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竜神12

1-065

 

――竜神12――

 

「リリト様、リリト様、お気を確かに~っ!」

 白目をむいて倒れているリリトにすがりつくサビーヌ。

 

 上空からエルガラが舞い降りて来る。

「どうしちゃったの~?リリト死んじゃったの~?」

 リリトの亡骸に顔を擦り付ける。

 

「目をお開けください、不死身の竜神様がこんな事で死ぬはずがありません」

「なんで~?なんでリリトを殺しちゃったの~?こんな優しい娘だったのに~!」

 エルガラが悲しそうな顔でガウルを振り返る。

 

「すまぬ竜神よ、その娘が舞い降りねばこの国の争いは起きなかったのだ」

 ガウルは銃を放り投げエルガラを見上げると許しを請う様に高々と両手を上げる。

 

「さあ竜神よ仇を取るが良い、今ここには両軍の兵士と国の指導者が集まっておる。お主の力で憂いを残すことなく全てを焼き払う事が出来るだろう」

 

「ま、まてっ!貴様は何をやったのかわかっているのか?」

 ガウアー国王がうろたえて叫ぶ。

 

「ニャ、ニャンて事をするだニャン!貴様は我々全員をここに集めて殺す腹だったニャンか?」

 フレデリクが呆然とした顔を上げる。

 

「お待ちくださいガウル殿」

 そこにベンセンが出血する肩を押さえながら前に出て来る。

 

「やはり!あなたはガウル・ボネ・ガスパール殿、ザルザード建国の英雄王ではありませんか?」

 4つの国に別れ戦争の絶えなかった隣国ザルザードを統一したと言われる獅子族の英雄の名前が上がった。

 それにより全員の目がガウルに集中する。

 

「かつて私はザルザード共和国建国の日に招かれました。その時に拝顔致しましたがそのお顔は間違いなくガスパール王、引退されたと聞きましたがそのお姿は何故?」

 その際ガウルはガスパール統一の英雄として国王に推挙されていたのである。

 

「余りの変わりように確信が持てませなんだ、しかし今は確信を持って言えます。あなたのお顔は間違いなくあの時の英雄王のお顔です!」

 

 しかしガウルは首を横に振る。

「ワシはその様な名前ではない、ワシは傭兵のガウルだ」

 

「何故で御座いますか?貴方ほどの方が何故ガスパールの名前をお捨てになったのです?」

 ガウルは無言のまま竜神を見上げる。

 

「ワシが憎いであろう、それで気が晴れるのならばワシを殺すがよい」

「何故貴方はこんな事をしたの~?」

 竜の目からとめどもなく涙が流れ落ちていた。

 

「竜の持つ真の力を示す為じゃ。国をも亡ぼす竜の怒りをここで示したかったからじゃ。竜を利用し国を統べようとする全ての人間に警鐘を鳴らす為じゃ」

 

「そんな事は無い、我々は竜の為に最善の事をしてきたのだ。先代、先々代とエルドレッドの竜の為に生活の支援を行ってきたのに何故私はその様に言われねばならないのか?」

 ガウアーが大声を上げてそれを否定する。

 

「それはね、あなたが自分の考えではなく他の人の考えで動いたからよ、ガジス坊や」

 ニャゲーティアのセレン巫女が立ち上がる、その言葉はあくまで穏やかであった。

 

 その顔を見た時に幼い時の記憶がよみがえる、彼女はガジスが小さい頃なついていたエルドレッドの巫女であった。

 セレンがどこに行ったのか何度か父親に尋ねたのだが教えてはもらえなかった。

 事ここに至って当時の記憶と今の巫女の姿がようやく繋がったのだ。

 

 その巫女が今、目の前にいたと言うのにその事に気づきもしなかった。

 そして彼女がヴァトーの姦計で追放されてしまったと言う事にようやく理解が結び付いたのである。

 その男を信じて言うがまま統治を行ってきてしまった自らの行為にガジスは下を向くしかなかった。

 

「ここにいるすべての人間が竜の力を欲していた。しかし竜の心を思いやろうとする人間がいなかったからだ、そのような人間達はいなくなった方が良いのじゃ」

 

「ボクがここにいる全員を焼き尽くせばこの国は平和になるの~?」

 怒りではなく悲しみをたたえた目がガウルを見下ろす。

 

「竜の力を恐れすべての人間がいさかいを止めれば平和になるじゃろう」

 

「………………………………」

 

 そこにいた全員がガウルとエルガラの言葉の行く末を黙って見守るしかなかった。

 国を滅ぼしうるほどの強力な竜の体に宿るのは子供の様な純粋さに満ちた心だったのだ。

 素直に物事を感じる事が出来るが故に傷つく心を持つ、竜と言う生き物をその時少しだけ理解できたのである。

 

「リリトはそんな事望んでいないよ……みんながみんないさかいをやめてくれればボクだってヴェルガだって国を捨てる事は無かったんだから……」

 エルガラは悲しそうに答える、彼もまた国を捨ててきた竜だからである。

 

「国を改めいさかいを無くせばまたヴェルガ様は戻って来られると?」

「それはわからないよ~。でもこんな争いばっかりやっている国にはボクだっていたくはないからね~」

 

 ガジスはエルガラの目を見る事が出来なかった。

 

 ニャゲーティアのブードアニも横を向いていた。

 

 ラングはほっとしたような顔をして天を仰いだ。

 

 クロアーンのクリスタン領主は何故かニコニコと笑っていた。

 

「そういう事だ。ここにおられる皆さんは各国の支配者だ、しかし領主が国を支配するのはもうやめるべき時が来たのだ」

 ガウルがリリト発言に言葉を重ねる。

 

「共和制への移行であるか?」

 

「それは地主制度の破棄になるニャン」

 

「個人と家系が国を支配を続ければ必ず政府は腐るのだ、腐らない仕組みを作らなくてはいけない」

 

「時間を掛ければ良いのです、ドラスティックな変化はやはり抵抗が大きいですからな。10年、20年かけて変化をさせれば良いのです。」

 クリスタンがニコニコしながら述べる、この国は既に共和制に近い制度を取り入れているせいだろう。

 

 すべての領主たちは獣を飼う感覚で竜と接してきた事に恥じ入った、竜神ほど人々を思いやる生き物はいないと言う事にようやく気が付いたのだ。

 

 ガウルは天を仰ぐ。

 

 良かった、どうやら血を流さずに全ては収まりそうである。

 

 ありがとうリリトお前の犠牲は無駄にはならなかったぞ…そうリリトに感謝するガウルである。

 

 

 

「あらっ?」

 

「ええっ?」

 

「ニャンと?」

 

 その時ガウルの背後でスカートをひるがえして浮かぶ竜の姿が見えた。

 

 ガンッ!  「げふっ!」

 

 リリトの尻尾が思いっきガウルの頭に打ち下ろされ地面にたたきつけられる。

 

「貴様!貴様!貴様ああああああ~~~~~っ!」

 

 怒髪天を突く怒りのリリトがそこにいた。

 

「おお~っリリト殿、無事で良かったのう~」倒れたままニッコリ笑うガウルである。

 

 もう一発ガウルの頭にリリトの尻尾が落ちる。

 

「ふげっ!」

 

 ベッチョリと地面に叩き付けられ白目をむくガウル、その上で口から炎を漏らしながら怒りに震える竜の嫁がいた。

 

「馬鹿者が~~っ!死ぬかと思ったわ~~っ!」

 

 リリトは着ていたドレスをべりべりと破り捨てる、その体には何の傷も付いてはいなかった。

 

「クリーネエエェェ~~~~ッ!貴様~~っよくもこんな物を着せたな~~~っ!」

 

「ああ~らリリト様、嫌ですわせっかくのドレスが台無しじゃないですか~、パットの中の詰め物を出しちゃうなんてお転婆ですこと~」ホホホと笑うクリーネである。

 

 この残念巨乳兎が、絶対に後で燃やしてやる!

 

「い、いや。だからのう…不死身の竜じゃからあの程度では死なんと思ってな……」

 

 このジジイもよろけながら立ち上がってきおる。やせ我慢しおって、かなり人外の耐久力では有るようだ。

 

「あんな目の前から頭を撃ちおって!見ろ~~っ!こんなコブが出来ているぞ~~~!」

 

 流石のリリトも至近距離からの一発は効いた、本当に気を失って白目をむいていたのだ。

 

「リリト様~~~っ!ご無事で良かったです~~~っ!」

 

 サビーヌがリリトに飛びついてきた。

 

「娘を心配させるなど言語同断ですわね~、社に回状を回しておきましょう」

 

「なんて人でなしなんだニャン」

 

「見損ないましたぞ英雄王殿」

 

「あ~っ、少しやりすぎだと思いますがな。」

 

「よろしいではございませんか、リリト殿の心意気、感動いたしました」

 

「あ……いやその…ワシ…だな……」

 

 全員から白い目で見られるガウル。

 

 その横でサビーヌがリリトにガッチリとしがみついていた。

 

「あの…サビーヌ…コブが痛いから…頭をナデナデしないで……」

 

 

   ◆

 

 

 双方は兵を引き上げ各領主は今後の国政の形を話し合うための協議の場を設ける事でとりあえず合意した。

 何かが解決したわけではないすべてがスタートラインに並んだだけに過ぎない。

 

 それでもひとつの変化が大きなうねりの元となる。

 この国はその在り方を変えていく事は間違いが無いだろう。

 

「ね~リリト~、これからこの国はどうなるの~?」

 

 エルガラとリリトは草むらに寝転んで空を見上げていた。

 

 為政者たちの喧騒は街の暮らしには何の影響も及ぼしてはいない、この草むらは静かなままであった。

 

「さあなあ、これから共和制に向けて国の在り方を変えていく事について現在の領主たちが話し合うんだそうだが」

 

「うまくいくのかな~」

 

「実際には既得権者が沢山いて話し合いは思いっきり難航するだろうね」

 

 ザルザード共和国は2年程で王政から共和制に移行したそうだ。

 

 ただしその前の5年間は内戦で国内がめちゃくちゃになったらしい。

 

 結局竜まで逃げ出しちゃったので戦争は収まって王政から共和制に移行して近代政府に代わったそうだ。

 

 ただし未だに竜は戻ってこないみたいだしそうなれば大型魔獣の討伐は獣人達がやらなくちゃならない。

 

「畑も戦火でめちゃくちゃになった場所も多くてね、国民皆狩人と言う事で周辺の魔獣を狩りまくって食料危機を乗り切ったらしいんだ」

 

「厳しいんだね~」

 

「まあここは戦争にならなかったからそんなに食糧事情は悪くはならないだろうけど」

 

「あのガウルさんてザルザードの偉い人だったの~?」

 

「詳しくは教えてもらってないけどザルザードを戦争で統一したのがあの人だったんだって」

 

「それで王様に推挙されたの~?」

 

「ただ戦争の最中に奥さんと子供を亡くしたらしい、だけどもうその頃は英雄として祭り上げられていたからどうしようも無かったらしくて英雄を演じ続けていたそうだ」

 

「それで戦争が終わったら全部捨てて出て来ちゃったんだ~」

 

「ああ、だから私と会った時には野垂れ死ぬ為に旅をしていると言っていた」

 

「切ないね~」

 

「あいつはもう少しお気楽な人間かと思っていたんだけどな」

 

「リリトはこれからどうするの~?」

 

「仕方あるまい亭主を探しに行くよ、こんないい女を捨てて出て行ったんだ見つけてとことんシバき倒すさ」

 

「見つかるといいね~」

 

「見つかったらふたりでマーリン村に遊びに行くよ」

 

「うん、待ってるよ~」

 

 エルガラは大きく羽を広げると大空に飛び立っていった。

 

 大空を、あくまで自由に竜は飛んでいく、人間達の思惑に踊らされる事無く自由に…どこまでも…。

 

 

「リリト様、エルガラ様はお帰りになったのですか?」

 

「ああ、サビーヌ、私はこれから亭主を探しに行かなくてはならない。準備が出来たら出発する事にするよ」

 

「はい、やしろに回状を回して竜神様の情報を集めてもらっています。それと各地の社にリリト様の支援を要請致しました」

 

「すまんなサビーヌ、お前には世話になったが何も礼が出来なかった」

 

「とんでもございません、病に苦しむ大勢の兎族の命を救っていただきました。これからももっとたくさんの人々をお救い下さいませ」

 

「あれだけは私も自慢が出来る。サブリに言ってあの装置の設計図をもらっていこう行く先々でそれを作らせることにするよ」

 

「それとガウル様がリリト様の旅のお手伝いを申し出てくれました」

 

「そうか…助かるな」

 

「この国の社もこれから再編が始まる事になると思います」

 

「まあこの国は基盤整備が進んでいるからな、豊かな国になるさ」

 

 サビーヌはリリトにそっと寄り添う。

 

「リリト様の帰りをお待ちしております」

 

「ああ、そうだなどの位かかるかわからないがいつか必ず帰ってこよう」

 

 ふたりはドゥングの社に戻っていった。

 

 

 

 

「おかえりなさいませ~~~っエルガラ様~~~っ!」

 

「アラベルさん、ただいま~っ」

 マーリン村では巫女のアラベルがエルガラを迎えに出ていた。

 

「巣までの道も出来ましたし、付近の動物たちも駆除いたしましたから巣を囲んでいる木を片付けましょうそうすればだいぶ広くなりますし床石も貼れますから」

 

「アラベルさんすごく嬉しそうだね~」

 

「エルガラ様が本格的に居ついてくださることになりましたからそれはもう~」

 相変わらずマーリン村は貧乏だけどアラベルの顔は希望に満ちていた。

 

 

   ◆ それから1年が経った。

 

 

「まだ来ないのかな~~~?」

 

 エルガラは毎日空を見て過ごしていた。

 リリトの言っていた竜の嫁が来るのを待ちわびているのだ。

 

 巣はまだ完成には程遠い、床に貼る石はまだ4分の1も出来てはいない。

 それでも人々はエルガラを拝みに現れ、農閑期の間周辺の村々からは使役の人々が巣の整備に駆けつけてくれる。

 社の前には竜神が昼寝をする台がしつらえられたのでエルガラは良くそこで昼寝をしていた。

 

 大勢の子供達が集まってきてエルガラに抱き付いたり背中によじ登ったりしている。

 それはそれでなぜかすごく穏やかな気分になれるひと時である。

 

「ん?」

 

 空が騒がしいので上を見ると見たことも無い鳥が飛行する大型魔獣に襲われているのが見える。

 

 その鳥から何かが飛び出して魔獣に当たると爆発を起こしている。

 点滅する光とパタパタと言う音も聞こえる。

 

 ああ、あれがリリトの言っていたニンゲンの作ったソーサー・ヘリなのかなとエルガラは思った。

 

 エルガラは翼を広げて飛び上がると襲われているヘリに向かって飛んでいく。

 鳥の魔獣は執拗にヘリを攻撃していたがエルガラが近づいていくと驚いたように距離を取る。

 

 ヘリに近づいていくとそこから小さな物が飛び出してきた。

 ドレスをまとった小さな竜である。

 

「あなた~~っ、私の名はロアナ~~っ!竜の花嫁さんよ~~~っ」

 ドレスをひるがえしながら竜の花嫁がエルガラの方に飛んでくる。

 

「ボクのお嫁さんだね~~~~っ、ボクの名はエルガラ~。ようやく来てくれたんだね~、嬉しいよ~っ」

 竜が手を伸ばすと竜の嫁をその手の上に飛び乗る、エルガラは彼女に頬を擦り付けた。

 

「大事にするよ~~っ、仲良くしようね~~っ」

「それよりヘリを助けて!魔獣を追い払ってよ~」

「もう逃げて行ったよ~」

 振り返ると魔獣達は必死でヘリから遠ざかっていくのが見える。

 

「ちょっと待っててね荷物を持ってくるから」

 ロアナはヘリに戻ると大きなボストンバックを引きずり出す。

 

「それじゃありがとうパイロットさん」

 

「お幸せに」パイロットはそう言って送り出してくれた。

 

 エルガラがヘリに近寄るとパイロットが手を振っている。

 その遠くに何か浮かんでいる大きなものが見えた。

 

「荷物を落とさないように背中につかまってね~」

 ヘリは向きを変えると浮かんでいる大きなものに向かって飛んでいく。

 

「あれは浮遊要塞よ、私たちを乗せてここまでやってきたの」

「それじゃあお別れの挨拶をしなくちゃね~」

 ヘリを追って浮遊要塞までやってくるとものすごく大きい物が飛んでいると言う事がわかる。

 

 厚みのある円盤の底には沢山の丸いふくらみが見える。ロアナによるとあれが浮遊装置だそうである。

 円盤の上にはいくつもの建物の様な物が見えた、まるで一つの都市の様であった。

 その上に向かってヘリは降りて行った。

 

 エルガラがその上空を旋回すると何機ものヘリがそこに停まっているのが見える。

 

「おおお~~~いっ!」

 ロアナが手を振ると建物の外にいる人たちが手を振り返す。

 そして建物の中から何か小さいものが沢山飛び出してくる。

 

 竜の子供達はエルガラの周りを飛び回ると口々に叫ぶ。

「ロアナ~~~、結婚おめでと~~~っ」

「元気でね~~~っ」

「ロアナを大事にしないと許さないからね~~っ」

 

「もちろんだよ~~~、お嫁さんを幸せにするよ~~~。ついでにボクも幸せになるからね~~」

 

 ロアナはエルガラの背中の上に立つとみんなに向かって手を振った。

 

 大勢の友達に見送られて私幸せよ~、ロアナは今日結婚しま~~~す。

 

 

 

 完


最後までお読みいただきありがとうございます。

本作品は前作「ドラゴン家族――我は竜なりその名はお父さん――」より4500年前の話です。

同じ世界の時系列と言う訳で、今後はタイトルを「ドラゴン家族――竜の嫁は樹海に舞う――」に変更させていただきます。

まあ予想通りの不人気ではありましたが最近それに慣れてきておりまして、思えば精神的にはタフになった物です。

現在は次回作を四苦八苦しながら書いておりまして今しばらく時間がかかると思いますがご容赦ください。

まあこの次も不人気で地の底を這いずり回って泥に頭を突っ込む様な話にしたいと思っています(笑)。

それはともかくその後は「最強(弱)無双」の続編を書きたいと思っております。

少ないとはいえ終了から1年以上読者が途切れないのですからやはり頑張らねばならないでしょう。

次々回作位には発表できる様に頑張りたいと思います。


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