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後列モブは巻き込まれ体質すぎて悪役令嬢を放っておけない〜実は隠れ溺愛されてたとか受け入れられません!〜  作者: 皆神 わいら
第1章 後列モブはゆるくぬるく生きたい

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第8話 公爵家の使用人は総強火

「エルナ様、お越しになっていたのね!」

「はい。ヴァレッタ様の勇姿を拝見させていただきました」


うん、朝イチ連行は使用人の独断だな。

あのそわそわ感、完全に“お嬢様の友人が来たぞ祭り”だった。


「朝の鍛錬のお時間なのでしょう? お邪魔をしてしまって申し訳ありません」

「いいのよ、そろそろ上がろうと思っていたところなの。だけど……申し訳ないんだけど、もう少しお待たせしてもいいかしら? 汗を流してきたくて……」


お嬢様の汗臭い(くさくないよッ!)姿を客人にさらして悲しげな顔をさせるなんて、使用人たちギルティでは?


「もちろんです。ここにくる間に見かけた庭園を拝見していてもいいでしょうか? どうぞゆっくりお支度なさってくださいませ」

「ありがとう。すぐに参りますわ」


ヴァレッタ様を見送ると、ナイスミドル家令さんに庭園へ案内してもらう。

武門の家らしい無骨な室内装飾とは打って変わり、庭園は色彩が一気に開けて、咲き乱れる植物たちが競い合うように伸びていた。整然とした貴族庭園というより、生命力がそのまま形になったみたいな迫力がある。


「珍しいでしょう?」


「ほー、へー」と言いながら見ていたのがバレたのだろう、ナイスミドルさんが解説をはじめてくれた。


「こちらの庭園は、ヴァレッタお嬢様の提案で、いくつかの植物を組み合わせた混植となっています。なんでも、コンパニオンプランツというとか」


ヴァレッタ様、前世の知識ちゃっかり活用していらっしゃるのね。

まあ、私も? 前世のことを思い出したワケだし? これからいくらだって無双できちゃうんですけどね!

フスンと荒い鼻息を吐き出したところで、前世を思い出すタイミングが違ったことが気になった。


「その珍しい混植法はいつからなさっているんですか?」

「あれはまだお嬢様がお小さい時でしたので……確か5歳ごろのことだったかと思います」


5歳。私よりかなり早いうちに前世の記憶を思い出したのね。


「ちょうどクリストフ殿下との婚約の打診があった頃でした。お嬢様は原因不明の高熱で寝込まれて、私どもは本当に気を揉んだものです。その頃のことをどうやらお嬢様は覚えていらっしゃらないご様子で」

「そんな大事なことを私に話してしまっていいんですか?」


幼少期の、それもヴァレッタ様自身も覚えていないような個人情報を、初めて会った赤の他人に明かすなんて、やはりここの使用人大丈夫か?

疑いの眼差しを強めると、ナイスミドルさんは、ふふと柔らかく笑った。


「あんなに自然体で振る舞うお嬢様を外の方に見せることはめったにございません。それだけ貴方様を信頼なさっている証でしょう。そんな方に、外には見せていない本当のお嬢様を、少しでも知っていただきたかったのです」


だからと言って、と思いつつ、これは「それだけ大事なお嬢様なんだから何かしたらただじゃおかないよ」という警告も兼ねているんじゃないかと思い至った。


「心します」


笑みを深め頭を下げると、ナイスミドルさんはやや距離をとり、「お嬢様がいらっしゃいます」と告げた。


「え?」まだ来てないみたいだけど、と周囲を見回すと、ドレスの裾を摘んで小走りのヴァレッタ様が建物の影から登場した。


「お待たせいたしましたわ!」


遅れて「お嬢様〜」と追いかけてくるメイドの手には紙の束。

ドレスでは走らないでくださいませ、と小言を言われつつもヴァレッタ様は受け取った紙束をぎゅっと抱きしめ、お茶の用意をさせると使用人たち全員を下がらせた。


枝を伸ばした大きな木のすぐそばにテーブルとチェアが設置され、木陰のティースペースに仕立てられている。

お菓子に軽食、ティーポットが2種類あるのは、温かいものと冷たいもののようだ。

武門の家らしい無骨な室内とは違い、庭園はどこか柔らかく、植物たちが競い合うように伸びている。


使用人たちは離れたところに控えているし、これだけ遠いとこちらの声は聞こえないだろう。

と、思ったのに、「こちらにお掛けになって」とヴァレッタ様みずから椅子を移動させ、座る位置を指定された。


「唇が見えると、読まれる可能性がありますの」


公爵家、どうなっとんじゃい。


さっきまで“お嬢様にお友達が!”とキャアキャアしていたメイドたちが、今は庭園の端でぴしっと立っている。

さすがは公爵家使用人。


でもお嬢様に黙って拉致してきたことは覚えておくからな!


ヴァレッタ様は紙束を胸元に抱えたまま、少し息を整えてから私の向かいに腰を下ろした。

さっきまで大柄の騎士相手に剣を振っていたとは思えないほど、姿勢が美しい。

でも、額にはまだうっすら汗が残っていて、それが妙に“生きている人間”らしい。


(急いで来てくれたんだな)


胸に温かいものが広がる。

用意された紅茶に口を運んで数瞬味わったかと思うと、ヴァレッタ様が口を開いた。


「お見苦しいところを見せてしまってごめんなさい。どうしても、エルナ様と話したいことがあって……」


声が少しだけ震えている。

鍛錬場で見せていたあの凛々しい姿とは違う、いつもの気弱で繊細なヴァレッタ様だ。

紙束をそっと机に置くと、視線を落としたまま言葉を探しているようだった。


庭園の風が、混植された植物たちの葉を揺らして、ざわざわと小さな音を立てる。

その音が、ふたりの沈黙をやわらかく包んだ。


「……エルナ様。まずは驚かないで聞いてくださいまし」


顔を上げたヴァレッタ様の瞳は、鍛錬場で剣を振っていたときの強さと、いつもの怯えが同時に宿っていて、胸がぎゅっとなる。

何を言われるのかはわからない。

けれど、“これは大事な話”だ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

次のお話もぜひ、お楽しみください♪

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