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竜神11

1-064

 

――竜神11――

 

 大空から降り立つ巨大な竜神、その頭の上にすっくと立ちあがるリリト。

 精一杯の威厳を示しての登場である。

 

「ど~も~」

 エルガラがにっこり笑って片手を上げる、コイツのノリの軽さでぶち壊しで有る。

 

「リリト様、その様な格好で!」

 着ていた寝巻きはボロボロになっていたので仕方なくマーリン村に捨ててきた。

 今はスッポンポンである、まあ今更どうでも良いが。

 

 エルガラが寝そべるとリリトが頭から飛び降りる。慌ててクリーネがトランクをもって駆け寄った。

 

「紳士の皆様、女性の着替えですしばらく後ろをお向き下さい。」

「そ、そうなの?」

「わかったニャン」

 会議に出席していた男衆がリリトに背を向ける、ただし護衛と兵士はそのままだ。

 

 クリーネは手早くリリトにドレスを着付ける。

 今回のドレスは胸の所にパットを入れてデコボコを演出している。

 つるペタに対する同情か?クリーネに合わせているのか?何分にもリリトは寸胴ですから。


「なかなか可愛くていらっしゃるわよ~」と言いつつ化粧品を取り出す。

 

「いや、化粧はいいから」

「いけません勝負服には勝負化粧ですから!大体リリト様は顔色が悪すぎます」

「それ地の皮膚の色だから…」

 簡単に頬紅を塗ると口紅を取り出す。

 

「リリト様の口は大きゅうございますからオチョボ紅をちょいちょいっと」

「口紅まで塗られとは思わなかったぞ」

 周りにいる護衛や兵士が笑う訳にもいかず必死でこらえていた。

 

「あの~、もう良いかな?」

 ガウアーがしびれを切らして聞いてきた。

 

「はい結構でございます、ドゥング領主リリト様でございます」

 ぱっとリリトの前から身をひるがえすクリーネである。

 

 コイツ無駄な所で気合を入れる奴だからな~。

 

 ひらひらフリルのドレスにお化粧した竜だ、かなり周囲の失笑を買っているような気がするが実は結構可愛かったりする。

 

 後ろでエルガラが寝そべったままあくびをしている、女の見せ場だぞ!

 後でひっぱたいておこうとリリトは決心した。

 

「これはこれは竜神様、婿殿をお連れくださいましたか挙式の日取りはいつ頃がよろしいかと」

 ガウアーがえらく愛想良く話しかけて来る、獅子族の卑屈な笑顔は全く似合わない。

 

「残念だかコイツには別の女房が来るはずだ。お主が使いを出したおかげでずいぶん拉致されてしまっていたぞ」

「拉致なんかしていないよ~、ずっと愛の巣作りを手伝ってくれたじゃないか~」

「誤解を招く発言をするなお主の生活環境が悪すぎるのだ、あれじゃ嫁の来手が無いぞ」

「大丈夫だよ~、ちゃんと綺麗にしておくからさ~」

 どうもこのやり取りを聞いていると互いの人間性がはっきり出ているような気がする。

 

 尻に敷くリリトにそれを平然と受け流すエルガラ。

「意外とこのふたりは相性が良いのかもしれんな~」等とも考えるガウルである。

 

「いい具合に会議も焼けてきている様に見えるが、クリーネ報告してくれ」

 クリーネがこれまでのいきさつをかいつまんで説明する。

 

「わかった。双方ともそれで間違いないのか?」

「はいその様に」

「お互いに査察を求めておりますニャン」

「じゃあ結論から言おうか?まず大型魔獣はニャゲーティアで作られていたのは間違いない、私がこの手で一頭殺して来たからな」

 

 おお~っと周囲から声が上がる。

 

「やはり貴様がその様な卑劣な行為に及んでいたのか」

 ガウアー国王が勝ち誇ったように吠える。

「ああ、ただしその施設は私が燃やしてきたから証拠は残っていないがな。」

 ガウアーの顔が渋く変わる。

 

「それと竜の失踪の原因はお前たち領主達が自分の権益を優先して民の事を考えなかったからだ。竜神に対して税金を徴収し民の為にそれを使わなかった事に腹を立てたんだ」

「そ、そんな事は御座いません、ちゃんと我が国では国民の為に税金を使用しております」

「それならそれを検証可能なように報告してみせろ」

 

 ガウアーもフレデリクもぐっと言葉を詰まらせる。

 

「封建制は責任ある支配者が責任を持って民の懐を温める制度であって民から税金を絞り取って支配者の生活を豊かにする制度ではない。この国の封建制には恥が無いのだ」

 

「し、しかし無知な民に政治など任せられる訳が有りませんぞ」

「それは教育に予算を割かず情報を公開せずに国民を無知なままにしておいているのはお前たちのせいではないのか?」

 

「いや、それは誤解ですニャン。我が国では教育に力を注いでおりますニャン」

「まあ孤児が十分に食事を取れない状況を放置していた領主の発言には説得力がないな~」

 フレデリクは横にいるセレンの顔を見るがセレンはニコニコしながら領主を見ている。

 

「コイツが大型魔獣を狩って持って行った位であんなに喜ぶような孤児院だぞ、人間を育てる事に金を使わんか?」

 この年老いた巫女は兎族にも関わらず暴れる中型魔獣を前に子供をかばい、ニャゲーティア領主を説得し、リリトの亭主の巫女でもあった。

 なんとも肝の座った巫女であるかとリリトは改めて関心をした。

 

「竜を呼び戻したければまず国を変えなくてはならん。封建制を止め共和制を敷くことだ」

「な、なんと?ワシに国王を退位せよと言うのか?」

 いきなりガウアーが立ち上って怒鳴る、まあ当然だろうな。

 

「領主の立場はどうなるのかニャン?」

「細かい事は自分たちで考えろ、人権の確立、情報の公開、公平な税に公平な司法だ。ああそうだ憲法を制定して前文にはこう書け『この憲法は国民が為政者を縛る為の物である。』とな」

 

「ば、馬鹿な!そんな事が認められる訳が無かろう」

 国王にとってはその身分こそがその存在意義である。

 それを無くされればこの国で力を持っている地主が反乱を起こすに決まっている。

 

「そうか?この会議が終わればエルガラは前の巣に戻るし私は逃げた夫を探しに旅に出る。夫を見つけてもこの様な国では亭主は帰ってきたくないとごねるだろうな」

 王政から共和制への移行には歴史上も血なまぐさい例は多い、階級としての貴族全員の首を切った例もある。

 

「ぐぬぬぬぬ」

 ガウアーもフレデリクも脂汗を流しながら怒りに打ち震えていた。

 クロアーンのアニック・クリスタン領主とマリエンタールのラング・ソルティ・アウグスト領主は涼しい顔をしていた。

 クリスタンは領主の地位は持ち回りでただの名誉職に過ぎず、ラングは領主よりもやりたいことが沢山有るかららしい。

 

「この国は5つに分かれている、それでは効率が悪すぎる。竜神に頼れない今国が一つにならなくては魔獣の脅威から国を守れんぞ」

「その通りです、それ故に一番力のある我が国が中心となっていま国を纏めようとしておるのですぞ」

 

「軍隊を使ってか?そもそも魔獣の脅威の方が隣国の脅威よりも大きいのだぞ、軍隊は人間を殺す組織だ。ここから一番近い隣国と言えば500キロ先のザルザードだ、その国と戦争でもしたいのか?それとも本当は軍隊で国民を支配したいのか?」

 

 その言葉を聞いたメサジェ・ベンセン将軍がビクッとなった。

 

「ま、まさか……?」

 ベンセンのつぶやき声が聞こえる。

 

「力による支配は必ず破綻する、何故なら支配者の仕事は利害の調整すなわち税の再配分だ。一体だれがその税を払っている?税を払っている国民に再配分せずに支配者階級の中だけで再配分を行うから国が荒れるのだ」

 

「で、ですからリリト様はそこにおられる竜神様と結婚して我が国においでくだされば……」

「やだよ~、そんな怖い顔をしている人たちと一緒に暮らしたいとは思わないから~」

 にっこり笑って断りを入れるエルガラ。

 

「故郷の巣はそんなに待遇がよろしいのか?我々は最高の待遇を用意いたしますぞ。」

「マーリン村には何~にもないよ、ようやく巣に道が繋がったくらいだからね~」

 

「それなら何故こちらを見もしないで帰られるのですか?」

「ここみたいにみんながギスギスして暮らしてはいないからさ~、そもそも人がいないしね~」

「そ、そんな馬鹿な。我々の存在が邪魔だとでも言われるのですか?」

「違うよ~、どちらかがどちらかに依存する関係じゃなくてさ~、一緒に暮らして楽しいと思いたいんだよ~。前の国は楽しくなかったんだよね~」

 

「いや、許せん。その様な傲慢な竜がいてたまるものか。いつだって我々の奉仕を当然と思い感謝することもなく国が困れば出ていくなど許せる話ではない」

「お~い、おいっ。一人で盛り上がっているんじゃないニャン。竜はこの5カ国に対して魔獣の被害を押さえてもらうために必要な存在なのだニャン」

 

「あのねえ、そんな発言は国の周辺部に十分な狩人を送り込めるだけの賞金を出してから言いなさい。あなたが魔獣の狩猟賞金を出さないから国の農業生産が上がらないのよ」

 お~お、巫女さんにしっかり言われとるわい。

 

「だ、だからこそ竜神様が必要なのですニャン」

「やかましい。竜神様の恩恵だけ甘受しその世話を全部こっちに押し付けやがってどの口が言うのか?」

「竜神様に逃げられてなお税金だけちょろまかしていた国が偉そうにするんじゃないニャン」

 

「ベンセン将軍かまわんこの不届き物を成敗致せ、こうなったら妥協の余地はない全面戦争じゃ!」

「こ、国王いくらなんでもそれは無茶苦茶な!」

「兵ども槍を上げろ直ちに橋を渡りニャゲーティアに侵攻する!」

 後方に控えていた兵士たちが一斉に剣を抜き槍を構える。

 

「ば、馬鹿な何を血迷っているニャン!」

 後ろで見ていたエルガラが翼を広げてバサバサと上空に浮かび上がる。

 するとそれを見ていたラングが手で何かの合図を送った。

 

「槍を構えて全員突撃せよ、邪魔するものはすべて敵と考えて良い!」

 ガウアーが大声で叫ぶと兵士が動き始める。そこに突然轟音が響き渡り橋の横に水しぶきが上がる。

 

「な、何事か?」

 突然の事に周りを見るとマリエンタールの蒸気船がはるか後方に下がっていた。

 その屋上に据え付けられているカバーを外された大砲の砲口から煙を上げているのが見える。

 今の砲弾がそこから撃たれたばかりであることを示していた。

 

 周囲を囲む兵士たちは何が起きたのか把握できずに動きを止めている。

 その隙にマリエンタールの兵士たちが会議場に向けて走っていった。

 会議場を囲むように展開すると銃をケースから取り出し会議場から外側に向けて構える。

 

「全員動かないでいただきたい!」ラングが大声で怒鳴る。

「アウグスト卿、血迷ったか!」

 飛び出そうとした兵士の一人に向かって銃が発射され轟音と共に兵士が倒れる。

 

 そこにいた全員が突然の音と煙、それによって倒れた兵士を見る。

 そしてマリエンタール軍の持つ武器の性質を素早く理解した、魔法ではない遠距離から攻撃出来る武器である。

 ほかの兵士たちが手を上げて構える、飛び道具には魔法の応酬で有る。

 

「アウグスト!どういう事だ?」

「国王!ここは和平会議場ですぞ。その会議場を挟んでの戦闘を行われるつもりか!」

 ラングが怒鳴るとヴィエルニが短刀を抜いてその前に構える。

 

「動かないでいただきたい、船の上に有る大砲は今度はこの橋に弾を命中させますぞ!」

 先ほどの爆発でその威力はわかった、弾が当たればここにいる半数の人間は死ぬであろうことは容易に想像がつく。

 

「貴様反乱を起こす気か?」

「ガウアー国王殿、竜神様の前で本当に戦争を引き起こすおつもりですか?竜神の怒りに触れて国が壊滅いたしますぞ!」

「ば、馬鹿を申すな、国を守らずして何の国王か!国に仇なす勢力を討伐せずして国家の安定は無い!」

「国王殿、エルドレッド王国は5か国100キロ四方にまたがる国になりました、既に王政は限界なのです。」

 

「き、貴様は何を言っておる、国王が国を統べらずして誰が統べると言うのだ。」

「ラング!貴様あの船は一体なんだ?貴様こそあの兵器を使って我が国を乗っ取ろうと考えておるな!」

 ベンセン将軍は蒸気船の方を向くと大きく口を開ける。


「あの程度の物で戦況を変えられるとおもうな!」


 ベンセンの口の中に光の粒子が集まっていく。

 周囲にいたマリエンタールの兵士は慌ててベンセン将軍の前を開ける、ヘル・ファイアに巻き込まれてはたまらない。

 

 その時銃声と共に肩を押さえたベンセンが崩れ落ちる。

 

「き、貴様何を?」

 煙を上げる銃を握るガウルの姿があった、リリトが渡したあの拳銃である。

 

「リリトよ許せ、この騒ぎお主が責任を取らねばならぬのだ」

 ガウルは筒先を上に向けたまま体の向きを変えるとリリトに向かって銃を2発発射した。

 

 びっくりしたような顔をしたリリト、その着ている白いドレスの前がみるみる真っ赤に染まっていく。

「な、なぜ……私を撃つのだ?…ガウル?」

 腹を押さえてうずくまるリリト。

 

「リリト様、しっかり!」

 サビーヌが倒れたリリトに駆け寄る。

 

「すまんなお主がこの国に現れたのがすべての間違いの始まりだったのだ」

 ガウルがゆっくりとリリトの元に歩み寄るとその頭に拳銃を押し付けた。

「ま、まてガウル、貴様一体なにを?」

 

 全ての人間が凍り付いたように動きを止めている中銃声が響き渡る。

 

「リリト様ああ~~~っ!」

 サビーヌの悲鳴が聞こえた。


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