように四人で勉強していたらカリンに誘われた。何だよ急に。

「誰と?」

「この四人で」

「え、私も行くの?」

 セレナも今聞いたようで驚いていた。

「いいでしょ?」

「準備が面倒なのよね……。いいけど」

「どこに行くの?」

「あなたのドレスを作りに」

「え?」


 思わずしかめっ面になった。


 午後の授業は週に一度ダンスなんだけどその時はみんな制服だ。たまにパーティーがあるとそのときはドレスに着替えているようだ。僕は出たことがないけどね。

「あなたにもパーティーに出て欲しいってみんなから言われてるのよ」

「ドレスがないからね」

 と言って誘われるたびに断っていた。だって普段は男子禁制のこの学校もパーティーの時だけは地元の名士とか、あるいは都会の方からお坊ちゃまがやってきて、女の子をダンスに誘う。いくら女装をしているからって男と踊りたくない。


「だから作りに行くの」

「いいよ、今後も出るつもりはないし」

「そういうわけにはいかないって」

「おつきあいってものがあるんだよ?」

「私でも出ているんだから」

 ステラやカリンはもちろんセレナにまで責められた。


「もう、パーティーの何が嫌なの?」

「フェリス家の跡取りなんだから、どうせそのうち出ないといけなくなるのよ?」

「最低でも夏越祭までには何とかしないと!」

「今のうちに顔をつないでおかないと後で大変よ?」

「とにかく今度の休日はドレスを作りに行くから! 朝食後に集合ね!」

 三人はしつこくて、最後にはとうとうカリンの一言で押し切られてしまった。




 何で男の僕がドレスなんか作らなきゃいけないんだ。今の女装だってかなり抵抗があるのに、ましてドレスなんか着たくない。金の無駄だ。服を買いに行く服もないし。それにパーティーに出たら絶対誰かと踊ることになるじゃないか。男なんかと踊りたくない、腰に腕でも回されたらゾッとしてしまう。第一採寸されて男だとバレたらどうするんだ。

 僕は半分ふてくされながら寮の入り口で待っていた。


「お待たせ」


 三人は順番にやってきた。

 最初に来たのはステラ。ふわふわの髪をハーフアップにしてつばの広い帽子を被っている。ライトイエローのワンピースに萌黄色のカーディガンを合わせ、足には低いヒールのついた白い靴を履いている。


 次にやってきたのはカリンだった。ミディアムヘアをねじってまとめて、先を上に跳ねてヘアクリップで留めている。帽子はなし。バーガンディーのロングワンピースにワインレッドのプルオーバーを重ねて、胸には控えめな金のネックレス。靴は赤で、かかとはやっぱり高め。


 最後はセレナだ。黒髪はお団子って言うのか? 頭の後ろできっちり丸く編み込んでいる。暗めの青のワンピースなんだけど、スカート部分は細かいプリーツが入っている。腰の位置は高めだ。で、上に白いショールを羽織っている。靴はなんと黒のルイヒールだ。意外だ。

 あとみんな手に小さなハンドバッグを持っている。


 なるほど。どうやら髪をまとめてワンピース+色違いのトップス+ヒールのついた靴というのがお嬢様のお出かけスタイルのようだ。このままコンサートを見てレストランで食事もできそうだね。

 これじゃ外出するのも大変だよな。髪をセットするだけでも一苦労だ。歩きにくそうだし。みんな出たがらないわけだよ。


 僕? 僕は制服だ。だから準備が早かった。髪もいつものままのストレートだし。

 他にはババアの家で用意された服しか持ってないんだもの。それらは基本室内着で外を出歩けるような服ではない。前世で言えばルームウェアで外に出るような感覚だ。外に出られる服は制服しかない。


「みんな、いつにも増して可愛いね」


 それはともかくとしてせっかくおめかししているのだから褒めておいた。ステラは照れていたしカリンは嬉しそうだった。セレナはそっけなかったけど耳がピコピコ動いていた。


 寮母に外出する旨と行き先を告げて僕たちは寮を出た。校門でまた守衛に挨拶して通用口を開けてもらうと外に馬車が待っていた。

「頼んでおいたの」

 どうやらカリンがチャーターしたようだ。三人とも気軽に歩き回れるような服装じゃないもんな。だからって気軽に馬車を呼ぶのもすごいと思うけど。

 僕は金銭感覚の違いにクラクラしながら馬車に乗り込んだ。


「今日は全部私が出すからね」

 馬車の中でカリンがとんでもないことを言い出した。本当に金銭感覚が違う。

「いいよ、持ってきたから」

 僕は財布を振ってジャラジャラ音を立てた。ドレスの相場がわからないから有り金を持ってきた。

 母の実家にお小遣いはもらっている。外に出る機会がなかったから、消耗品以外で使ったことがないけど。

「あの、多分今日は代金がわからないから、引き渡しのときになると思うけど……」

「そうなの? 服を作るのなんて孤児になって以来初めてだから勝手がわからなくて。ましてドレスなんて」

「え、じゃあこれまではどうしていたの?」

「古着をもらって着てた」


 プレタポルテなんてものはこの世界にはまだない。庶民の服は自分で縫うか、古着だ。孤児院は金がなかったから新しい布なんて手に入れられなくて、いつもおさがりの古着だった。その上人手がなかったから破れ目も自分で繕ってたし。小さい子の服は年長者が直していた。おかげで針仕事には慣れている。

 まあ服に凝れるような生活はしてこなかった。


「古着……古着って着たことない。他の人が袖を通した服を着るの?」

「君たちの家では親とか姉妹のおさがりをもらったりしないの?」

「それはあるけど、家族は別でしょ?」

「うちはないかなー」

「私は男の兄弟しかいないから」

「住む世界が違うね」


 上流階級は普通オートクチュールだ。この町にも一つ、首都の大きな服飾店で修行したという主人が経営している仕立屋がある、らしい。今向かっている店がそれだ。この学校の生徒が近所で服を作るときには大抵はここの仕立屋を呼ぶ。

 ステラによれば上流階級では自分が仕立屋に出向くということはあまりない。普通は家に呼んで採寸させる。仮縫いも仕立屋が客の方に向かう。昔の貴族社会では各家にお抱えの仕立屋なんてものがいたそうで、その頃に比べれば大衆的になった方らしい。


「だったら呼べば良かったのに」

「いいじゃない、たまには外出したかったんだもの」

「それにお店に行った方が生地の選択肢が増えるもんね」

「布を選ぶのも楽しいわよ」

 三人は本当に楽しそうだ。文化が違うね。


 馬車が店の前に停まった。値段も客層も高級な店なんだろう。店の構えも何だか上等だ。三人は躊躇しないで扉を開けた。僕は後ろにくっついて行った。何だか落ち着かない。

「予約していたタビーよ」

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 カリンが実家の名前を告げると受付の女は低姿勢で奥の部屋へと案内した。


「これはお嬢様方、本日はようこそお越しくださいました」

 待ち受けていた店主らしき男がこれもまた低姿勢で応対した。

「ええ、よろしく。今日は彼女のドレスを注文に来たの。夏越祭に着るものをね」

 カリンがそう言うと店主は僕を見て訝し気な顔を作った。一人だけ制服だからな。あの学校の生徒がこういう服で出歩くことはないのだろう。

「その方は……?」

「フェリス家の方よ。くれぐれも失礼のないように」

「そ、それは……! はっ、確かに承りました」

 店主はますます腰を低くした。フェリス家ってそんなに有名なのか?


 店主自ら採寸すると言うので僕は制服の上からさせた。ジャケットだけは脱いだけどそれ以上は拒否した。ドレスもなるべく体のラインが出ないように、露出は控えめで、と注文を付けた。

 僕が寸法を測られている間、三人は布を広げてああでもないこうでもないと議論を戦わせていた。


「ねえ、これよくない?」

 ステラがつやつやしたサテン地の布を取り上げるとセレナは青い布を手に取った。

「ミレイさんの髪ならブルーの方が似合うと思うけど」

「セレナさん、自分のドレスと揃えようとしてない?」

「そ、そんなことないわ」


 ドレス用の生地の良し悪しなんてわからないし興味もない。自分で考えるのが面倒くさかったのでセレナお勧めの青い布地をそのまま選んだ。


 はしゃいだ勢いのままにカリンがもう一着作ろうと言い出した。

「次は外出着ね!」

「その、ドレスと大差ないようなよそ行きを作るの? もう一着?」

 なんて贅沢な。大体僕はお嬢様のドレスコードを知らない。何だか飽きてきたし。丸投げしたら三人は店主と一緒になって相談して型を決めた。二着も新調か。金が足りるだろうか……。


「それで、引き渡しはいつになるかしら? 夏越祭には間に合うわよね?」

「ええ、来月の頭にはお渡しできるかと存じます」

「よろしくね」

 できあがるまでに一か月近くかかるようだ。今から作ったってその間はやっぱり制服のままじゃないか……。


 僕はようやく店を出ることができた。何だか疲れた……。後ろの三人は元気だけど。

「できあがるのが楽しみね!」

「ミレイさんのドレス姿を早く見たいわ」

「いいよ、もう。僕は古着で」

 そう言いながら通りをグルっと見回してみた。……お、いたいた。僕はその辺を歩いていた若い女に声を掛けた。

「ヘイガール、ちょっといい?」

 でも女は僕の制服をジロジロ見て、嫌そうな顔をした。

「アンタみてえなお嬢と話すことは何もねえよ」

「そう言わないでさ。それ、いいよね。デニムのシャツ」

「そう?」

「メッチャイケてる。僕もそういうのが欲しいんだ。古着屋の通りを教えてよ。この町にもあるんだろ?」

「アンタ、ここは初めて?」

「引っ越してきたばかりさ」

「どっから来たの?」

「ミケーネ。知ってる?」

「何それ」

「町の名前。ちっちゃな町だよ」

「初めて聞くんだけど」

「だろうね。ここからだと随分と遠いから。だからこの町のことは何も知らないんだ。教えてよ、古着市ってどこにあるの?」

「それはね──」

 その若い女はどの通りに入ったら古着の屋台が並んでいるか教えてくれた。

 僕は手を振ってお礼を言った。

「サンキュー! 君に幸運がありますように!」

「お嬢のくせに話せるじゃん。アンタもいいことあるといいね!」


 お待たせ──と戻ったら、三人はちょっと引いていた。


 古着市はこの高級店が立ち並ぶ通りからは少し距離があった。僕はともかく他の三人が歩くのはこの靴では無理だ。先に帰ってもらおうと思ったんだけど、全員一緒に帰らないといけないというので仕方なく同行してもらうことになった。カリンが予約していたレストランで昼食をとって、僕たちは馬車で古着市へと運んでもらった。


 古着市は大通りから二本入った裏通りにあった。狭い道の両側にうずたかく古着を詰め込んだワゴンがズラリと並んでいる。経営者はてんでバラバラで、一人が一台のワゴンを持ってあるだけの服を並べている。

「おー、久しぶりだね、この雰囲気」

 人がいっぱいだ──みんな普通の服を着てる! いつもの僕とは逆にここでは三人が部外者だ。お嬢様方は周囲から思い切り浮いていてジロジロ見られていた。

 カリンは耳をキョロキョロ翻している。好奇心がいっぱいのようだ、瞳も輝いている。ステラの耳は帽子の下で見えないけど、ちょっとおどおどしてるな。セレナは耳を左右で違う角度に捻じってしきりに向きを変えている。警戒のサインだ。


「固まってた方がいいよ。変なことをする人はいないだろうけどスリはいるから。何なら馬車に戻った方がいいかも」

 三人とも慌ててハンドバッグを握りしめて、でも動こうとしない。

「そ、そういうわけにはいかないでしょ」

「外に出た時はみんな一緒に動かないと駄目なの!」

「そう? それじゃ僕から離れないで」

 そう言うと三人は制服の裾をきゅっとつまんだ。僕は後ろから引っ張られながらワゴンを漁った。


 さて、まずは下を何とかしたいんだけど。いい加減スカートじゃなくてパンツが欲しい。

 僕たちのしっぽは尾てい骨の延長から生えている。腰より低い位置に生え際があるので、前世のような形の下着だと引っかかってしまって履けない。パンツは後ろに縦長のスリットが入っていて、そこにしっぽを挟んで、上で紐を結んで腰で留める。これは男も女も変わらない。

 パンツ──ええっと、ズボンも同じだ。しっぽスリットにしっぽを通して、今度は紐ではなくボタンできっちり留める。それだけだと不安定なのでベルトもつける。

 だから構造上すぐに脱ぐことが難しい。男はまあとっさのときがあっても前のところを開けばいいんだけど、女はそういうわけにいかない。そういうわけで女の服は前世同様スカートだ。パンツを履くことはめったにない。たまにあっても女物のパンツ……ズボンは男物と形が違う。前開きがなくて僕が履いたら窮屈だ。それにあまりぴっちりしたパンツだとシルエットでバレるかもしれない。

 結局スカートか。……あ、待てよ? 男物でもゆったり目のものならイケるんじゃないか? 僕は積み重なった服の底からブラウンのワイドパンツを引っ張り出した。これこれ、故郷の町で屋台のはすっ葉な姉ちゃんがこういうのを履いていた。サイズはちょっと太いけど、とりあえずベルトで何とかなりそうだ。帰ってから詰めよう。

 トップスは女物のデニム地のシャツを選んだ。デニムは庶民の生地なのでいくらでもある。元は藍染めだったんだろうけど洗いざらしでかなり色が落ちている。やれた感じがいい感じだ。

 ついでにTシャツも買った。この世界では庶民の肌着だ。


 着替え用のボックスを用意している店があったので借りた。男は普通その辺で着替えちゃうんだけど今はそういうわけにはいかない。

 まずはパンツだ。案の定サイズが合わなかったので別に買ったベルトで締めた。それからTシャツとデニムシャツを着る。シャツは前を開いてTシャツを見せる。袖は折り返してまくる。足元はこれも別に買ったヒールのついたサンダルを履いて、帆布のバッグを肩にかけてできあがりだ。思いっきり胸が薄い女性に見えるんじゃないかと思う。


「どう?」

 ファッションショーだ。僕は三人に見せびらかした。割と自信があったんだけど……反応は微妙だった。

「えーっと、ワイルド……?」

「カッコいいと言えばカッコいいんじゃないかな? 行くところに行けば」

「センスがダウンタウンの不良ね」


 なんだよ……。気に入ったからそのまま着るけど。僕は買ったばかりのバッグに制服を詰め込んだ。


「ヒューッ!」

 馬車に戻ろうとしたらすれ違いざま二人組の男に口笛を飛ばされた。やっぱりイケてるんじゃないか。僕は軽く手を振って返した。


 馬車に乗り込んだ僕たちはそろって大きく息をついた。

「やれやれ。何だか疲れたよ」

「私も疲れたわ……」

「私も……」

「私は楽しかった!」

 僕たちはグッタリと座席にもたれかかった。カリンだけは耳まではしゃいでいたけど。僕にとってあの仕立屋はアウェーだったけど、カリンにとってはさっきの古着市は非日常の観光地だったんだろう。

 帰りの馬車の中でステラはずっとTシャツが見えているのを気にしていた。

「せめて前は閉じない?」

「閉じない」


 ところで、その姿で帰ったら行き会った生徒から寮母まで全員にギョッと目を剥いて凝視された。そんなに変かな……。




「ねえミレイさん、またご一緒してよ」

 翌日、カリンに次の休日の外出を誘われた。

「いいけど、今度はどこに行くつもり?」

「古着市!」

「え、どうしたの?」

「実は、ミレイさんが着ているのを見たら、ちょっとカッコいいと思っちゃったんだ」

「だろ?」

「私もああいうのが欲しい!」

「そうこなくっちゃ」


 休日の朝、僕は前回買った服を着てまた玄関で待っていた。パンツは腰の寸法を詰めたしサイドも縫い直して自分に合わせたから今度こそイケてるだろう。

 ようやくカリンがやってきた。隣にはステラがいた。今日は二人とも制服だ。

「あれ、セレナさんは?」

「拒否されちゃったの。あそこはもう行きたくないって」

 そうだろうな、滅茶苦茶警戒してたもんな。ステラも愚痴をこぼした。

「私もあまり行きたくないんだけど……」

「だって三人いないと出られないんだもの。付き合ってよー」

「……今回だけよ?」


 またカリンがチャーターした馬車で出かけた僕たちはまた古着市近くの大通りで降ろしてもらった。

 僕とカリンはワゴンを漁った。ステラは後ろにくっついて見ていた。

「これどう?」

「いいかも!」

 僕はデニム地のロングスカートを見つけて手渡した。前のところに装飾的にボタンがいっぱいついたやつだ。次はトップスだけど、カリンは髪の色が明るいからな。これに合わせるなら思いっきり明るい色か、あるいは逆にブラウン系統か。僕はダークブラウンのニットを探し出して、どっちもプレゼントした。

「ありがとう!」

 カリンは飛び跳ねて喜んでいた。ちなみにステラにも何か買ってあげようと思ったんだけど「私はいいから」と辞退された。

 それと自分用に黄色のシャツと青のシャツを買った。どっちもちょっとボロい。これはニコイチにしてオッドパターンのシャツを作ろう。

 カリンは他にも気に入った服を見つけて五、六着は買っていた。


「はー、楽しかった! 古着って安いんだね!」

 帰りの馬車の中でカリンは上機嫌だった。いやカリンが買ってたのは古着としてはかなり高めだったけど。それで物がいいのに売れ残ってたんだと思うし。

 ずっとご機嫌のカリンは寮の玄関でぴとっとくっついてきた。

「どうしたの?」

「……」

 カリンは抱き着いて、頬ずりしてきた。

「ミレイさんってカッコイイよね」

 なんて言いながら。顔が赤い。それに何だかいい匂いもする。桃のような香りだ。


 ……あっ、発情期だ!

 これは想定外だった。カリンの発情期は頭になかった。ステラはまだ先のはずだと油断していた。

 カリンは鼻をひくひくさせて恍惚の表情を浮かべた。

「何だか、いい匂い……」

 いやいい匂いがしてるのは君なんだけど。


「君だって素敵だよ」

 僕はカリンの頬を撫でた。カリンはうっとり目を細めた。

「もっと素敵なところが見たいな。君の部屋に行こうか」

「うん……」

「駄ー目ー!」

 突然ステラが僕たちを引き離した。そしてカリンを引っ張って行った。


「待って、もうちょっと……」

「ダメダメ、あれはヤマネコなんだから! カリンなんか食べられちゃうよ!」

 ええ……ステラがそれを言うの?


 僕はぽつんと取り残されていた。人を発情だけさせておいて、中途半端な……。これじゃ生殺しだよ。

 仕方なく僕はトイレに籠った。いつもより時間がかかった。

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