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竜神1

1-054

 

――竜神1――

 

 竜はリリトの方に手を伸ばすとリリトを両側からそっと掴かえる。

 

「わわわ、待て待て何をする!私には用事が有るんだ。」

「用事ってボクの事だろう?竜の嫁がいるからってボクが呼ばれて来たんだよ~」

 竜は翼を広げると反転して高度を上げる。

 

「私はニャゲーティアに行かなくてはならないサビーヌの無事を確認しなくてはならん!」

「ニャゲーティアはエルドレッド王国の事だろう?ボクはそのエルドレッドの使者に呼ばれて来たんだよ~」

 オスの竜の手の中でジタバタ暴れるが一向に意に介する様子は無い。

 

「その使者は何て言って言ったのだ?」

「エルドレッドの竜神の元にに竜の嫁が現れたが夫の竜に逃げられて途方に暮れている、だからエルドレッドに来てくれって~」

「おい、私は亭主に逃げられた訳では無いぞ!」

 エルドレッドめとんでもないデマを流しおって。

 

「ん?そうなの?でも結婚しにやってきたら竜はいなくなっていたんじゃないの?」

「ま、まあそうだが。」

 よくよく状況を考えると反論できない。

 

「それならいいじゃないか~、昔の男なんか忘れてボクの所においでよ~」

「誤解を招く言い方をするな!昔の付き合っていた男と言う訳では無いぞ何しろ会ったこともないんだから!」

「それならボクでも同じじゃないか~。ボクだって君を幸せに出来ると思うよ、一緒に幸せになろうよ~」

 エルガラはにっこり笑ってリリトに頬ずりをする。

 

「待て待て待て、まだ心の準備が……」

 

「それよりお前がここに来たと言う事はこの近くに住んでいるのか?」

「うん、そうだよ。ここから300キロ位離れている場所だよ~」

 300キロと言うのは竜が飛行すれば2時間足らずの距離である。

 

「するとお前はエルドレッドの竜を知っているのか?」

「うん、20年程前に今の巣に来たんだけどその時会ってから時々顔を合わせていたよ」

「あいつの友人がいたのか?」

「そうだね~竜の友達は竜だけさ。獣人はすぐに死んじゃうしね~」

 考えてみれば竜である、寂しくなれば他の竜の元に飛んでいく事は出来るだろう

 

「意外と竜たちは交流があるようだな?」

「結構あちこちに飛んで行って友達を探しているよ~。まあ縄張りが有るから住みつくといやな顔をされることもあるけどね~」

 

 そういえば竜を放った初期の頃は数頭がまとまって行動していた時期が有ったと聞く。

 しかし同じメンバーで何年もいれば軋轢は乗じていく。

 結局グループは解散して個別に巣を作る様になったらしい。

 

「面白いその話を聞かせろ。ただし嫁の話はエルドレッドの竜の事が片付いてからだ」

「やっぱり見たこともない竜の方がいいの~?」

 悲しそうな顔をするエルガラ、やっぱり一人は寂しいのであろう。

 

「良いか悪いかの問題ではない、私が嫁に来てやったのに逃げ出したような男だ、シバキ倒さんと気が収まらん」

「あはははは怖いな~っ、でも君ってすごく律儀な性格をしているんだね~」

 考えてみればあいつが行方不明になったことがすべての事の発端だったんだよな、なんで私がこんな苦労をせねばならんのだ?

 

 サビーヌはの事は気になる、だが今ニャゲーティアに向かえばコイツも付いてきそうだしな。

 また新たな火種を持ち込む事になりかねん。

 すまんサビーヌ、ガウルよサビーヌをよろしく頼むぞ。

 

「わかったら掴んでおらんで背中に乗せろ、私を客人として迎えるのではないのか?」

「いいよ~、しっかり捕まっていてね~」

 竜はリリトを背中に乗せるとぐっとスピードを上げる。

 

 竜とは言えリリトの大きさでは300キロも飛び続ける事は難しい、下手をすれば帰ってこれなくなる。

 しかしこの竜はかなり考えが幼いというか人の好さそうな感じを受ける。

 素直と言えば素直、子供と言えば子供である、正直何とでもなりそうな気がした。

 

 300キロと言うのはエルドレッド国の外縁部からは250キロ位である、同じ規模の町と考えれば双方町の外縁部は200キロ離れていることになる。

 竜の縄張りと言うのはこの位であろうか?獲物を取り合うことも無くたまに顔を出せる距離と言う事か?

 もっとも実際には竜の数はもっと少ない、離れれば離れられるのだろうがやはり離れすぎるのは寂しいのであろうか?

 

 いずれにせよ町の数は竜の数によって上限が決まっているのかもしれない。

 ただ十分街が大きくなって狩猟軍組織を作れば獣人だけで大型魔獣の討伐が出来る様になる、そうなれば竜の存在は必要なくなるのかもしれない。

 

 なんか今、自分自身の存在理由レゾンテートルを否定したような気がする。

 

 いずれにせよそこまで大きくなれば今度は竜が狩りをする場所が遠くなるので竜はそこから出ていくのだろう。

 エルドレッドはと言えばまだここは発展途上の国であるから竜がいなくなれば発展はかなり阻害されることになるだろう。

 まあ魔獣と戦いながら国土を広げていくのだ。まだまだ世界は広くて竜は少ない。

 当分竜の取り合いは続くのだろうな。

 

 

 

「なんじゃ~~これは~~っ!」

 

 リリトの連れてこられた竜の巣はまさに「巣」であった。

 小高い山のてっぺんの木を引っこ抜き整地をした後に周囲をその抜いた木で囲っただけの物であった。

 囲うという言い方は多少なりとも文明を感じさせるがこれはただ引っこ抜いた木を枝も払わずに横に積み重ねただけのものである。

 

 要するに鳥は小枝を編んで巣を作るがこいつは木を編んで巣を作っている。

 しかも巣の片隅には食いかけの魔獣の肉が残っているではないか。

 

「これが竜の巣か~?ただの鳥の巣ではないのか~」

 エルドレッドにおける文化的生活からの落差の激しさに眩暈めまいを覚えるリリトである。

 

「ひどいな~っ、鳥の巣よりはましだと思っているんだけどな~」

「いやいや、スケールが違うが全くの鳥の巣だぞこれは。人語を話し神とあがめられる竜神の巣がこれか?」

 ここまで野生の証明をされると全く声も出ない、これでは竜の頭も馬鹿になってしまうだろう。

 

「そうだね~~、前は町に住んでたけど戦争を始めちゃったから逃げてきたんだ~」

「ここに社は無いのか?」

 竜の世話をする人間がいなければこうなってしまうのか。

 

「ある事は有るけどずっとふもとの方だし町もまだそんなに大きくは無いからね」

 確かに周辺に大きな町は見えなかった、畑は多かったが人家はまばらである。

 

「それにしてもこれではまるっきり獣と変わらんじゃないか?」

「そうだよ~、もともと人のいない場所に巣を作ればこうしておかないと獣が入ってくるからうっとうしいんだよね~」

 家と言うより獣除けのただの囲いでしかない。文化のかけらも感じさせない竜の巣である。

 

「食事はどうしている、獲物はここで食うのではないのか?」

「捕まえた獲物はここで食べるよ~」

「生でか?食い残しや皮はどうした?」

「ああ、囲いの外に放り出しておけば獣や魔獣が食べて片付けてくれるから」

 

 囲いの上に上がって見てみる、巣の周囲はうっそうとした森が広がっていて木々の間に寝転がっている獣の姿が見えた。

 リリトの姿が塀の上に見えると体を起こしてリリトの下まで歩いてきて上を見ている。

 要するにこいつら池の鯉である人影が見えると餌をもらえると思って寄ってくるんだ。

 

「トイレはどうする?その辺にしているわけではないのだろうな」

「近くに湖が有るからそこでしているよ。魚がものすごく大きくなるから時々捕まえて食べているよ~」

 

「自分の出した糞を食った魚を食べるのか?」

「別に関係ないし~」

「ううううう~~~~~~む~~~~」

 リリトの額に♯が並ぶ。

 

「やっぱり獲物は生で食っているのか?」

「そうだよ~」

「塩は無いのか?」

「生肉を食べれば塩は補給できるよ~っ」

 

 完全に野生動物のそれである。いや覚悟はしてきたよ、覚悟は。

 でも生活環境の改善は文明人の当然の欲求だろうが。

 

「それよりお腹すいていない?昨日の食べかけだけど良かったら食べるといいよ」

 竜神は食いかけの魔獣を持ってきた、地面に置かれただけの食いちぎられた獲物の残骸である。

 

「こんな物が食えるか~!」

 腹を立てたリリトは食い残しを塀の外に放り投げた。

 リリトの体の倍くらいの大きさが有る食い残しである、流石の竜神パワー半端ない。

 

 巣の外で唸り声と争うようなバタバタとした音が聞こえる、さっきの奴らだろう。

 しばらく音がしていたようだが食い残しを持って引きずっていったらしい静かになった。

 巣から頭を出してみると山の中腹でまだ争っている連中が見える。

 

 ピコピコと飛び上がって山の周囲を見て回る、あちこちに骨や毛皮の切れ端が残っている。

「ガウッ!」

 いきなり物陰から野犬の様な奴が飛びついてくる。

 

 軽く蹴飛ばして火の玉をお見舞いしてやる。

 リリト様を襲うような不届きな奴だがキャンキャンと悲鳴を上げて逃げて行った。

 

 はああああ~~~~っ、とため息をついて戻ろうとした時森の奥の方に人が見えた。

 近寄ってみると熊族の男で背中に大きなかごを背負い片手にトングの様な物を持っていた。

 かごの中には食い散らかされた骨や毛皮の切れ端が入っている。

 

「おお、こりゃめんこい竜神様みてえな魔物だでや」

「いや、私は魔物ではない竜の嫁だ」

「なんと言葉をしゃべる魔物でねえか?新種だか?」

 まあこれが社会における竜の嫁の一般的評価だから仕方ないのかもしれない。

 

「いやいや竜の子供だって言っているだろう、あんただって子供の時は有ったんじゃないのか」

「おお~っ、そんだか。それじゃここの竜神様の嫁になるだか?」

 初見でリリトを竜であることを認めたこの男は結構珍しい、社の関係者か?

 

「いや私は別の竜の嫁になる予定だ。それよりここで何をやっているんだ?」

「ああ、獣たちの食い残しを集めているだよ」

「それは見ればわかるがいったいそんなものをどうするんだ?」

「放っておくと匂うだでな集めて河原で燃やすだよ、これが結構良い肥料になるだで」

 なるほど、その発想は無かったな。

 

「しかしこの辺には野犬がかなりいるぞ、危なくは無いのか?」

「ああ、あいつらな、結構増えるだで時々村総出で狩るだよ。中には魔獣も混ざっていてな、一緒に狩らねえとそのうち大型魔獣になるだで。」

 まあそうだなこんなに毎日餌を供給されていたら増えるよね。

 

「んだもんで獣人を恐れて奴らおらたつには近づかねえだよ」

「成程それで一つ聞きたいんだがこの村に社は有るのか?」

「ああ、有るだよ。時々竜神様の所さ来てるだが、まあ道も狭いしさすがに兎族にはここは危ないだしなあ。」

「そうか後で行ってみよう」

 熊族の男と別れて巣に戻ると竜が待っていた。

 

「リリト~、周囲の様子はわかったの~?」

 やたら明るい竜である、やっぱりリリトが来てくれたのを喜んでいるみたいだ。

 

「それよりお前はもっと文化的な生活をしなくちゃいかん」

「文化的ってどんな事~?」

 こんな生活をしていると文化そのものに対する価値観が無くなるのかな?

 

「お前は以前は町にいたんだろう?社は竜の面倒を見てくれなかったのか?」

「う~ん、どちらかと言えば放っておかれたね、あまり人は来なかったよ~」

「領主は?」

「なんか年中あっちこっちで戦をやっていて10年位ごとに交代していたね~」

 

「原因はそれか~~」

 竜をめぐる争いなんだろう、その中で結局竜の存在そのものは忘れ去られているのだ。

 

「それじゃお前はずっとこんな生活をしてきたのか?」

「そうだね~、でも昔の事だしあまり記憶に残っていないよ」

 

 ちなみに竜は不死性を維持するために細胞のエイジング機能が削除されているのみならず新陳代謝が活発なのである。

 それは手足がちぎれても時間が経てば新しい手足が生えて来るほどである。

 そして新陳代謝は体のあらゆる部分に及び神経や脊髄、脳までもが行われている。

 

 したがっていつまでも脳細胞は減らないが記憶は脳の新陳代謝によって失われる事になる。

 無論100年単位の話であるから通常の生活に支障はない、しかし古い歴史の記憶は残らないのだ。

 その欠点を補うためにリリト達竜の嫁の脳には生体補助記憶装置が組み込まれ新陳代謝と共に記憶更新を行い記憶保持がはるかに長い間継続できるようになっている。

 

「あのなあ、私は私に割り当てられた竜がおってな、それがエルドレッドの竜だ。

「やっぱりボクじゃダメなの~?」

 あまり悲しそうな声を出すな心が痛む。

 

「お主20年前からここにおると言っておったな」

「うん、そうだよ~っ」

「ここには社は有るのだろう」

「本山じゃないけど出張所なら有るよ~」

「そうか、それなら断定は出来ないが多分お主の所にも嫁は来る」

 

 リリトは竜の嫁の繁殖計画についてエルガラに説明した。

 ニンゲンによって育てられた竜の子供は年に50人である。

 社からもたらされた竜のオスの情報を統合し世界中に散らばる竜の数を特定したのだ。

 無論いくばくかの誤差は生じるし社のいない場所に住む竜もいるだろう。

 だがそれは仕方のない事としてわずかに多い人数を誕生させたのである。

 

 そうやって誕生した竜の嫁は最新の情報を元に順番に竜のオスに送り届ける計画であった。

 世界中に散らばった竜のオスの元へは直径10キロの程の空中要塞で世界をめぐる事になっている。

 魔獣細胞を利用した真空エネルギー機関を使い無補給で世界をめぐる事が出来るのである。

 要塞と言ってはいるが戦争をする訳では無く防衛用のミサイル等の火器を備える程度のものだ。

 

 何機ものソーサーヘリを搭載する空母と言った方が正しく目的地に近づいたらヘリを使って竜の嫁を目的地に届けるのである。

 半年かけて世界を数周し50人の竜の嫁を順番に配偶者の元に届けて行くのである。

 したがって20年位前から社との接触が有ればデーターベースに乗っている可能性が高いのだ。

 おそらくエルガラの元にも竜の嫁は訪れると思われた。

 

「そうなんだ~?本当にボクにもお嫁さんを用意してくれているんだ~。」

「ああ、ただ今回はこの近くで私が降りたのだから次は一年後か2年後か?いずれにせよお主はここを動かない方が良いだろう。」

「あれ?それじゃエルドレッドの竜ってそれを知らずに家出しちゃったの?」

 あいつは間抜けなんだよ!絶対にシバキ倒さんと腹の虫が収まらん。

 

「どちらにしても存在が把握できているオスの竜の数よりも多くの竜の嫁がいる、把握できていないオスの竜のいる可能性も有るしダブっても構わないのだ、どうせ嫁をめとるのは500年位先だ」

「500年てどういう事?」

「それぐらいたたないと竜の嫁が子をなせる大きさにならないだろう、私の大きさなのだぞ」

「それもそうだよね~っ、でもそんな事はちっとも構わないさ、一緒にいてもらえるなら~」

 

 竜の孤独の闇は暗く深い、共に生活してもらえる相手がいる事こそが重要であった。

 元々は竜を見張りニンゲンとの軋轢を緩和するための組織であった社は徐々にその性格を変え竜のセラピストとしての性格を強く持つようになって来るのである。

 竜の巫女に兎族の女性を擁するのはその理由によるのだった。

 

 それは獣人やニンゲンと共に竜もまた彼らに依存する存在であるという事を強く感じさせる。

 如何な強者と言え世の中を孤高だけで何千年も生きていく事は出来ないのだ。


登場人物 

 

エルガラ マーリン村の竜神 身長11メートル 全長20メートルン

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