第8話 王族の一員になるということ(2)
王族専用食堂にクリストフ殿下の姿は、まだ……ない。
王太子ってそんなに忙しいの?
私にはまだいまいちわかってない。
けど、晩餐の開始にギリギリ駆け込んでくるのはいつものことだ。
既に着席している三人に挨拶をして、自分の席に腰掛けると斜め前にいるのがテオドール殿下だ。
(そういえば、側近候補がいたら情報をくれと言われてたんだ)
ヨナス様の言葉を思い出しながら、しげしげとテオドール殿下を観察する。
髪はクリストフ殿下と同様、王妃様譲りの銀髪だが、ふわふわとカールしているのは国王様に似たのかな。
クリッと大きな青い眼と長いまつ毛。
来年学園に入学ってことは、14歳か〜
え?14歳?
そろそろ子供らしさが抜けてくる頃かと思うんだけど、くるるんヘアに大きいくりくりお目めがうるうるしている様は、控えめに言って天使では?
私が何かのドアを開きかけようとしていると、遅れてすみません、と駆け足でクリストフ殿下が入室してきた。
一秒も無駄にしない動きで私の隣に着席すると、皆を見回して不思議そうな顔をした。
「どうかしましたか?」
え?どういうこと?
何か気になることがあったのだろうか?
私が状況を把握できずにいると、王妃様がたまらないといった様子で吹き出した。
「ハハハッ、いやなに、エルナがあんまりにもテオドールを凝視するもんだから。テオドールなんてこの通りだよ。面白すぎてそのまま放っていたんだが、そこへクリスが入ってきたわけだよ」
……はっ!私かーー!
そういえば、人をジロジロ見てはいけませんとメラニー女史に何度も注意されてたんだった!
「テオドール様、ごめんなさい!私ったら」
「い、いいえ。お義姉様、謝らないでください。僕、あんまり人に見られる機会が少なかったせいか、緊張してしまって」
そう言うと、潤んだ瞳がさらにうるうるを増していく。
キューーーン……
ほら、何かのドアが開く音でしょ?コレ。
完全に解錠を感じていたのだが、その感動を味わう間も無くクリストフ殿下が割って入った。
「エルナは幼い兄弟に囲まれて育ったからな。テオドールもこれからは人前に出る機会が増えるだろうから、これから慣れていけばいいんだよ。さあ、食事が冷めてしまってはもったいない。待たせたのは私のせいですが、晩餐をいただきましょう」
「それもそうね。いただきましょう」
なんだか、何かをキャンセルされた気がしたのは気のせいかしら?
まあいいわ。
最近美味しさがちゃんとわかってきたんだもの、お食事を楽しまなきゃね!
そうして和やかに会話をしつつ、王城料理人の作ったご馳走をいただいていると、思い出したようにクリストフ殿下が口を開いた。
「そういえば、まもなく母上の生誕祭ですね。エルナは初日の献上の儀に出る予定でいいのかな?」
……き、来たーーー!
献上の儀。
それは、王妃様の生誕祭初日に行われる最初の行事だ。
グランツフェルト王国では、数え年の週間がある。
つまり、新しい年を迎えるごとにに皆一斉にひとつ年齢が繰り上がるという方式だ。
だからと言って生まれた日がなくなるわけではない。
生まれた日自体は情報として国民情報として記載される。
しかし、年齢自体は皆一緒に加算されていくため、生まれ月にお祝いをすることが多い。
生まれた日が連続していたり、固まっていたりしていた時には一緒にお祝いができるので、いい考え方だと思う。
そういうわけで、国王様と王妃様の生まれ月には盛大なお祭りが催される。
それが生誕祭だ。
そして、生誕祭は三日間に渡って開催される。
国内のみならず、他国からも賓客が訪れることもあり、チャチャッと終わらすわけにはいかないのだ。
一日目は王妃様にお祝いの品を届ける、献上の儀。
王城の謁見の間に様々な贈り物を手にした者が並び、位の高い家から王妃様に贈り物を捧げる。
王妃様の生誕祭では、その家の女性が贈り物を持ち、贈答の列に並ぶことになる。
国王様の場合にはその逆だ。
どんな贈り物を届けるのか皆見たがるため、献上の列の周囲を多くの貴族が見物に来る。
捧げた贈り物は台の上に並べられ、捧げた後も見物できるようになっている。
すぐに王妃様が手に取ることはないし、しばらく衆人環視に晒される上、護衛もつくため、安全面に配慮もしているようだ。
二日目はパレード。
王城のバルコニーから国民に顔を見せた後、国王夫妻が一緒に王都のメインストリートをまわる。
スタート地点の王城ポーチには貴族用の観覧席が設けられているし、沿道の建物のいい位置から観覧してもいい。
そして三日目。女性はガーデンパーティ、男性は狩猟大会に繰り出す。狩猟大会では、その日いちばんの獲物を獲ったものが王妃様に捧げる栄誉を預かり、王妃様からのご褒美をもらえるらしい。
この日程の中で、王妃様は国内外の女性貴族から祝いを受けつつもてなし、国王様は同様に国内外の男性貴族をもてなすのだそうだ。
大規模な貴族行事であり、一年に2回もあるのは、家によってはチャンスであり、負担でもある。
そのため、参加は決して必須ではないものの、ここを逃せば国を超えて他国の要人と接触する機会を逃すということもあり、大体の貴族が出席をしている。
それは、南の端っこの貧乏貴族である我が家も、この日だけは遥々王都へとやってくるということ。
そして今、私は父の視線を感じつつも、献上の儀で名前を読み上げられるのを待ち続けているのだった。




