第8話:偽りの防衛網
お越しいただきありがとうございます、フリーウェイです。
実はあなたの隣に座っているご主人も、役所のカウンターで受付している彼女も、本当にもとの人ですか?
何か最近変わったこととかがありませんでしたか? 違和感は?
そんな恐怖ももしかしたら感じ始めたのではないですか?
本作品はホラーじゃないので恐怖を感じてもらう必要はないのですが、実は……なんてことが無いように、家族はしっかりと守りましょうね。
さて、前話で白昼の市役所から見事「横田係長」を救出した誠たち。
正気を取り戻した横田の口から語られるのは、行政や警察へどこまで侵食が進んでいるかという戦慄の真実でした――第8話へどうぞ!
河口市役所の裏手、雑居ビルの隙間に滑り込んできたアズのワンボックスカー。
誠と健太は、涙を流しながら呼吸を整える横田係長を後部座席へと押し込み、激しくドアを閉めた。
「出せ、アズ!」
「任せろ!」
タイヤを悲鳴させ、車は市役所の裏路地から大通りへと飛び出した。
助手席に乗り込んだ誠は、バックミラーで市役所の正面玄関を注視する。すでにサイレンを鳴らしたパトカーが二台、猛スピードで横づけされ、黒い警察服を着た男たちが降り立っていた。
「警察の動きが早すぎる……。間違いなく、あの警官たちも『中京セントラル』のネットワークに繋がれているな」
後部座席で健太にお茶を渡された横田が、震える声でつぶやいた。
「は、はい……。河口署の警備課と交通課の主要メンバーは、すでに半数以上が『フェイ・シェル』に入れ替わっています……」
「半数以上……!?」アズがハンドルを握る手を固くさせた。
横田は自分の頭を押さえながら、途切れ途切れに記憶を手繰り寄せる。
「俺……いや、中京の端末にされていた俺の脳内には、定期的に『更新データ』が届いていました。住民基本台帳から一人暮らしの人間や、親族と疎遠な人間のデータを抽出しては、ヤードの『テンプレート抽出ライン』へ送り……代わりに完成したフェイ・シェルへ戸籍を割り当てる……」
《誠、横田さんの脳内インプラントに残存していたメモリログを同期したわ》
ASUKAの凛とした声が頭の中に直接響く。
《恐ろしい効率性ね。河口市役所だけでなく、近隣の警察署、さらには市内に駐屯する自衛隊の通信担当者にまで、すでに複数名のフェイ・シェルが潜入しているわ。……彼らは『本物の日本人』として自然に振る舞いながら、裏で防衛網の無力化を進めている》
誠は拳を強く握りしめた。
「身分を奪われ、すり替えられた本物の日本人たちは……今どこにいるんだ、横田さん!?」
「ヤードの最深部……そして一部はすでに本国の『人間畑』へ送られています……。でも、まだ市内の仮設コンテナ施設に拘留されている人たちも大勢いるはずです!」
「よし……そこを叩く」
誠がそう決意した瞬間、突然――
ガンッ!!!
激しい衝撃とともに、ワンボックスカーのリアウィンドウが砕け散った。
「うおっ!?」
バックミラーを見ると、追撃してきた二台のパトカーのうち一台が、凄まじい加速で迫ってきていた。運転席に座る警官の顔には、一切の表情がない。カメラレンズのような無機質な瞳が、まっすぐに誠たちの車を捉えている。
《誠、警告! 追撃してくる警察車両のドライバーは『サイバネティクス強化型フェイ・シェル』よ! 車両の制御系も直接インプラントでジャックされているわ!》
パトカーの助手席から身を乗り出した別の警官が、黒い異型の銃器を構えた。
サイバッドと同系統の消音型高圧釘打ち銃だ。
――シュバッ! シュバッ!
鋭い鋼鉄釘が車のボディを貫き、車内に金属音が甲高くいや増す。
「くそっ、このままじゃ蜂の巣にされるぞ!」アズが叫ぶ。
「アズ、ハンドルを固定してくれ!」
誠は後部座席の窓から身を乗り出し、父の遺産である指向性量子ノードを追撃するパトカーへ向けた。
「ASUKA! 奴らの車両コントロールシステムとインプラント通信へ、過大ノイズを叩き込め!」
《了解! ネガティブエントロピー演算・指向性パルス出力……照射!!》
――パチチチチッ!!
青白い量子光線が夜の街並みを一瞬照らし、迫り来るパトカーのフロントガラスを直撃した。
パトカーの運転席にいたフェイ・シェルの警官が激しく頭を抱え、操縦不能となったパトカーは猛スピードのまま道路脇のガードレールへと激突。激しい火花を散らして横転した。
「やったか……!?」健太が身を乗り出す。
だが、誠の表情は硬いままだった。
「いや……これは始まりにすぎない。市役所の横田さんを解放したことで、中京セントラルは俺たちの存在を『最優先排除対象』として認識したはずだ」
誠は横田と健太、そしてアズを見回した。
「ここからは全面戦争だ。すり替えられた日本人たちを救い出し、中京の居抜き侵略を根底から叩き潰す!」
第一章 第8話をお読みいただき、ありがとうございます!
前書きの「不気味な違和感」から地続きで、警察や行政組織へどれほど深くフェイ・シェル(すり替え)が侵入しているかが横田の口から語られました。
ASUKAの量子ハッキングによるパトカーの迎撃で間一髪脱出した誠たちですが、中京集団もいよいよ本格的な排除に動き出します。
次回・第9話では、捕らわれている本物の日本人たちが収容されている「市内仮設コンテナ施設」への電撃潜入・救出作戦が始まります!
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