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後列モブは巻き込まれ体質すぎて悪役令嬢を放っておけない〜実は隠れ溺愛されてたとか受け入れられません!〜  作者: 皆神 わいら
第4章 後列モブは巻き込まれない

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第6話 カンペキなあにうえ(テオドール視点)

兄上の観察が僕の日課だ。

僕はテオドール。

このグランツフェルト王国の第二王子として生を受けた。

立派な王子になることを求められ、幼い頃から色々と言い付けられてきた。


あれをしてはダメだ。これをしてはダメだ。

この勉強をしなさい。これができるようになりなさい。


言われたことを決してできないわけではないけれど、正直に言えば好きじゃない。

それより、たまに来る乳母の息子のヨナスと遊んでいる方がずっといい。


ヨナスは僕より少し上のお兄さんだからか、いつもいろんなことを教えてくれる。

城から出られない僕のために、城下での出来事や、森での遊び方も教えてくれた。

でも、最近は来る回数がめっきり減ってしまった。

それはヨナスが学園に通うようになってしまったからだ。


この国では15歳になれば全ての王侯貴族子女は学園に通うことが義務付けられている。

学園を卒業して初めて、成人の貴族として認められるのだ。

僕はヨナスの二つ下だから、王子ではあるものの、大人じゃないから、参加できない行事も多い。

今度の狩猟大会だってそうだ。


母上の生誕祭は毎年三日かけて盛大に催される。

毎日いろんな行事があるらしいが、その中の一つが成人貴族男性が参加する狩猟大会だ。

生誕祭の時だけは王族が管理している森が解放され、そこで狩猟ができるらしい。

王城から少し離れた場所にあり、弓が飛んできては危ないからと、僕はまだ見に行ったこともない。

でも僕は、弓を射る時の兄上が好きだ。


兄上は学園を卒業し、晴れて成人王族として認められ、今まで以上に公務に追われていると聞く。

それでも、学園に通っているときはいつもいない兄上が王城にいると言うだけで、僕は嬉しい。

狩猟大会が近づいているためか、兄上が弓の練習をしていると侍女から聞いた僕は、こっそり様子を見に行くことにした。


家庭教師の授業の合間を縫って、兄上の観察に勤しむ僕のため、空き時間になるたびに兄上がどこにいるかなどの情報をくれる。

授業が多くてなかなか見に行けないのが難点だが、一度授業をサボってみたら兄上が残念そうな顔をされたので、それ以来しなくなった。

怒るでも、諭すでもなく、言葉もかけてくれなかった兄上に、僕は見捨てられるような危機感を感じたせいだ。

だから、本当は一日中兄上の後ろをついて回りたいけど、すごく頑張って我慢している。


僕の授業中、兄上は剣の鍛錬をしているらしいのだが、そのせいもあってまだ兄上の剣の腕前を見たことがない。

しかし今日、鍛錬場へ急いでみると、兄上が一人の騎士と剣の打ち合いをしているところだった。


(やった!走った甲斐があった!)


壁や柱の影からこっそり覗きながら、兄上の姿を目で追う。


(すごいすごいすごい!兄上が剣を持ってる!剣を振り回してる!かっこいい!)


僕も一応剣術の授業を習ってはいるが、自分でやるのと人がやっているのをみるのではわけが違う。

しかも兄上が打ち合っているのだ。

断然こっちの方がいい。


少し遅れて追いついた侍女がなにかを訴えているが、全然耳に入ってこない。

僕は兄上に集中している。

すると、兄上と対戦していた騎士の剣が兄上に当たる直前で止まり、ふたりとも剣を下ろした。

どうやら対戦が終わったようだが、あの終わり方は……


複雑な気分で壁にしがみついていると、こちらに気づいた兄上が僕に近寄ってきた。


「テオドール、また侍女を置き去りにしたのか?」


しまった。

先ほどから何か言っていることはわかっていたけど、走ってきたことがバレてしまった。


「えーと、そのようです」

「あまり困らせては可哀想だぞ」

「ハイ……」


わかっています。

でも僕は、それよりも今気になっていることがあって、顔に力が入るのをやめられない。

兄上が頭を撫でてくれていますが、これは聞いてしまった方がいいのかもしれない。

そう思った僕は、素直な気持ちを兄上にぶつけてみることにした。


「兄上は負けたのですか?」


なぜだか口にも力が入ってしまい、ボソボソとした言い方になってしまった。

兄上を見れば、少し目を見開いている。


「ああ、先ほどのか。そうだ、彼の方が強かったからな」

「それで良いのですか?」

「どういう意味だ?」

「だって、兄上はなんでもできる人なのに。騎士に負けるなんて……」


僕の兄上は、完璧な人なのに。

王太子なのに。

いずれは王様になる人なのに。

騎士に負けるなんて、あっちゃいけないんじゃないの?


声に出せば、悔しさが余計に大きくなる気がした。


「テオドール、少しそこへ掛けよう」


そう言って、近くのベンチへ僕らは移動した。

僕の隣に、兄上が座っている!

けど僕の気分はまだモヤモヤしている。


「テオドール、クイズを出そう。勝つということはどういうことかな?」

「強いと言うことです!」

「ふむ。では、負けるということは?」

「……弱いということです」


ああ、ほらまた僕のモヤモヤが帰ってきた。

でも、兄上のクイズはまだ終わっていなかった。


「勝負をすれば、どちらかが勝ち、どちらかが負ける。それはわかるな?」

「わかります」

「では、負けた者はそれまで何もしなかったのだろうか?私は今回負けたが、何もしなかったのだろうか?」

「ちがいます!兄上はお忙しいのに、剣の鍛錬もなさっていると聞いています!」

「ほお、よく知っているな。そうだよ、私は剣の鍛錬をサボっているわけではない。でも負けたんだ」

「そんなの、……受け入れられないです。戦で負けたら、そこで終わりではないですか……」


ああ、僕は許せなかったのか。

完璧ですごい兄上が負けたことが、受け入れられないんだ。


「そうか。確かにいう通りだ。戦で負けたら、そこで終わりになることが多い」


そうだ。だから僕は兄上が負けるなんて、受け入れられないんだ。


「では勝てばいいのか?」

「……え?」


兄上が何を言いたいのかわからなかった。

負けたら死んでしまう。だから勝つのがいいじゃないか。


「テオドール、これは大切なことだ。勝つ者がいれば、負ける者もいる。負けたら死ぬということは、勝てば相手が死ぬこということだ。誰かが必ず死ぬ、それが戦だ」

「……」


僕は急に寒くなった。

誰か、と言われたことで、敵と想定した相手が急に生身の誰かのように感じられた。

それはとても恐ろしく、そしてなぜか悲しかった。


「だから、いかなる大義があったとしても、嬉々として戦をするものではない。わかるな?」

「……はい」


僕はとても慎重に返事をした。

元気よく返事をするような気にはなれなかった。


「ちなみに、誰にも気づかれず戦を防ぎたいというのが信条だ」

「それでは、兄上の功績が誰にもわからないではないですか」


それでいいんだ、と言いながら、兄上は僕の頭をまた撫でてくれた。


「誰かが死ぬより、ずっといいじゃないか。しかし、だ。鍛錬の勝負はどうなんだと言いたいのはわかる。勝った負けたというからわからなくなるのかもしれないな。そもそも命の掛かっていない勝負は、己の腕試しだ」

「うでだめし?」

「そうだ。自分がどのくらいできるようになったのかは、相手がいなければわからないことだ。そして、さらに自分を高める方法も、自分ではない誰かからもたらされるものだ」


そこで言葉を切って、兄上は僕の頭の上にポンと手を乗せた。


「だから、負けとは、ダメということではないんだよ」

「……そうなのですか?」

「負けたっていいじゃないか。死なないんだから」

「そうですよ。それに、殿下が私たちより強かったら、私たちがお守りする意味がなくなってしまいます」


近くで話を聞いていた騎士はそう言って笑った。


「おいおい、もし私の方が強かったとしても、君達の仕事は無くならないよ」

「面目が立たないってことですよ〜」

「頑張って強くなってくれ」

「お忘れかもしれませんが、今のところは私の方が強いですからね」

「ああ、そうだったな」


兄上は負けた相手と楽しそうに笑い合っていた。

ああ、僕の兄上はやっぱりかっこいい。

と思いながら、僕はいつの間にか柱の影に隠れていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

次のお話もぜひ、お楽しみに♪

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