第4話 新入生歓迎会
新学期がはじまり、生徒会の最初の仕事は新入生歓迎会だ。
グランツフェルト王国の貴族の義務として、15の歳になる貴族子女らが国内全域から集まってくる。
ここで5年間、学業のみならず貴族としての矜持や社交性、マナー、知識を身につける。
家庭教師を雇い、ある程度の教育を終えている者も多いが、閉じられた社会の中で学べることは限られている。
身分の違う者が多く集まること、出自や考え方の違う者とどう接するかなど、学べることは多い。
その学園生活を始めるにあたり、入学式後の最初の行事となるのが、新入生歓迎会なのだ。
新しく学園に入学した貴族の子女らを歓迎するささやかな催しなのだが、これから学びを共にする同級生としてコミュニケーションを取るためのきっかけ作りに一役買うことができる。
入学式を終え、教室でオリエンテーションを終えたのち大講堂へ移動すると、まずは学園生徒による活動紹介があり、宣伝と新入部員の勧誘が行われる。
その後新入生たちは、生徒会の企画したいくつかのミニゲームに参加し、初対面の同級生と言葉を交わしたり、協力して問題を解いていく。
卒業したクリストフに代わり歓迎会の指揮をとったのは、一年後に弟殿下が入学してくるまでの期間の生徒会長を務めるクラウスだ。
弟殿下の側近であるヨナスをそばに置き、逐一共有しながら仕事を進めている。
新生徒会が発足したことで新メンバーとなった面々は昨年まで最下級生だった者もいるため、どこか引き締まった表情に見えるのが面白い。
一通りの催しの後にはお茶会席を用意し、喉を潤しつつこれから学舎を共にする学友としばし歓談する時間となる。
学園の中でもいちばん広いお茶会施設いっぱいに用意されたテーブルへ、それぞれの意向を尊重しつつ生徒会メンバーがテーブルへと案内をしたり、同席の許可を伺ったりと調整をしていた。
やがてすべての新入生が着席をし、生徒会メンバーが全体を見渡せる位置へと自然に集まってきた。
「なんとかなりましたね」
オットマー様が誰に話しかけるでもなくこぼした言葉に、私たちは皆頷きを返さずにはいられませんでした。
「ここまで気を遣われていたとは知りませんでした」
ため息まじりにそう答えたのは、この新学期から2学年に進級されたヨナス様。
「昨年はクリストフ殿下がいらっしゃいましたから」
「私たちの時もクリストフ殿下が采配されていらしたから、スムーズに着席できるのが当たり前だと思っていました」
ヴァレッタがそう答えるのを聞き、あの頃を思い出すも、どうにも記憶が曖昧だ。
多分、絶賛後列モブだった頃に違いない。
空いた隙間埋めます、くらいに思っていたかもしれない。
「来年にはそのクリストフ殿下の弟君がご入学されますからね、生徒会もまた一新されるでしょうが新入生歓迎会までは私たちでおもてなしすることになるので、今日のことを忘れないでいてください」
クラウス様は次期生徒会を中心となって補佐するであろうヨナス様に、苦笑混じりに伝える。
弟殿下の側近となるヨナス様は、責任の重大さを感じて少し背伸びをするように姿勢を正すと、重々しく首肯した。
「そういえば、ヨナス様の他に弟殿下の側近候補の方はいらっしゃらないの?」
会場を見渡しながら、メリアが新入生たちと馴染んで会話している様子を確認していた私は少し気持ちが落ち着き、生徒会メンバーの会話に参加する余裕ができた。
そこで、ふとした疑問を口にすると、ヨナス様だけでなくクラウス様までもがなんとも言えない表情で私を見た。
「いるにはいるのですが……」
「エルナ様はまだ殿下にお会いしていらっしゃいませんか?」
むむ?
そう言われると、会った気もする。
何せ新学期が始まるまでの長期休み中、私はずっと王城に滞在していたのだ。
何度か国王夫妻も交えた夕食会にも招待されたし……
「あ!テオドール様か」
「そうです。テオドール殿下が一年後にご入学される王族です」
アンリ王子の帰国の折、国王夫妻と見送りに出ていたことを思い出す。
アンリ王子は国王夫妻とテオドール殿下に挨拶をしたのち、私たち生徒会のところへ来て、みんなと握手を交わし合ったのだ。
あれから何度か顔も合わせたし、そういえば挨拶もしていた。
夕食会では和やかな会話の中にも、国王家族の勢力図のようなものが見えてふむふむなんて思いながらおいしいお食事をいただくのに一生懸命だったが、あのテオドール殿下か〜。
やっと記憶がつながった。
どちらかというと、気弱で可愛いという雰囲気の王子殿下だ。
「実はテオドール殿下はかなりの人見知りでいらして、側近をつけるにも人選が難しく未だ難航しているというのが正直なところなのです」
ヨナスが正直に胸の内を打ち明けてくれた。
苦労してるんだな〜、なんて今までだったらスルーするところだけど、私の義弟となるテオドール殿下のことだもの。
なんとかしてあげたい。
「じゃあ、よさそうな人がいたらお声がけしたりしているの?」
「ええ。できれば護衛に向いた者で殿下のお側にいられるものをと考えているところです」
なるほど。
ということは、できれば同学年の方が友人としても、護衛としても付きやすいよね。
「しかし、クリストフ殿下が立太子されたので、急ぐこともないだろうと人選が宙に浮いた状態で」
そこまで言うと、ヨナスは新入生たちのお茶会会場へ視線を向けた。
クラーラ様が気遣わしげにヨナス様の背に手を当てるのが見える。
(もしかしたらこの中に、テオドール殿下に合った人材がいるかもしれない)
「わかったわ。私の方でもテオドール様によさそうな方と知り合ったら、ヨナス様にご相談しますね」
「よろしいんですか?」
「もちろん。私、こんなですがクリストフ殿下の婚約者だもの。いずれ義弟となるテオドール様のため、私が協力するのは何もおかしなことではないでしょう?」
現在確定している側近がヨナス様だけなのだろうか、少々大袈裟に感謝されると、流石にどうやって対応したらいいのかわからなくなる。
すると、私たちの会話が込み入ったことを察知して少し離れた場所から会場の様子を見守っていたヴァレッタがやってきて、「さすがは未来の王太子妃」と茶化すものだから、私は久しぶりに誰かの背中に隠れたくなってしまった。
以前はあなたの背中に隠れていたのに。
学生でいられる期間が終われば、私もただの伯爵令嬢ではいられなくなる。
今日から王太子妃です!なんて器用なことは私にはできないから、今から少しずつ、それらしく行動しようと決めたのだ。
でも……
「ヴァレッタ、私まだまだなのよ」
泣き言を言えば、仕方ないわね、と言う顔で微笑んでくれた。
「そんなことない。以前のエルナだったら、きっとこんな申し出はしなかったわ。あなたはちゃんと未来の王太子妃として成長しているわ」
じ〜〜ん
元婚約者の、いやホントだったら原作では新生グランツフェルトの女王だったはずのヴァレッタから言われると、胸にくるものがある。
頑張りをちゃんと見てもらえていることが嬉しくて、これからもより一層精進しようと心に誓ったのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今のところは日常を楽しむエルナたちです。
次のお話もぜひ、お楽しみに♪




